やはり俺のソロキャンプはまちがっている。   作:Grooki

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・千葉県の11月後半の日の出の時刻は、午前6時20分〜30分ころでした(国立天文台のデータより)ので、記述はそれを参考にしました。

・あ、「あらすじ」先頭に挿絵を挿入してみました。自作でつたないものですが、未経験の方でも、ソロキャンプをイメージしていただきやすくなるかなと…お目汚しご容赦ください。

・ぽんかん⑧神の絵柄にはやはりどうあがいても近づけねぇ…っ(血反吐)!


その44:ソロキャンプ#7

 ネットでちょくちょく「暖炉の中で火が燃えている映像を数十時間放送」とか言うのが話題になったりするけど、火は断然、見てるより触って(自分でいじって)る方が面白いと思う。

 

 燃え立つ炎だけじゃなく、静かに(ひそ)やかに(まき)の中に(こも)っている熾火(おきび)も、それはそれでキレイだし、火と秘密の時間を共有しているようで、楽しい。

 

 あと、煙の匂い。なんか、なんて言うか、生きてることを実感する匂いだ。

 

 うーん、なんかもうちょっとうまく言えないもんかな…。

 

 ていうか、キャンプしてる時は、自分の語彙(ごい)が極端に少なくなってるような気がする。

 

 アウトドア趣味の作家の書いた小説とか読めばまた違うのかもしれないが…誰がいいだろ…椎○誠?ヒジョーにキョーミが(わい)てきた。

 

 まぁしかし。

 

 ソロキャンプだし。誰かに何かを語るわけでもないし。極論、今は言葉はまったく要らない。

 

 焚き火をいじって、たまに星空を見上げるだけの時間の過ごし方。

 

 夜が更けてきて、見える星の数はどんどん多くなってきていた。

 

 宇宙の彼方(かなた)から送られてきたメッセージを元に造られた銀河間テレポート装置で、人類代表として送り出された女性科学者が、移動の途中にいくつもの銀河を見て、そのあまりの美しさに「ここに()るべきなのは科学者じゃない、詩人よ!」と涙を流しながら叫ぶ、という映画を、ずいぶん前に見たことがある。

 

 確かにそのとおりかも知れない。宇宙飛行士とキャンパーは、詩人であるべきだ。

 

 

 あいにく俺には詩人の才能はない。

 

 

 だから、すまないが、今見ているものの美しさを、うまく描写ができない。

 

 

 この星空は、そういうわけで、俺だけのものにさせてもらう。悪いね。

 

 

×××

 

 

 焚き火台の中にはタップリと白い灰が積もり、熾火も七味唐辛子の粒ほどの大きさに見えるばかりとなった。

 

 後は寝るだけだな。

 

 とはいえ、せっかく焚き火とエマブラ(エマージェンシーブランケット)で多少ぬくぬくしてたところを、いったん全部放棄して、冷え冷えとしている今の寝袋(シュラフ)にいきなり(もぐ)り込むのはちょっとためらう。

 

 何とかならんかな…なにかいい方法を考えなければ…。

 

 などと思う前に、俺はスマホを手にとって、ぺろぺろくぱぁと検索した。

 

 …今更思い至ったんだが、スマホって、ある意味究極のキャンプ道具だよな。ネットに(つな)がりさえすれば、自分のまだ知らない無数のキャンプ技術の情報にアクセスできる。

 

 現地でそういうことするのは邪道かなーとか最初は思ってたんだが冷静に考えてみれば俺ってどっちかというとそういう人だったので安心した。

 

 寝るときの暖のとり方としては、他にはカイロを使う、湯たんぽを使う、電源があるサイト(区画)では電気毛布など…等々あった。

 

 カイロは持ってきてないし、湯たんぽも…お湯は沸かせるにしても、入れる容器がなぁ…。

 

 水を入れてるペットボトルは、お湯入れたら熱で変形しそうだし… … …。

 

 そこまで考えて、ひらめいた。

 

 イクルーのソフトクーラーを引き寄せた。確か、まだ残しといたはずだ。

 

 ごそごそとクーラーの奥から取り出したのは、朝に買って電車で飲んだお茶が入ってたペットボトルだった。小さいサイズで、温かい飲み物対応の、結構カッチリしたやつ。なんとなく、洗って再利用できないかなと思い、取っておいたのだ。

 

 俺は再度、ガスストーブとクッカーでお湯を沸かし(食事後、クッカーはお湯を少し沸かしてすすいでおいた)、適度に熱くなったところで、そのペットボトルの中に注ぎ入れ、きっちりフタを締めた。

 

 焚き火が直に当たらなかった首筋とかにペットボトルをあててみる。

 

 ぐぁー…あったけえ…!!

 

 即席だが、これを湯たんぽとして使おう。寝袋の中で()れることも、多分ないだろう。

 

 なんとなく、最後にもう一度空を見上げた。宇宙の皆さん、おやすみなさい。

 

 隣のソロキャンパーたちも、そろそろ寝ようとしているようだった。おやすみなさい。

 

 テントに潜り込む前に、周りの道具類をこまごまと片付け、カーゴパンツに付いた砂を丹念にはたき落とし、焚き火台(元・ステンレス蒸し器)の羽の部分をぎゅっと(しぼ)って灰が外にこぼれ出ないようにした。

 

 LEDライトの(あか)りを頼りにテントに潜り込み、寝袋に入って、上からエマブラを軽く上掛(うわが)けた。明日の分の着替えをタオルでくるんで、枕にした。

 

 寝袋の中でもMA-1ブルゾンを着たまま。腹のあたりにペットボトルの湯たんぽを仕込んだ。

 

