雁夜おじさんに憑依してしまった大学生   作:幼馴染み最強伝説

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倉庫街のチート

「おおー、やってるやってる」

 

アサシン撃破の三文芝居から数日。

 

倉庫街ではセイバーとランサーが凄まじい鍔迫り合いを行っていた。

 

圧巻の一言に尽きる。

 

頑張り過ぎで有名な某アニメーション制作会社の作画でも凄まじかったというのに、生で見るとなおすごい。というか、視認できない。速すぎて。

 

聞こえるのは鉄と鉄の撃ち合う音と、地面の抉れる音、そして空気を切る音くらいだ。結構離れてるのにそんな音が聞こえるなんて流石は英霊としか言いようがない。

 

因みに俺は原作でアサシンがいたところに座っていて、二人の戦いを見下ろしている。隣には当然ながら霊体化したキャス狐。流石にサーヴァントを家に置いてくるなんて無謀極まる行為はできない。

 

『良いんですかー?ご主人様。やるなら今がチャンスですよー?』

 

「いや、まだ静観するさ。騎士同士の戦いに横槍入れるのは本意じゃない」

 

『戦場の華は愛でるタイプですか?キャー!カッコいいですね!』

 

いや、そういうわけじゃないんだけどね。

 

今横槍を入れると流れが変わるし、何よりライダーがどちらにしろ横槍を入れる。そこにギルが参上して、本来ならその時点でバーサーカー投入の流れで良かったんだが、キャス狐にバーサーカーと同じことを求める訳にもいくまい。

 

あ、セイバーが鎧解いてランサーに突っ込んでいった。そこでランサーがカウンターで喉笛に一突き。無理矢理セイバーが体捻って避けるもお互いに手の健を切られた。良し、原作通り、これで令呪抜きでのカリバービームは撃てなくなったな。

 

さて、そろそろか。

 

見上げた夜空から稲妻が迸る。

 

その稲妻はセイバーとランサーの間に落ちながら、一台のチャリオットが降り立った。

 

「双方、剣を収めよ!王の前であるぞ!」

 

降り立ったチャリオットに駆るのは当然ながらライダー。

 

ライダーは両手を大きく広げて、盛大に自己紹介(馬鹿)を始めた。

 

「我が名は征服王イスカンダル。此度の聖杯戦争においてはライダーのクラスを得て現界した」

 

全員が全員呆気にとられていた。そりゃそうだ。

 

クラス名はともかくとして、正体の露見が即敗北につながりかねない聖杯戦争で自分の名前をバラすというのは自殺行為以外の何ものでもない。

 

そして案の定、ライダーのマスターことウェイバー・ベルベットはわめき散らし、ライダーのデコピンによって沈黙させられている。サーヴァントのデコピンとかプロボクサーのストレートくらいありそうなのに。流石にそれはないか。

 

『ご主人様。あんな阿呆に一度は征服されかかったんですか、世界』

 

「世の中を動かすのは何時だって馬鹿だよ」

 

馬鹿だからこそ、人が成し得ない事を達成しようと努力するし、この世の在り方に疑問を抱く。それに馬鹿な方が人望もあるんだな、これが。

 

ここから面倒なので割愛。

 

ランサーのマスターことケイネスがウェイバーに『魔術師同士の殺し合いという課外授業を教えてやるぜ☆』って言ったら、ライダーに『戦場に出てくる度胸のない奴が俺のマスターなんて力不足www』とか言って、続け様に『隠れとるやつ出て来んかーい!出て来ないなら俺はお前ら侮蔑するでwww』って言った。

 

うーん。流石に略し過ぎただろうか。でもまあ、大体こんな感じだろう。

 

そしてその挑発に我らがギルさん参上。

 

ライダーに名を名乗れと問われると

 

『我が拝謁の栄に浴してなお、この面貌を見知らぬと申すなら、そのような愚昧は生かしておく価値すらない』

 

