マイ「艦これ」「みほちん」(第1部)   作:しろっこ

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私は新たに着任すべき『美保鎮守府』へ到着した。そこには代理提督と先ほどの戦闘で艦砲射撃をした艦娘がいた。


第8話(改2.5)<美保鎮守府>

 

「この人、新しい提督ぅ……?」

 

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マイ「艦これ」(みほちん)

:第8話(改2.5)<美保鎮守府>

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 憲兵さんの運転する軍用車は日本海に沿いの幹線道路を進む。やがて前方に見える山並みが車の行く手を阻むように少しずつ視界の中で大きくなる。

 

「島根半島だな」

私は呟いた。

 

あの山が見えると弓ヶ浜出身の人間は懐かしさを覚える。特に境港出身の私にとって島根半島は故郷の象徴といえた。

 

「あの山、ご存知ですか?」

憲兵さんが反応する。  

 

「あぁ、こっちが地元だからね」

私の発言に彼は頷く。  

 

「もともと境(さかい)に港があるのも、あれ(半島)が天然の防波堤になっているからですね」

「そうだね」

「海軍さんが美保湾に基地を作るのは、むしろ遅すぎたくらいですよ」

憲兵さんはペラペラ喋り続ける。  

 

「フム」

生半可な返事をした私だったが直ぐにそれを実感する状況になる。  

 

軍用車は減速すると交差点を右折した。

「もう直ぐ到着です」  

 

松林を抜けて小さな水路を渡った時だった。  

「おや?」

 

私は驚いた。松林の向こうは海かと思っていたが予想に反し、そこは広い平地だったから。

「埋立地か?」  

記憶に無い。まるで別世界。

 

憲兵さんが聞く。

「どうか、されました?」

「いや……ここに、こんな場所があったのか?」

 

彼は頷いた。

「そうです。ここは割と最近、造成されたンですよ」

「確か、かなり以前に計画が、あったように思うが」

 

憲兵さんは振り返る。

「閣下も、ご存知でしたか」

「あぁ」

 

私は記憶を手繰った。

「まだ小さい頃、この道路沿いに埋め立て計画の看板が立っていたのを覚えてるよ」

 

「ははぁ、そうですね。ありましたね」

私たちは、そこで互い同郷者だと悟るのだった。

 

 赤信号で軍用車は停まった。憲兵さんは言う。

「やはり閣下には他の海軍の、お偉いさんとは違う雰囲気を感じたんですよ」

「そうか?」

 

「はい。ですから米子駅でもし別の海軍さんだったら自分も、ここまで気に掛けなかったと思います」

「なるほど」

人の縁は有り難いものだ。

 

彼は水路を見ながら続ける。

「確か、ここは地元の代議士親子が三代で成し遂げたって話です」

 

……それも何となく聞いた覚えがある。

 

 艦娘や深海棲艦が出現する以前……それこそ大東亜戦争直後の混乱期に地元の代議士が『この山陰を日本海側の経済共栄圏の中心とすべし』と構想した。それを政府に働きかけた結果が、この埋め立て地だと。

 

私の考えに呼応するように憲兵さんが続けた。

「地元出の大臣さんが企業誘致を目論んで埋め立てたんですよね」

「そうだな。でも結局は深海棲艦の出現で、その夢も頓挫したが」

 

 ただ、お役所仕事の面白いところは一度決まったことは粛々と実現していくことだ。気付いたら私が故郷を離れている間に、こんな広大なものが出来ていたわけだ。

 

「これは無用の長物なのだろうか」

その言葉に憲兵さんは肩をすくめた。

 

 そして私たちは苦笑した……埋立地の話題を出せば地元の大半の人たちが同じ反応を見せるだろう。

 

 信号が変わり再び軍用車は走り出す。広大な埋立地の潮風を受けながら私は考えた。

(もし、この戦争がなければ、この場所には、お店や工場が建ったかも知れない。ただ普通の鎮守府は無理だな)

 

「ああ、あれです」

憲兵さんの言葉で直ぐに赤い建物が見えてきた。

 

「美保鎮守府か。レンガの雰囲気は海軍だが規模は小さいな」

この埋め立て地では仕方がない。隣の寛代は無言のまま車窓の外を眺めている。

 

私は事前に聞いたことを思い出す。

(ここは艦娘だけの鎮守府……)

 

 なぜ、そうなったか?

誰かが働きかけたのか……確かに艦娘だけなら広くない埋立地でも設置は可能だが。

 

 この地域には既に空軍と陸軍の基地がある。敢えて正規の鎮守府を誘致する必要もない。私は自問するように呟く。

「とりあえず、この小さな鎮守府が答えというわけか」

 

 だが軍用車が美保鎮守府の敷地内に入って驚いた。門が無く道路から直接、玄関前まで入れたのだ。

「守衛も居ないのか?」

 

私と同様、少し驚いた憲兵さん。

「ここですか……実は自分も初めてであります」

 

思わず苦笑した。

(同じ弓ヶ浜半島にある陸軍の憲兵ですら初めて来るのか)

 

鎮守府ながら敷地にはクレーンすら見えない。それに入口からして無防備だ。改めて説明されないと鎮守府ということすら見逃しそうだ。

(まさか意図的に、こんな状態にしているのだろうか?)

