やはり俺のソロキャンプはまちがっている。   作:Grooki

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その26:デイキャンプ@フォレスターズヴィレッジ#1

 総武本線で千葉駅まで行き、外房線に乗り換えた。

 

 これは何気に、初めての経験に近かった。

 

 俺にとって千葉駅はこれまで、電車移動では東の終着駅だった。

 

 そこから先へ行く用事は特になかったから。

 

 外房線下り方面は、少し南の蘇我(そが)駅でいったん京葉線と合流するが、すぐに離れ、千葉県の内陸部へと入っていった。千葉県のどまんなかを、東京湾沿岸から九十九里浜(太平洋)の方向へ横断する感じだ。

 

 蘇我駅を出て少しすると、森や田園風景が見えてくるようになった。

 

 約20分、車窓の外をぼんやり見ていると、田園風景が急に町並みに変わり、土気(とけ)駅に到着した。

 

 ここで下車。

 

 位置的には、ホントに千葉県のどまんなかだ。

 

 わかりやすく言えば、チーバくんの頸動脈(けいどうみゃく)の真上辺りだ。

 

 わかりにくいか。そうか。

 

 千葉県のどまんなかと言っても、ここも千葉市である。ぎりぎり東の果てくらい。

 

 この辺りは、千葉駅まで電車通勤圏内の、いわゆるニュータウンだ。

 

 土気駅南口からバスに乗り、5分ほどで降車。中学校の前くらいに降り立った。

 

 そこから、プリントアウトしておいたグー○ルのルート案内通りにぶらぶら歩くと、それまで新しめな住宅ばかりで更地(さらち)もまだ残っている平坦だった住宅街から、ゆるい下り坂に入り、その向こうに森が見えてきた。

 

 ずっと下って行くと、森の足元はコンクリートブロックを石垣のように積み上げた法面(のりめん)で固められていることに気づいた。その法面を辿(たど)って行くと、左に入り込む小道があり、曲がり角に、目指す場所を示す看板があった。

 

 「フォレスターズ・ヴィレッジ」。

 

 かつては千葉市が管理していたユースホステルだった。今は民間委託されている。

 

 サイトを見る限り、ユースホステルの精神は継承していることをうたっていた。

 

 キャンプ場だけでなく、宿泊施設・研修施設もあり、団体の合宿などにもよく使われているらしい。

 

 さて、さっさと受付を済ませるか。

 

 俺は歩みを止めず、角を左へ折れて進んだ。

 

 時刻、もうすぐ午前10時。

 

 日  曜  日  の  。

 

 

×××

 

 

 「土曜日が…全部埋まってる…だと…!?」

 

 パソコン画面の前で俺は固まっていた。

 

 「フォレスターズ・ヴィレッジ」は事前予約制だ。

 

 っていうか今頃になって知ったのだが、キャンプ場は基本、事前予約が必須らしい。

 

 予約は電話や書類申請などで行うのが一般的だが、フォレスターズ・ヴィレッジはネットからの予約が出来るようだったので、サイトから予約状況を見てみた。

 

 すると…キャンプ場はオートサイト(車を横付けでキャンプ用)もフリーサイト(車を使わないキャンプ用)も、向こう数週間、土曜日が全て埋まってしまっていたのだ。

 

 予想だにしていなかった驚きだった。…キャンプする人って、そんなに多いの…?それともここって、かなり有名で人気なの…?

 

 「ありゃー、残念だったな。バクチのつもりで当日行く前に電話確認して、空きが出てたら予約をねじ込むって手もあるが…。」

 

 横で画面を(のぞ)きこんでいた父親が溜め息をついた。

 

 でもねお父さん。僕、博才(ばくさい)ないんですよ。あなたの子どもですからね。

 

 「なんだよおぉぉ…!!」

 

 俺は父親よりもっと深い溜息をついた。出鼻をくじかれた思いだった。

 

 しかし父親は次の瞬間、そっと画面を指さして言った。

 

 「お、日曜日はどの週も空いてるな。土曜から宿泊したやつらが撤収(てっしゅう)するからだろうな。

 

 …丁度いいかも知れんぞ八幡(はちまん)。最初はデイキャンプでやってみろ」

 

 「…デイキャンプ?」

 

 「日帰りキャンプのことだ。とはいえ、テントと寝袋を持ってって、設営の練習をしてみるといい。あと昼飯作って食って、ちょっと昼寝なんかして、撤収して、帰ってくる。」

 

 … … …えー?

