エントマは俺の嫁 ~異論は認めぬ~   作:雄愚衛門

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がっつり日常回前編('ω')
話しが進むのは次々回辺りからです。


日常

 ザイトルクワエを法国へ送り込み、モモンガさんも冒険者稼業を再開しに旅立った。俺は一先ず、普段通りの活動を再開するとしよう。後々の予定となっている俺VSナザリック配下ーズの鬼ごっこもどきは法国への嫌がらせが一段落してからだな。

 

 さて、今何をしているかと言うと、すやすや寝てます。もうほぼ起きるタイミングだが。

 

 場所はナザリック地下大墳墓、第九階層のロイヤルスイート、自分の部屋だ。

 

 華美な装飾を施されながらも、目に優しく、ふっかふかなベッドはどんな姿勢でも俺の体を優しく包み込んでくれる。昔のベッドとか、あれもう寝具じゃねぇ。ただのコンクリートだ。

 

 蟲に倣ってうつ伏せの体勢で目を開けたまま睡眠中だ。まぁ、瞼ないしな、俺。目を開けたままでも平気で眠れてしまう生態は、俺が蟲になったことを雄弁に語っているようで嬉しいものだ。

 

 俺は毎晩0時から2時の間熟睡している。そう、俺の睡眠はたった二時間で済んでしまうのだ。しかも寝覚めから頭はスッキリしているし、アバ・ドンボディすごすぎない?ベッドから出ることすら出来なくなってた頃が遥か昔のようだ。

 

 モモンガさんはアンデッドなのでデフォで食事も睡眠も不要になってしまった。が、俺の場合知っての通り、生物の範疇な為、食事も睡眠も必要になる。リング・オブ・サステナンスを装備すれば不要になるんだけど、それは止めて欲しいと懇願されてしまった。モモンガさんどころか配下全員からも。みんな心配してくれてるんやな……。

 

 とかなんとか考えてるうちに丁度起床時間だ。朝どころか、未だ草木も眠る丑三つ時だが爽やかな目覚め。自分のベッドを破いてしまわないよう、そっと起きる。この瞬間が俺の生き甲斐の一つになっている。何故ならば。

 

「ウゴお、おはようございます。エントマさん」

「おはようございますぅ。アバ・ドン様ぁ」

 

 不覚……。傾城傾国装備中なのを一瞬忘れて、変な声が出そうになった。俺の目覚めの最初の挨拶はエントマちゃんがしてくれるのだ。贅沢にも程がある……!

 

 ペコリと会釈をし、ジッと俺を見つめてくるエントマちゃん。そりゃもう、俺もパワー全開ってもんだ。しかも今はチャイナドレス。おみ足のセクシーさが尋常じゃない。つま先から太ももの御札までチラ見えとか大胆にも程がある。相変わらずエントマちゃんからすごく良い匂いするし。この瞬間だけで、俺の幸運一生分使ってる気がする。

 

「御身体はぁ、大丈夫でしょうかぁ?」

「はい、今日も元気いっぱいですよ」

「良かったですぅ!これからもぉ、ご自愛下さいぃ」

「無論です」

 

 ただ体調を確認しただけだと言うのに、嬉しそうなエントマちゃんが尊い……。

 

 朝方はエントマちゃんに限らず、俺の調子を確認する者が多い。ひ弱だったのはとうの昔の話なのだが、俺がギルドを抜けてた理由が理由だからみんな心配してくれるのだ。

 

 その一環で行われている、配下達による寝ずの番。勿論最初は遠慮しようとしていたのだが、病み上がりの俺が大事に至らないようにとか、至高の御方のシモベとしての使命だのと熱いやり取りの末、押し切られてしまった。押し切られてよかっ……えへん。

 

 余談だが、その際モモンガさんもベッドに入るとき、一般メイドのみんなにシフト制で寝ずの番をされる羽目になった。アインズ様当番と言うらしい。すまぬ……モモンガさん。

 

 俺が睡眠している間はエントマちゃんやハンゾー達や恐怖公、後たまにコキュートスが寝ずの番をしてくれている。最近、誰の根回しか知らないが、エントマちゃん率が高い気がする。

