やはり俺のソロキャンプはまちがっている。   作:Grooki

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その39:ソロキャンプ#2

 

 降り立った駅は、千葉県の南端にほど近い場所にある、小さな駅だった。

 

 駅周辺の道路を含め、割とキレイに整備されていたが、これぞ海沿いの田舎町、という感じのさびr…ひなb…いやいや、いい意味でほっこりした町並みが広がっていた(ほっこりって言葉、便利だな…京都弁じゃ意味違うらしいけど)。

 

 海が近いので、風の中に(しお)の香りが混じっている。けれど、同じ海沿いでも、俺が暮らす街に吹いている風の香りとは少し違った。

 

 遠くに、来たんだな…。

 

 いや実際の距離的には100キロも離れてないんだけどな。電車で2時間ちょいくらいのもんだ。

 

 家族で海外旅行に行ったこともあるし、夏には千葉村(群馬県)行ったし、これまで経験した旅に比べれば、決して大した距離ではない。

 

 だが、自分の意志で、自分ひとりで、こんな遠くへ行き先を決めて移動してきたのは生まれて初めてだった。

 

 今更ながら、そんな風に行動した自分を少し不思議に感じた。

 

 …しかしまぁ、感傷に(ひた)るのはキャンプ場に着いてからにしよう。

 

 俺は荷物を担ぎなおし、大きく深呼吸して、駅を出てすぐの通りを左へ歩き始めた。

 

 まずは、必要な手続きからだ。

 

 

×××

 

 

 「おお、君が比企谷(ひきがや)君か?親父さんから連絡受けとるよ。」

 

 …それは親戚というには、あまりにもそっくり過ぎた…。

 

 今回のソロキャンプの手続きというか、作戦の一部として、駅からほど近い駐在所へ挨拶(あいさつ)へ行った。

 

 出てきた駐在さんは、俺の知っている体育教師の厚木(あつぎ)よりもやや年齢が高い感じがするが、見間違うくらいそっくりだった。声まで似てる。多少、関東の水に薄まりつつある広島弁っぽいしゃべり方までも。

 

 初対面なのに…なんーか…気まずい…!(苦笑)

 

 一応、AO入試目指して大真面目にキャンプをやりに来たっていう設定である手前、なるべく声に力を込め、しっかりと挨拶した。

 

 「そ、総武高2年の比企谷です!お世話になりますっ!」

 

 言いながら、父親の書いたキャンプの承諾書、父親の免許証と俺の学生証のコピーを、駐在さんに提出した。

 

 駐在さんは目の前でそれらの書類に目を通し、うむ、とにこやかに(うなず)いた。

 

 「区長さんには私の方から連絡しとるけぇの。ルールとマナーはきちんと守ってな。

 

 …今どきなかなか、君みたいな気概(きがい)を持った奴は見んようになった。応援しとるけぇ、キャンプも受験も頑張りんさいよ。

 

 なにか困りごとがあったら、遠慮()う、駐在所(こっち)に連絡しんさい。」

 

 そう言って駐在さんは、電話番号の書かれたメモを渡してくれた。駐在所の番号だろう。

 

 大きな関門をクリアできた喜びと、遠い地で受けた親切な言葉が嬉しくて、素直に、深々とお辞儀した。

 

 無事に一泊できたら、またお礼に来よう。

 

 駐在所を出て、いったん駅前のロータリーまで戻ってきた。そこから海側へまっすぐ向かっている道をてくてく歩く。

 

 二百メートルほど行くと、国道とぶつかるT字路に着いた。すぐ右斜め前に、小さなスーパーがある。ここは下調べで確認済みだ。

 

 このスーパーで、ペットボトルの水を買い求めた。

 

 2リットルのペットボトルはいくつか種類があった。どれを買おうか…。

 

 いろはすかな〜…?

 

 クリスタルガイザーかな〜…?

 

 森の水だよりかな〜…?

 

 

 

 

 やっぱいろはすかな〜…?

 

 

 

 

 いややっぱ森の水だよりかな〜…??

 

 

 

 

 いやいややっぱりいろはs(以下略)

 

 

 

 

 考え込んだ末に森の水だよりにした。持った感じ、ペットボトルがしっかりしていたので。

 

 後で知ったが、いろはすもフタを開けてみれば途端にボトルがしっかり硬くなるし、コンパクトに潰しやすいのでゴミも少なくなる。俺にとってはいい選択だったかも知れない。

 

 

×××

 

 

 4リットルの水を入れて、急にずっしりしたイクルーのソフトクーラーを肩にかけ、スーパーから南へ、目的地まで1キロほどの道をひたすら歩いた。

 

 バスに乗ってもいいんだろうが、小銭でも節約したいし、初めての一人旅でテンションも高かった。1キロ位、景色を見ながら歩こう、と思ったのだ。

 

 バスも通る比較的大きな道だったが、民家と商店が入り混じって並んでいる、のんびりした雰囲気の道だった。

 

 ところどころで、海岸の方向を示す看板が出ていた。きっと夏とかは海水浴客で賑わうんだろうな。

 

 それにしても…水…重い…!現地調達で正解だったぜホント…。

 

 ときどきソフトクーラーの肩紐を、逆の方にかけ替えながら歩き続けた。

 

 やがて、橋の手前くらいで、港を示す標識が見えてきた。

 

 表示とプリントアウトしてきたグー○ルマップに従い、橋を渡り、川土手に沿って、細い道をひたすら河口の方へ進んだ。

 

 やがて、土手の先に海岸と水平線が見えて来ると同時に、海岸にぽつんぽつんと並んで建っている、公衆トイレと炊事場が目に入ってきた。

 

 土手から海岸へ降りていく階段を見つけ、とりあえずその階段を降りきった所で、荷物を下ろして腰掛け、息を整えた。

 

 

 …着いた…!

 

 

 枇杷(びわ)ヶ浜キャンプ場。

 

 海岸がそのまま、フリーのテントサイトになっている格安キャンプ場だ。

 

 ネットで探しまくった末に見つけた。電車と徒歩で行けて、格安で、景色が良さそうで受付とかの煩雑(はんざつ)な手続きも必要なさそうな、まさに理想のキャンプ場だった。

 

 海岸なので、風の強さや寒さを心配していたが、風は穏やかで、天気もドピーカンで日が高いせいか、寒さはさほど感じなかった。

 

 海岸と河口の両方に面したあたりが草地になっていたので、荷物を抱え直し、そこへ移動した。

 

 草地の上に荷物を置き、バックパックからテントを引っ張りだした。

 

 さて。

 

 有名なあのセリフを口にする時が来た。

 

 

 

 

 「ここをキャンプ地とする!」

 


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