バビローン。と感じに宝具展開。相変わらずの短気具合に笑いが出そう。

 

ここらが頃合いだな。

 

タマモ(・・・)。ちょっと行ってくる」

 

『お気をつけて……ってぇ⁉︎ちょっとタンマ!何言ってるんですか、ご主人様⁉︎」

 

ちょっと散歩してくるわみたいなノリで言ったらキャス狐も反応が遅れたらしい。

 

飛び降りた瞬間にレビテトを発動して、落下ダメージをゼロにする。

 

そこからはレビテトを解除。

 

プロテスとシェルとヘイスト……後ブリンクを重ね掛け。基礎スペックを上げまくった状態でいざ戦場へ。

 

「初めまして、マスターとサーヴァントの皆さん。俺の名は間桐雁夜だ。今後ともよろしく」

 

side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

聖杯戦争が始まって六日目にして、事態は混沌の一途をたどっていた。

 

ライダーの真名ばらしに始まり、アーチャーの参入。そしてそこに現れたのはサーヴァントではなく、マスターの雁夜。

 

先程まで緊張感の走っていた戦場に現れた一人の男によって、全てのサーヴァント、そしてマスターは思い思いの反応を見せる。

 

セイバー陣営とランサー陣営は驚きに目を開き、ウェイバーは顎が外れるほどにあんぐりとした表情で雁夜を見て、ライダーは顎鬚をさすりながら感嘆の声を上げ、外灯の上に立つアーチャーは目を細めた。

 

「お初にお目にかかる。騎士王、征服王……そして王の中の王。英雄王ギルガメッシュよ」

 

『ッ⁉︎』

 

頭を垂れて、雁夜は確かにそう口にし、その言葉を聞いたアーチャーを除く者達は例外なく驚愕する。

 

「ほう。我を知っているか、雑種」

 

「ええ。その面貌、そのオーラ。例え名が伏せられていようとも拝謁させていただければすぐにわかりました」

 

そう答えた雁夜にアーチャーは気を良くしたのか、宝具を収めた。

 

「許す。面を上げろ」

 

「はっ」

 

「マトウカリヤ……と言ったな。貴様、随分と面白い物を持っている。そこな雑種共とは比較にならん代物だ」

 

「ありがたきお言葉。感謝します」

 

「故に光栄に思え。カリヤ。貴様を我の臣下となる機会を与えよう」

 

先程のライダーと同じ様にアーチャーはそう述べた。

 

だが、ライダーとアーチャーとでは同じ意味を持つ言葉も、異なる重さを持つ。

 

そしてまた、それを断れば、その先に何が待っているのか、当然異なる。

 

「嬉しい申し出だが、断らせてもらう」

 

雁夜はアーチャーからの申し出を断る。否、申し出ではない。

 

ライダーのそれは臣下にならないかという『提案』である。

 

だが、アーチャーのそれは臣下になれという、謂わば『命令』なのだ。

 

ライダーの時のように顔を歪めることなく、アーチャーは口元のみを歪ませる。

 

「王たる我の命令に背く事が何を意味するか……知らぬわけではあるまい?」

 

背後の空間が揺らめき、先程のように二本の宝具が鉾を覗かせる。

 

「ああ。わかった上で断る」

 

「そうか…………では死ね」

 

アーチャーの背後から二本の宝具が音速を超えて放たれ、地面に着弾すると同時に爆ぜた。

 

各々のマスターは雁夜の死を確固たるものだとした。

 

あの音速を超えて飛来する宝具を人間に避けるすべはない。こんな戦場のど真ん中に出てきた挙句、呆気なく散ったどのサーヴァントのマスターかもわからない男に各々のマスターは愚かだと決めつけた。

 

しかし……

 

「あれが彼のサーヴァントですか」

 

「どのクラスか知らんが、あの速度。くやしいが、俺よりも速いぞ……⁉︎」

 