 

 当然、最初は緊張して眠れなかった。エントマちゃんの番の時は寝たふりしながら複眼で俺を見守る姿をガン見してました。ごめんなさい。

 

 あ、ちなみにほかのみんなもきちんと睡眠時間は確保してるのでそこはご安心召されよ。蟲系異形種は生物の枠に当てはまるからな。しかしまぁ、この習慣も繰り返すと慣れるもので、特にエントマちゃんに見守られてる時は、安らかに眠れる。甘えん坊か。

 

 この安らかさは、個人的に味わったことのない感覚のように思えた。モモンガさんに聞いてみたところ、子供の頃、母親と一緒に寝ていたら心が安らいだという話だ。そういうのに縁が無かったので軽く衝撃だった。孤児院近くのゴミ箱に捨てられてたのを先生に拾われた身だからなぁ、俺。

 

 毒だらけの空気をモロに吸ったせいで赤ん坊の俺は風前の灯火。ボロ雑巾もかくやという大惨事。オデノカラダハボドボドダ!(拾われた時から)

 

 おかげで日常生活すら一苦労だったし、仕事で体壊した挙句、不治の病に侵されて早死にした訳だな。まぁ、今までの全部がこっちの世界に来るための布石だったと思えば、俺の人生も捨てたもんじゃないな。ははは。

 

 纏めると、俺はエントマちゃんに母性を見出してしまったようだ。どこの赤い彗星だよ。

 

……エントマちゃんに甘やかされる俺とな。ヤバイ、確実にハマる。

 

 犯罪です。本当にありがとうございました。こんなこと絶対言えねぇ。墓場まで持ってこ。

 

「お風呂の準備はぁ、整っていますぅ」

「ありがとうございます」

 

 エントマちゃんが机に置いてあった洗面器を手に持った。中には大きめのタオルが綺麗に折りたたまれた状態で入っており、隙間に長方形のブラシが収納されている。俺用のお風呂セットだ。第九階層には私室だけでなく、スパリゾートナザリックと言う超豪華な風呂場もあるのでそちらに向かう。日課の朝風呂だ。

 

「アバ・ドン様。おはようございます」

「おはようございます。皆さん」

 

 私室を出ると、入り口前で待機していた俺直属の八肢刀の暗殺蟲(エイトエッジアサシン)、ハンゾー達が一斉に挨拶をしてきた。綺麗にハモリすぎて、一人が喋ってるようにしか聞こえない……。息ぴったりやな。

 

「アバ・ドン様が御休息を取られている間、大墳墓内に異常はありませんでした」

「分かりました。ありがとうございます、ドウジュンさん」

 

 今日はドウジュンがお話担当か。前はハンゾーが代表で話す感じだったのだが、最近は交代でドウジュンやサンダユウやナガトとも話をする機会が増えた。満遍なくコミュニケーションが取れるよう配慮してくれるのはありがたい。恐怖公の提案らしい。あの子にゃ頭が上がらんで……。

 

 私室からスパまで意外と距離がある。その道中では寝ずの番をしてた者や護衛のハンゾー達と雑談を交わす。今日はエントマちゃんとハンゾー達だ。エントマちゃんが俺の左隣。ドウジュンが右隣。ハンゾーとサンダユウとナガトは天井に張り付いている。いつも護衛ありがとう。

 

 雑談は、みんなのことを知る為だったり、普段何考えてるのかを知ってモモンガさんと情報共有するのが主な目的だった。モモンガさんの場合、支配者ロール優先しなきゃだから意外と機会に恵まれないんだよね……。最近は専ら普通に楽しみながらお喋りしてる。みんなと取り留めのない話するのって、結構楽しいんだよね。

 

「今日の朝ご飯は誰と食べることになるんでしょうね。楽しみです」

「えっとぉ、確かインクリメント達の筈ですぅ」

 

 エントマちゃんがこちらを見つめて返答する。身長差のせいで自動的にこちらを見上げる形になるのだが、それがまた可愛らしいのなんの……。

 