 

 「日帰りぃ…?それキャンプっていうのかよ…?半端だろそれ…。」

 

 俺が、ねーわ…って感じの渋い顔をすると、父親は、すうっとぬるま湯が冷めていく音がしてるような真剣な顔になり、俺から一歩離れて腕組みすると、上体をややひねり、なにやらポーズを決めて俺に言い放った。

 

 「八幡…貴様ひょっとして、最初の最初から自分がキャンプの全ての作業をそつなくこなせるだろうなんて思ってるんじゃないだろうな…?」

 

 「な 何ィ!?」

 

 心臓の後ろ側でぎくりと痛みを感じた。ような気がした。

 

 「甘い!!童貞が筆下ろしで相手を絶頂に導けると思い込んでるほどに甘い!!むしろ危険ですらある!!そんなわけあるはずないだろう!!あったとしたら百パーセント相手の演技だ!!」

 

 「うん!?何の話だったっけ親父!?」

 

 なんかの運営に通報するぞ!!しないよ!!

 

 「…アレは俺が大学に入りたての頃だった…。」

 

 「いやそっちの方の話は続けなくていい!!やめてくれ!!」

 

 「…とにかく、初めて行く場所でいきなり一泊キャンプってのは、さすがに親としてもやすやすと認めることはできん。友達の家に泊まるのとはまた違うからな。友達の家に泊まりに行ったことすらないお前ならなおさらだ。

 

 まずは日帰りでしっかり練習して、その結果を踏まえてから一泊に挑戦するように。」

 

 さすが父親…的確に俺の少年時代の暗い感情を呼び覚ましてくれるぜ…(吐血)。

 

 …しかし、正論だ。まったくもってまっとうな父親の指導だ。

 

 悔しいが、俺は所詮(しょせん)、未成年者。

 

 親の保護観察指導下にあることは認めなければならない。

 

 …あと…俺もその…、そう言われるとなんか段々不安になってきた…。

 

 「そ、そうだな、とりあえず日帰りから…やってみるかな…うん。」

 

 父親はそれを聞いて、うむ、と(うなず)いた。

 

 

×××

 

 

 まぁ、そんなわけで。

 

 今回俺は、日曜日の朝から夕方までのデイキャンプに挑戦することになった。

 

 親父の言い方は正論とはいえいろいろ(しゃく)だったのだが、なんか、カンパとして千円くれたからまぁ、いいか。

 

 なんで千円…?どうせなら英世より諭吉のほうが良かったけど…。

 

 受付のあるロッジは、赤い壁のかなり立派な建造物だった。この中に宿泊室、研修室、食堂にシャワールームに洗濯スペース、と、研修・合宿に必要な設備が整っているようだった。

 

 受付の人が言ってたが、昨年の春にリニューアルしたばかりらしい。内装はまだ真新しい印象を保っていた。

 

 規約の説明を受け、書類にいろいろ記入して、問題なく受付は済んだ。

 

 「えー、料金は…フリーサイトでデイキャンプは一律五百円ですが、フリーサイトはBBQスペースと共用なので、設備使用料が別途かかります。BBQスペース1DAY使用コース(10時〜16時)なら、お一人五百円、合計で千円ちょうどになります。」

 

 …あ、千円ってこれか…!

 

 親父の心意気にちょっとだけ感動しつつも、やっぱり諭吉が良かった。

 

 料金を支払い、キャンプ場に移動するため、俺はずっしりしたバックパックを背負い直した。




私も最初はデイキャンプでちょっと練習しました。おかげで本番の一泊キャンプでは、タープをすんなり一人で張れたので、良かったと思っています。

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