父親が帰ってすぐ、日没を迎えた。
…寒っ!
加速度的に気温が下がっていく。先に焚き火を始めといて正解だった。そばに
テントを張ってる草地の中にポツポツと立っている、細い電柱の外灯が
しかし、キャンプ場内の一部を、そっと照らすだけの控えめな光だった。とりあえずトイレに行く時の目印にはなるくらい。
海岸沿いの民家とキャンプ場とは、畑や
ただ、周りに何組かのキャンパーがいて、それぞれ思い思いに過ごしてるのが見えるので、あまり寂しい感じはなかった。
さて、まだ午後5時前…。
夕飯を作り始めるにはまだ早いかな…。
いつもの俺の家なら「人○の楽園」(18:30〜)とか観ながら夕飯だからな。
あの番組、両親が好きなのだ。毎回、心からうらやましそうに
ホント疲れてるんだな…まぁ、俺もあの番組好きだけど。願わくば社会人をあの状態からスタートさせたい。それでも苦労はあるんだろうけどな。好きなことを目一杯やってる、って感じがすごくいいなぁ、と思う。
というわけで、もう少しぼーっとして時間をつぶした。
…なんか、ほとんどの時間をぼーっとして過ごしてるな。
いやひょっとしたら、ぼーっとすることこそがソロキャンプの
…醍醐味の
なんかこう、言葉の意味的には、ものの奥深くにひそんでいて、注意深く確かめるとわかってくるいちばん大事な要素、みたいなイメージがある。そう考えると、現代人のイメージ的にはバターが近いのかもしれないな…バターがたっぷり使われたパンとか、バターライスで食うカレーとか、バターで調理したスパゲティナポリタンとかの旨さは抜群だと常々思う。あとバターで焼いたハンバーグもな。
そういやバターって値上がりしたんだっけ。小町がブツブツ言ってた。醍醐味が得られにくい世の中。やだなんかしょっぺぇ。しょっぺぇよ…!そんな人生を発酵させたら、醍醐どころか醤油になっちゃうよ…!どっちも漢字で書ける自信ないよ…!!
などと、くだらないことなど考えつつ。
海の向こうには、かすかに対岸の明かりが水平線に並んで見えた。あの辺は確か…
…横須賀といえばあれだ。黒船が来航したのが横須賀の
つまり、今俺が見ているこの海を、幕末の頃、ペリー率いる4隻の黒船が、煙を上げながらゆうゆうとやって来たということだ。
もっともここからじゃ、米粒より小さくしか見えなかったかも知れないが。
『
だったかな。当時
甘いな、江戸庶民…。俺は寝る前でもMAXコーヒー飲んでるぜ。むしろ飲まないと眠れないまである。コーヒー仕立ての練乳(順番が大事)とはいえ、一応カフェイン入ってるのにな。まぁMAXコーヒーの場合は四杯も飲んだらたぶん糖尿病になるので、寝る前は水か
… … …
『…
やっべえ、超なつかしいネタを突然思い出して
急に観たくなって、スマホで検索してその動画を観ながら一人で笑った。
×××
くっだらねぇ空想とか思い出しで適当に時間をつぶしていたら、空はすっかり夜の雰囲気になった。
そろそろいいだろう。
クッカーの小さい方で米を炊いて、大きい方にはスープジャーから取り出したキムチ肉と水、塩、ニンニク、味噌を適当にぶち込んで煮込んだ。
一人分ならあっという間にできる。
クッカーのフタを開け、立ち
仕上げにごま油をひとたらし。一気にゴマの香りが立ってきて、たまらん。
人生初、ソロキャンプの夕飯だ。忘れずにスマホのカメラに収めてから、食い始めた。
レンゲで汁をすすりながら、具材を米飯とともにかきこむ。
うんめぇ…!あったけぇ…!!
もうちょい辛味があっても良かったかな。寒いし。次はコチュジャンでも足すようにするか。
もっとも、次の泊まりソロキャンプはきっと、早くても受験が全部終わってからになるだろうから…1年以上は先のことか。
…そう考えると、とても貴重な夕飯だな、これ。
夜の水平線に広がるかすかな夜景をぼんやりと見ながら、ひと口ひと口を
うまい。
でも、次は、必ずコチュジャンを入れよう。
固く心に
×××
しかし…。
飯を食ってる時はまだ良かったが、日没後からの冷え込みはどんどんひどくなっていった。
抱え込むようにして焚き火にあたっているのだが、小さな火だから身体全部を暖めるという感じではない。
昼間はあんなに晴れて暖かかったのに…!