「おや、もしかして把握してるんですか?」

「いえぇ、昨日休憩してる時にぃ、次は私達がアバ・ドン様と食事する栄誉を賜ると話しててぇ、デクリメントもぉ、とっても嬉しそうに頷いてましたぁ」

「ふふ、まったく大袈裟ですね」

 

 それは果たして栄誉なのか……。

 

 俺は相変わらず、従業員用の食堂でみんなと飯を食っている。シフトによって俺と一緒にご飯を食べる相手が変わるのだが、いつの間にか、俺と一緒にご飯を食べる=栄誉になってたらしい。なんでやねん。

 

「大袈裟だなんてとんでもないぃ」

「おや、そうですか?」

「私もぉ、一緒だとぉ……。とってもぉ、嬉しいですぅ」

 

 エントマちゃん、照れているのか上目遣いにこちらを見てそう言った。

 

 ぐぉぉぉおおおおおおお!!!ぬがぁぁぁぁぁあああああああああああああ!!!

 

 ……ふぅ。

 

「それなら、今日の朝食も貴方にとって、喜ばしいものになりますね。私も嬉しいですよ」

 

 心臓が爆発しそうだが、平静を装って返答する。危なかった。精神安定化が1秒で5回ぐらい発動したかもしれん……。エントマちゃん、そういう破壊力のあるセリフで不意打ちするなんて悪い子ね!本気で死ぬかと思ったぞ!頬筋が無くて良かった。あったら溶解してたわ。

 

 すると、エントマちゃんがドウジュンに洗面器を渡した。どしたんだろ……あ、待って、エントマちゃん。両手で顔隠してプルプルしないで。萌え死ぬ、萌え死ぬから。落ち着け。あくまで忠誠心の賜物。忠誠心の賜物……。

 

 とか思ってたらドウジュンとハンゾー達がなんか透明化&気配遮断してる。何の気遣い。

 

 さて、スパの入り口に無事到着。エントマちゃんとの楽しいお喋りも一旦おしまいである……。だが、悲しむことはない。すぐにまたエントマちゃんと再会出来るのだから。

 

 実は当初、エントマちゃんに背中を流してもらうという超絶ウルトラ魅力的な案もあったのだが、男湯に女の子を入れるのは流石にあかんってことで断腸の思いで断りました……。本当に残念だ……。

 

「では、エントマさん。また後で」

「はぁ、はいぃ、いってらっしゃいませぇ」

 

 エントマちゃんがお辞儀をした後、両手を力一杯ぶんぶんする。何でそんなに可愛いんだ。

 

 そして、暫しの別れ。俺とドウジュン達は青い"男"の暖簾をくぐってスパへ入った。

 

 脱衣所で、ドウジュン達が首に巻いたスカーフを外してカゴに仕舞う。傍から見たら全く区別できないそうだが、結構個性あると思うんだけどなぁ……。

 

 それにしても脱ぐのはあっという間だ。みんな元からほぼ全裸だもんね!HAHAHA。

 

 余談だが、みんな全裸全裸とは言うが、蟲の()()()()()は基本収納式だ。だから大事なところは隠れてる。全裸は全裸でも安心して見られる全裸なのだ。安心して下さい、履いてませんよ。

 

 ……おや、風呂の入り口前に誰かの気配がする。今日は誰が同伴するのかなっと。

 

「おはようございます。お待ちしておりましたぞ。アバ・ドン様」

 

 待ってたのは恐怖公だった。風呂の為か、王冠とマントと王笏は着けてない。完全に30㎝大のゴキブリである。うーん、キャストオフでも男前。

 

「おはよう、恐怖公。今日も貴方が背中を流してくれるんですか?」

「はい、我輩めに、是非」

「張り切ってますねぇ。ではお願いします」

「はっ!」

 

 恐怖公は基本手空きな場合が多いので、こうして一緒に風呂に付いてくれることが多い。

 

 勿論、俺も背中流し当番なんて恐縮だと思ってた。それでも、みんな嬉しそうに勤めを果たそうとするもんだから、結局日課になってしまった。配下達は、俺やモモンガさんに尽くすことを本当に喜びに感じてるのだ。背中を流すことを任せるぐらいで喜んでくれるのなら、素直に受け入れよう。まぁ、これも良い交流の機会になるしね。

