仮面ライダーハイセ   作:黒兎可

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「黒磐特等、お願いします」
「うむ。……私がついている。皆、暗い顔はするな」
「「「「「……!」」」」」
「特等」
「うむ」
 
 そんな会話を交しながら、黒磐は、部屋の隅に立てかけてある、写真を見た。
 彼と、彼の同期のような、疲れた顔をした捜査官が写真に映っていた。 
 
 写真は、色あせていた。
 
 
 


#082 複楼/雷行/真化

 

 

 

  

 

 足が、なくなったです。

 梟の左肩もらって、一緒に僕の右足が消し飛んだです。

 

 でも、痛いのはなれっこです。痛くはないです。だから――。

 

「スマン、私のせいだ……。スマン、スマン――」

「痛くないですから、泣いてないで戦ってくださいです。ホラ、だいじょぶですから」

「――止血だけするぞ。

 待ってろ……、すぐ治療連れて行ってやるからな……」

 

 ウイサンが驚いた顔で、取り乱してる篠原サンを見てるです。僕が負傷したって、本部に搬送の準備を依頼してるです。

 なんか、変なかんじです。

 篠原サンのせいじゃないのに、なんで、泣いてるです――?

 

 篠原サンは、すんごい怖い顔して梟に飛びかかっていったです。

 

 そして――法寺サンが最後、梟の身体を斬ったです。

 

 みんな、喜んでいたです。

 篠原サンに、僕も手を振ったです。

 

 そして――。

 

 

 

『――スラッシュ、パニッシュ』

 

 

 

 現れた「もう一人の梟」が、みんなに赫子を撃ったです。

 

 みんな、ぶっ飛んだです。液体みたいな、刃みたいな赫子でなぎ払われ、篠原サンもいわっちょサンも、みんなみんなぶっとんだです。ビルから落ちたりフェンスに激突したり、色々です。

 

 ウイさんだけはこっちに近かったから、あんまり被害はなかったです。

 

 

 なん、なんです? これ――。

  

 

「……隻眼の梟で、お間違えないですよねェ」

『違わないけど。……あんまり気分は良くないから、五手で詰みな?』

 

 

 ビッグ、と梟の肩あたりに付いてる口がしゃべって、赫子が集まって、梟の右手が大きくなったです。集まった赫子が、右手を大きくしたです。ウイさんが「ちょ!?」とか言いながら、タルヒで受け流すです。

 受け流しきれてないです。

 足元ミシって言ったです。顔、すんごいことになったです。

 

 それでも無理やり打ち返して、見た目の大きさ関係なく早い右手の攻撃をかわして、もう一人の梟めがけてタルヒを振るうです。

 

 

「でぃ」「フェンド」

 

 

 それも、どこからか出現した赫子の盾みたいなのに阻まれたです。

 

 これには顔びっくりさせてるです。そしてその盾に穴があいて、タルヒを途中まで通して、膝を使って無理やり叩き折ったです。折れたタルヒの制御装置が、変な音を鳴らしてるです。

 

「も~~~~、超ウケるしかないじゃん!」

 

 ウイさん、爆笑してるです。

 テンションおかしくなってるです?

 

「こ」「ねく」「ト」

 

 そんなウイさんの背後から、地面を貫通して赫子が現れたです。

 それを映画みたいにとんでもない姿勢で避けて、ウイサンはバク転しながら、法寺サンの「ベロさん」を手に取ったです。

 

赤舌(チーシャ)、お借りします――」

 

 

「オウルドラゴン」

『来い、ドラゴン――』

 

 

 どしんと。なんだか怪獣みたいなのが梟の後ろに降って来たです。

 頭がない、鳥の足みたいなのが四つある感じの。グリフォンとかです? そんなものの首のあたりに、梟は飛び乗ったです。 

 

 すると――梟の胸のあたりから、バケモノの顔みたいなのが出てきたです。

 

 それが丁度、首のないそれの頭になって――。梟は、怪獣と合体したです。

 

 

「情報公開して、わざわざ派手に宣伝して――これ釣り出すのが目的だったんでしょう? 局長――。

 バケモノ相手だけど、時間稼ぎますから、早く有馬さん頼みますよ――」

 

 私、これで怖がりなんですから! て、ウイさんは叫んでクインケ構えてるです。

 

 梟がお空に向けて、絶叫して――。

 

 

 

「――遂に、遂に来たか! 隻眼の梟ッ!」

 

 

 そんな風に、ガイコツみたいなヒトが、すごく嬉しそうな顔で叫んだです。

 

