仮面ライダーハイセ   作:黒兎可

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若干、時系列が入り乱れています


#067 絡鎖/審美

 

 

 

 

 

「上等はまた甘口か?」

「……辛いのはどうにも苦手なんだ。生来」

 

 黒ラビットの調査結果の資料をまとめた後、俺達はCCGで昼食をとっていた。食堂に入ると「カレーが一番速度が早い」とアキラが言ったので、結果的にそれになる。実際に定食メニューに比べカレーの速度は倍以上素早く皿に盛られた。

 

 座席に隣り合って座る俺達。ふと隣の席のアキラが、味について聞いた。

 

 実際問題、辛いのはどうにも苦手だった。甘口のコクの強さもくどいと言えばくどいのだが、状況的に仕方なしだ。

 

「何事も挑戦は大事だぞ。どれ、こっちも試してみると良い」

 

 そう思いながらスプーンを手に取ると、アキラは自分の分の皿から一口程度とり、俺の口に突っ込んできた。

 

「――!!?

 み、水ッ……! おっ、お前いつもこんな辛いの注文してるのか!!?」

「夏場は代謝が多くとも損にはならんぞ。涼しくもなる。まぁ程ほどの辛さだからだろうがな」

「ほど……!!」

 

 ほどほどの辛さ、だと? 一口目の時点で他のスパイスを差し置いて唐辛子の味がしたこれが!?

 時折真戸さんから「辛くないのを頼んでおいた」と言われて、甘口でなく中辛を提供されることはあるが、ああなるほど、確かにこういった面は親子なのかもしれん。

 

 舌を押さえて水に付ける俺を見て、アキラはくっくと肩を揺らして笑った。

 

「くく……。

 中々傑作だな、その状態は」

 

 ふと見れば、その彼女の笑い方は今まで見た事のないような満面の笑みで、どこか少女のようでさえある。

 そんな顔も出来るのかと、密かに俺は戸惑い驚いた。だが、いつまでも笑わせておくのも駄目だろう。もっとも注意して顔を背けても、しばらくアキラはくつくつと肩を震わせていた。

 

「なんだろうな、先日の朝方の顔に負けず劣らずひどい顔だ」

「……いきなり送り狼を疑われたこっちの身にもなれ」

「どっちかと言えば柴犬かポメラニアンだろうな」

「……ん?」

「妄言だ、忘れてくれ。

 その話題でいくと、鈴屋二等のように本当に動物園にでも行くか?」

「明らかに目的が捜査から外れてるだろ!」

 

 無駄話をしながら、アキラは不思議と楽しそうに見える。

 そんな彼女を見ていると、なんとなくだが張間を思いだす。あっちもこっちも俺を振り回して笑っているところは完全に一緒で、やや先が思いやられるところだったが……。

 

 食事も早々に、俺とアキラはエントランスを抜け、外に向かう。今日はこの後、地行博士の元でアラタの調整に向かうところだった。

 ただ移動中でも、アキラは仕事の話を続ける。

 

「黒ラビットだがな。段々と狙ってる捜査官の階級が上がっているらしい。

 ……不気味だ。目的がいまいちはっきりしない。まるで狩りでもしているようだ」

「篠原さんのしとめたオニヤマダのようにか?」

「私の直感で言えば、何か違うような気もするが……。まぁ赫子の一致度は90パーセントを超えている。判断が難しいところだな」

 

 雨止二等はこの手の話は全然だ、とアキラは肩をすくめる。「基本的に目的外のことが頭に入らない性質なのだろう」と言うその考えは、あながち間違っていないだろう。

 

 そうして歩いている時だ。RCゲートの向こう側が、何やら騒がしい。局員や捜査官たちが群れて、困惑しているような雰囲気が漂っている。

 どうしたのだろうというアキラ。前に進み、俺は顔見知りの受付に何があったのかを聞いた。

 

「どうされましたか?」

「アッ、亜門さん……。

 えっと、情報提供者の方がいらっしゃっていまして。その、ちょっとした著名人と言いますか、何と言いますか」

「?」

 

 アキラが近寄り、彼女の指し示す方角を俺と共に見て。

 そして、わずかに息を飲んだ。

 

「あれは……、誰だ?」

「知らんか、上等。彼女は――高槻泉だな」

 

 言われて気づく。俺も名前くらいは知っている。が詳細までは知らない。

 知っているのかとアキラに尋ねれば、当然のように返してきた。

 

「10代で書いた『拝啓カフカ』で、初登場わずか一週間で50万部達成した文壇のスタープレイヤーだ。最近でも時折話題に出てるだろ」

 

 アキラの指差した先、CCGの壁に貼り付けてある広告ポスターの中に、ちらりと高槻泉の名前があった。

 

「彼女の持ってきた情報とは?」

「えっと、東京郊外の地下施設の話だとか。ただ『情報が情報だからあんまり漏らしたくないナー?』とおっしゃっておりまして……。直接クインケ持ちの捜査官としか話さないよー、みたいなことも言われまして、その……」

 

 地下施設……? まさか嘉納のラボか?

