やはり俺のソロキャンプはまちがっている。   作:Grooki

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その5:こうして比企谷八幡の前に新世界への扉が開かれた。

 

 「五目ごはん1食329円…わかめごはん1食294円…(税抜)…だと…!!?」

 

食事が終わり、小町が部屋に戻った後、アルファ米を追加購入しとこうと、ノーパソでアマ○ンにログインしてぽちぽち検索してみたら…意外に高価だったのに驚いた。アマ○ンでこれだ。メーカー希望小売価格はもう少しするんだろう。

 

 うーん…いや、定食屋にいけばまぁ、同じくらいのご飯1杯150〜200円くらいするし、米をアルファ化する手間を考えると、たしかに妥当な値段なのかも…だが…。

 

 どうしても、即席フードというイメージから、カップ○ードルとかと価格比較してしまう…。

 

 しかし、味は本物だった。もし被災した時にひもじくなって、あのメシを食ったら、カップラーメンを食うよりも、確実に心が救われると信じられるくらい。

 

 俺はひとり(うなず)くと、さっき小町と食ったのと同じ、五目ごはんとわかめごはんを単品で1個ずつ注文した。

 

 ぐっ…送料込みで倍額感…っ! どっか近くで売ってねえかな…。

 

 しかし…よく見ると、ほかにも色々種類あるんだな…ドライカレーにチキンライス、松茸ごはん、赤飯なんてのもあった。

 

 小遣いリッチなときに時々食べ比べてみよっかな。

 

 などと思いながら、パソコンを開いたついでに、防災用品をあれこれ見比べてみることにして、適当に検索してみた。

 

 Web上の防災知識や用具のサイトは、さすがに玉石混淆(ぎょくせきこんこう)な感が否めないが、それでもいくつかしっかりした内容のサイトはある。

 

 そうしたサイトに大体共通して書いてあったのは、

 

 「被災後3日間を生き延びるために」

 

 というフレーズだった。

 

 先のふたつの大震災では、被災後、おおよそ3日で、最低限のライフラインが復旧され、自衛隊やボランティアが現地に駆けつけ、医療や炊き出し等を受けることができた、という経験に基づく記述らしい。

 

 なるほど、そうすると、俺ら個人の備えとしては、そんなに何日分もの食料や水を持ち運ぶ必要はない。最終的には避難所で支援を受けることを前提にして、それまでの間、最低限、命をつなぐための食料を確保していればいいのだ。

 

 その観点で、父親の買った持出袋を、改めて他のサイトで紹介されてるものと見比べてみると、割ときちんとしたもののようで安心した。

 

 昔は色々騙されていかがわしいものを買わされたこともあったようだが、だからこそ慎重になって、あれこれ情報を吟味して選んだんだろうな。偉いぞ親父。

 

 あっ、マッ缶3本くらい入れとこう。1日1本飲まないと俺死んじゃう。

 

 いやでも冗談抜きで、あれだけ練乳と砂糖たっぷりの飲み物だ。特に寒い時とかは身体の中で熱になって、いいんじゃなかろうか。しかも元気の源カフェイン入り。マジで自衛隊のレーション(野戦糧食)に採用されてもいいと思う。

 

 思いついて、さっそく箱買いしていたMAXコーヒーを三本、自分の持出袋に放り込んだ。

 

 …八幡カスタマイズ、開始。

 

 カスタマイズって言葉、男子ならいくつになってもグッとくるんじゃないだろうか。

 

 

×××

 

 

 一度興に乗ると、どんどんしょうもないカスタマイズのアイディアが浮かんでくる。

 

 袋に入っていた多機能ナイフ、ちょっと使うにはいいんだろうが、デザイン安っぽかったなぁ、どうせならミリタリー仕様みたいなかっこいいやつ買いたいなぁ…俺は、本物が欲しい…!

 

 冬場に被災した時に備えて、火を起こせる道具とかもあればなぁ。お湯を沸かせればラーメンもアルファ米もアツアツで食えるし、なんなら簡単な料理もできれば。でもカセットコンロは持ち運ぶ時にかさばるなぁ… あー、小さな鍋とかあれば重宝するだろうなぁ…

 

 などなど。

 

 つぎつぎに思いつくキーワードをグー○ル様に打ち込んで、どんなものがあるのか検索してみた。

 

 ところで、俺はこういう、モノ探しの検索をするとき、画像検索をよく使う。

 

 百聞は一見に()かずというか、写真で見たほうが自分のニーズと合うものをすぐに見つけやすいからだ。

 

 気に入ったビジュアルのものがあれば、そこからサイトにジャンプして商品名やスペック等の情報を見ればいい。ビジュアル大事。大事なのはビジュアル。

 

 羅列された画像を次々に見ていると、俺の琴線に触れてくるアイテムをいくつか見つけた。

 

 「ガスストーブ」とか「ガスバーナー」などと総称されているそれらは、どうやら登山用品で、山の上で簡単な調理をするために使う、簡易コンロのようなものらしい。

 

 手のひらに収まるくらいの大きさで、傘の骨組みを連想するような金属製の棒が組み合わさったような形をしていた。もっとも、比率としては傘よりずっと太いんだが。

 

 棒の一方の端に付いている五徳(ごとく)(鍋を置く部分)が傘のように開き、ロックで固定される。中央部には火の吹き出し口があり、そこから吹き出された炎が、五徳の上に置かれた鍋を温める仕組みだ。

 

 棒のもう一方の端は、専用の取替え式ガス缶に接続する口と、ライターのようなスイッチ式の発火装置、ガスの噴出量を調整するノブが付いている。

 

 この「ガスストーブ」を、デカイ肉まんみたいな形の専用ガス缶に、ネジ止め式に取り付けて使うようだ。

 

 これを見つけた時の俺の印象は、

 

 「おお…か、かっけぇ…!!」

 

 の一言だった。

 

 男の子はいくつになっても、火が出る道具が大好きなのです。

 

 もっと調べてみると、登山専用のガス缶だけでなく、見慣れた形の、カセットコンロ用のガス缶が使えるモデルもいくつかあった。

 

 …いや…そもそもなんでガス缶の形なんかに種類があるんだよ…1種類でいいだろ…互換性ってものを考えろよ。お前ら家庭用ゲーム機戦国時代かよ…。

 

 という素朴な疑問が沸いたが、この疑問は後に解消することになる。

 

 そうか、登山やキャンプのときに使う道具なら、コンパクトだろうし、便利そうなものがあるかもな…。

 

 登山…キャンプ…アウトドア。

 

 完全インドアのぼっちな俺にはこれまで縁もゆかりもなかった趣味分野だが、俺みたいな「防災」の観点から、こういう道具を求める奴もいるかもしれないと、とりあえずグー○ル様に、

 

 「アウトドア 道具 防災」

 

 と入力して検索してみた。

 

 画像検索の方では大したものは出てこなかったが、「すべて」サーチ結果に戻ってみると、とある登山用品メーカーの記事が先頭に表示されていた。タイトルはズバリ「暮らしの中の防災〜アウトドアの知識を活かす〜」。

 

 ほう、メーカーのサイトが直々に…などと思いながら、何気に開いて読み始めた。

 

 

 …このとき、俺の目の前に、新世界への扉は確かに開かれたのだった。

 


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