マイ「艦これ」「みほちん」(第1部)   作:しろっこ

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郊外の視察を終えた私は隊員食堂で夕食をとる。艦娘たちとの距離が少しずつ縮まる事を願いながら。



第18話(改1.7)<タフガール>

 

「これは青葉の極秘メモですぅ」

 

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マイ「艦これ」「みほちん」

:第18話(改1.7)<タフガール>

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 ここで、ちょっとした事件が起きた。いつもは大人しい駆逐艦の寛代が珍しく怒り出したのだ。

 

「……!」

唇を尖らせ膨れっ面になって静かに怒っていた。

 

相変わらず何かを喋るわけでは無いのだが、その姿に秘書艦も慌てた。

 

「ゴメンなさい! 寛代ちゃんも大変だったね」

そう言って、なだめている。

 

その隣ではハンドルに、もたれ掛かった姿勢で青葉さんがニタニタしていた。

 

(なるほど……これが日常的な艦娘たちのやり取りなのか)

寛代には悪いが私は妙に安心感を覚えた。

 

恐らく一般の女性部隊なら当たり前に見られそうな情景。それは艦娘であっても変わらないのだ。

 

 やがて落ち着いた寛代。祥高さんは私を見て肩を竦(すく)めた。

「失礼しました、司令」

 

私は笑った。

「別に良いよ。まぁ微笑ましいというか可愛らしいというか……男性だけの軍隊じゃ絶対にあり得ない世界だな」

 

「スミマセン」

さすがの秘書艦も恐縮していた。

 

「いや、そんなに縮まることもない。これは壮大な実験だと思えば良い」

「実験?」

私は、そのまま車のドアを開けると外に降り立った。

 

 田畑を渡る風が心地良い。遠くには大山も見える。何となく車内の艦娘たちが私を注目しているのを感じた。

 

帽子を取った私は振り返った。

「艦娘だけの鎮守府を、この美保に作った軍令部か海軍省。上の連中には何か考えがあるのだろう」

 

「そうですね」

意外に祥高さんは頷いて同意する。私は自分の考えが大筋で間違ってはいないと確信した。

 

再び大山を見た私は腕を組んだ。

「新しいことは嫌いじゃない。特に旧態依然たる軍組織に風穴を開けるくらいのことは、やりたいと思っている」

 

「……ですね!」

いきなり合いの手に驚いた。

 

その声の主は青葉さん、全開にした窓枠に肘を突いてニコニコしていた。

(やっぱり君か)

なるほど好奇心旺盛な子だ。

 

 私はポケットからメモ帳を取り出した。

美保鎮守府に所属する艦娘の覚え書き。

(1)戦艦は山城だけ。

(2)あとは軽空母と駆逐艦、巡洋艦が少々。

(小さいな)

 

そう思っていたら、やっぱり青葉さんが口火(くちび)を切る。

「司令なりに何か?」

 

「そうだな。美保は日本一小さな鎮守府だ。その『大きさ』と『立地』にも何らしかの優位性を持たせたいね」

元は作戦参謀だから分析は得意だ。

 

「なるほどお」

相づちを打った彼女もまたメモ帳を取り出していた。

 

「おいおい、これも記録するか?」

私は慌てた。

 

「あ、オフレコですから」

ニタニタしつつ鉛筆を動かす彼女。

 

「これは青葉の極秘メモですぅ」

敬礼して、おどける。

 

「頼むよ」

私は脱力した。

 

すると祥高さんも車を降りて私の隣に立つ。

「……」

 

 しばらく、その場に居る誰もが無言で大山を見詰めていた。徐々に日が傾き弓ヶ浜には涼しい風が吹き始める。

 

 祥高さんは総括するように言った。

「司令が着任されて海軍はきっと、この美保から大きく変わっていくと思います」

 

「そうだな」

反射的に、そう応えた。

 

だが、その時分の私は、まだ何も分かっていなかった。秘書艦の言葉の重さを後から痛感することになる。

 

 腕時計を見て祥高さんは微笑んだ。

「そろそろ戻りましょうか? 司令」

「ああ、そうだな」

 