 何故そのことを彼女が知っているのか。少なくとも俺やアキラは、その話について戯言だと素通りすることが出来ない。下手に対応できなくなっている受付とは事情が違ってきていた。何故彼女がその事実を知っているのかなど、問いただしたいことはいくらでもある。

 

 そう考えていると、アキラが唐突に俺の上着のポケットをまさぐった。驚いて身を引こうとする前に、彼女は目当てのものを――アラタの制御装置を手に取った。

 

「博士の元には私が行こう。これは預かるぞ、上等」

「あ、ああ。助かる」

 

 ともあれそうして、俺は待ち合いスペースで待機している小説家の元へと向かった。彼女は眼鏡をかけていて、髪をポニーテールに縛っていて、服は……な、何だ? オーバーオールのようだが微妙に違うような、説明が難しい服を着ていた。

 

「高槻泉さんですね?」

「およ?」

「亜門 鋼太朗 上等捜査官です」

「ああ、どもども、高槻でぇす。背でっかいねぇ素の状態でも」

「……?

 あの、詳しくお話を伺いたいので奥の応接室まで案内します。それと……、撮影は控えてください」

 

 カメラ小僧のごとく首からぶら下げたそれに、俺は当たり前の注意をした。

 高槻泉は「がーん!」という漫画の効果音のようなものを、自分の口で言った。

 

「さ、さきっちょだけ! さきっちょだけでいいから!」

「言ってることがよくわかりませんが、駄目です」

「ががーん! ぶぅ、しっかたないなぁ……。まぁお願いする立場というのもあるから、諦めますよん。

 ……ん、なんぞなむし? これ」

 

 俺の後を付いてきていた彼女だが、途中のゲートの前で、妙なことを呟いた。おそらく「なんですか?」みたいな意味合いなのだろうが、何だこの独特な言語は……。

 

「検査ゲートです。”喰種”の持つ細胞を計測して判別を行います」

「へぇ~。空港の金属探知機みたいなものか。喰種だったら音なるみたいな?」

「ええ。局内にサイレンが響き渡ります」

「ちなみに、CCGに乗り込む”喰種”って居るんですか?」

「可能性は……、0ではないので」

 

 世知辛いですなぁと呟きながら、彼女はポケットからメモとペンを手に取った。

 

 奥の方のソファに座り、対面になる形で彼女と向かう。

 途中、無料で飲めるインスタントコーヒーを手にし、彼女に差し出した。

 

「わぉありがたぁい。私、目がないんですよねぇインスタントに。ほら、仕事柄徹夜が続くこともあるしぃ?」

「そうですか。……それで、先ほど受付で確認をとらせて頂いた、施設の件ですが――」

「あー、ストップ。その前に。

 本日来たのは謝礼目的ではないので、情報提供の代わりに捜査官のお仕事についてインタビューできればと!」

 

 取材は受け付けないと言うと「捜査に関することとかじゃなくって、もっと日常的なことで良いんですよぉ」と笑った。

 

「じゃあ本題入りましょうか。

 貿易会社『スフィンクス』はご存知です?」

「……?」

「郊外のとある別荘にある地下施設。その屋敷の持ち主が経営していた会社なんですよね。あ、ちなみにその郊外の別荘っていうのが――」

 

 高槻の説明は、まさに安久邸を指し示していたのだが、何故それを彼女が知っているのか。

 

「その貿易会社――社長の名前は安久七生。

 まぁ海外の商品を買い付けて国内向けに売りさばいていたとこですけど、知人に貿易会社の社長が居るんですが、彼がここと交流が在りまして。

 話によれば、結構珍しいものを仕入れていたとか。

 

 ――喰種の」

 

 喰種の? と聞き返す俺に「イエッス」と彼女はサムズアップした。

 