「なるほど。何も考え無しにマスターのみで顔を出したわけではないということか」

 

サーヴァントの視線は爆煙にはなく、そこから少し離れた場所へと向けられていた。

 

離れた位置、アーチャーの向かい側にある外灯の上にそれはいた。

 

狐のような獣の耳を頭から生やし、同じく狐のような尾を三本生やしている着物を着た女性。

 

その両手には先程消し飛んだと思われていたはずの雁夜が抱かれており、他のサーヴァントを見下ろしていた。

 

「ご……」

 

静寂の中、サーヴァントは口を開く。

 

一体何を言わんとしているのか、耳を傾けた時、発せれたのは……説教の応酬だった。

 

「ご主人様、何考えてんですか⁉︎あんな近場に散歩に行くみたいなノリで戦場のど真ん中に顔だした挙句、穏便に済ませるどころか、滅茶苦茶攻撃されてるじゃないですか!数日前に交わした誓いの言葉はどうしたんですか⁉︎無茶苦茶ですよ、色々と!死ぬのなら私と一緒に死んでください!」

 

全員が呆気にとられた。

 

その妖艶な佇まいとは裏腹にサーヴァントのテンションは高かった。高すぎた。

 

「いや、ブリンクかけてたし。後、あれに紛れて離脱しようかと思ってたんだが……」

 

雁夜の目的ははっきり言ってしまえばアサシン同様の死の偽装だった。

 

聖杯戦争に衛宮切嗣がいるのであれば、自分が排除するには手に余る存在だと認識された時、間桐邸ごと吹き飛ばす。あるいは桜を人質にとるという可能性があった。

 

それゆえに自分から一旦監視の目を外し、桜を一旦別の家に住まわせてから、再度姿を表そうと考えていた。

 

サーヴァントに言わなかったのは特に理由はなく、単純に言うのを忘れていただけであるが、それを聞いたサーヴァントは「や、ややこしい事しちゃダメですよ?ご主人様」と完全に自分がやらかしたと勘違いしていた。

 

「坊主。あの女。サーヴァントとしちゃ、どれ程のものなんだ?」

 

「ぜ、全部EXだ……」

 

「何?」

 

「だからぁ!全部パラメーターの限界値なんだよぉ!」

 

最早悲鳴にも近いウェイバーの叫びにセイバーもランサーもギョっとした様子でウェイバーの方を見た。

 

驚きに満ちた表情で見据えられたウェイバーは一瞬睨まれたのだと勘違いして萎縮するも、蚊のような小さな声で呟く。

 

「………間違いない。どのパラメーターもEXって見えるんだ」

 

セイバーは歯噛みする。もしこの傷さえなければ、宝具の解放がかなえば或いはその身に届いたやもしれないと。全快時でさえも圧倒される差にセイバーは剣を構えながらも既に頭の中ではいかにあれと敵対せず離脱するかのみを考えていた。

 

ランサーもまた同様だったが、ランサーの場合は自身に勝ち目が無いことはわかってしまっていた。槍兵である自分すらも圧倒的に凌駕する速度と素手による攻撃すらも致命傷となりかねない筋力。おおよそ鍛え上げられた戦経験では埋めようのない圧倒的差に心の奥底で既に敗北を認めつつあった。

 

対照的にライダーは不敵に笑う。強ければ強いほどに征服する価値があると。サーヴァントに対しては倒してから誘いをかけたほうが面白そうであるとそう思い、先程のように言いかけていた言葉を発さなかった。

 

そしてアーチャーは………ブチ切れていた。

 

「痴れ者が……天に仰ぎ見るべきこの俺と同じ場に立つか!その不敬万死に値する!」

 

ぶっちぎったパラメーターよりも、アーチャーにとっては関係のないことだった。

 

自身と同じ目線に立つ。

 

王自らが同じ場に立つというのであればそれも良かった。

 