 

 

   ※

 

 

  

 端的に言えば、俺達は時間稼ぎだった。

 

「猿共を中央に寄せ付けるな――、ナイスフォローだ美郷!」

「うおおお!」

『――エメリオ!』

 

 キメラクインケのアマツを使って、真戸は俺達に指示を出している。そりゃ、班長補佐ともなればそうもなるだろうさ。確かに。

 でも、そんな後ろから「へばるにはまだ早い」なんていわれちゃ、こっちの立つ瀬はねぇよ。

 

 ただ、目的は一つ。特等方の戦いは、邪魔させねぇ――。

 

 戦闘中、段々と猿の数が減ってきたころ。什造が負傷したって連絡が入った。

 あのバカ……。悪態をつきながら、俺は周囲を見回して気づいた。

 

 真戸が、目を開いてぼうっとしてやがる。

 

 何やってんだって言って、俺らがここをきっちり守ると言ってやると。

 真戸は……、ただ、「嫌な感じがした」と言った。

 

 お決まりのカンか? なんて嫌味を言うような気に、どうしてか、俺はならなかった。

 

 眼帯の喰種と交戦。それ以降、亜門さんの情報は、俺らのほうに流れてはこなかったからだ。 

 そして、そんな中で入った情報。

 

 梟がもう一体――。

 

 梟討伐の情報が入った次の瞬間、そんな話が俺達に更に入ってきた。

 どこかの建物の上で、何か、得体の知れない何かの絶叫するような声が聞こえる。

 

「本部より通達だ。包囲を一旦解除。クインケを持っているものは上に向かえ。我々は、サポートに向かう……」

「……」

 

 真戸は……、何を考えてるんだろう。

 

 亜門さんと雰囲気が少し変わって。法寺さんから「鋼太朗くんも27ですか」とか言われて。そして今、立場のこともあるんだろうけど、真戸は自分の勘よりも命令を優先している。

 俺は……。

 

 

「――真戸、班長補佐!」

 

 

 振り返ったのを確認し、俺は、頭を下げた。

 

「自分は……、眼帯の喰種と対峙して負傷した可能性のある、亜門上等の捜索をしたいと思います――」

「滝沢、お前――!」

「亜門鋼太朗がどうした!?」

 

 五里二等や、真戸の言葉なんて、もう後は聞いてない。

 

 言い逃げするように、俺は亜門さんを探しに、全力で走った。

 

「お前のカンは、ムカツクほど当たるんだよ! 何年主席争ったって思ってんだ!」

「……ッ」

「喰種対策法ォ、序文、第二条!

 喰種対策局職員は! その職務遂行にあたり作戦上、上官もしくは上位者の命令を忠実に守らなくてはいけないィッ!」

 

 忠実に守らなきゃいけない、ってところがミソだ。

 

 真戸の不安は――つまり、俺達にとって大きな、大きな存在の危機を知らせるものだ。だったら、俺一人向かったところで、そりゃ誤差の範囲だ。

 

 

 なにせもし特等たちがやられでもしたら――きっと梟に立ち向かえるのなんて、亜門さんくらしかいないだろうから。

 

  

 亜門さん……。

 

 不意に脳裏を過ぎったのは、亜門さんと真戸が、そろって話している瞬間。真戸は、亜門さんをからかって楽しそうにしていて。

 あんな顔、俺だって滅多に見られないっていうのに――。俺になんか、そんな顔、正面から全然向けてくれなんか、しないってのに――。

 

 

「考えてみりゃ……横顔ばっかだな、俺」

 

 

 正面からの真戸の顔が、全然、思い起こせない。

 

 真戸は――俺の方を向いちゃくれなかった。

 完全、ピエロコースだな、俺は……。

 

 でも……、でも!

 

 亜門さん、亜門さん――死なないでくれ!

 

 

 鼻水も、涙も、拭う暇すら惜しんで。

 いつの間にか振っていた雨の中を、俺は全力疾走した。

 

 

 

 

 

   ※

 

 

 

 

 

 ただ、立つだけのその姿に、僕は不自然に視線を離せなかった。

 離せばそれだけで、死んでしまいそうだったから? いやそれもある。でも――なぜか僕は、死を連想させる彼の立ち姿を綺麗に思った。

 

 だからこそ、一瞬だけでも、眼下の景色から、意識をそらせた。

 

 

 そこにあったのは――充満する匂いの正体は。

 

 おびただしい数の、”死”。

 腕。足、首、胴体。潰れた顔。泣きそうな顔。笑った顔、痛みをこらえた顔――。

 

 ――目を閉じて、お互いいつくしみ合ってるような、「二人の顔」。

 

「古間さん……、入見、さん――」

 

 一人で、やったのか?

