やはり俺のソロキャンプはまちがっている。   作:Grooki

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その28:デイキャンプ@フォレスターズヴィレッジ#3

 食事の用意は、今回は都合よくサイトに備え付けのテーブルと椅子があったので、そこで行った。

 

 あるものは、利用しなきゃね!

 

 家で()いだ米を1合、ビニール袋に入れておいたのを、クッカーの小鍋に移し替えて、水を注いでしばし吸水させる。

 

 前日までにビニール袋に取り分けて冷凍庫で凍らせておいた豚肉こま切れは、百円ショップの保冷バッグの中で既に解凍されていた。

 

 赤いドリップ()が出てるが…だ、大丈夫だよな…?

 

 涼しいし、変な匂いもしないし…いいよね?多分…。

 

 うーん、やはり保冷にはもう少し工夫が必要だな…冬場とかならまだいいだろうが、ちゃちな保冷バッグじゃ夜までもたない。次までの課題だな。

 

 玉ねぎは半玉だけラップで包んで持ってきた。果物ナイフでスライスする。

 

 なんならこれも、家で切って来ればいいんじゃない?とも思ったが…、気分だ気分。

 

 現地でちょっとくらいナイフ使いたいじゃない…!?

 

 あっというまに食材の仕込みは終わった。米の吸水はもうあと30分ほどかかる。

 

 ここからの段取りとしては、まず米を炊いて、()らしてる間にラーメンと豚肉炒めを作るつもりだ。蒸らしの時間なら、冷めてしまわない限り、多少長引いてもいいしな。

 

 …30分、暇ができた。

 

 ふと顔を上げて、周りを見渡した。既に他のキャンパーはみんな撤収していて、サイトに残ってるのは俺だけだった。

 

 …静かだ。

 

 実際には、鳥の声や虫の音は、時々そこかしこから聞こえてくる。だが人の声はしない。

 

 サイトの周りは背の高い木々が囲んでおり、頭上の空以外、開けたところはない。

 

 森の中にいると感じる。

 

 俺は自分で歩いて来たから分かってるけれど、そうでなければ、ここがニュータウンのどまんなかだとは信じられないかも知れない。

 

 利用客のマナーがいいのか、施設管理が行き届いてるのか、ゴミも落ちていない。

 

 いいところだな。

 

 大きく深呼吸する。空気がうまい気がする。なんとなく、土と木の匂いが混じっている。

 

 呼吸の(たび)に、その匂いが俺の肺から横隔膜(おうかくまく)、胃に染みこんでくる。

 

 気持ちいい。

 

 俺は今、この空気を独り占めしている。この静かなひとときを、完全に自分のものにできている。

 

 …いいな…。

 

 ソロキャンプ、いいな…!!

 

 心の中が静かな喜びで満ちていくのを感じる。

 

 これは孤独感だ。しかしこんなに晴れやかな孤独感は生まれて初めて味わった。

 

 あるいは人は、これを解放感というのかも知れない。そいつにとってはそうなのかも知れない。だが、俺がそのとき感じていたのは、まぎれもなく孤独感だった。

 

 なぜなら俺はそのとき、間違いなく、自分だけの世界に没入していたから。

 

 

×××

 

 

 とはいえ、何もしないで没入するのも10分が限界だ。いまどきの若者は我慢がきかなくてイカンね。

 

 この暇を利用して、俺は本日のメインイベントのための準備にとりかかった。

 

 サイト内をうろうろ歩きまわる。狙い目は木の生えてる下あたりだ。

 

 うほほ、あるある。

 

 木々が落とした小枝が、そこら辺に散らばっている。細いの太いの、長いの短いの、と、いい具合に乾燥してるのを適当に拾っていくと、たちまち両手で運ぶくらいに集まった。

 

 ちょっと集めすぎたかな…。今日は実験程度に、短時間で終わらせるつもりだしな…。

 

 まぁいい。残ったらそのへんの木陰に置いとこう。

 

 はい、もうお分かりですね。今回は焚き火をやるよ!!

 

 焚き火と言っても、キャンプファイヤーみたいな盛大なやつじゃないが。

 

 さすがに焚き火は、住宅地にある我が家で練習するわけにも行かず、といって近所に練習できる場所があるわけでもなく…ぶっつけ本番でやるしかなかった。

 

 とはいえ、生まれて初めてのセルフ焚き火だ…ちょっと怖い。

 

 周りは落ち葉も結構あるので、ヘタに地面近くでガンガン燃やしたらたちまち燃え移って火事になる。直火(じかび)(直接地面で焚き火)はもちろん禁止だ。

 

 ので今回は、テントのそばにある「かまど」を借りて、ほんのちょっと、持ってきた焚き火台に「火入れ式」をやるだけにする。

 

 … … え、焚き火台?

