てんやわんやのデイキャンプから一夜明けて、月曜日の朝。
…体中が痛い。
ヒイヒイ言いながら学校の駐輪場にたどり着いて自転車を
そんなに激しい運動でもなかったはずだが…
まぁ日頃、自転車を
だが、気分の方は、わりといい。日帰りとはいえ、野外メシと焚き火で
嘘です。正直めっちゃダルいです。なんで学校とか来なきゃいけないの位まである。一刻も早く帰りたいです…否、キャンプ用品店行きたいです。狂おしいほどウズウズしてます。
いや、金は無いんだけどね。日帰りでも、一回
まず、ペグを抜き差しする道具だ。絶対要る。痛感。
それから、冷凍した肉とかをしっかり保冷したままバックパックに入れられるような容器があれば…百円ショップの保冷バッグは、やはり力不足だった。
できれば水も、当日店で買うのもいいが、買い物袋ぶら下げてキャンプ場に行くってのは、絵的にホームレス感が凄い気がして(自意識過剰か?)、スマートに持ち運べる水筒というか、いい容器がないか探してみたい。繰り返し使える容器なら、家から水をくんでいけるしな。
デイキャンプの時には、飲み水と合わせて2リットルくらいでちょうど良かったので、泊まりなら倍の4リットル位か。4リットル…バックパックに入るかな…?
ああ、そうだ…ナイフ、何とかしなきゃ。また百円ショップで買うか?それもなんだか…。
そんなこんなを考えてるうちに、あっという間に授業時間は過ぎ去っていった。
もうね。
完全に
×××
帰りのHRが終わった。思えばまともな授業の記憶がないな、いっつも。
各教科担当の先生の名前もよく覚えてないし(平塚先生と厚木以外)、なんなら担任の名前もちゃんと把握してないかも知れないまである。ヤバイな俺。
部活へ向かう奴、さっさと帰る奴、だらだらと残って友達とだべってる奴と、教室内が今日最後の
特に賑やかな教室後方。
帰り
「あー、月曜だりぃわー。
はい来ましたーF組きってのだべリスト戸部ー。
「新人大会まであとちょっとだからな。ダラダラしてたらスタメン外されるぞ?」
はい出ましたー総武高一のイケメン超人葉山ー。
「っべー、競争率高ぇんだよな今年…でも
「えっ隼人君スカウトが見に来てんの?すげえーうらやましー。」
「それな。」
はい居ましたー大岡と
「別に俺を見に来てるわけじゃないよ。新人大会ならどの会場にも一応、一人二人見に来てるんじゃないかな。」
「いやいやいや、ねーわー。スカウトとかフツーなら1部2部の奴らの方から見に行くっしょー。うちのランクで来てッてことは、悔しいけどガチで隼人君目当てだわー。」
「隼人すごーい!」
はいーあーしさん入りましたー。
「スカウトってつまり誘い受けだよね。ウチでサッカー、やらないか…?」
おーい追加のエビー。腐ってんぞー。
「え、誘いを受けるのは選手の方なんじゃん?」
団子…。
いかん。だんだん紹介が雑になってきてるな。疲れてるんだよ。あとなぜか腹減ってきた。
ちなみに1部とか2部ってのは千葉の高校サッカー県リーグのランクな。
さらにちなみに、千葉県は全国レベルで見ても高校サッカーが強いんだぜ!
知ってるか。そうか。
うちの高校のランク?…知らんッ。聞くな…ッ。
ただ、特に強豪ってわけではない我が校サッカー部の試合をスカウトマンが見に来るってことは、興味がある選手がいるってことなんだろう。おそらく戸部のいうとおり、葉山目当てだろうな。
「つうか今年の新人大会、隼人君の部長デビューっしょ!っべー、何か俺までアガるわー。」
戸部が葉山に笑顔を向けると、葉山は少し困ったように苦笑した。見る人が見れば、照れているようにも見える。
「あーそうなんだねー!試合って休日?応援とか行っちゃっていいのかな?」
「構わないけど、多分当日は関係者とかで会場ごちゃごちゃしてるし、終日屋外だから、最初から観てるってのはけっこうキツイかもな。」
「ひぇー、終日…結構ハードなんだねー…。」
葉山の
相変わらずだな、葉山。
今、葉山は、戸部の無意味なヨイショをやんわりと受け流し、由比ヶ浜の軽い思い付きのような応援申し出をやんわりと断ったのだ。
なんとなく、俺にはそう感じられた。
だがまぁ、葉山の気持ちも分かる気がした。親しい間柄とはいえ、あまり入り込んでくれるなという領分は、やはりある。
そういえば葉山が、戸部の話に付き合う以外で、サッカー部での具体的な出来事を話しているのは聞いたことがないような気がする。俺が知らないだけかも知れないが。
で、由比ヶ浜も空気読むのは
なんとなく、俺にはそう感じられた。
直接には感情を表さずに言葉の裏をくみとりながら互いに意思疎通してる。
なんか一流の武人同士の
「大人数がくんずほぐれつの屋外でやらないかの視線に絶えず