「あ、ところでなんですけど今日のお昼は? さっき食堂の方から出てきたように思いましたけど」

「……そんな事より話の続きを」

「答えるまで言いませんゾ?」

 

 からかってるのか、この女。

 

「……か、カレーです」

「ほほぅ、甘口辛口?」

 

 流石にこの時点で埒が開かないと判断し、そのレベルの質問なら後でいくらでも聞くと約束した上で、彼女に話の続きを促した。

 

「スフィンクスが取り扱っていたのは――『Rc溶液』」

「溶液?」

「ええ。喰種をドロドロに溶かしてボトルに詰め込むやつ。何に使うのかまでは存じ上げませんけど、おぞましいッスよねぇ」

 

 所謂、Rc含有液のことだろうか。確かにクインケ製作や、Rc抑制剤を作るのには使われているが……いや、溶液といっている以上は似たようなものではあるのかもしれないが、別のものか、あるいは原料か。

 

「この商品、地味ぃに高く売れるんだそうですよ? CCGに。

 スフィンクスのしゃっちょさんはCCGと結構濃ゆい関係にあったとか何とか。

 そう思って色々と調べてみるとですね? 結構面白い事実に行きついたりしちゃったりなんかしたり」

 

 高槻泉はそこで声を潜め、さきほどまでとは違った、暗い目をして笑った。

 

「――そこの屋敷の地下室、所有は社長ではなくCCGだったそうですよ?」

 

 

 

 

 情報提供後、高槻泉のインタビューを終えて、俺はため息をついた。 

 

 急に午後の予定が開いたものの、一旦空気を入れ替えるため、俺は外に出て歩いていた。

 

 スフィンクス……、安久……。おそらく安久ナシロ、クロナ双方の父親だろう。喰種によって殺された、二人の親。

 

 地下施設がCCG所有だったとするのなら、当然彼女達の父親は、その事実を知っていたはずだ。あれほど広大で、かつ24区の技術を取り入れた研究施設の存在も。

 だとするなら、クロナたちの父親はCCGの協力者? いや、だとしたら何故、安久七生は殺された?

 

 ……いや、そもそも前提が違うのか?

 

 消された(ヽヽヽヽ)のか?

 

 ……嘉納一人で、あれほどの研究施設を用意できたとは思えなかった。建物の構造からして、24区のあの壁は元からあったものだろう。

 とするのなら――仮にあの施設が本当にCCGの所有物であったとするのなら、「CCGが」人間を喰種化させるような研究を行っていたと言うことになる。なんらかの理由でそれを外にリークしようとして、それをCCGが――。

 

 いかん、辻褄が合ってしまう。

 

 CCGが本気で手を回せば、喰種の一匹や二匹、特定の場所まで追い詰めるくらい無理ではない。だが……。いや、俺は何を考えているんだ。人々を喰種から守る組織が何故、人間を喰種に変える研究を行う必要があるというのだ。

 

 だが……不自然な点は多い。嘉納があの施設をわざわざ手に出来たことも。仮にあそこがCCGによって廃棄された施設であっても、内情に詳しければ手を出すこともできるだろう。

 

 しかし…………、この可能性が事実であったとしたら、CCGの存在意義を根底から覆しかねない。こんなことを、誰に打ち明ければ良いのか。先ほどアキラの電話でも誤魔化してしまったが……。

 

 この件は裏が取れるまで、誰かに話すべきではないか。

 俺の中で処理する案件だろう。

 

 そう思いながら歩いていると、不意にファンシーショップの入り口に、吊るしてあったキャラクター商品が目に付いた。猫のキャラクターで、目つきがどこかアキラの家にいたあの猫に似ているような……。

 

 「目的の場所」まで、ここからそう時間もかからない。俺はしばらくの間、そのキャラクターのストラップとにらめっこをしていた。

 

 

 

 

 

   ※

 

 

 

 

  

「それ、聞く相手俺で合ってるのか?」

 

 うん、と頷くヒナミちゃんは、西尾さんに真剣な顔で再度聞いた。

 

「ヒトを好きになるって、どういうことなのかな?」

「ぉ~……、アレだ。理屈じゃねぇし上手くは言えねぇけど、ただ」

 

 視線を逸らして微笑みながら言う西尾さんは、なんだか気のいいお兄さんという感じで、普段のうっとうしそうな目つきが嘘のようだった。

 

