エントマは俺の嫁 ~異論は認めぬ~ 作:雄愚衛門
思ったより早く出来上がったので投稿しました。日刊再開!
反り投げさんがまたイラストを描いて下さいました!拙者感激でござる!
http://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=51844738
※ちょっと文章を修正しました!ごめんなさい!
第七階層守護者デミウルゴス。ナザリック随一の知略を誇る炎獄の造物主。これから、彼の胸中にはある感情が渦巻き続ける事となる。
それは狂喜。
ギルド長アインズを残し、何処かへ去っていった至高の41人。その内の一人、アバ・ドンの帰還。多くのものが騒然とする中、彼は鋼の精神をもって、主の指令を待った。現在、アインズとアバ・ドンは玉座の間で会談を行っているであろう。今の自分は、その場に乱入し兼ねないほどの高ぶりを感じていたからであった。
暫くして、玉座の間へと緊急招集が行われた。
デミウルゴスでなくとも、その理由は容易に理解出来た。
守護者各位とその精鋭達は玉座の間にて一堂に会する。
デミウルゴスは、玉座の間に座す偉大なる御二方を目にし、視界が滲んでいくのを感じた。しかし、感情に流され無様な姿を晒す訳にはいかない。
デミウルゴスは、再び偉大な方へ忠誠を捧げる機会が設けられ、心が数多の喜びと幾ばくかの緊張で占められた。
「面を上げよ」
臣下全てが寸分の狂い無く、同時に顔を上げる。訓練された訳ではない。シモベ達の忠誠心がなせる行動だ。
「よく、集まってくれた。今日、お前達を呼び出した理由は他でもない……」
暫し間を置き、アバ・ドンがアインズを見やり、静かに頷く。
「我が心腹の友であるアバ・ドンさんが帰還された」
シモベ達は身じろぎ一つせず、黙したままであったが、その場の空気が明らかに変わった。理由は言うまでも無い事であった。皆、胸に込み上げる熱い思いを抑えていたのだから。
「さて、彼が今まで何をしていたか、気になるであろう。アバ・ドンさん」
「勿論です。私の親友よ」
アバ・ドンが立ち上がり一歩前へと進み出る。思ったより軽やかな足音と共に、身体が数多の彩色を孕んだ輝きを放つ。
「皆さん、立ち上がって、楽な姿勢で」
御指示に従い、立ち上がる。
いささか整い過ぎていると言えるほど、均整の取れた動作。ほんの僅かな所作だけで、至高足る証左と成り得た。一部のシモベが息を呑んだのも無理は無いだろう。美しくも禍々しい容姿からは想像が付かない程、穏やかで丁寧な態度だった。
「遅ればせながら帰って参りました。至高の41人の末席を預からせて頂いておりました、アバ・ドンです。これから、私の身に何があったのか説明しようと思います」
アバ・ドンが語った内容はこうだ。
ある日、己の体内を凶暴な病魔が巣食った。それは、恐るべき力を有しており、魔法での治癒が不可能な程であった。それも、今までのような活動が困難になるレベルで。
そこで、アバ・ドンが下した結論は……。
ナザリックを去る。最後の最後まで悩んだ末、苦渋の決断だった。
至高の御方を蝕んだ汚れた寄生虫の所業に、配下達が深い憤りを感じたのは当然の結果だ。極小の不埒者は、ナザリック全ての殺意を一身に浴びる。
「至高の御方を侵した上に、アインズ様を悲しませる所業……絶対に……絶対に……!」
に……!」
アルベドに至っては声に出ている。
アバ・ドンは長い時をかけ、命からがら病を打ち破り、危機は脱した。そして、ナザリックへと帰還したのだ。だが、病魔との死闘で消耗した体力は想定以上だった為、第六階層で昏睡状態に陥っていたのだと言う。
「……」
デミウルゴスは己の涙腺がより緩んで行くのを感じた。主の苦悩を取り払う事が出来なかった無念からなのか、それとも、かの偉大な御方の慈悲を垣間見たからなのか。
おそらくは両方だろうと結論付け、至高の御方を前にして、込み上げる感情を抑える。横に控える、気の合わない同僚と同じ道を辿るのは癪だ。セバスが微かに震える気配を感じながら、そう考える。
しかし、それは仕方の無い事かもしれない。何故、アバ・ドンはナザリックを去る決意をしたのか?