 

 アオギリにつかまっていたとき、少しだけ聞いた覚えがある。CCGの死神と戦う相手は、戦う前から既に敗北が決まっていると。

 冗談か何かだと思っていた。でも――この有様は、もはや、冗談でも何でもない。

 

 あの二人と別れてから、まだ一時間も経ってないんだぞ?

 

 ルート、V14。

 嘘だ、せっかくヒデが、身を犠牲にしてまで僕を奮い立たせてくれたのに。せっかく、二人とも助けられたっていうのに――。

 

 怒りや、戦意や。

 戦うだけの理由は多く合った。でも、それよりも何よりも一番最初に僕の胸に去来した感情は――絶望感ただ一つ。

 

 

「こんばんは」

 

 

 ハンカチを取り出して、ヨダレを拭い。

 死神は、僕に少し微笑んだ。

 

 嗚呼、それだけで理解させられる。次は――僕の番だと。

 

 でも、だからといって「殺される」わけにはいかない。トーカちゃんが待ってるのだから。トーカちゃんを、一人にするわけにはいかない――。

 

「――蒸着」

『――ナルカミ! リンクアップ!』

 

 ドライバーに制御装置を装する有馬貴将。それだけで、地面に突き刺さっていたクインケが分解されて、彼の右腕を覆うように変化する。黄金の鎧の、肩からはツノのようなものが二本。

 

 隣にあったもう一本を手に取り、軽く振るって、彼はこちらを一瞥。

 

 ――出方を見る? いや、後手に回って勝てる保障の方が少ない。仕掛けるなら先制で、奇襲。

 

「ッ――」

『――羽・赫ッ!』

 

 瞬間的にドライバーを操作し、僕は、僕に出せる最高速度で彼の懐めがけてせっきんをしかけようとして――。

 

 

 そして、僕は見た。

 ゆったりした動作で、彼の右手が、ドライバーの右腰に出現したスイッチのようなものを、叩くのを。

 

 

 

『――Hyper・Lightning(ハイパー・ライトニング)!!!』

 

 

 

 ――移動していた僕が、地面に串刺しにされた。

 

 

 

『――Hyper・Lightning・Over(ハイパー・ライトニング・オーバー)!』

 

「――ッ!?」

 

 一体、いつ? いや、何がおこった?

 目の前、僕の目指していた方向からは、既に彼は姿を消していた。まるで、古い映画のフィルムでも無理やりくっつけたような、いびつな合成のような、違和感のある状態だ。まるで、彼が動いた瞬間のフィルムだけが、誰かに切り捨てられたかのような――。

 

 こんなの、どうやって勝てば……!

 

『――Hyper・Lightning(ハイパー・ライトニング)!!!』

 

 身体から抜かれたクインケ。その痛みを押さえながら、僕は周囲を見る。

 

 一瞬だけ、右側の視界に彼の姿が映った。……見間違いでなければ、彼はごくごく自然に「歩いていた」。動きは歩きだった。ただ、その速度は、今の僕の倍とかで効かない。一体、何が――。

 

 何、が。

 

 な、い、あ――。

 

 

 

 左の、複眼におおわれてな、い、しかいが、うちがわかばくは――あ、ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ

あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ

あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ

ああ

あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ

ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ

ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ

あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ

      あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああアア嗚呼アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア――。

 

「――アアアアアアアアアアアアアアアアアアア嗚呼嗚呼あ嗚呼あああああああ亜アアアアアア

アアアアアアアアアアア

アアアアああ    ああアアああああああ亜アアアアあああああああああああああああああああ

     ああああ

あああああ ああああああああああああああ ああああああああああああああああああああああああああああああああああああ あああ あ あ

ああああああああ あああああああああああああああああ――ッ!」

 

 

 みぎ、から見える。やりが、ひだりから出てるのが。

 ながれる、ながれでる。どろ、どろ、どろ――。

 

