マイ「艦これ」「みほちん」(第1部)   作:しろっこ

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早朝の作戦室で大淀と出会った私は彼女から報告を受ける。そして朝の鎮守府では。



第20話(改1.5)<暗号と艦娘>

 

「本日当直担当の軽巡『大淀』と申します」

 

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マイ「艦これ」「みほちん」

:第20話(改1.5)<暗号と艦娘>

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 私はノックをせずに作戦指令室に入った。そこには通信装置を一心不乱に睨んでいる、さっきのメガネの艦娘がいた。

 

私に気付いた彼女は慌てて立ち上がって敬礼した。

「失礼しました司令、本日当直担当の軽巡『大淀』と申します」

 

祥高さんとは少し違うがキチンとした印象だ。

「なるほど私が着任した引継ぎは、きちんと出来ているんだな」

「恐縮です」

 

彼女は直ぐに姿勢を正して報告を続けた。

 

【挿絵表示】

 

 

「司令、昨夜ですが夜間訓練中の神通の部隊が隠岐の近海で敵に遭遇しました。直ぐに交戦状態となり敵艦隊を制圧。当方は大破2、中破1でしたが幸い沈没はありません」

 

「そうか、良かった」

正直ホッとした。

 

(さっきの艦娘たちか)

毎回、戦果報告は結論を聞くまで冷や汗モノだ。

 

「ただ」

大淀さんは少し姿勢を崩しペンを額に押し当てながら報告書を見つめた。

 

「今回は敵艦隊が6隻。他の鎮守府では良く見掛ける編成ですが山陰沖では珍しい型です」

「そうなのか?」

私は腕を組んだ。

 

「はい。過去3ヶ月では初めての規模です」

「なるほど」

 

彼女は続ける。

「神通の報告では敵は、かなり高速で隠岐の南方を東進。『山陰海岸の偵察任務』との印象を受けたそうです」

 

私は壁の海図を見た。

「つまり今後、敵が何らかの大きな作戦行動に出る可能性も考えられるのか」

「恐らく」

 

大淀さんは眼鏡越しに澄んだ瞳でこちらを見詰める。思わずドキッとした。もちろん、その表情に作為はなく自然なものだ。

(艦娘は時折こういう表情を見せるからな)

 

だが軍隊では浮ついた想いは不謹慎だ。私は自分の感情を押さえつつ、ため息をついた。

「しかし明日は視察団が来るのに敵に不穏な動きか。何か面倒だな」

(まさか相手も何かを察知しているのだろうか?)

 

大淀さんは淡々と続ける。

「あと昨日から軍令部より大量の暗号文が入電しています」

「暗号?」

「はい。マル秘扱いの暗号電文のため解読に少々お時間が掛かりますが朝食までには、ご報告出来ます」

 

彼女は順を追って説明する。

「終わり次第、祥高さんに、お渡ししておきます」

 

「分かった」 

キッチリした性格が出てるな。

 

頷いた私は窓の外を見た。東の空が白み始め、日本海に大山がボンヤリと浮かんでいる。

(今日も暑くなりそうだ)

 

 しばらく私は指令室に留まって詳細に敵の状況を聞いた。大淀さんは淡々としているが、こちらの質問に逐次、即答する。

(どことなく祥高さんにも似ているが、もうちょっと透明感がある)

 

そんなことを思いながら大淀さんの顔を、まじまじと見ていると彼女が気付いたような表情を見せた。

「あの、何か変ですか?」

 

私は少し慌てた。

「あ、いや」

 

少し考えてから私は言った。

「艦娘って本当に、一人ひとりが個性的だよね。君は判断力の速さが長所かな?」

「……」

 

ふっと硬直した彼女。直ぐにハッとする。

「す、済みません。そんなことを言われたのは初めてで」

その頬は真っ赤だ。

 

(あれ?)

