姫騎士アイーシャの野望~愛する王子様を玉座につけるのだ!~   作:rimaHameln

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四幕

 真暦1971年。

 アイーシャの進言によって辺境の地へと向かう事になった末の王子クルジュ。その準備も日取りも全てアイーシャによって整えられており、クルジュ自身はただ心の準備をしているだけで良かった。

 そして、王子の出立ともなれば豪勢な宴が付き物である。山程のご馳走、出立に向けての贈り物、そして見送りの客人達だ。

 宴のホストである末の王子クルジュは初めての大役に緊張し、困惑していた。たどたどしく答えるクルジュをアイーシャは脇から囁き、手助けしていた。

 クルジュはただ言いなりでいるばかりではなく、自分の力だけど対応しようともした。しかし彼の器量では相手のペースにすぐ乗せられてしまうのだった。だが、そこでもすかさずアイーシャが助け船を出して王子を救援していた。

 

【クルジュ】「ふう、ありがとう、アイーシャ」

【アイーシャ】「勿体無いお言葉です。殿下をお助けするのが、私の使命で御座いますから。それに、そもそもあの様な分不相応な物言いをする奴らこそが悪いのです」

【アイーシャ】(クルジュさまに迷惑を掛けるなんて。彼奴等は後で必ず殺すわ。だから心配しないでね、クルジュさま!)

【クルジュ】「うーん、でもちゃんと言葉を返せない僕が駄目なんだよなぁ。やっぱり、アイーシャがいないと僕は駄目だなぁ」

【アイーシャ】「ク、クルジュさま」

【アイーシャ】(も、萌え死にそう……今すぐ抱き締めてナデナデしたいっ! 思いっきり!)

 

そんな二人に近付く者達がいた。近付く者を見るとクルジュの顔がぱっと明るくなり、思わず立ち上がった。

 

【クルジュ】「キュロス義兄さん! ファーティマ姉さん!」

【キュロス】「クルジュ!久しいな!それにアイーシャも」

【アイーシャ】「クルジュ、久しぶりね。……後、アイーシャも」

 

 ファーティマはクルジュの同母姉で、キュロスはその夫である。そして、キュロスはイサウロ家の長男でもあり、アイーシャの兄であった。

 ファーティマはクルジュに似ず堀の深い顔立ちで、女だてらに剛気な振る舞いで知られている。キュロスは妹アイーシャと比べると顔も才能も天と地ほどの差があったが、それは比べる対象が悪いのであって戦士として十分な評価を受けていた。

 

【アイーシャ】「……よくいらして下さいました」

【アイーシャ】(またクルジュさまにたかるハエが増えたわ)

 

 アイーシャは彼らの何方も嫌いだった。

 露骨に敵意を示しあうファーティマは言うに及ばない。キュロスは兄として相応の愛情を向けてくれるがそんな事はアイーシャには関係無いのだった。

 

【キュロス】「いや、全く目出度いことだ。あのクルジュ坊やが出陣とはな」

【ファーティマ】「ほんとよね。おもちゃ片手に遊ぼう遊ぼうってじゃれついてきたクルジュがねぇ」

【クルジュ】「ね、姉さん!」

【キュロス】「はっはっは、恥ずかしがるな! 褒めてるんだからな。皆お前の事を誇りに思ってるぞ」

【ファーティマ】「そうよ。クルジュ。だからシャキッとしなさいな。あんな馬鹿貴族共に言いようにされてんるじゃないの!」

【クルジュ】「み、見てたんですか……もう嫌だなあ」

 

 今、クルジュの心はファーティマとキュロスに向いている。自分ではなく。先程までは自分にだけ向いていたのに。

 

【アイーシャ】(そんな有象無象の連中じゃなくてわたしを見て!)

 

 その事はアイーシャの心を激しく掻き乱す。妬みと憎しみの炎が吹き荒れる。クルジュ王子の手前、二人を睨みつけ無いように耐えるのに必死だった。

 アイーシャの内心など露知らず、三人は暫く談笑を続けていた。

 

【キュロス】「頑張れよ、クルジュ。それと……」

【キュロス】「お前も”頑張れ”、アイーシャ」

【アイーシャ】「兄様……」

【アイーシャ】(キュロス兄様ったら、もう……普段は駒として利用するぐらいしか価値の無い役立たずなのに、偶には良い事してくれるのねっ!)

 

 アイーシャは僅かに兄への評価を上げた。人の恋路を応援する者に幸あれかし。

 

【ファーティマ】「気を付けない、クルジュ。あんた、鈍臭いんだから、無茶しちゃ駄目よ。それに、戦場以外だって危ないのよ。色々と”気を付けなさい”」

 

 ファーティマがちらりとアイーシャの方を見る。

 

【アイーシャ】(この雌豚も何時か必ず冥界送りにしてやるわ)

 

 ファーティマへの評価は地の底で、これ以上下がりようがない。人の恋路を邪魔する者には死あるのみ。

 

【クルジュ】「もう、酷いなあ、ファーティマ姉さん。でも大丈夫ですよ、アイーシャが一緒ですからね。彼女がきっと守ってくれますよ」

 

 凡庸な顔付きだが屈託の無いクルジュの笑顔。そこにはアイーシャを虜にするだけの、心の美しさがあった。

 

【アイーシャ】(クルジュさまぁ~! ああ~、この笑顔だけで生きていけるわぁ~)

 

 ◇ ◇ ◇

 

 豪勢な見送りの宴を終えて、王子クルジュは王都を発った。1万人もの軍勢を率い、姫騎士アイーシャの補佐を受けてである。行き先は東南のトゥラノ州。未だ反乱者と蛮族の跋扈する辺境である。

 若きクルジュとアイーシャが如何ほどの活躍を見せるのか。それはまだ神のみぞ知る。


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