頭が内側、にめり込んでる頭が内側にめり込んで、る、頭が内側にめり込んでる頭が内側にめり込んでる頭が内側にめり込んでる頭が内側にめり込んでる頭が内側にめり込んでる頭が内、側にめり込んでる頭が内側にめり込んでる頭が内側にめり込んでる頭が内側にめり込んでる頭が内側にめり込んでる頭が内側にめり込んでる頭が内側にめり込んでる頭が内側にめり込んでる頭が内側にめり込んでる頭が内側に、めり込んでる頭が内側にめり込んでる頭が内側にめり込んでる頭が内側にめり込んでる頭が内側にめり込んでる、頭が内側にめり込んでる頭が内側にめり込んでる頭が内側にめり込んでる頭が内側にめり込んでる頭が内側にめり込んでる頭が内側にめり込んでる頭が内側にめり込んでる頭が内側にめり込んでる「あああああああああッ」頭が内側にめり込んでる頭が内側にめり込んでる頭が内側にめり込んでる頭が内側にめり込んでる頭が内側にめり込んでる頭が内側にめり込んでる頭が内側にめり込んでる頭が内側にめり込んでる「の、うが」頭が内側にめり込んでる頭が内側にめり込んでる頭が内側にめり込んでる頭が内側にめり込んでる頭が内側にめり込んでる頭が内側にめり込んでる頭が内側にめり込んでる頭が内側にめり込んでる頭が内側にめり込んでる頭が内側にめり込んでる頭が内側にめり込んでる頭が内側にめり込んでる頭が内側にめり込んでる頭が内側にめり込んでる、頭が内側にめり込ん、でる頭が内側にめり込んでる頭が内側にめり込んでる頭が内側にめり込んでる頭が内、側にめり込んでる「右が、ひだりみた」頭が内側にめり込んでる頭が内側にめり込んでる頭が内側にめり込んでる頭が内側にめり込んでる頭が内側にめり込んでる「ひだりなんて、」頭が内側にめり込んでる頭が内側、にめり込んでる頭が内側にめり込んでる頭が内側にめり込んでる「う、あ、おあ」頭が内側にめり込んでる頭が内側にめり込んでる頭が内側にめり込んでる頭が内側にめり込んでる、頭が内側にめり込んで、る「かんがえまと頭が内側にめり込んでる頭が内側にめり込んでる頭が内側にめり込んでる」まらないどう「すれ」頭が内側にめり込んでる頭が内側にめり込んでる頭が内側にめり込んでる頭が内側にめり込んでる「ぬ」「抜けば、ぬかない徒」頭が内側にめり込んでる頭が内側にめり込んでる頭が頭、あたま、あたままままままままああああ嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼アアあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛――ッ!

 

「――あ、だ、ア゛リ゛マ゛き゛し゛ょ゛ぉ゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛!!!!!!!!」

『――鱗・赫ゥ! 赫者!』

 

「…………でかいね」

 

あたらないよけるのうまいはやいムカデみみそと頭なかそと出て眼窩ヤモリはやはやい赫子トーカちゃんより早い僕見えないみえてあおpどjbpmけかじゃどlkまぽうぃr93うぃえんfm-230ろんfdskおあえなそねこあまさんいえおあかいないおあsかえしてあぢおあめいおあndぼいあkだうれのえてなch9おあてjんdふぁえ――。

 

 

 ――カネキッ!

 

 

 どこからかひでんこえあきえこえたえ、あぼくはむらえいふぁmどかえるおうきみのあもどとた。

 

「もうむりだよこれいじょうたまあがところけてちあらがでないんど――」

 

 ――まず落ち着きなさい? 何ってるか全然わからないわよ?

 

 かわこみしずくちゃんのこてもあから、えいす、す、すー、すすつく? おすつく? おちつく?

 

 ――なんでもいいから、とにかく。

 

「か、か、か・・・、かれ、あいぬ――」

 

 

 彼は、ヒト(アイヌ)である。

 

 眉毛かがやき、白きひげが胸に垂れ。

 家の外に稲畳をしき、さやさやとしき、荘厳でいて弱っており。

 

 小刀を待ち、研ぎ、わたし深々と目を凝る。

 

 彼は、ヒト(アイヌ)。蝦夷の神、古き言い伝えの神、オキクルミの末裔。

 

 滅びゆく、古きヒト(しかばね)

 

 夏の光、白き日の光を受け。ただ、息をするだけ――――――――――。

 

 

 

「…… 綺麗、だな」

「……はくしゅう、です」

 

  

 

 ぼくのつぶやきに、めのまえのひとはすこしおどろいたように、いきをのんでなにかいった。

 

 そういえば、とーかちゃん、すすめてもよまなかったっけ。

 

 

「……雨、だね」

 

 てんじょうをすこしみ上げて、かれはぼくにいう。

 

「……長いことここに居ると、時感覚が狂う。空の天候もわからない。

 でも、水の音で雨がふったかだけは分かる」

「……」

「……ここは”V”。”V”-14。

 ここから先、『喰種』を通すことは出来ない。君は――どっちかな?」

『――ナルカミ・レールガン!』

 

 

 !

