仮面ライダーハイセ   作:黒兎可

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#010 周知/失踪/隠刃/開眼

 

 

 

 

  

 

 

「ほいしょっと。うーん、ここなら面白い”画”、とれるかなー?

 捜査官も多いし、ちょっと張ってよ」

 

 

 

 

   ※

 

 

 

 

 ――捜査官、一名重傷。

 ――犯人の喰種はウサギ好き?

 

「……アンタ、仕事中だっつの」

 

 お店にあった新聞紙。ちょっと気になった部分があったので、読んで見ればこの調子だ。

 いやそうな顔をしながら、僕からそれを取り上げるトーカちゃん。

 

重傷(ヽヽ)、か」

「……単に、失敗しただけだっつーの」

 

 腕を押さえながら、トーカちゃんは僕から視線をそらす。

 

「……投書した時に対応してくれたお姉さんとか、少し話したの覚えてる?

 ヒナミちゃんの情報も、トーカちゃんの情報も、まだ全然集まってなかったみたいだったの」

「……」

「今なら、ストップ出来るんじゃない?」

 

 そう言ったら、復讐だけじゃねえんだよ、と首元を掴まれて引っ張られた。視点の関係でカツアゲとかされてる気分だった。

 

「……私は昔から、所詮人殺しよ。全員殺すまで止めるつもりはない。

 そうしなきゃ、ヒナミも元気になんないし……」

 

 頑なにその姿勢を崩そうとしないトーカちゃんに、上手くかける言葉が思い付かない。喰種として生まれた彼女は、きっと現代人のそれと多少命の意味合いが違うのかもしれない。きっとその重さも。

 

 ただそれでも、殺し損ねたというその事実が、彼女が芳村店長(仮面ライダー)の作った”あんていく”(決まりごと)から、どうしても抜け出せなかったということじゃないかと、僕は思えてならなかった。

 

「復讐で救われるのは……」

「あ?」

 

 だからだろうか。

 僕の口は、自然と開いていた。

 

「……復讐『しようと』した人だけなんじゃないかな」

「……何言ってるの?」

「……いや、ごめん。何でもないよ」

 

 思わず口をついて出てきた言葉は、トーカちゃんに理解されたかどうか怪しかったけど。

 でも、言わないと駄目な気がした。他ならぬ僕自身、現在向きあっている問題でもあるのだから。

 

「ヒナミに珈琲淹れて来る」

「うん。……ヒナミちゃん、寝れてるかな。食事もあれ以来、まともに食べてないし」

「夜寝れないのはアンタのせいだろ。あの長ったらしいタイトルの本とか置いて行くから。

 ……メシは、あー、角砂糖入れるけど」

 

 言いながら、トーカちゃんは僕に背を向ける。

 

 

「大体、食事のこと言ったらアンタの方だってどーなのよ」

 

 

 地味に痛い所をつかれた。

 未だに肉を食べるのに抵抗があるので、トーカちゃんからもらったアレは冷蔵庫の肥やし状態だ。西尾先輩に持ち逃げされて、仕方なしとばかりに譲られたアレ。ちなみに店長が印字したのか、消費期限までご丁寧に書かれて居たりする。

 

「今日も終わったら訓練だからね」

「…… 一週間連続で休みなし、ね」

「文句ある?」

「ないから睨まないで」

 

 最近は慣れ初めて来たトーカちゃんの視線だけど、やっぱりそこのところ難しいなと僕は思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 視線をそらしながら笑うカネキを鼻で笑って、私は階段を上る。

 扉をノックすると、うーんと眠そうな声が聞こえた。

 

「ヒナ。ごめん寝てた?」

「お姉ちゃん……」

 

 珈琲を置きながら、私は軽く注意。店長からも言われたことだけど、やっぱり成長期は食事をとらないと体が維持できない。だからしっかり食べろと。

 

 ヒナミは、目の下にくまを作りながら、何とも言えない表情をして頷いた。

 