デミウルゴスはすんなりと答えを導き出した。
至高の方々に比べ、遥かに脆弱な我々を巻き込まない為の措置。
アバ・ドンが苦戦を強いられる程の病ともなれば、部下達の中で抗える者は一人としていないだろう。至高の御方をも蝕んでしまう程の力を有するそれを、病魔と呼ぶのはいささか生温いように感じた。
言うなれば、それは神器級、超位魔法、或いは
至高の御方は命を賭し、たった一人立ち向かったのだ。ただ、アインズ・ウール・ゴウンを巻き込まない。それだけの為に。
何と言う覚悟だろうか。
デミウルゴスは、心中で不甲斐なさを恥じ、至高の御方の秘す偉業に心からの敬意を示した。
「私の独断で、皆さんには多大な迷惑をおかけしてしまいました。本当に、申し訳ありません」
深々と頭を下げ、謝罪の意を示す至高の御方を前に、玉座の間に集ったシモベ達がどよめき立つ。何を持って迷惑とするか。
本当にそうに思う輩がいるならば……。
(私が直々に殺しましょう、
「払拭の機会が頂けるのであれば、私はこれからの働きで、汚名を返上する事を約束しましょう」
あくまで汚名となされるのか。
「私が言うのはおこがましい事かもしれませんが、言わせて下さい。……アインズさんを、ナザリック地下大墳墓を守り続けて下さり、本当にありがとう。私が今ここにこうして居られるのは、アインズさんと、貴方達のおかげです」
…………ああ、これではセバスと同じじゃないか。
身を震わせるコキュートスと、嗚咽を隠そうともしないアウラとマーレを尻目に、頬を伝う涙を、懐から取り出したハンケチでそっと拭った。
「……私からは以上です」
そして、アバ・ドンが再び席に戻った。
「では、お前達に問う。アバ・ドンさんの復帰に異存は無いか? 私は、彼の復活を心から歓迎したい。異を唱える者がいるならば、理由を聞こう」
居る筈も無い。仮にそのような不届き者がナザリックに居たならば、堪え切れず、この場で殺してしまうだろう。
沈着冷静なデミウルゴスをもってしてこの結論なのだから、他の守護者達がどういう考えなのかは火を見るより明らかである。
シャルティアが視線だけで周囲を見渡す。その赤い瞳には、僅かな殺意が見え隠れしていた。案の定、デミウルゴスと同意見であった。
「……無いようだな」
「感謝します。それでは皆さん、これからよろしくお願いします」
「では各員、アバ・ドンさんに恥じぬよう、より一層の忠義に励め!」
玉座の間に、大音量の返事が響き渡った。
至高の御方に恥じない働きを誓った身。より、素晴らしい働きをお見せせねば。しかし、あのお二方に認められる程の功績を出すには一筋縄では行かない。
(ククク、これから忙しくなる。より安全かつ迅速に、
デミウルゴスは一層、身を引き締める。だが、その表情は深い笑みが浮かべられており、どこからどう見ても嬉しそうであった。
・
・
・
「はぁ……緊張した」
「お疲れです、アバさん」
「あれで大丈夫だったかなぁ?何か泣いてる人いっぱいいたけど、
まさか泣くほど俺の復帰が嫌なのか!?」
「いやいやいや、そんな事は無いでしょう!?」
「しかも、何か自分が新入社員なんだか上司なんだか立ち位置が曖昧になりました」
「ま、まぁそこは個性という事で」
「そっすね。にしても、ほんとに生きてるんだな……NPC達」
「ええ、仲間達の為にも、守り抜かなきゃ」
「専ら守られる事の方が多くなりそうですがね……。
あんなに気合入ってるなんて予想外だったわ」
「ちょっと誇らしいですよね」
「確かに。何にせよ、これで俺はまたAOGのギルメンです。
二度と去る事はありませんからね!モモンガさん!」
「はい……。あ、発動した」
「……? ああ。精神作用効果無効が発動する程何を考えたんすか?」
「そりゃ仲間が帰ってきたんですから。嬉しくって……また発動したか。
感情の起伏が大きすぎると、連続して発動する説は正しいみたいです」
「な、なんか照れるなぁ……。
あ、あれです。精神作用効果無効は便利だけど、たまに煩わしいや」
「一時的に無効化出来るアイテムならありますけど」
「任意でオンオフできるアイテムがあればなぁ」
「この世界のどこかに落ちてると嬉しいかも」
「未知だらけの異世界だからついつい期待しちゃいますね」
「一人の時はそんな事考える暇も無かったなぁ。
アバさんが来たおかげか、俺もワクワクしてます。
もしかしたら他の仲間達もいるかもしれないですし!」
「俺がこうやって来た以上、可能性はありますよ」
「ええ、すごく希望が沸いて来ました」
「よーし、忙しくなるぞー!お互い頑張りましょう。モモンガさん!」
「はい!アバさん!」
「ギルドメンバー達が帰ってこれるように……」
「アインズ・ウール・ゴウンの名をこの世界に知らしめる!」
「そしてゆくゆくはエントマちゃんと」
「あはは、そっちも大事ですね」
一方、こちらの決意は容姿とはかけ離れた和やかさであった。
むちむ……くがね先生の勘違いネタは本当にすごいと思う。
ちなみに、アバドンのスピーチは全て本音で形成されてます。