まだ青みの残る空気に包まれた浜辺に、
白い
その合わせ目から少し
今世界が終わるなら、あと数分だけ待って欲しい。
そう思わせるほどに、その光景は一つの名画だった。
互いの目が合ったとき、俺はたぶん呼吸を忘れていた。
──その奇跡に
そのまま一言も発さず、また数回、波の音が聞こえた。
「… … …。」
「… … …、」
雪ノ下がふと目線を外し、なにごとか
雪ノ下は固まった。その目はすぅっと、切なそうに細められ、視線は地面に落とされた。
俺はゆっくり、雪ノ下に歩み寄った。
彼女に近づくほど、波の音は聞こえなくなっていった。
身を切るような朝の寒さも、いつのまにか忘れていた。
あと数歩のところで立ち止まった。
彼女はわずかに
「…なぜ、何も聞かないの?」
沈黙の間の呼吸をうまく
なぜ。
なぜだろう。
じっくり考えればすぐ答えられるようでもあり、永遠に答えられないようでもあり。
けれど今は。
「…そんなの、どうでもいい…。」
それが一番、しっくりきた。
多分俺は…。
目の前の奇跡を、もう少しだけ
雪ノ下はそれを聞いて、瞳を再び大きく見開き…すぐ目を伏せて海の方へ顔を背けた。
耳の先がきれいな桜色に染まっていた。
と、海を見つめたまま、雪ノ下が息を
俺もつられてそちらに目をやり…同じく、息を呑んだ。
左の岬の向こう、水平線の彼方に、白い山頂がはっきりと見えた。
この国のどこよりも高いところから一番の朝日を浴びて、やや朱色に輝いていた。
富士山。
日本最高峰。美しい
他の山々と連なっていない、孤高の
こんなところからも見えるのか…。昨日は見えなかったから、気づかなかった。
高校近くの海岸からも、天気がいい日は見えることがある。
俺にとっては、さして珍しい風景ではないはずだったが、いま目の前の富士は、これまで見たことがないほど神々しかった。
いや…ほんとうに神さまだな、と俺は思った。高校近くの
ふと、富士山がこちらを見ているような気がした。
べつに理由はない。けれど、今俺は、富士山と目が合ったような気がしたのだ。
(なぁ、なんか、俺らの方を見てる気がするな…。)
そんなたわごとを、それでもなぜか言わずにいられなくて、つい、視線を雪ノ下の方へ戻すと、彼女も俺に何か言おうとしてて、同時に目が合った。
「なぁ、」
「あの、」
カブったのが面映ゆくて、お互いにまたすぐ視線を外し、二人で富士山を見やった。
「…
ぽつりと、雪ノ下がつぶやいた。
「…うん…。」
ぽつりと、俺は返した。
いまこの瞬間、世界にはたった三人しかいない。そんな錯覚を抱いた。
富士山と、俺と、雪ノ下。
そっと盗み見た彼女の横顔に、暖かな
その瞳は、その
手を少し伸ばせば、すぐに
だめだ。限界だった。
もう俺の本能がもたない。
「
自分が求めていたくせに、俺はその
雪ノ下の身体がぴくり、と震えた。
ゆっくりと、長いまつげにふちどられた、濡れたように輝く瞳を、
「…はい…。」
ショールをかき寄せた両の手を胸元で重ねながら、雪ノ下は俺の次の言葉をじっと待っていた。
「… … …ちょっとトイレ行ってくる… …!!」
「… … …はい?」
雪ノ下の微笑みが、そのまま固まった。
×××
先に謝っておく。すまない。
本能というか生理現象だけは
いや、けっこうがんばったんだよ!?しかし
ところで、めいっぱいギリギリまで我慢した後の大開放(暗喩的表現)って、なんか真の力を出すために気を全開にした時みたいな感じにならない?
…さて。
な ん で ゆ き の ん い る の ん ?
…とはいえ、大体のところはすぐに想像がついた。
どうせ小町あたりが秘密をバラしたから、俺がソロキャンプで
小町め…アイス代返せ…!!
…とはいえ、こんなトコまで見物に来るとは…。
…っていうか、え、アイツどうやって来たの…?始発電車?それともまさか、昨日から前乗り(前日入り)してホテルにでも泊まってたの?もしや別荘…!?
ひ、ヒマすぎるだろ…!?友達作って遊びに行けよ…!!
いや、しかし…なんか、最初に出くわした時のことが妙に気になった。
それこそあの時にでも、「あら、凍死はなんとか
なんというか…俺に
…まぁいい。戻ったら問い
想定外の事態にもスマートに対応を段取りつつ、俺がトイレを出ようとしたその時だった。
「おぇ…っぷ…ううぅ…だめ…死ぬぅ…死んだ…!」
隣の女子トイレから、ガラガラに枯れた女のうめき声が聞こえてきた。
「もー、あんな飲み方するからですよー…!はいタオル。」
「うぅ…面目ない…。」
ん?
今の声…。
俺がトイレの入り口で固まっていると、やがて隣の女子用出入口から、血の気の引いた真っ青な顔で、口元をタオルで抑えた黒い長髪の女性が、肩までの桃色がかった茶髪の若い女の子に半ば抱えられて出てきた。
「早く回復してくれないと、お昼までにはヒッキー帰っちゃい…ま…!!??」
目の前に居る俺に気づくと、
「…?、!ひ、
由比ヶ浜に抱えられていた平塚先生も、目を見開いて固まった。
いや、おい、ちょっと待て。
ど う な っ て ん の こ れ ????
このシーンを書きたくて、ソロキャンプの舞台をこのキャンプ場にしました。
大事なシーンなので、ひょっとしたら後日、ちょこちょこ修正するかもです。
今回調べてて、たまたま知ったんですが、「浅間神社」と名のつく神社は、富士山と強い縁がある神社なんですね。知らなかった…。