「髪、とかすから。後ろ向きな?」

「うん」

 

 新聞をテーブルに載せて、私はヒナミの横に座った。

 リョーコさんが置いてった櫛を手に取り、背中を向けさせる。

 

「ごめんな。しばらくは出られないから。……でも、私たちが上手い事やってやるから」

「うん」

 

 毛先のゴムを解いて、丁寧に入れる。

 

 さらさらとした髪質は、どこか弟の頭を思い出す。

 

「……字、いっぱい」

 

 ヒナミが、ぼそりとテーブルの上のそれを見て呟いた。

 

「新聞っていうヤツ。新しい情報とか、色々書かれてるやつね」

「ほぉぉぉ」

 

 変な声を上げたヒナミ。

 思わず笑って、私は「やるよ」と言った。

 

「勉強してんでしょ。色々人間のこととか知れるし、面白いよ」

「ありがとう、トーカお姉ちゃん。

 わかんない言葉あったら、お兄ちゃんに聞くね!」

「……私には聞かないのかいそーかい」

「たんぽぽ、お姉ちゃん読めなかったし」

「普通その字、その読みで使わないから。

 ……はい! これで良しと」

 

 手鏡を見せると、ありがとうとヒナミはまた言う。

 元気になったように見えるけど、半分くらい空元気なのが私はなんとなくわかる。

 

 部屋を出て後ろ手で扉をしめて、私は拳を握った。

 

 不意に店長の言葉が脳裏を過ぎる。復讐は、権利ではなく義務。

 カネキの言葉もなんとなく同時に。復讐して救われるのは、復讐しようとしたヤツだけ。

 

「……んなの、カンケーないだろ」

 

 舌打ちをしながら、階段を下りる。

 

「ヒナミ、このままじゃ表だって歩けないんだぞ」 

 

 捜査官を殺して、ヒナミの顔を知ってる奴を減らさないと、いつまで経っても安全に過ごせない。

 言われなくったって分かってる。復讐したってリョーコさんは帰って来ない。綺麗事のように「復讐する理由」を並べ立てて実行しても、こちらのリスクを増やすだけ。

 

 でも、だったら黙ってられるのか?

 私は、そんなこともう出来ない。

 

 この間確認したら、私たちの投書した情報に捜査官たちも踊らされていた。カネキの案だっただけにちょっとムカツクけど、この調子であとは、あの「真戸」とかいう捜査官さえ押さえられれば――。

 

 キッチンに下りると古間さんから「すごい顔」と言われたりして、鏡の前で少し悪戦苦闘。カネキがその様を見てたりして殴ったり色々あったけど、仕事はいつも通りこなせたと思う。

 

 そして裏口を閉めて、訓練の準備を始めたタイミングで、扉がノックされた。

 

「あれ、ウタさん?」

 

 現れたのは、帽子にグラサン。でも首元の刺青には見覚えがあった。

 

「……ごめん、トーカさん」

「や……はい?」

 

 そういえば、今店の一階に居るのって私とカネキだけで……。

 

「いや、違いますって、そんなんじゃ……」

「ていうか、どうしてお店に?」

 

 仲良いね君達、と言いながらウタさんは手持ちのバッグの中から、黒い箱をテーブルに置いた。

 

「せっかくだから、付けてるところ見て見たいな」

「これ……、マスクですか?」

 

 どうやら出来上がったので、届けに来てくれたらしい。

 付け方も教わりながら、カネキはマスクを手にとり――。

 

 ぴたり、と目を開いて動きを止めた。

 

「……上の部屋、静かすぎない? トーカちゃん」

「……寝てんじゃないの、ヒナミ」

「昼過ぎに行った時も反応なかったし、寝すぎじゃない?」

「……二人とも、見に行ったら」

 

 ウタさんのそれに従って、私とカネキは上の階に上る。

 

 わずかに嫌な予感が胸を過ぎる。そして、図らずもそういうのは当ってしまう。

 

