「おう、遅かったな
家に戻ると、俺の部屋で父親が待っていた。
床に転がって。
俺の寝袋にきっちり収まって。
青いたらこキューピーみたいな姿で、顔だけが父親。
真剣な表情をしていた。目は腐ってるけど。
「………」
「………」
目の前にある異様な光景に、ただいまを言うのも忘れて立ち尽くす。
その間、父親は俺の言葉を
目は腐ってるけど。
世界が終わったあとも、きっと彼はここでこうしてるんじゃないか、そう錯覚させるほどに以下略。
「…今日は帰りが早かったんだな…。」
ようやく絞り出せた声が
そこじゃないだろツッコミどころは、と我ながら思ったが、父親のその解せぬほどの圧倒的存在感は、真正面からのツッコミを許さない何かがあった。
「今日は奇跡的に出張から
「あっそう…。」
「八幡。」
「…なに。」
背筋になぜか緊張が走る。
父親はあくまで真剣な顔で俺を見つめていた。おどけたような雰囲気は一切ない。
目は、腐ってるけど。
「…助けてくれ。出ようと思ったらファスナーが
… … …
無視してそっと部屋を出ようとした俺に、落ち着いた大人な口調で父親が語りかけてきた。
「助けてくれないと、この寝袋の中で
「やめてくださいお願いします今助けるから。」
このクソ親父!!
必死で駆け寄って外からファスナーを開けてやる。
おい、小声でカウントダウンするのはやめろ親父!!
残りカウント3くらいでようやくファスナーを全開すると、父親は安堵の表情を浮かべ、よいせっと身をよじりながら寝袋から抜け出した。
「ふぅー助かった。すまんなお前に使われる前に一回くらい入ってみたくなってな…肌触りいいなこれ。」
「何してんだよ…。」
ホントだよ。
「お前はなかなか帰ってこないし小町にも見られて無表情で写真撮られるし、さんざんだったよ。」
誰の二の
親父も小町になにか
若干父親に同情していると、父親は俺の買い物袋に気付いてニヤリと笑った。
「お、銀マット買ったのか。着々と準備が進んでるな。」
「あ?あ、ああ。これでだいたい最低限は
寝袋をきちんと丸めて収納袋に入れながら答え、…俺の方からも聞き返した。
「…父さんって、昔やってたのか?こういうの。」
素朴な疑問だった。もらってからいろいろ調べてみたが、テントも寝袋もバックパックも、バカ高なものではないが、適当に選んで買ったようには思えなかったからだ。
父親は、うーん、と小さな溜め息をついた。
「大学時代にちょっとな。もっとも俺はキャンプがメインじゃなくて、バックパック背負ってユースホステルを巡る感じだな。旅行部だ。今もあるのかな…あのサークル部室…。」
なつかしそうに目を細めながら、父親は一人で回想し始めた。
「ユースホステル…って何?」
知らない単語だったので素で
「ユースホステルを知らないのか…!?そうか…最近の子どもは知らないのか…。」
父親によると、「ユースホステル」というのは、超簡単に言えば宿泊施設の一種で、日本全国、いや世界中にあり、旅行者を安い料金で泊めてくれるが、他の客との相部屋だったり(別料金で個室もある。男女は別部屋)、門限や朝夕の集いへの参加等の規則があったりする(今はゆるいところも多い)らしい。
なんか、ぼっちの俺には厳しそうなシステムだな…。
ただ逆に、そういうところでホステルの経営者や、たまたま相部屋同士になった見知らぬ人々との交流を楽しむことが、旅の
なんかあれだな。RPGの宿屋みたいだな。
「なにより、未成年者の単独での宿泊もできる。なんせユース(青春)のためのホステル(簡易宿)だからな。」
はぁん…そんなんあるのね…。父親から初めて、まともな知識を与えられた気がした。
ただまぁ…。俺がやりたいのはソロキャンプだし、今すぐは要らない知識だな…。
「そういえば…キャンプ場もやってるユースホステルがあるぞ。割と近くに。」
「なにそれどこ教えてお父さん。」
条件反射的に食いついた。そういう知識が欲しいんですよ僕は。
とりま(とりあえずまぁ)装備を、とばかり考えて、キャンプ場選びは後回しにしていたのだが、予想より早く寒くなってきたのでちょっと焦っていたのだ。
さすがに生まれて初めてのソロキャンプを真冬にする勇気はない。多分死ぬ。
ちょっとの情報でもほしい。人が勧めてくれる情報なら、ネットで
「えーっとな…パソコン立ち上げてみ?」
父親が俺の机につきながら、ノートパソコンを指差した。
いわれるままに起動し、グーグ○様でマップ検索をかけてみる。
「お、ここだ。今は名前が変わってるんだな…。昔より良くなってんじゃんか。」
地図に示された場所をまじまじと見つめる。そこから張られたリンクに飛び、サイトを隅々まで読み込んだ。
いよいよ、俺のソロキャンデビューだ…!!
…こういう言い方はなんだか陳腐だし、そもそも俺の柄じゃないのかも知れないが、
…ワクワクしてきた!
原作未登場なのをいいことに八幡の父親のキャラ妄想が止まりません。
私自身の「理想の父親像」は、「アメリカのファミリーコメディ番組でよくいるような、経済的には裕福だが突飛なことを言ったりしたりしてその度に観客席からドッと笑い声が聞こえるような、ちょっと変な主人公の父親」です。
私もそんな父親になりたいなぁと思っています。…だめかな…(汗)。
そういうことを考えながら書きました。