今まではテキパキと、こちらの問い掛けにも応えていた……が急に声の調子が、しどろもどろになった。そして恥ずかしそうな顔をしている。

その豹変振りには、こちらも驚いた。

 

私は頭に手をやりながら言った。

「何か悪いこと言ったかな?」

「いえ、そうではなくて……その」

 

彼女は眼鏡を取ってハンケチで拭っている。何か罪悪感を覚えるな。

 

眼鏡を取ったまま大淀さんは机の上にあった可愛い柄の水筒を取ると、お茶を一口含んでからホウッと深呼吸をした。

 

「ごめんなさい、私としたことが動揺致しました」

裸眼の素顔も素敵だと内心思った。

 

 大淀さんは改めて眼鏡をかけると先ほどまでのキリッとした姿と表情に戻って言った。

「司令、嬉しく思います。久しぶりに『艦娘』らしく扱って頂きました」

「らしく?」

 

私は、ちょっと不思議に思った。彼女は説明を続ける。

「ご存知かも知れませんが、この美保鎮守府も長らく司令が定着せず不安定でした。最近は祥高さんが代理でしたが」

「そうなのか?」

 

そう応えつつ彼女の表情を見ると明らかに何かが拭い去られキラキラした表情に変わっていた。

「やはり司令官の位置は殿方が務めるのが相応しいと実感致しました」

 

私は改めてドッキリした。大淀さんは微笑んで続ける。

「はい。司令なら美保鎮守府も大丈夫だと思います」

 

「ははは」

思わず苦笑したが彼女の表情は真剣だった。清楚な色気があるよな、この艦娘は。

 

 やがて起床ラッパの音と共に鎮守府全体がバタバタし始める。点呼、体操や訓練開始の掛け声が構内に響く。

(鎮守府の朝らしい雰囲気だな)

 

軽く会釈をした大淀さんは直ぐに定位置に戻った。ほぼ同時に伝令管を通して各班から順番に点呼や各種報告が入る。

 

彼女は何事も無かったように手際よく受け答えをして日報に記入をしていく。

 

(なるほど手馴れたものだ)

その切り替えの速さは祥高さんを髣髴(ほうふつ)とさせた。

 

私は聞いた。

「その点呼を受ける業務は君と、あとは祥高さんかな?」

「そうですね」

 

彼女は少し間を置いてから答えた。

「ただ現状では非常時に困るので今後に備え新しい補佐担当の艦娘を検討しています」

 

「なるほど」

(まだ人手不足なんだな)

 

 やがてドアを軽く叩く音がして鳳翔さんが顔を出した。

「あの、司令がこちらと伺いまして。朝食は食堂で宜しいでしょうか?」

 

私は振り返った。

「ああ。もし祥高さんが執務室に居たら私が食堂で食べることを伝えてくれ」

 

「かしこまりました」

彼女は軽く礼をして退室した。

 

私は資料を元に戻すと軽く伸びをして大淀さんに言った。

「では済まない、私は朝食に降りるよ」

 

「了解しました」

大淀さんは軽く敬礼をした。

 

 廊下に出ると祥高さんが執務室から出てくるところだった。彼女は敬礼をして言った。

「おはようございます司令。早々ですが報告する内容がございます。食堂で、宜しいでしょうか?」

「ああ」

 

私は軽く返礼した後、彼女と一緒に食堂へ降りた。

 

歩きながら祥高さんは聞いた。

【挿絵表示】

 

「よく眠れましたか?」

 

「ああ」

(ウソだ)

 

よく考えたら艦娘に取り繕う必要は無いのかも知れない。だが、なぜか彼女には普通の人間と同じような対応をとってしまう。

 

一方の祥高さんも私のウソを見破っているような意味ありげな微笑を浮かべていたが、それ以上はなにも言わなかった。

 

 食堂は各班が時間をずらしているので、さほど込んではいない。

しかし今朝も私と祥高さんの席には、いつの間にか合い席になっている寛代と、そこに駆逐艦隊が絡む、にぎやかな状況に変わりはなかった。

 