 ノックしても返事はない。

 扉をあければ、本と新聞が中途半端に読み途中のまま。

 

 シャッターの下りた窓は、開け放たれていて――。

 

「嘘、でしょ……?」

「……僕、奥の部屋も見てくる」

「お、お願い」

 

 でも、それだって結果は変わらない。地下に行った形跡はないし、となるとやっぱり窓から下りたと考えるのが妥当だ。

 

 迂闊だった。

 

 自分に腹が立つ。

 

「蓮示君にも連絡しておく。店長はもう帰っちゃったみだいし」

「ウタさん、お願いします」

「カネキ君、今度付けてるの見せに来て?」

「あ、はい。ありがとうございました」

 

 カネキと一緒に店を出て、走る。

 頭に血が上って、色々と判断力が鈍る。

 

 私は「喰種としての」全力で跳び上がり、カネキを置き去りにしてマンションの壁を蹴って上って行く。

 

「……っ、もしもし店長!? ――」

 

 カネキが電話を誰かにしてるのを視界に一瞬入れて、私は走る。

 

「……ヒナミ、ごめんッ」

 

 テーブルの上に置いてあったあの新聞。開いてあったページを思い出して、私はどうしたら良いかわかんなくなる。カネキが見て聞いていた時点で、想像してなきゃ駄目だったんだ。あの記事は、きっとヒナミにも辛いことなんじゃないかって。

 

 嗚呼、どうして私はいつも――。

 

 ――慣れ合いとかうぜぇんだよ。やりたきゃ一人でやってな、クソ姉貴。

 

「――アヤト……」

 

 そして唐突に、移動中異臭を感じた。

 この臭いは、どこかで――。

 

「――ぁぁぁぁああああああああああああッ」

 

 ヒナミの悲鳴が聞こえた。

 私は民家を飛び降りて、歩く。

 

 場所は、重原小の近く。 

 

 私達がCCGに投書した情報の場所。

 

 その河原の下で、ヒナミは体育座りのように蹲っていた。

 

「……ヒナミ、帰ろ?」

「お姉ちゃん」

 

 ヒナミは、言葉だけを続ける。

 

「新聞記事のあれ、お姉ちゃんがしたんだよね。ウサギ大好きだし」

「……」

「でも、きっと私が関わってるって思われる。お母さんを殺した人達だって追ってくるし、だったら――私は、逃げなきゃ」

 

 虚ろに続けるヒナミ。その手の隙間から、私はあるものを見つけて、口が震えた。

 

「あ、アンタ……、何持ってんの……ッ」

 

 それは、手。

 左手。薬指には見覚えのある指輪。

 

「お母さん、の……」

「……ッ」

 

 私は、私の作戦が甘かったことを認識させられた。

 あの白い捜査官もこの場には来ていた。その時に何かやってるなとは思った。でもまさか、まさかこんなことしてるなんて思いもしなかった。

 

「どうして、なんだろ。

 私達、生きてちゃ駄目なのかな……っ」

 

 涙ぐむヒナミ。

 私は――ヒナミを抱きしめる。

 

「……私達、この間CCGに行って来た。

 で、二人して色々聞いたりしたんだけどさ。窓口の人間がおしゃべりで。聞いた限りじゃ、それでもあんまり情報が集ってなかった。似顔絵とかさえ見せられなかったし。

 アンタの顔知ってるのは、あの夜に居た四人だけだと思う」

 

 だから――。

 

「私が傍に居る。アンタを殺させはしない。

 絶対守る……、約束する」

「……」

「私達が生きてて良いのかは全然わかんない。

 でも、何か意味はあるんじゃないかって私は信じたい。カネキみたいに、全然わかんないのも居るしね」

「……うん」

  

 

 

 

   ※

 

 

 

『カネキ? ヒナミ見つかったよ!』

「本当!? よかったぁ……。それで、今どこに?」

『投書したところ覚えてる? あそこの近くの――ッ』

 

 話していた途中、いきなり通話が切れる。

 