 

……まるで人目を避けるように。

 

 軍用車は正面玄関に横付けした。私は一つしかない鞄を抱えた。実はもう一つの鞄もあったが空襲で焼けてしまった。

 

「降りよう」

「……」

私と寛代は軍用車を降りた。

 

「助かったよ」

私は憲兵さんに軽く敬礼をした。

 

彼は一瞬驚いた後、慌てて車を降りた。そして敬礼をしながら言った。

「閣下、何かあったら、いつでもお声かけて下さい!」

 

「ありがとう」

私と寛代は玄関前で彼に別れを告げた。最後まで忙(せわ)しい憲兵さんを乗せた陸軍の車は門のないゲートから外へ出た。

 

それを見送りながら私は何気なく寛代に言った。

「生真面目で親切な憲兵さんだったな」

 

ふと見ると彼女も少し笑顔になっていた。私はホッとした。

 

「さて」

改めて鎮守府の建物を見上げた。ここは二階建ての小さな庁舎だ。

 

「本当に、こじんまりとしているなぁ」

舞鶴など他の鎮守府に比べると美保は、ふた周りほど小さい印象だ。大型重機も見えない。さすがに倉庫や工廠はありそうだが。

 

普通の鎮守府なら敷地が広く門も厳重で大抵は守衛が居る。もちろん舞鶴は入り組んだ地形だから鎮守府そのものは思ったほど平坦でもないが。

 

ところが、ここは艦娘だけとは聞いているが少し拍子抜けする。

 

私は寛代に言った。

「出迎えもないな」

「……」

 

「別に嫌味じゃないぞ」

「……」  

(この子も相変わらずだな)

 

普通の少女なら私も怪訝(けげん)に思っただろうが、この子の態度は妙に自然に感じた。

 

私は問いかけた。

「まあ良い、お前が案内してくれ」

「……うん」

 

ようやく私の言葉に反応してくれた。そこで早速、正面玄関から本館に入った。

 

「ホウ」

思わずため息が出た。ロビーは明るい吹き抜け。規模は小さくとも建物自体には海軍の品格を感じる。

 

ここの設計も海軍本省がきちんと管理したに違いない。そう思った瞬間、私は自分に言い聞かせるように呟いた。

 

「ここも海軍だな」

寛淑から特に反応はない。

 

視線を移すと奥の通路に数人の少女たちが見えた。

「艦娘か」

 

もちろん珍しくはない。だが、この状況では少々緊張する。彼女たちはヒソヒソ話をしている。

 

さらに向こう側には偉そうに腕組みをして見ている艦娘も居る。

(これが艦娘部隊だよな)

 

この光景だけ見れば、どこの女学校かと錯覚する。他の鎮守府と違い独特な雰囲気に満ちていた。

 

ここは帝国海軍の鎮守府だが改めて、この場に立つと受ける違和感が大きい。

 

(雰囲気に飲まれてはダメだ)

私は無視して廊下を進んだ。寛代も無言で私の斜め後ろから付いて来る。

 

「執務室は上かな?」

振り返ると彼女は頷く。

 

(確か初代の提督は女性だったな)

資料にあった内容。恐らく先任の提督たちは途中で参ったのだろう。

 

(果たして私は?)

敢えて強気で歩くのだが、どうしても不安が湧く。

 

そう思っていたら寛代が私の腕を引っ張る。

「あ?」

 

「……」

彼女は無言で2階へ上がる階段を示していた。

 

「ついうっかり階段を通り過ぎるところだった」

私は頭に手を当てて照れ隠しした。なるほど建物が小さいから階段も狭い。荷物を持ち直すと彼女に促されるまま2階へと上がった。

 

そこで私は思わず立ち止まった。急に視界が開けた。

「おぉ」

 

1階では分からなかった、2階の窓からは鎮守府を囲むように蒼い海と緑色の島根半島がよく見える。それらが夏の陽射しを受け鮮やかな対比を見せていた。

 

その開放的な景色を見て、それまでの想いが払拭された心地だった。

 

「海は良いな」

思わず呟いた。海は、すべてを受け入れてくれる。

 

「……」

少し先で立ち止まっていた寛代も小さく頷く。

 

その先に提督執務室があった。私たちは大きな扉の前に立った。

 

「今日から、ここが私の前線だな」

「……」

寛代は黙っていた。

 

まず目の前の扉をノック。

「はぁい」

 

女性の声。

(噂の代理提督か?)

