姫騎士アイーシャの野望~愛する王子様を玉座につけるのだ!~   作:rimaHameln

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幕間 バラバ王朝史1

 東の大地。

 "バラバ王国"、"バラバ王朝"、"ホルシード王国"などと多くの呼び方をされている彼の地は太古の昔から人々の命と血を以て発展してきた。

 そして積み重ねられた死は今では"歴史"と呼ばれている。

 

 

 

  ◇  ◇  ◇

 

 

【挿絵表示】

 

 

 西にトランクィルス海、東に荒野と象牙の地(オドニア)、北に山脈、南に砂漠と周りを隔絶する地形に囲まれた大陸中央部は古来より太陽の地(ホルシード)と呼ばれ、スグリス河とエフラト河の2本の大河が流れる文明発祥の地の一つであった。

 南には隣接してメロエと呼ばれる地域があった。もう一つの大河ニールが潤す天然の穀倉地帯であり、ホルシードと並ぶ文明発祥の土地であった。

 ホルシードもメロエも他の世界と同じように無数の民族、無数の都市、無数の国、そして無数の王朝が栄え滅びていった。

 

 メロエでは最早記録も残らないほど古くから王朝が存在し、一つの国として纏まっていた。豊かな農地を背景に国力を蓄え、積極的に対外進出を図ったのも自然な成り行きであった。

 一方、ホルシードの中でも特に早く繁栄を見せたのは西岸のシラエアと呼ばれる地域であった。トランクィルス海の沿岸交易、南のメロエとの繋がりで文明の発展が加速していったのだ。統一の機運が強かったメロエとは異なり、シラエアの諸国は殆どが都市国家として発展した。都市毎に王や君主を戴き、シラエア諸国は時に戦争をし、時に平和を享受し、時に大国メロエに対抗して同盟を結成した。

 

 両文明は馬を家畜として使う事を覚えると、戦争では馬に牽かせた戦車を用いる様になった。じきに青銅器だけでなく鉄器も参入し始め、戦争は苛烈さを増し続けていった。

 

 文明の勃興と王国の成立以後、数百年に渡って大国メロエとシラエア諸国群のみで安定していた大陸情勢が大きく変動する事件が起きる。北方から異民族がなだれ込んできたのだ。

 彼ら異民族、クルディス人は騎馬民族の一派であり、馬に直接乗って戦う技術を持っていた。馬という武器の取扱いに関しては戦車しか知らないメロエやシラエアにはより軽快な騎兵の前に劣勢を余儀なくされ、シラエア地方は瞬く間にクルディス人の膝下に捻じ伏せられた。メロエ王国もニール河下流域と主要都市を奪い取られ、更に南部のモエリス湖一帯のオアシスへと逃れる羽目になった。

 

 こうしてシラエアとメロエの一部を制圧したクルディス人は王国を築き、北西のゴンディノ地方や東のペルシス地方へも進出を行った。

 元々騎馬民であったクルディス王国は十分な統治ノウハウは持っておらず、政治力という点では征服したシラエア諸都市やメロエ地方に比べて圧倒的に劣っていた。その為、クルディス人達は間接統治を採用し、諸王をそのまま属国として統治を任せ、貢納を受け取る事で満足していた。進出した先のゴンディノやペルシスでも事情は変わらず、同じクルディス人の新たな国でさえも統治を任せ事実上の独立国として置いていた。

 また人的資源でも劣るクルディス人は傘下の諸民族を登用することに躊躇いを持たず、特に文明の進んだシラエアやメロエ人は行政官や官僚として積極的に用いられた。

 

 だが、ホルシードの支配者となったクルディス王国も間も無く衰退し分裂していった。諸民族の登用や間接統治は支配の不安定さや反乱を呼び起こす原因ともなったのだ。

 

 


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