「……電池切れ? いや……」

 

 嫌な予感がする。脳裏に、母さんが倒れた時の映像がフラッシュバック。

 店長に、見つかったけど何か不自然だとメールを送る。

 

「やっぱりさっき、電話して正解だったかな……」

 

 トーカちゃんが先行した時点で、僕は店長に電話を入れた。話を続けると、ヒナミちゃんの保護の分には力を貸してくれるとのこと。

 

「……見つかったことには一安心だけど、僕も行こうかな」

 

 入れ違いになったらそれで良いかもしれない。

 もし入れ違いにならないで、何らかのトラブルに巻き困れていたらと、それが心配で仕方ない。

 

 そう思って居ると。

 

「――この下流の、重原の方ですね! 了解、こちらもすぐ向かいます」

「……ッ」

 

 明らかに捜査官と思われる、見覚えのある長身の男性が電話をしていた。

 片目にガーゼを付けてるのが見える。彼は川の堤防沿いを、走りだした。

 

「……ッ、ウタさん、使います」

 

 慌てて服の裏ポケットに入れて持ってきた、マスクを取り出して装着。

 

 人間らしくない、どちらかと言えば昆虫寄りの牙をむき出しにした眼帯のマスク。

 普段付けてる側とは、反対側が露出した顔。「隠してるほうの眼が見たかったから」とはウタさんの弁。

 

 普段と印象が大きく変わる。と同時に、脳裏に仮面ライダーの映像がフラッシュして。

 

「……僕はもう」

 

 あの時みたいに、同じような思いはしたくない。

 

 手すりをつかみ、僕はそのまま下に飛び降り、捜査官の前に立った。

 

 

 

 

 

 

 

「……何だ、貴様は」

 

 真戸さんからの連絡を受けて、俺はそちらへ向かおうと足を進めていた。

 そんな時、眼帯の喰種が降りて来た。

 

 その姿は、見覚えがあった。

 

 真戸さんが言った「眼帯はその場にたまたま居た喰種」という説を思い出し、頭を左右に振る。

 

「お前は、あの時の喰種だな。悪趣味なマスクだ――眼帯」

「行かせません」

「邪魔だ、消えろ」

 

 そういった瞬間、この喰種は走り出してきた。

 型は滅茶苦茶。殴り慣れて居ない緩慢な動作。

 

 赫子を出して居ないこともあってか、そのパワーは弱い。

 

 軽く胴体で受け、流し、俺はそいつを地面に叩き付ける。

 

 そのまま締め落そうとして、蹴りの反撃を食らう。

 

「赫眼か。……らしくなって来たな」

 

 俺はすぐさま、手元のアタッシュケースの制御装置を起動させる。赫眼が掌大の装置の中で開き、装着されているケースの形状が一瞬ドロドロと溶け、やがて棍棒状にまとまった。

 

『――ドウジマ・1/2(ハーフ)!』

 

 独特な機械音が鳴り、形状が完成する。

 

 クインケを見るのは初めてなのか、目の前の喰種は動きが一瞬鈍った。

 

「死ね!」

 

 一撃が、ヤツの胴体にヒットし――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 電話を切った私の前に、白い捜査官は猫背の姿勢で現れた。

 

「やあ、数日ぶりだねぇ。あっちの彼も元気かい?

 お嬢さん。いや――ラビット」

「ッ」

 

 ケータイのストラップを見たのか、その視線は私の手元に集っていた。

 くつくつと笑いながら、彼は足を進める。

 

「……あの時の彼が喰種かどうかは知らないが、私に隠れて腕を庇っていたことを見てどうにも気になってねぇ。あくまで直感だったが、色々作戦は展開したよ。

 しかし、これでようやく理解した。流言で捜査を掻き乱したのは、笛口の娘のためか」

 

 どうしてあれだけの情報から、私の動きを感知できたのだろうか。

 

「我々が明確な情報を得て居ない時点で、捜査員を分断させ襲いやすい状況を作る。

 その上でなおかつ、直接娘の顔を見た我々を殺そうと。そうすれば、少なくとも以前の生活に戻れる確率は上がるだろうなぁ。だが――」

 

 何ということはない。言ってる事が正しけりゃ、経験則か、あるいは狂気じみた執念だ。

 

 

 

 

「片腹痛いわ。反吐が出る。

 バケモノの分際で、平穏な生活だとぉ?