 

 買ったよこないだ。銀マットと一緒に。

 

 バックパックの一番奥から引っ張り出す。マイ焚き火台。

 

 正式名称「ステンレス製()し器」。

 

 円盤の周囲に何枚もの羽が少しずつ重なり合いながら連なり、羽を閉じれば半球系、開けば大きな盃のようになるアレだ。

 

 本来は名前のとおり、水を少し張った深い鍋に入れ込んで野菜などを蒸すのに使うのだが、焚き火台が欲しいなーとネットを(あさ)っていた時、コイツを焚き火台として使っている人のブログをいくつか見かけたのだ。

 

 それが妙に俺の心のツボをついてきた。これでいいじゃん!って思った。

 

 ブランド物の焚き火台とか大枚はたいて買う必要なんかない。何でもかんでもリッチな道具を揃えれば上級者ってわけじゃないんだぜ!という俺の生来の反骨精神に共鳴するものがあった。いいえウソです。いま自分にウソをつきました。金がないだけです。モノリスのファイヤーフレーム死ぬほど欲しいです。自分でも手に入れられそうだったから、容易(たやす)い方に飛びついただけです。

 

 …まぁでも、ブログで見た時、これはカッコイイぞ、と思ったのは本当だ。

 

 蒸し器、もとい、焚き火台のサイズに合うように、拾ってきた枝をペキポキ手折(たお)っていたら、30分過ぎていた。

 

 枝の太さによっていくつかのかたまりに分ける作業まで終えてから、米炊きにとりかかった。

 

 まぁ。

 

 調理の方は全部、ガスストーブでやるんだけどな。高かったクッカーが(すす)けるの、イヤだし。

 

 

×××

 

 

 米炊きもおかずの調理も滞りなく完了した。ガスストーブは偉大。

 

 並べた料理をスマホで撮影した。

 

 誰に見せるわけでもないけど、これは俺にとって記念すべき野外メシだ。

 

 撮影後はひたすら無心に食った。うんまい。

 

 今日はチキンラーメンを作った。なぜだか、外の空気とよく合う気がして。

 

 実際、すごく合った。

 

 さっさと食い終わり、炊事場の流し台を借りてクッカー類を軽くすすいだ。きちんと洗うのは家に帰ってからでいい。

 

 さてさて、さて。

 

 焚き火の時間だ。




 蒸し器で焚き火台、というアイディアは、けっこう広く使われているもののようで、私も一台買って使ってますが、これ最初に考えた人天才じゃね…!?と思うくらい、イイです。サイズ感が、日帰りキャンプで、飯盒(はんごう)でラーメン作るのに丁度いいんですよ…!

 焚き火は、キャンプにおける様々なアクティビティの中でも、色んな意味で特別なもののように思います。

 しかし大半のキャンプ場は、直火(地面で直接、焚き火をすること)が禁止されています。

 理由はさまざま挙げられますが(主なものとしては、熱が土中の微生物を殺す、炭や灰が土を汚す、など…私もそれを特に何も考えず鵜呑みにしていました)、やはり一番は、「マナー」の問題なのでしょう。

ご感想欄でご指摘をいただき、再度調べて、重要なことを再確認することが出来ました。

 私自身も、色んな所で泊まりや日帰りのキャンプをする度、ポツポツと直火の後、始末されていない炭や灰で汚れたサイト、を何度か目にしたことがありますが、あれ見ると、とても悲しくなりますね…。

 再確認の中で、あるサイトに書いてありました。

 「キャンプ場には痕跡を残さず、感謝のみ残す。」

 素晴らしい言葉だと思います。

 このSSでは、「キャンプのマナー」については、今後も細心の注意を払いながら書きたいと思っています。私自身の趣味がベースとなっているので、その部分は特に、できる限り誠実に在りたいと思うからです。

 とはいえ、まだまだ初心者なので、思い至らない点もあると思います。寄せていただいたご意見、ご感想は、適宜反映していきたいと思います。

 それはそれとして、焚き火はやはり外せないし、焚き火台もカッコイイものばかりですね…!!

 ご意見、ご感想を頂いた中では、さらに自作で「ネイチャーストーブ類」…木の葉や枝、薪などを燃料とするタイプのストーブ(火器)…を使ってらっしゃる方もおられるようで。

 ハーメルン…懐が深いぜ…!!!

 いい機会かもしれないので、焚き火と焚き火台、ネイチャーストーブ等については、近日中に「ちょっと比企ペディア」で、私なりに調べたり、ご助言、ご指摘いただいたことについて、まとめを書き残したいと思います(そしてちょくちょく書き直すかもです)。

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