 最初は多少窮屈(きゅうくつ)で、中の新聞紙がガサガサと(わずら)わしく、冷たかったが、じわじわと体温と馴染(なじ)んできた。上からエマブラもイイ感じに熱を逃さないでくれた。

 

 とはいえ、「眠れないほどではない」という感じだ。ぬくぬく快適お布団気分、というわけにはいかない。敷いてる薄い銀マットの下は地面だし。

 

 しかしこの状態…客観的に見れば、まるで焼き芋かホイル焼きにでもなった感じがするな。

 

 などと思って、そっと苦笑した。なぜか某有名ハイテンション料理研究家が頭に浮かんだ。「今日は八幡(はちまん)のホイル包み焼きを作るわよー!!目は腐ってるけど新鮮だから大丈夫ー!!たぶん!!」とかやられそう。

 

 まぁ、ともあれ、なんとか眠れそうだ。…よかった。

 

 時刻を見てみた。Oh…「世界ふ■ぎ発見!」がやっと始まったばかり。

 

 いつもならまだまだ(よい)の口。日付が変わるまで夜ふかしするところだが…。

 

 今日はもうすることないし、なにより動きっぱなしで身体はしっかり疲れていた。

 

 このまま寝てしまおう。たっぷり眠れるなら、それもまた贅沢(ぜいたく)な時間の使い方だ。

 

 不思議と、外に居る時よりもテントに入ってからの方が、外の音がよく聞こえた。じっとしてるからかも知れない。

 

 間断(かんだん)なく、波の音が聞こえてくる。

 

 二人いたキャンパーのどちらかから、いびきの音がかすかに聞こえた。

 

 うっせぇな…。でも、人がいる気配があって、少しホッとする。まぁ、邪魔になるほどではない。

 

 

 

 

 寝袋の中が暖まってきてから、寝入るまでには、さほど時間はかからなかった。

 

 

 

 

×××

 

 

 

 

 二、三度、途中で起きたような気もするが、よく覚えていない。

 

 何か夢を見ていたような気もするが、それもよく覚えていない。

 

 

 

 

×××

 

 

 

 

 身震いと共に、一度はっきり目を覚ました。

 

 しばしばする目でスマホの時刻表示を見る。午前3時。うへぇ。

 

 睡眠リズムがいつもとズレてるから、変な時間に起きちまったんだな。

 

 腹に入れていたペットボトルはわずかに暖かかったが、もう湯たんぽとしては働いていなかったので、もぞもぞと寝袋の外へ押し出した。水漏れはしていなかった。よしよし。

 

 さっむ…寝袋からちょっと手を出しただけで、寒さを感じた。

 

 無理無理。今起きだすとか無理。もうちょっと寝てよう…いやちょっと待て。

 

 (うわぁやべぇ!寝過ごした!遅刻だ───!!!あ、あれ…!?そ、そうか、今日は休みだった!!やった───まだ寝てていいんだ!!二度寝していいんだ───やった───!!!)

 

 よし。二度寝がより幸せになる思考の儀式、終了。

 

 これ、たまに三連休で月曜が休みの時とかにやる。超幸せになるのでオススメ。あえて目覚ましを平日通りにセットするのがポイントだ。

 

 

 はい。おやすみ。

 

 

 

 

×××

 

 

 目をうっすら開けると、外がほんのりと明るくなっている気配を感じた。テントの中全体が見える。

 

 喉がカラカラだった。身体もちょっとこわばっている。トイレにも行きたい。

 

 スマホの時刻表示は、午前7時少し前だった。

 

 途中で何回か目を覚ましたっぽかったが、結局9〜10時間くらい寝てたのか…。

 

 身体もこわばるわけだ。海岸の草地とはいえ、地面だし。

 

 日の出の直後くらいだろう。めっちゃ寒い。しかしこれ以上、この体勢で寝てるのも辛い。

 

 意を決して、寝袋から出た。

 

 うっ、上に掛けてたエマブラの内側がなんかびっしょりしてる…!

 

 ひょっとして結露(けつろ)か…?寝袋も表面がちょっと濡れてる…うへぇ…。

 

 これは次回の課題だな…。

 

 トイレまで歩いて往復すれば頭も()えてくるだろう。んで、すぐにまた焚き火しよう。集めた薪はまだ残ってる。

 

 テントから()い出て、ぐぐっと伸びをした。

 

 外はまだ夜の余韻(よいん)を引きずっていたが、それでも少しずつ明るくなってきていた。

 

 今朝も、雲ひとつない快晴だった。テントの表面は、かろうじて凍ってはいないものの、放射冷却(ほうしゃれいきゃく)のせいか、なんとなくパリパリしていた。

 

 息が白い。

 

 … … 一泊、できたな…。

 

 それは意外と、大きな感動ではなかった。もちろん願い(かな)って嬉しくないわけじゃない。

 

 しかしなんというか、うん、こんなもんか、という感じだった。こんなもんだったよ大岡。あと、寝起きでテンション低かったし。

 

 さっむい…。

 

 早いところトイレ行って、焚き火に当たろう。寝袋の中の新聞紙も燃やしちまおう。

 

 ぼーっとしたままの頭で、トイレに向かって歩き出し、隣のスクリーンタープの横を通り過ぎた。

 

 

 タープに隠れて見えなかったが、少し離れた浜辺に人が立っていて、海を眺めていた。

 

 

 歩きながらそれを見ていて…俺は立ち止まった。

 

 

 

 

 数回、波の音が聞こえた。

 

 

 

 

 向こうもこちらに気付いて、ゆっくりと振り返った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 雪ノ下雪乃(ゆきのしたゆきの)はそのまま、驚いたような顔で俺を見つめていた。

 


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