 なら、貴様等が私と娘から奪った、平穏な家庭は何なんだというのだ――!」

 

 

 

「ッ」

 

 放たれた言葉に、私は動きが止まる。

 他ならぬ、それは私が敵に対して持っている感情のそれに近いもので――。

 

「……そうそう、贈り物は喜んでくれたかな? 母親が恋しいだろうと思ってねぇ。

 まんまと期待通り掛ってくれたが――ハハハハハハハッ!」

「……ッ」

「てめェッ!」

 

 でも、その言葉に私はキレた。躊躇などかなぐり捨て、襲いかかる。

 

 そのタイミングで、ヤツはアタッシュケースを起動した。

 

 

『――フエグチ・(ファースト)!』

「ッ!」

 

 

 電子音で呼ばれた名前を聞き、私はやはり足が固まる。

 そのタイミングを逃さず、ヤツは私の体にクインケをぶつけようとする。

 

 ぎりぎりで我に帰り、私は踏み込んで飛び上がった。

 

「ほう、あの体勢からか。見事! やはりそこらの雑魚とは違うなぁ。

 今日死ぬ運命でなければ、過日20区の”梟”のようにさぞかし厄介なものになっていたろう!」

 

 しゃべりながらも攻撃は止まない。

 そして、私の意図した通りにヤツの武器は、柱に刺さり、一瞬動きが止まった。

 

 この狭い空間では、コイツは武器を振り回し難い。

 

 大して私の赫子は近接が主体。間合いに潜り込めれば――。

 

 そしてそのタイミングで、ヤツは武器から手をはなし、もう一つアタッシュケースを取り出していた。

 

 

『――フエグチ・(セカンド)!』

「は?」

 

 

 展開した四枚の、花弁のようなそれに私の拳は防がれる。

 弾き飛ばされ、私は足を止められた。

 

「……嫌ッ」

「――ッ、ヒナ!」

 

 そして気付いた。この状況は、まずい。

 

「お前達も知ってるだろう? クインケを。その材料を――クク」

 

 堪えるように笑う敵は、私達の目を見て、心底蔑むように声を上げた。

 

 

 

 

 

「――娘よどうだ両親(ヽヽ)だぞ! お前の大好きななぁ」

「いやだぁぁあぁあぁぁあぁあぁぁぁああぁああぁあぁあ――!」

 

 

 

 

 

「……こ、んのッ、ゲス野郎ォがッ!」

 

 飛びかかる私を、絡めとるようにリョーコさんの赫子(クインケ)がうねる。

 足をとられ、上を押さえられ、柱に叩き付けられ。

 

「力はともかく、学習しないなぁ。これなら眼帯の方がまだ冷静だったぞ。

 直情的で感情に囚われ、それゆえ周囲の警戒がおろそかに成る」

 

 だがしかし。

 

「そうであっても、力は上々だ。お前は良い材料(ヽヽ)になりそうだ」

 

 左脇腹を抉られるように一撃が入る。

 臓器なども回復はするけど、今の状況とこの威力じゃそれどころじゃない。

 

「しかし夫婦そろって素晴らしい使い心地だな。

 せめてもの情けだ。娘もそろえたら三人仲良く『混ぜて』やろうか」

 

 くつくつと笑いながら、奴は私の体を更に抉る。

 悲鳴を上げる私に、心底楽しそうに叫ぶ。もっと悲鳴を上げろと。もっと懺悔しろと。

 

「……クク。旦那は長かった。妻は一瞬だった。

 お前は、どっちが良い? ラビット」

 

 両手の武器を見せ、奴は趣味の悪いことをヒナミに言う。

 

「ころ、すぞクソ野郎……ッ」

「ふん、死体にたかるゴミが。さぞかしその眼も、クインケ起動時に映えることだろうが……、一体、何が貴様等を生きながらえらせようとする?