 

 さて、スパリゾートナザリックは男女合わせて九種類と十七浴槽ある。多すぎにも程がある。その中でも俺のお気に入りは、ジャングル風呂だ。ブループラネットさんの技術は当然ここにも活かされている。深い森林の奥に佇む秘湯のようで、森林浴と入浴を同時に楽しめる。湯を囲う岩場は自然且つ入浴の妨げにならない絶妙の設計だ。

 

 小山の湧き水を模したかけ湯で体を洗って、仲良く湯船に浸かる。湯の温かさが外骨格を通して筋肉に染み渡りますわぁ~……。ドウジュン達も湯船の端にもたれてノンビリしている。和む。

 

 だが、恐怖公は湯船近くで俺を見守っている。

 

「恐怖公、湯船に浸かれないのに、いつも付き合わせちゃって悪いですねぇ」

「とんでもない。アバ・ドン様の日々の生活を御手伝い出来ることは、我輩にとって代えがたき喜びでございますぞ」

「ははは、そこまで言いますか」

「言いますぞ!」

 

 恐怖公は湯船に浸かる必要がない。浸かれないとも言う。ゴキブリの体はフェノール、クレゾールを含む消毒性の分泌液が、常に放出されている。体がテカテカしているのはこれが理由だ。

 

 つまり、風呂に入らずとも汚れは落ちるし清潔そのもの。病原菌やら雑菌やらは生息地の問題だから、恐怖公は本当に何の害もないぞ!後、分泌液を洗い落とすと呼吸器が守れなくなって窒息死するから、湯に入るのは逆に良くない。

 

 そもそも、虫は変温動物なので、熱湯を浴びると体を構成するタンパク質がすぐに変質してしまい、即死するのだが、俺やナザリックの配下達は基本そのくらいで死にはしない。一安心。恐怖公も多分大丈夫なんだろうけど、まぁ必要ないしね。

 

「恐怖公はお風呂に入らなくたって清潔そのものなのに、女性陣に避けられちゃうのはどうしたものか……」

 

 お風呂でくつろぎながら俺は呟く。

 

「恐怖公殿は紳士そのもの。何故、忌避されてしまうのか、私たちには分かりませぬ」

 

 ドウジュンの言葉に他の三人も同意する。まぁこればっかりはなぁ……。

 

「彼の見た目は人間の区分で"不快害虫"と言って、見た目だけで忌避されてしまうのです」

「なんと……!それはひどい……!」

 

 俺の言葉に、みんなが身を震わせる。ドウジュン達からすれば理不尽な差別そのものに移るだろう。憤りを感じているのが手に取るように分かった。

 

「名称はともかく、この忌避感は生き物の本能に基づくもので、それが抗いがたい恐怖となってしまうのです。実際、生息地によって病気やバイ菌を持ってくるのは事実ですので、そこが更に拍車を掛けてます」

「我輩の名の所以ですな。同志を不快にさせてしまうのは心苦しいですが、その忌避感によって侵入者へと恐怖をもたらす。それが我輩の使命ですぞ」

「故に、恐怖公……」

 

サンダユウの呟きに恐怖公は頷いて答えた。

 

「恐怖公殿が忌避されてしまう問題、思いの外、根深かったのですね」

「アバ・ドン様、ありがとうございます。勉強させて頂きました」

「いえいえ」

 

 講義のつもりは全くなかったのだが、みんなの礼に素直に応える。

 

「さて、もう暫く浸かったら、恐怖公に仕事をお願いしましょうかね」

「はっ、お任せあれ!アバ・ドン様の御背中をより輝かしくしてみせましょうぞ」

 

 張り切る恐怖公を微笑ましく見守る。わが子可愛さというヤツなのだろうかこれは。

 

「……!」

 

 和んでいると、不意に壁の向こう側、女湯の方から小さな小さな足音が聞こえた。蟲の脚特有の、か細い音だ。蟲王の鋭き聴覚でないと聞き取れないそれは、俺に試練をもたらす音だ。

 

 ()()時が訪れた……。

 

「こらぁ、暑くても我慢するのぉ、動かないでぇ」

 

うひょー

 

 


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