 

 彼の右腕のアーマーは、いつの間にか手持ちのクインケになっていた。武装の中央部分から、電気が放電するようにばちばちと赫子が音を散らす。

 

 瞬間、ドライバーのレバーを操作しようと――『甲・赫!』あれ? 何もしてないのに、ドライバーは音を鳴らして――。

 腹部を見た。

 ドライバーの中央部分は、背中から貫通した穴と一緒に砕かれていた。

 

 

 それでも機能しているらしく、両腕を覆うように赫子がまとわりつく。

 

 とろけてる場合じゃない――何がなんでも、一撃入れないと。

 なんで、あのヒトはさっきの高速移動を使わなかった? ――いや、使えなかったのか? そうだ、彼だって人間なんだ。人間なら、一発攻撃が入れば――。

 

『――IXA! リンクアップ!』

 

 そんな音と共に、彼の全身が黒と金の鎧のようなものに覆われる。頭には、ツノのような、前立てのような――。

 

 走り出す、死神。動きはさっきよりは遅いものの、人間基準で考えれば十分早い。そしてその早さと同時に、既にクインケを構えて、何かしようとしていた。

 

『――リビルド! ナルカミ・ロッド!』

 

 先端が収縮したクインケを、僕めがけて振るう。

 

 肩に一撃受け、そのままトリガーを引かれ。全身に電流じみたものが走り――。

 

 

 それでも、僕は。

 

 

『――鱗・赫ゥ!』

「はああああああああああああああああああああああ――ッ!」

 

 

 特別なことは、しなくていい。

 ただ、ありったけを――ありったけを、目の前の相手にぶつけられれば。

 

 でも、それさえ適わず、彼は右腕を払った。

 

「――自立起動」

 

 両肩のトゲのようなそれが――まるで生きた赫子のように伸び、僕の身体を貫いた。相性の差なんて関係ない。これは、根本的な馬力の違いだ――。

 

 

 

 投げ飛ばされて、壁に叩き付けられ。

 ドライバーのダメージが深刻になったのか、変身が、無理やり解除させられて。

 

 僕を見下ろす、彼は、再び手のクインケから電気を迸らせて、こちらに構える。

 

 

「……」

 

 逆光で、彼の表情は見えない。

 

 僕は朦朧とする意識の中で、その最後の一撃を――――。

 

 

 

 

 ――――カネキさんっ!

 

 

「……!?」 

 

 放たれた電撃は……、僕の目の前で、冷気の壁に阻まれ氷結していた。

 

 

 

   ※ 

 

 

 

『……だから言ったじゃないですか。兄さんのようにならないでくださいって』

 

 僕の頭の中で聞こえる声は、リオくんのもの。

 かすむ視界の中に、見上げる僕の視界に、リオくんが僕を庇うように立っている。

 

 リオくんだけじゃなかった。

 

『俺を倒したんだ。せっかくだしリベンジしてくれよ?』

「ヤモリさん……っ」

『ムッシュの言う通りさ! カネキくん、生きて帰ってきたまえよ』

 

 こういうのも、走馬灯って言うんだっけ……。次々と、僕の目の前に見知った顔が出てくる。

 

『ヒトに女泣かすなって言っておいて、お前その様はちょっとクソみてぇだぞ?』

『姉貴泣かしたら、承知しねぇからな』

(フン)ッ!』

『俺達、待ってるからよ!』

 

 万丈さんや西尾先輩や。月山さんはまだわかるかもしれないけれど。でもその中に鯱さんや、ヤモリが居るのが、不自然と言えば不自然か。

 

『全然不自然じゃないよ』『そうだよお兄ちゃん』

 

 クロナちゃん達まで、どうしてここに居るのか……。

 

『んなもん、考えりゃわかんだろ?』

『まあ、普通は自覚しないから霧嶋さん』

 

 川上さん――リゼさんが、トーカちゃんと一緒にやってきて、僕に肩を貸して、立ち上がらせた。

 

 いや、実際はたぶん赫子が無理やりバランスをとらせただけなんだろう。そんな気がする。でも、なんで、こんなに大勢――。

 

 

『アンタが、今まで喰ってきた奴らでしょ? 全員』

『僕は、飛沫したのがかかっちゃったみたいなんですけど……』

 

 トーカちゃんの言葉と、リオくんの言葉に、僕は確かに理解した。全員、ある一定以上僕の記憶に残っている相手であって、会話を交した相手であって――そして大なり小なり差はあれどたぶん、彼らの赫子を少しでも僕は、身体の中に取り込んでいたのだ。

 

『だから、ほら』

 

 そう言うトーカちゃんに手を引かれて、現れたのは――嗚呼、嗚呼……!