「――相手のために何かしてやりてぇとか、少しでも傍にいたいとか。そういうんじゃねぇの? まぁ」

「「……」」

「いや、なんでお前までそこで黙るんだよ黒いの」

 

 その言い方は黒い「ミスター」っぽいから止めて欲しい。

 

 でも、確かにそういうのはあるのかもしれない。……私はお兄ちゃん(カネキケン)と一緒に居たいし、できれば幸せになってもらいたい。私がこうして、自分が捨てたものの大きさを再認識させてくれた、なおかつ味あわせてくれた――決して埋まらない心の穴に、少しでも温かなものをくれた、お兄ちゃんの。

 

 押し黙るヒナミちゃんは、どうなんだろう。

 

 押し黙ったままのヒナミちゃんは、何かを堪えるような顔をしている。

 

「つか、俺よりあっちの図体デカいのとかに聞けば良いんじゃねぇの? きっと色々答えてくれんぞ」

「う、うぅうん! もう聞いた!」

「でかいの……?」

「お前は会ったコトねぇか。ま、そういうのが居るんだよここの地下に」

 

 いや、該当しそうな人物は一人だけ思い浮かぶんだけれども……、そうか、ここの地下に居るんだ。

 そういえばもう一人、一緒に「うるさいの」が居たような……?

 

 そんなことを思っていたせいか、店の扉がゆったりと開かれて――。

 

 

「――んん、グッドスマイル! いつ来てもここはすばらしいねぇ、あんていく諸君」

 

 

 うげ、という西尾さんの声が、その相手の厄介さを物語っているようにも思った。

 

「……あれ?」

 

 そして、相手の名前が全然わからなかった。

 でもヒナミちゃんが「月山さん!」と驚いたような声を上げたのが、ちょっとファインプレーだった。

 

「ふふん、芳村氏は居るかい? ……ん、(フロイライン)は――」

 

 そして彼は私の方を見て、少し顔を近づけて来た。微笑んでこそいるけれどその視線は明らかに何かを見定めるような、検分するような目の色で、思わず私はたじろいだ。

 

「何やってんだよ月山ァ」

「んん、なぁに、中々複雑なようだね! まぁそれは構わないさ。カネキくんの友として、せいぜい相談に乗らせてもらうだけさ」

 

 そんなことを言いながら店の奥に引っ込んでいく月山さん。彼が立ち去ったのを見て、西尾さんが「気を付けろよ」と言ってきた。

 

「あんま見た目からじゃわかんねーかもしれねぇけど、アイツかなりキチクなヤローだからな。気を付けろよ」

「きちく?」

 

 小首を傾げるヒナミちゃんが可愛いけど、実際のところどうなのだろう。奥に視線を送ると、猿みたいな……、名前が出てこない……、あのおじ、お兄さんはウィンクして肩をすくめた。

 

 トーカちゃんでも居ればもうちょっと詳しく話を聞いたりできたけれど、西尾さんは不機嫌そうにカウンターを磨き始めちゃって、とても声をかけられない。まぁわざわざ受験勉強疲れでうとうとしているところに確認をとるのも可愛そうだから、今はそっとしておいてあげようと思う。

 

「あれ、クロナお姉ちゃん。そういえばお兄ちゃんって?」

「今日は確か、学校でインターン探しに行くって言ってたような……」

「いんたーん?」

「うん。えっと、アルバイトのちょっとすごい版みたいなものかな?」

 

 私の説明に、ヒナミちゃんは「へぇ~」と目を輝かせた。何か説明を間違えた気がしないでもない。

 

 そして月山さんが階段を下りて外に出たのを、ヒナミちゃんが追いかけた。

 ちらりと西尾さんに視線を送ると「一応付いて行け」みたいにあごをしゃくられたので、私はモップを立てかけた。

 

 たぶん上手い事言っておいてくれるだろうと思いながら、ヒナミちゃんの後を追いかけるとー―。

 

 

「少し遊びに行かないかい? 以前、カネキくんと一緒に行った喫茶店があるんだ」

 

 

 そんなことを言いながら、月山さんはヒナミちゃんに手を差し伸べていた。

 

 

 

 

 




大学にて

ヒデ「カネキ、これなんて良いんじゃねぇの? ほら」
カネキ「……何でプールの監視員がインターンにあるんだろう」
ヒデ「そりゃお前、一応市営だし?」
カエキ「いやアルバイトじゃない」
ヒデ「お、マジだ!? 悪ぃ」

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