 キジマという知り合いによれば、貴様等の多くのメンタルは我々に近しいと聞く。

 なのに何故、呪われた生を生きようとするのか?」

 

 目の前の敵のその問いかけに、私は――私の中の感情は、決壊した。

 

「……生きたいって、思って、何が悪いんだよ。こんなんでもな、祝福されて、せっかく、生んでくれたんだ。

 ヒトしか喰えないなら、そうするしかねーだろ……、じゃなきゃ、どうやって生きていけば良いんだよ!」

 

 何でもかんでも、お前たちは私たちに上から目線でものを言う。自分達が覇者であるように。自分達以外の誰も認めないように。

 自分が喰種だったらどうかとか、そんなこと全く考えないで、ただ、死ねと、材料に成れと言う。

 

「……私達だって……」

 

 脳裏には、依子の顔。

 一緒に昼をとってるときの、あの気の抜けた笑顔。

 

「――アンタらみたいに、生きたいんだよ……ッ」

「……聞くに耐えん、が、一考はしよう」

 

 逝け、と目の前の敵は私目掛けて赫子を振り回し――。

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

「……仮面を付けた悪鬼」

 

 何度か殴り、往なし、ダメージを蓄積させて、俺はヤツを追い詰める。

 こちらを赤と黒の眼で睨むこいつに、俺は聞いた。

 

「罪の無い人々を平然とあやめ、己の欲望のままに喰らう。貴様等の手で大切な相手を失った人間は、大勢居る。

 残されたものの気持ちを……、怒りや、悲しみを、空虚を、想像した事があるか?」

 

 見下ろしながら言う俺に、目の前のヤツは反撃せずに、ただ、無言で聞いている。

 

「……貴様の知り合いかもしれんが、ラビットという喰種が居る。

 ヤツに仲間が再起不能にさせられた。……ほんの、数日前」

 

 後日また面会に行き、あの惨状を知り、俺は、更に怒りが胸に灯る。悔恨が胸に残る。

 

「……彼が何をしたという? 捜査官だったからか?

 ふざけるな。何故俺の同僚たちが、皆傷を受け、殺されなければならない――」

 

 この世界は歪んでいる。

 

「――歪めているのは、喰種(きさまら)だ」

「……」

 

 涙が流れる。だが、この敵は一切こちらに攻撃を加える動きが無い。

 ソデで拭い、俺は睨む。

 

「……確かに、多くの喰種は道を誤ってる。

 ラビットもまた、きっとそんな喰種の一人なんだと思います」

 

 立ち上がりながら、奴は、言葉を続ける。

 

「僕は……色々あって、貴方の言う事の方がよく分かる。

 だけど、それはきっと――片方だけの歪みじゃないのだと、思います」

「……何だと?」

 

「何も知らないで、憎しみあって、殺しあって――そんな環の中に永遠に居るのは、きっと、間違ってる」

 

 意味のわからないことを続ける、少年の喰種。

 俺が理解を拒否したのを見て、彼は言う。

 

 

 

「……だったら、分からせます。

 ”人間”として――”喰種”としてッ!」

 

 

 

 

 その視線に乗った感情を、俺は、正しく理解できなかった。

 

 

 

 

 




武器が自分で名乗るのは、やってみて改めてシュールだと思いました;

武器イメージとしては、鎧武の無双セイバーのロックシード装着状態みたいなイメージです。起動するとロックシード(赫眼を組み込まれた装置)が発光して名前を名乗り、変形するみたいな。必殺技もたぶんあります。
そして制御装置だから取り外せますが、外すと変形が出来なくなります。


そして、いよいよ変身。

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