 

『……やあ、久しぶりだね。少年』

 

 アラタ、さん……?

 

 そんな、だって僕は、アラタさんの赫子を食べては――いや。いや? 可能性はある。あの時、地下研究所で戦っていた時。僕は鎧のようなクインケを付けた捜査官を、必死に食べまいと抗ってた。

 だから、もしそうなら――あれが亜門さんの付けていたクインケと同系統のものだったということか。

 

『正直に言って、状況は劣勢だけれど。さて、どうしたものかな?』

 

 アラタさん、僕は……。

 

『僕個人としては、彼が持ってる、電気っぽいのを放つやつは、あんまり相手にしたくはないけど……。トーカたちのためだ。ヒカリさんも、悪態付くくらいで済ませてくれるだろう』

 

 いくら幻影とは言え、こんな。こんな困ったように笑うところまで、一緒なんて――。

 震える僕に、涙を流す僕に、店長が深く頷いて言った。 

 

 

 

『……後、一回は戦えるだろう。私としては逃げて欲しかったところだが……。

 それでも、生き延びてくれ――』

 

 

『『仮面ライダー』』

 

 

 アラタさんが。

 店長が。

 声をそろえてそんなことを言って――。

 

 

 

 気が付くと、僕は立ち上がっていた。目の前の冷気の壁を前に、捜査官は意外そうな様子で僕を見ていた。

 腹部を見る。割れたドライバーの隙間を埋めるように、幾種類もの赫子が――リオくんだったりヤモリだったり、トーカちゃんだったり、本当に色々な色の赫子が、ドライバーを覆っていた。

 

 それを見て、少し苦笑いを浮かべて。

 

 

「――変身」

『――鱗・赫! 赫者!』

 

 

 僕は、ドライバーのスイッチを落とした。  

 

 

 

 

 




 
 
 法寺さんから、梟討伐戦への参加の話をされた。
 20区のメンバーは、全員借り出されるらしい。
 
 俺達全員が出払ってる間は、雨止が局の方に残る手はずになっているらしい。
 
 そして――遺書を手渡された。
  
 
 
 もう、何時間も何時間も考えてる。
 
 久々に自宅に帰って。休みに家に帰ると、母ちゃんが連絡くらい入れてから来いって笑って。愛犬のロッキーが飛びかかってきて。ちょっと大きくなったんじゃないかって笑って。
 
 メシ食べながら、CCGでのことを色々聞かれたりもした。彼女いないのかってのにはうっせとしか返せない。真戸のことは追求すんなって感じだ。そもそも……。

 聖奈……、妹はどうやら大学をエンジョイしてるらしい。一瞬顔見せた時のそれは、あかぬけてはいたけど髪染めて、大分ケバってた。本人は「もっと酷いのいるし」って言って、怒って上に行っちまったけど……。
 
 
 ……隻眼の、梟。特等捜査官をしのぐ戦力。最後に確認された時点で、赫胞はゆうに6、7を超えると予想されている。
 
 23区が襲撃された際、梟と思われる「顔のないバケモノ」が確認。その際、特等を含む編成チームが、有馬特等の到着を待つ間、一人を除いて全員戦闘不能――うち、八名が、死亡。
 
 ……。
 
「……書き直しだな、こりゃ」
 
 
 遺言状と、遺書と。
 昔、近所に住んでた佐藤のおばちゃんが、喰種に殺されてお母さん不安定になって。それで俺、捜査官を志したっていうような昔の話を書いて。
 戻ってこなくても、深く落ち込むなって書いて。久々に食べた手料理が美味かったって書いて――。
 
 
 一通り書き終った時点で――万年筆が折れて。
 
 
 はみ出したインクで、気が付いたら俺は、紙に、殴り書きしていた。
 
 
 
 
 死 に た く な い。
 
 
 
「……死にたく、ねぇよ」
 
 
 みじめって言われようが、何て言われようが。
 俺は……、机の前で、蹲って、気づかれないよう小さく泣いていた。
 
 
 

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