彼女は青葉さんに目配せする。青い髪の少女は敬礼をした。

「アイ、では鎮守府へ戻ります」

 

 私たちが車に乗り込むと発動機が軽快な振動とともに始動する。西からの真っ赤な夕日を浴びながら軍用車は鎮守府へと向かう。

 

 埋立地に戻る頃には空に星が見え始めていた。

私は正面玄関前で車を降りた。見上げると美保鎮守府の建物は堂々とした佇まいを見せていた。

 

 敷地内では訓練を終えた艦娘たちの点呼や片付け作業をする者の声が響く。また通路では食堂へ向かう者、哨戒任務に付く者たちと慌(あわただ)しい雰囲気だった。

 

 私は秘書艦と共に二階の執務室に戻った。

祥高さんが報告する。

「美保鎮守府の資料が完成しました」

「ご苦労様」

 

受け取った私はパラパラと眺めた。 さすがに今はちょっと疲れたから時間をおいて確認しよう。

 

 空には夕日で真っ赤に染まった雲が浮かんでいる。私は手を休めて呟いた。

「綺麗だな」

 

八雲(やくも)という地名が象徴する出雲地方は夕方、綺麗な雲がよく出る。

 

この建物の周りでも夏の虫がリンリンと鳴き始めた。開いた窓から心地良い風が吹き抜ける。

「風鈴でも吊るしたくなるな」

 

「司令の宿舎は、この建物の裏手にある別棟の二階です」

私の想いとは無関係に祥高さんが説明する。

 

「構内電話や非常用の無線機、小火器類も備え付けられています。また非常口が二ヶ所あります。後ほど現地で、ご確認下さい」

「分かった」

ここは鎮守府だと改めて実感した。

 

「基地内では落ち着かないと仰って、お住まいは外に準備する歴代司令も居られましたが」

「はぁ」

ここで一旦、間を置く祥高さん。

 

「この辺りでは借家も無くて結局、外に住まわれると通勤時間が長くなって億劫になるようです」

「分かるなあ、ソレ」

私は苦笑した。

 

軍司令なら軍用車での送迎も有りだ。しかし、ここでの運転手は艦娘だ。体面を重んじる提督には恥ずかしくてダメだな。

 

 秘書艦を見ながら私は頬杖を付いた。

 

艤装を外した艦娘は外観では艦種が分かり難い。しかも彼女は、やや長身だ。つい『戦艦か?』という錯覚に捉われる。提督代理を務めていたことも納得できる安定感があった。

 

もちろん重巡級になれば落ち着いた艦娘は少なくない。恐らく彼女の豊富な経験が的確な判断と安定感を生んでいるのだろう。

 

(ただ『祥高』って名前、どこかで聞いたよな)

私は改めて疑問を感じた。

 

とはいえ直接、本人に尋ねたところで彼女が私の個人的記憶を理解して答えてくれる訳ではない。

(やはり資料を探すか?)

 

 そのときコンコンと扉を叩いて顔を出した鳳翔さん。

「失礼します。夕食の、お時間です」

「ありがとう」

 

そんな軽空母の彼女も『艦娘なのか?』というくらい給仕姿が板についていた。

(彼女の制服が和装なので、なおさらだな)

 

書類を置いた私は祥高さんに言った。

「そろそろ、降りようか」

「はい」

 

 今日の夕食も当然、隊員と同じ食堂で頂くことにする。

夕方という時間帯もあって、食堂はまだ少々ゴタゴタしていた。

 

私たちが降りて行くと艦娘たちが敬礼をする。いちいち制するのも面倒なので私も今では簡単に返礼をしている。それでも中には無視する者も居た。

 

私は苦笑した。

「まだ完全には受け入れられていないようだな」

「……」

 

祥高さんが心配そうに、こちらを見るので私は返す。

「だからといって執務室に食事を持って来て貰うのも寂しいだろう?」

「はい」

「人付き合いは苦手だけど引きこもるのも、どうかと思う」

 

食堂の奥にあるテーブル席は、ほぼ司令である私と秘書艦の指定席になっていた。

 

でもこうやって食堂に降りてきて食べる司令官は美保鎮守府では初めてらしい。艦娘たちは、こちらをチラチラ見ながら興味津々といった感じだ。

 