そして、海老名さんはやんわりどころじゃない自己解釈でっていうかホントこの女何考えてるんだ。どんな脳内フィルターで世界を感じているんだ。多分、
葉山はこれは完全に無視した。間髪入れずに三浦が海老名さんに擬態指示を出していた。
見事な調和だな。こいつらほんと。
…
「そいや新人大会の予選、移動は貸切バスっしょ?」
「今年度はボロい備品の買い替えに部費回したいからなー。節約して電車と市バスで移動しようかなって考えてる。予選2回のうち1回はうちのグラウンドだし、あとの1回も外房線ですぐだし。試合に負けたら帰りはランニングな。」
「ちょ、そりゃねーわー!っべー…!!せめて帰りは自腹くらいの方向でオナシャス…!!」
いやまず勝つ方向で考えろよ、と葉山は戸部にツッコミを入れる。グループ内にどっと笑いの花が咲いた。
だが俺は、笑える気分じゃなかった。
葉山たち、外房線使うのか…。やばいな。
×××
奉仕部は今日も依頼者なし。
それを幸いと、俺はスマホの皮がめくれるほどの勢いで(どんな例えだよ)ぺろぺろくぱくぱと検索に没頭していた。
本格的に寒くならないうちに、今年中にせめてあと一回、できれば泊まりでキャンプをやりたいと思っていた。
ちなみにデイキャンプから帰宅後、父親にその日の出来事を報告したら、笑われつつも、次は一泊キャンプの許可をもらえた。
で、次もフォレスターズ・ヴィレッジに行こうかと思っていたのだが…。
高校サッカー新人大会の日程を見てみると、俺が次のキャンプを考えていたまさにその日、葉山たち総武高サッカー部の試合が、外房線からすぐの高校のグラウンドで行われる予定になっていた。
ヘタすれば電車内や駅のホームで、葉山たちとかち合う可能性がある。
日程や時間帯をずらせば…とも考えたが、なかなか他の用事とのアレがアレで難しい。
まだだ…。まだ俺は、学校の連中にソロキャンプしてることを知られたくなかった。
なんやかんや言っても、やっと日帰りでちょこちょこやったレベルだ。
せめて一泊を経験しないと
逆に、一泊さえ一度でも経験しておけば、対外的にも趣味として認知されやすい。
やったことがあるか、ないか。それが重要だ。わかるだろ大岡。わかるよな大岡。
だから、急いで別のキャンプ場を探さければならない。
外房線以外の経路で行けて、一泊できて、金もかからなくて、できれば地元から遠く離れたキャンプ場を。
景色が良ければなお良い。さらにいうなら、受付とか予約とか時間制限とか、そういう
あれっ何気に超
…とはいえ、いわゆる「ゲリラキャンプ」…、キャンプ場以外の、林道脇や公園などでテント張るようなキャンプは無理だ。無理ですよ。ヤンキーとかお化けとかお
「不審者にはなりたくないな…。」
「…無理よ。不審者くん。」
何気なくつぶやいた俺の一言に、ごく短く
「俺のどこが不審者というんですか雪ノ下さん…文化祭でも体育祭でも身を粉にして学校のために尽力しつつ他人を立ててた素晴らしい引き立て役んでしょうが…。」
俺の返しを聞いて、クッキーを食べていた由比ヶ浜がゴフッとむせる。よしウケた。
「まぁ一つ一つ挙げていくと
読んでいた本から視線を俺に向け、言いかけた雪ノ下はそこで固まった。
「…?」
「その…、目…とか…。」
やっぱり目のことを言うか。くっそう毎度毎度…。
しかし、言ってる最中に、雪ノ下はすぐに本へと視線を戻した。かと思ったら、思い出したように紅茶のおかわりを
なに。直視できないほど腐ってるということか。そうか。遠くへ行きたい。まさに今その算段をしてるところだがな。
「そ、そういえばさ、ヒッキーなんか今日いつもよりすごくダルそうだったけど、体調悪いの?風邪?」
雪ノ下から紅茶を受け取った由比ヶ浜が、クッキーを
「ああ、いや、ちょっと筋肉痛でな…。もう大分よくなった。」
指摘されるとは思わなかったから、びっくりした。そんなに表情や動きには出してないつもりだったが…。もうちょっと気をつけないとな…。
「ふーん…なんかスポーツでもやったの?」
「いやまぁ、…日曜にちょっと、荷物運びとか、をな。」
まぁ、嘘はついてない。しかし今は、これ以上余計なことは言わない。
「へー…。」
由比ヶ浜もそれ以上は追求してこなかった。
直後に、ちょうど折よく、完全下校時間を知らせるチャイムが鳴った。
今回はなんか…大増量でした…疲れた…!
今月から来月にかけて、千葉県では高校サッカー新人大会(1年生と2年生のみの大会)の予選が順次開催されるようです。たまたまネット調べ物で知りました。
いままで全然出してなかった葉山たちを動かしてみたくて、ちょうど時機もいいので、この話題にしてみました。
とはいえ、原作の時系列とはなかなかうまく合致させられないんで、もう開き直って完全パラレルを貫いていきます…!!(汗