 

私はドアノブに手をかけ部屋の中に入った。

 

 執務室の中は正面にデスク。そして壁には時計。椅子に腰かけているショートヘアでスリムな艦娘が一人。

 

その服装は白を基調に青いアクセントが入っていて、ごく一般的な艦娘の秘書艦が着るタイプだ。

 

 彼女の横に背の高い艦娘が立つ。やや長身の彼女もまたショートヘアだ。服は標準的な戦闘服で巫女か浴衣のような和風の出で立ち。

 

私が入る直前まで艦娘が報告をしていたようだ。入室した私を見て二人とも驚いているた。

 

敬礼しながら私は言った。

「本日付けで美保鎮守府に着任する美保だ」

 

……私の苗字は『美保』だ。ここに着任するときも上官から『お前の鎮守府だな』と冗談っぽく言われた。

 

正面の艦娘は直ぐに立ち上がるとサッと敬礼した。

「お待ち申し上げておりました提督。臨時提督代理を務めております私、重巡『祥高(しょうこう)』と申します」

 

私は軽く頷いた。

「よろしく頼む」

 

敬礼を解きながら私は、ふと考えた。

(艦娘は美人が多いが彼女も例外ではないな)

 

きりっとした口元に精悍な顔立ち。多少「押し」が強そうだが。

(不思議なカリスマ性を感じるな)

 

何処の鎮守府でも秘書艦を担当する艦娘はキッチリして押し(芯)が強そうな子が多い。

 

 もっとも、そのくらいで無いと指揮官の補佐役は務まらないだろう。特に代理提督を務めるくらいだから、ある程度のカリスマ性は必要か。

 

私の想いを他所に彼女は言った。

「寛代ちゃん、提督の荷物をお持ちして」

 

「……」

重巡の指示で私の荷物を受け取った駆逐艦娘は袖机の上に私の鞄を置いた。

 

 そのとき机の横に立っていた艦娘が私をチラ見しつつ蚊の鳴くような声で言った。

「この人、新しい提督ぅ?」

 

彼女は戦闘直後なのだろう。服はボロボロで短めの髪の毛が、あちこち飛び跳ねている。表現は悪いが、まるで『落ち武者』的な鬼気迫るムードだ。

 

いや、そもそも彼女の存在自体が、どことなく凄みがある。まさに『サムライの妻』の如くだ。

 

そこまで考えて私は悟った。

(そうか、先に空港めがけて艦砲射撃した艦娘って、この娘じゃ?)

 

……もしそうなら着弾点に居た私と寛代は二人で逃げ惑って危うく死に掛けたわけだ。いくら相手が艦娘でも文句の一つでも言いたくなった。

 

私はザワつく気持ちを抑えながら聞いてみた。

「先刻、艦砲射撃をしたのは君か?」

 

名指しされた彼女は目を丸くした。たじろぎつつ何か言い掛けたが直ぐに祥高さんが横から説明をした。

「はい彼女は戦艦『山城』です。美保湾及び弓ヶ浜に敵機来襲と聞き、距離はギリギリだったのですが私の判断で砲撃を命じました」

 

そこまで聞いた山城さんは改めて不安そうな表情を見せた。

「あのぅ……何か?」

 

私は彼女の不安かつ澄んだ瞳を見て急に怒りが収まった。

 

(この眼……)

ふっと舞鶴沖で沈んだ例の『彼女』を思い出したのだ。そういえば、あの艦娘も私の命令に反発しながらも澄んだ瞳を向けてきたものだった。

 

急に慌てた私は打ち消すように言った。

「あ、いや……美保にも戦艦が居るんだなぁってね」

 

我ながら、この反応は不自然だと思ったが後の祭りで、場の空気が固まる。自分に嫌気が差す。

 

「えっと……」

ばつが悪くなった私は取り繕うように制帽を脱いだ。

 

すると祥高さんが続けた。

「美保の主軸となる戦艦は彼女だけです。あとは駆逐艦がほとんどです」

 

私は頷いた。

「なるほど唯一の戦艦が『山城』さんか」

 

それならば敵が来れば彼女が一番に反撃するのは当然だ。いくら山城さんだって自分勝手に砲撃はしないだろう。要するに命令をしたのは祥高さんだった、ということか。

 

 提督代理の命令ならば山城さんの責任ではない。それに彼女も最前線にて全力で戦っていたのだ……私は自分の態度に恥ずかしさを覚えた。穴があったら入りたい。

 

「そうか、君もご苦労さんだったね」

私は山城さんを労(ねぎら)った。

 

そう言われた彼女は一瞬、驚いた後、ポッと頬を赤らめた。そして恥ずかしそうにボロボロの服を隠す仕草を見せた。

 

(ああ、この子も普通の女の子だな)

そう思った。だが私も寛代も、山城さんと同じように服は汚れ穴も開いていた。敵の機銃掃射や艦娘からの艦砲射撃の着弾点を逃げ回っていたから仕方ない。

 

(これじゃ、ここの艦娘たちにジロジロ見られたのも無理はないか)

私はつい苦笑した。

 

 気になったのは秘書艦の名前。艦娘も戦艦クラスになると所属の鎮守府以外でも知名度が高くなる。大和、武蔵、長門……そもそも彼女たちは戦果も華々しい。

 

しかし彼女は重巡だ。そんなに有名な艦娘なら知っているはずだが……。

(まあイイ。また思い出すだろう)

 

 私は改めて執務室内を見回した。

 

 

以下魔除け

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PS:「みほちん」とは
「美保鎮守府:第一部」の略称です。

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