だが、自らの意志ではなく、ましてや赦しを得たわけでもないものが自らと同じ目線に立つという事はアーチャーの逆鱗に触れるに足る十分な理由だった。

 

背後に現れる大量の宝具。

 

十や二十程度ではきかない圧倒的物量に誰もが青ざめる中、その敵意と殺意の矛先である雁夜とサーヴァントはというと……

 

「うわぁ………あの金ピカ気短すぎません?マスターが可哀想なぐらい」

 

「時臣がマスターだし、別に良いよ。それより俺のブリンクは三発までしか避けてくれないんだが、あれ避けられるのか?」

 

「さっきよりは余裕ですね。寧ろ、避けられないはずがない的な」

 

全く意に介していなかった。それがより一層アーチャーの激情に油を注ぐのだが、そこでアーチャーが何もない空間へ向けて吼えた。

 

「ッ………貴様ごときの諌言で王たる我に退けと……?大きく出たな、時臣……!」

 

アーチャーは怒りに顔を歪めたまま、展開していた宝具を消す。

 

「雑種共、次までに有象無象を間引いておけ。俺と相見えるのは真の英雄のみでいい」

 

そう言い残すとアーチャーは金色の粒子となりながら、その場から姿を消した。

 

残されたのはセイバー、ランサー、ライダー、そしてサーヴァント。

 

背を見せればその時点で後ろから討たれる。

 

背後から討たれたともなれば、騎士であるセイバーやランサーにとっては屈辱的で、王であるライダーにとっても背を見せて討たれたともなれば、自らを決して許すことは出来ないだろう。

 

故に視線をサーヴァントへと向けたまま、誰もが一歩も動けずにいた。

 

それはこの場を離れた位置から見て、マスターを殺す機会を伺っている切嗣や隠蔽の魔術で肉眼視出来ないようにしているケイネスも同様であった。

 

緒戦にして、令呪を使用しての逃走は今後の戦闘に支障をきたすと考える切嗣と武勲をあげるため、参加した聖杯戦争で真っ先に逃走するなどプライドの許さないケイネス。

 

理由は違えど、両者共に行動に移せずにいた。

 

そしてそれこそが彼等の運命を狂わせることとなった。

 

「えーと……セイバーがあの位置で、ランサーがあの位置。俺がいたのがあそこだから……」

 

「ご主人様?いきなりどうしたんですか?」

 

「いや、厄介なのは初めに潰しておくに限ると思ってな。悪いがそれっぽい動作してくれるか」

 

「それっぽいとはどのような?」

 

「こう、魔法を撃つ感じの」

 

「わかりました………えいっ♪」

 

片手を上げ、振り下ろしたサーヴァントに全員が身構える。

 

その直後、ぼそりと雁夜は告げる。

 

「……Comet(コメット)

 

何も起こらないことに訝しんだその瞬間、空から彗星がコンテナや倉庫へ向けて降り注いだ。

 

「こりゃマズイのう…」

 

「バカ!そんな事言ってないで逃げるぞ!ライダー!」

 

「今回ばかりはそれが良さそうだわい。はあっ!」

 

ライダーはチャリオットを走らせ、降り注ぐ彗星を避けながら倉庫街から離脱する。

 

「主!」

 

ランサーはサーヴァントから視線を外し、我が身を省みずにケイネスのいる場へと一目散に向かう。その場にはすでに幾つもの彗星が降り注いでおり、生存は絶望的と言える。

 

そして最後に動いたのはセイバーだった。

 

「アイリスフィール!キリツグは……!」

 

「わからないわ!けれど、令呪を使わなかったという事は自分でなんとかできると判断したからの筈よ!」

 

「では、離脱します!捕まってください!」

 

セイバーは左腕でアイリスフィールを抱え、風王結界を解除した際に発生する風の勢いを利用し、その場から離脱した。

 

聖杯戦争開始からわずか六日。

 

二戦目にして、全サーヴァント、全マスターの前に超えられない壁が立ちふさがった。

 


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