マイ「艦これ」「みほちん」(第1部)   作:しろっこ

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戦いが終結して艦娘たちも内外の整理が必要になる。それは新しい歴史の始まりだ。


第69話<美保の旭日>(改)

「有り難う。みんな」

 

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マイ「艦これ」「みほちん」

:第69話<美保の旭日>(改)

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 やがて『彼女』は暗い海に紛れて見えなくなった。

 

「ハア」

私は、ようやく肩の荷が下りた心地だ。

 

「終わったな」

「終わりましたね」

「……」

参謀たちも互いに顔を見合わせて確認している。

 

 埠頭にいた全員が結局あのガングロ阿武隈のお陰で、ずぶ濡れになった。

大淀さんが第六駆逐隊に指示して埠頭にいた艦娘や参謀たちにバスタオルを配布している。

 

電が私たちのところへバスタオルを持ってきた。

「タオルなのです」

 

それを受け取る参謀たち。

「タオルか、ホッとするな」

 

私は彼らと笑った。ようやく収拾がついた心地だな。

 

 私服の呉と神戸もズブ濡れだったが二人とも晴れやかな表情だ。ついでに舞鶴もまた今までにない清々しい表情だ。良かった。

 

 北上は、ぶつかってきた阿武隈に小言を言いながらも日向に支えられて埠頭に上がってきた。祥高さんが大き目のバスタオルを持ってきて北上に羽織らせている。

 

 それから祥高さんは直ぐに私のところへ来て敬礼をした。

「司令、申し訳ありません。一部の艦娘が言うことを聞かずに……」

 

私は手を上げて制した。

「良いよ。今後の反省材料ではあるが今回は大目に見よう」

 

「はい」

彼女は軽く頭を下げた。

 

 鎮守府本館へ向かっていた北上は私の正面に来ると立ち止まった。いくつもの探照灯が私たちをライトアップしてくれる。

「おい比叡、眩しいって」

「はいっ」

 

(ハイじゃないよ……)

私は無意味に目をキラキラさせて、こちらを見上げる彼女を制した。もう夜明けだからライトは良いだろう?

 

それから私は北上を見て冗談混じりに言った。

「水も滴る……だな、お互いに」

 

「……」

彼女は無言だった。少し濡れた北上の髪がライトでキラキラと反射しているが、その姿が反って緊張感を漂わせる。

 

 いや実際、彼女は少し緊張しているのか? その様子に気付いた近くの艦娘たちも動きを止めて私たちに注目する。

 

北上は、その場で姿勢を正すと無言のまま私に向かって敬礼をした。

「提督……」

 

何か言いたそうな、ややぎこちない彼女だ。思わず私は聞いた。

「なんだ、泣いているのか? 北上」

 

 そのひと言がいけなかった。ジッと何かを堪えていたような彼女だったが心の栓が抜けたように敬礼をしたまま涙を流し始めた。

「お……」

 

何か言い掛けた私を制するように北上は言った。

「ねえ司令……アタシなんで泣くのかな? 全然、悲しくないのに」

 

とめどなく流れる涙。崩れるように敬礼を解いて、しきりに涙を拭う彼女に私は改めて言った。

「哀しくなくてもナ、人は……いや艦娘だって突然、涙が出ることもあるよ」

 

泣き笑いのような表情をする北上。

「そうなんだ。……だよね、やっぱ。へへっ」

 

照れ隠しのような、少し笑顔になった彼女を見て私もホッとした。

 

 これを見ていた周りの艦娘たちが、一斉に私たちに向かって敬礼をし始めた。

 遅れて来た赤城さんと日向、さらに呉と神戸。あの舞鶴までも皆、同様に私に向かって敬礼をした。それは共に戦った者たちの熱い想いか。

 

 私も全員に向けて、ゆっくりと敬礼をした。

「ご苦労だった。そして改めて礼を言う。有り難う、みんな。よくやってくれた」

 

 数名の艦娘は、北上同様泣き出している。それはこの場に居る皆の気持ちが一つにまとまったような一種、荘厳な瞬間だった。ああ、もし私が海軍の制服だったら、これはもう最高だったけどね。(残念ながら桃色作業服のままです)

 

 私が敬礼を解くと祥高さんが合図をして言った。

「では各自、指示を出します。班長さんはこちらに集まってください」

 

 その後、祥高さんと大淀さんで班ごとに指示を出した。まずは戦闘直後の湾内の整理。それから主に阿武隈が破壊した地上設備の片付けだ。指示に従って各自、黙々と配置へ就く。

 

 空は徐々に明るくなりつつある。水色の諧調を背景に白い雲がいくつか浮かんでいるのが見え始めた。それまでの重苦しい夜風から一転して爽やかな早朝の風が香り始める。

 