 配膳されるまでの間、祥高さんは私に資料を渡しながら言った。

「明日の視察の件で確認したところ軍令部の暗号文と平行して送られた電報の指示が微妙に違っています」

「つまり?」

「電報では各鎮守府と本省から明日の朝、陸攻(りっこう)で空軍の美保滑走路に到着するとあります」

 

周りの駆逐艦がうるさい。気にせず彼女は続ける。

「しかし暗号電文では明日、視察団は各鎮守府から、それぞれ列車で来るとあります。また本省からは舞鶴経由で大艇(たいてい)が日本海に沿って到着する計画になっています」

 

陸攻は一式陸攻、大艇は二式大艇、どちらも海軍の航空機だ。

「また舞鶴から『警備増強のため艦娘の戦艦と空母を差し向けるので受け入れ準備をしておくように』との指示もありました」

「戦艦と空母?」

 

私は苦笑した。

「ちなみに艦娘の場合、鎮守府での受け入れ準備は不要だよね?」

 

彼女も微笑んだ。

「仰るとおりですが」

 

私は美保湾を見ながら腕を組んだ。

(艦娘は戦艦、空母であれ艦種による排水量の差を考えなくても良い)

 

だからこそ、こんな小さな鎮守府でも大部隊を編成出来る。

(今は、まだ弱小だが)

 

私の考えに呼応するように祥高さんは続けた。

「ただ美保にとっては貴重な戦艦と正規空母の着任です。それなりの『心の準備』は必要かと思います」

 

「なるほどね」

(心の準備か。それは必要かもしれない)

 

ここでは唯一の戦艦、山城さんですら、あの勢いだからな。

 

「それに」

彼女は何かを思い出したように付け加える。

 

「艦娘の食料消費量は設計艦種本来の排水量に比例する傾向があります」

「あ?」

予想外の内容に私はバカみたいな反応をした。

 

だが祥髙さんは表情を変えずに続けた。

「つまり艦娘たちの背丈は皆、同じでも艦種……たとえば駆逐艦よりは巡洋艦、さらに戦艦や空母など本来の分類に従って『燃費』や『必要資材』が増えます」

「なるほど」

 

私は彼女を改めて見た。

「君は、この駆逐艦寛代よりは大食いなワケだ」

 

 そう言った直後に私は『しまった』と思った。いくら相手が艦娘とはいえ、この発言は拙かった。もし相手が人間の女性なら絶対に嫌われるだろう。

 

ところが意外に彼女は普通に微笑んだ。

「そうですね。寛代ちゃんよりは食べますけど。大食いかどうか」

 

その落ち着いた反応にホッとするやら冷や汗が出るやら。

(相手は艦娘。単なる機械でも人間でもない)

 

そんな自分を顧(かえり)みる。

(私は何を焦っている?)

 

さきの大淀さんや寛代、それにあの山城さんだって単なる機械ではない深い感情の動きを感じる。

(やり難いな)

 

それに祥高さんだ。

(艦娘が単なる機械の方が気楽だ)

 

改めて秘書艦には『人間臭さ』を感じる。

(艦娘は分からないことだらけだ)

 

「しかし戦艦に正規空母。本省は、ここで観艦式でもするつもりか?」

私はボヤいた。

 

祥高さんは気付いたように、つけ加えた。

「スミマセン、追加電文で艦名表記がありました。空母は『赤城』で戦艦は『比叡』です」

「なんだ? 一航戦に高速戦艦まで来るのか」

 

私は思わず呟いた。

「やっぱり観艦式決定だな」

 

寛代は不思議そうに、こちらを見上げていた。

 

 

 

以下魔除け

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※これは「艦これ」の二次創作です。
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PS:「みほちん」とは
「美保鎮守府:第一部」の略称です。

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