 直ぐに鳳翔さんが夕食を持ってきてくれた。

その時、何処からともなくスッと静かにやって来た寛代が案の定、自分の夕食も持参で私たちの隣に座った。

 

「やれやれ」

私は笑った。でも、この子は大人しいから別に良いか。

 

「頂きます」

「頂きます」

祥高さんと手を合わせる。重巡クラスになると細かい所作が自然と人間臭くなって来る。

 

「……」

そして静かに寛代も手を合わせた。。

 

(そういえば以前の鎮守府でもそういう艦娘が居たな)

私は記憶を呼び起こす。

 

だが祥高さんの場合は、より自然で人間っぽい。

(まぁ、彼女のことは徐々に分かって来るかな)

 

 夕食の時間は昼間よりも緩んでいた。ここの食事は水や空気が良いせいか、とても美味しい。

 

(やっぱり海軍は、こうでなくちゃね)

海軍生活の楽しみは食事くらいだから。

 

……だが食堂の中には緊張した一団が居た。

「夜戦ン!」

 

約一人の艦娘が盛り上がっている。

 

「何か妙なムードだな」

私は思わず呟いた。

 

すると祥高さんは言う。

「彼女たちは、これから一晩中、夜間訓練をします」

 

「なるほど司令不在でも、きっちりと任務は継続中だな」

私の言葉に祥高さんは微笑んだ。海軍としては頼もしい限りだ。

 

食事をとりながら彼女は続けた。

「月に数回、軍令部の指示で作戦指令室が24時間体勢になります」

「それは定期的なものか?」

「はい。暦(こよみ)に従う場合と舞鶴や佐世保での戦闘状況を考慮して臨時に指示される場合があります」

「なるほど」

 

祥高さんは一瞬、食事の手を止めた。

「これは当番制ですが司令には随時ご入室が可能です。また状況によって緊急時には昼夜問わず司令から、ご発令頂けます」

「なるほどね」

 

(それは要するに鎮守府の司令は24時間体勢で待ち構えて居ろって事だな)

私は軍部の無言の圧力を感じて苦笑した。

 

「おや?」

私はフッと箸を止めて祥高さんを見た。

夕日を受けた規律正しい彼女の姿は、もはや『燃える艦娘』にしか見えなかった。

 

「祥高さん貴女、凄くタフですね」

思わず口走ってしまった。

 

「は?」

「いや、何でもない」

焦った私は視線をそらした。恥ずかしい。

 

 さっきから当然のような顔をして私の隣に座っている寛代は黙々と食べている。

 

それでも彼女は時おり首を傾げる仕草をする。無線傍受して司令部に転送するのだろうか。ブツブツ呟くこともある。

 

 食事が終わる頃になると艦娘たちも私に慣れてきたらしく入れ替わり立ち替わりで私たちのテーブルに来て質問攻めだ。

 

「美保は如何なのですか」

「もう慣れたわね」

「海軍なら当然だ」

「食べるの遅っそーい!」

特に寛代と同じ駆逐艦……電、雷、暁、島風あたりは騒がしかった。

 

何度か祥高さんに注意されても、またゲリラのように舞い戻って来る。

(こうなると、もはや無法地帯だな)

 

 ただ、こうやって艦娘たちとやり取りしていると次第に一人ひとりの性格が見えてくる。

 

電は雷や暁に引きずられて頼り無さげだが誠実な印象だ。

 

島風も誤解を受けそうな外見だが風格が有り案外キッチリしている。

 

 艦娘といえども外見だけで判断してはいけない。指揮官として十分注意すべきだろう。

 

「お互いに命を預ける関係になるんだよな」

私が呟くと寛代は無言で、こちらを見ていた。

『一蓮托生』という言葉がふと思い浮かぶ。

 

 食堂の大きな窓越しには昇った月に照らされた大山が美保湾に薄っすらと影を落としているのが見えた。

 

(海は凪いで居るな)

美保湾の潮風が心地良かった。

 

 

以下魔除け

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※これは「艦これ」の二次創作です。
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PS:「みほちん」とは
「美保鎮守府:第一部」の略称です。

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