ちょっと、どういうことなの気象庁さん!なんとかしてよ!!
などと、危ないクレーマー風にひとりでつぶやきながら身を縮めて震えていた。
近くの二人のキャンパーは、俺のよりもデカい、本物の焚き火台を使っていた。酒も飲んでるみたいで、そのせいか余り寒そうにはしていなかった。
クソッ、大人め…!
デカい
え、テントの中でテント張ってその中に入るの…?なんで?
あ、白テントの男の人が使ってる焚き火台、モノリス製の「ファイヤーフレーム」だ…。
やっぱかっこいいなぁ。絶対買ってやる…来年までに必ず買ってやる…!!固く心に誓った。
俺は夕飯を平らげてすぐ、持ってきたマッ缶のプルトップを開け、横の
こいつをちびちび飲みながら、身体を暖く保つしかない。
気づくと、小さなLEDライトの光に照らされる自分の息が白い。
うっそー…!そんなに寒くなってんの?
夜空を見上げた。
今日明日、続くらしい快晴。まだ早い時間帯だが、頭上には結構な数の星々が見えていた。地元で見るよりもはるかに多い。
空気がキレイだからか、街の
雪や雨が降る気配は全然ないのに、なんでこんなに冷えるんだ?
何気に、スマホで「晴れた夜 寒い」で検索してみたら、原因はすぐに分かった。
「
…俺がちょっと調べてなんとなく分かった範囲で説明すると、こうだ。
細かい物理の理論とかはこの際、抜きだ。
この世のすべての、熱を持つ物体は、たえずその熱を外に向かって発している。その結果、その物体の温度は下がる。
裸で外に立ってると身体が冷えるようなもんだ。
地球のような惑星も例外ではない。たえず宇宙に向かって熱を発している。しかし昼間は、太陽光線で暖められる度合いのほうが大きいから、暖かく感じる。
裸で外に立っていても、ハロゲンヒーターで照らされるとその部分は暖かく感じるようなもんだ。
で、地表と宇宙の間に雲なんかがあると、地表から発せられる熱は宇宙へ放たれることなく、雲の下でとどまって、大気の温度を保つ。
一部、裸を隠す服を来てると、その部分は暖かく感じるようなもんだ。
ちなみに「裸」の部分で誰を想像するかは自由だ。
…つまり、雲がないとき、特に夜、地表の熱は宇宙へ向かって放出されっぱなし、どんどん温度が下がっていく、ということだ。
そういえば…冬の朝、野ざらしで駐車されてる車のフロントガラスはガチガチに凍っているのに、ちょっと屋根のあるガレージなんかに
あれは確か、晴れてる朝に見かけた。
あれが放射冷却の威力か…!
そうか、テントinテントにしてるあのおっさんも、放射冷却のことを分かってて、ああいうスタイルを取ってるんだ。なるほど…!
… …って。
感心してる場合じゃねぇよ。
ていうことは、このままじゃ、明日の明け方とか、めっちゃめちゃ寒くなってるんじゃないの…?
テントが凍るかどうかはともかく…俺、明日の朝、生きていられるのか…!?
下手すりゃ…眠ったまま凍死…。
『それでも寒かったら仕方ない。寝るな。』
父親の言葉を思い出した。
あのときは、何をむちゃくちゃな、と思ってたが…ガチだ。寝たら死ぬ…!
それを今、なんとなく
どうする…?
どうするよ…!?
ま… …
… … …
ママ────────ッ!!!!!!!(2回め)
ちなみに、千葉県南部(館山)地方の、2015年11月の天気の記録を「Yahoo!天気・災害」のサイトで確認したところ、土日で快晴の週は皆無でした。
このお話はパラレルワールドとしてお楽しみください。
ちなみにちなみに、同じ月の中で2日続けて晴れの日だった場合、二日目の最低気温は寒くても5℃前後だったので、まぁ、八幡の手持ちの寝袋なら、服を着こんでれば、なんとか夜はしのげる程度の気温ですかね(寝袋表示のリミット温度+5℃が実際のリミット温度として)。マネは決してオススメしません。冬用の寝袋を使うべきです。