さて、そのほか気になった点もある。
「この袋、今は一カ所に固めてあるけど、できれば自分たちの部屋に一個ずつ置いておいた方がいいんじゃないか?真夜中にドーンと地震が来たとき、各自すぐに持ち出せる方がいいよな…?」
「あー、それはそうだねぇ。」
小町と相談の結果、持出袋はそれぞれひとつずつ、各自の部屋に置いておくことにした。
LEDライトだけは袋から取り出して、ベッド脇や机の上に置いていつでも使えるようにした。ちなみに電池は単3を2本使う。単3電池、少し買い足さなきゃな…
非常食だが、アルファ米のパックと保存水は5年位もつようなので、そのまま袋の中に備え、缶詰やレトルトパックは、玄関そばにストックするスペースを作ることにした。
食料品は台所でストックするのが本来だろうが、一般に台所は家の奥まったところにある。避難するときには時間的、精神的な余裕なんてないはずだ。家を出るときに何個か拾いだして袋に詰めたり、あとあと家に戻って補充したりすることを考えると、保存食は玄関に近いところに置いていたほうが便利だし、安全だと踏んだ。
それから、持出袋に各自の名前を書いた。こうすれば被災した時、避難所でも無くさないし、家の中を探して特定の持出袋がなければ、そいつは家から避難したと推察できる。
そして、自分の名前を書くことで、中身について自分で責任持って管理する意識を持てる。
また、常備薬や生理用品、化粧品など、各自必要な持ち物は微妙に違うはずなので、銀袋の中身を自分なりにカスタマイズしやすい。
現に、「比企谷八幡」と油性マーカーで書いたその銀袋が、なんだか急に特別な装備に思えてきた。
「装備」…なかなかグッと来る響きだ。心の古傷が甘く
とりあえず、我が家の備えをひと通り確認できて、俺も小町も少し安心できた。
ま、これだけで足りるのかどうかは、実際よくわかんないんだけどな…まだ。
実際使ってみないと、これらの効用がどれほどのものか想像できない。
アルファ米とか…。
… … …
袋の中身を眺めつつ、ちょっと思いついた。
「…小町、ちょっと食ってみるか?アルファ米。」
小町が顔を上げた。
「えー、なんかもったいない気もするなぁ…でも、ちょっと興味あるかも…!」
「いざ食うときに
俺は自分の持出袋から、アルファ米を2つ取り出した。各自1個ずつストックを減らすより、買い足しが楽な気がしたので。
さっそく、小町がパックの説明書きを見ながら用意し始めた。
アルファ米は、レトルトパックに1食分ずつ入っていた。今回試すのは「わかめご飯」「五目飯」の2種類だ。
上部をスリット部分から破り取り、その下のジップを開けると、半透明でカリカリサラサラになった米粒が、同じくフリーズドライされた具、プラスチックのスプーンとともに入っていた。中の線までお湯を注ぎ、スプーンでくるくるとかき混ぜてから、ジップを閉じて約15分、米が戻るのを待つ。
ちなみに時間はかかるが、水でもいけるらしい。
15分後、ジップを開けると、中の米も具も、まるで今まさに炊きあがったようにふっくらアツアツになっていた。
うおお…こんなふうになるのか…スゲえ!!
結構なボリュームがあった。たぶん1パックで1合くらいあるんじゃね?1食分には十分だ。
俺も小町も、アルファ米の出来上がりにテンションが上がってしまって、ついでに缶詰もいくつか開けて、かりそめの避難食パーティと
いや洒落こんだってのは不謹慎かもだが…ほら、子供の頃、台風の時とか、妙にワクワクしたこと、ない?そういうの、まだちょっと、ない?
恥ずかしながら、うちら兄妹、割と今でもそういう感じだ。
「おいひ…!五目ごはん超美味しい!アルファ米やばいすごい!!」
「これ…わかめご飯やばいぞ、塩っ気も旨味も絶妙…おかわりしたいくらいある…!!」
兄妹でやばい旨いやばいかゆ…うま…言いながらアルファ米に
いやこれホント旨い。カップラーメンと同じくらい大量常備しときたいわ…。
…だがこのとき、俺達はまだ知らなかった…。
アルファ米が1食分、300円〜400円することを…。