「朝か……」

「朝ですね」

 

 あの白い深海棲艦については、言葉は交わさなくても、その場に居た全員が、お互いに通じる世界があったように思う。ひとつの区切りは、ついたようだな。

 

「ホラそこ、気をつけて!」

 港湾内に響く声。川内が先陣を切って湾内を走り回って駆逐艦娘たちに指示を出している。

 

「どこまで元気なんだ? あいつは」

夜戦とは違うけど……まあ良いか。本人がやる気満々なら。

 

腕を組んだ舞鶴が私の隣で湾内を見ながら言う。

「今の港湾内は戦場並みに危険な作業だからな」

「それは同感だが」

 

遅れて阿武隈と浮上した伊168も上がってきた。祥高さんが促すと彼女は私に頭を下げた。

「司令、スミマセンでした」

 

申し訳なさそうな阿武隈だが戦闘で若干、顔の黒墨が落ちていて、どう見てもパンダにしか見えない。

 

「う……」

「……」

現に他の参謀たちは笑いを堪えて悶絶している。

 

私は彼女に言った。

「分かった。報告は後から聞くから……早く顔を洗え!」

「はぁい」

 

 軽く敬礼した後、彼女たちは祥高さんと司令部へ向かった。彼女らについては恐らく軍令部から着任の指令書が着ているのだろう。あとで確認しなきゃ。

 

呉オジサンが言う。

「エエですなぁ、この鎮守府にも少しずつ新しいメンバーが増えていくンやな」

 

「そうですね」

私が応えると神戸が聞いてきた。

 

「あの子も新顔ですか?」

「え?」

思わず振り向くと木曾に連れられて「まるゆ」も上がってきた。

 

大淀さんが二人を私に紹介する。

「司令、正式にご紹介申し上げていなかったと思います。こちらが陸軍の、まるゆです」

 

私は彼女の視線に合わせて身をかがめると、半分泣いて疲れた表情の、まるゆに声をかけた。

「ご苦労さんだったね」

 

「はい」

可哀相な彼女は蚊の鳴くような声で応えた。

 

上体を起こした私は大淀さんに言った。

「取り敢えず、まるゆについては、しばらく木曾に面倒を見てもらおう」

 

「了解しました……では木曾さん、お願いします」

 

大淀さんに指示された木曾は無言でサッと敬礼をした後、まるゆに声をかける。

「じゃ行こうか」

「はい」

 

何となく、この二人は良いコンビになりそうだなと思えた。

 

鳳翔さんが来た。

「あの……お時間は早いですが、朝食の準備は如何致しましょうか」

 

「そうだな……」

私は参謀たちを振り返った。

 

「せっかくだから皆さん、一緒に朝食にしましょうか?」

 

呉オジサンが苦笑しながら言う。

「まぁ、贅沢は言えませんが、ひと風呂浴びたい気持ちですわ」

 

「あ、同感です」

神戸も苦笑する。

 

舞鶴が言う。

「確か、この近くに温泉があるだろう?」

 

「あ、そうだな……」

私はチラッと時計を見た

 

「20分くらいで身支度を整えてから朝食にして……それから皆生(かいけ)温泉へ。ここから車で直ぐの所に良い場所があるので朝食後に、ご案内しましょう。午前中は時間もありますから」

 

 参謀たちから『おおっ』という歓声が上がる。

 

私は再び鳳翔さんを見て言った。

「では悪いが、06:30から朝食にするから準備を頼む」

 

「かしこまりました」

彼女は一礼をして、本館へと戻っていく。

 

「では皆さん、後ほど」

私たちは、お互いに敬礼をして解散した。

 

 歩きながら私も考えた。今日の午後には参謀たちを送り出してから私自身も、いろいろ整理だ。今回の戦闘に関する報告書も作らないと……。

 

「ん?」

いつの間にか走り寄って来た寛代が私の袖を引く。

 

 無言で指差した彼女の視線の先には、大山の稜線から昇る朝日が見えた。それに合わせて鎮守府の建物も橙色に染まっていく。美保の朝は、とても心地よかった。白くなった月も笑っているようだ。

「ああ、良い夜明けだな」

 

わざわざコレを見せるために? ……不思議な子だな。

 

その時、私は何となく気付いて彼女に言った。

「お前も朝食、一緒に食べるか?」

 

無言で頷きながら寛代は笑っていた。

 

 

<みほちん第一部:完結? いやいや、まだ>

 




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※これは「艦これ」の二次創作です。
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PS:「みほちん」とは「美保鎮守府」の略称です。

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