エントマは俺の嫁 ~異論は認めぬ~   作:雄愚衛門

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お久しぶりです(´ω`)
エタりはせん!エタりはせんぞ!

今回はモモンガ様とアルベドがメイン。



四巻編
逆転の妙手?


 ナザリック地下大墳墓、アッシュールバニパル。第十階層に設けられた大図書館だ。入り口には玉座の間と同等の大きな扉が据え付けられており、それを守る形で強力な武人型ゴーレムが待機している。さる偉大な御方を通し、一仕事を終えたゴーレム達は今も変わらぬ姿のまま鎮座していた。

 

「……ふむ」

 

 アッシュールバニパルの一角、二階のバルコニー部分に設置された見事な意匠の木製机一つと向かい合うように設置された椅子が二つ。席に着いているのは、ナザリックの者ならば敬意を表して止まないアインズことモモンガ、アバ・ドンの二人だ。

 

「……」

 

 本のページを捲る音、モモンガの呟き、アバ・ドンが背中の翅の位置取りを微調整する音等が静かに響き、木製の棚の数々に吸い込まれるように消える。

 

一見、静かに大図書館を利用しているようにしか思えないが、内心、もとい個人<伝達>(メッセージ)は様々な会話が飛び交っていた。

 

(……アルベドさん、大丈夫ですかねぇ。モモンガさん)

(私室で休む許可を与えた上で、ハンゾー達が運んでったから、暫くは。……目を覚ましてからは俺がなんとかしますよ)

(お願いします)

 

本に目を通しながらの会話は、何となく密使みたいでワクワクした。

 

件のアルベドぶっ倒れ事件は一旦幕を下ろし、今は大図書館で話し合い中だ。円卓の間以外も使ってみたいと言う、アバ・ドンの要望によるものだ。だが、勿論の事だが気分転換だけが狙いではない。むしろ、もう一つの狙いが本命と言える。

 

今、二人はユグドラシルオンラインの攻略情報、スキル、魔法の情報を纏めた書物を閲覧している。十中八九ギルドメンバーの誰かが書いた物であろう、有名な情報や効果が簡潔かつ分かりやすく纏められている。

 

しかし、簡潔とは言えユグドラシルオンラインの魔法とスキルは膨大なものだ。従って、その書物は最早鈍器と言って差し支えない。装備したら鈍器判定を貰いかねないレベルだ。

 

(えーっと、『枯れた技術の水平展開』だっけ。良い教訓ですね)

(はい。昔の人が考えた哲学の一つらしいです。とは言うものの、モモンガさんは読まなくても平気な気もしますけど)

(そんな事ないですよ。俺も結構抜けてる所ありますし、こういう事も大事です)

 

今ある物やかつての技術を有効に活用する。

 

この発想はナザリックを存続させる上で、必須の考えと言える。何しろ『枯れた技術』に関しては、大量にあるからだ。二人で言うならば、使わなくなった低位階の魔法や、使う機会に恵まれなかったスキル、アイテム等がそうだろうか。

 

異世界に来て、ユグドラシルと異なる仕様や効果が多々ある中で、有効になりそうな何かが何処から出てくるかも分からない。今も二人が続けている、剣刀蟲による安全な特訓方法等が最たる例だろう。フレンドリィファイア、味方への攻撃判定が付いてしまった故の対策なのだが、この発想が良いヒントになるのではと、二人は考えた。

 

実際、今まで目を向けていなかった本を開いているのだから、既に実行していると言える。だが、残念ながら具体的な成果は今のところ出ていない。

 

尚、気分転換としての効果は抜群だ。何となく、昔やっていたゲームの攻略本をついつい読みふけってしまい、夢中になってしまうような感覚を、二人は感じていた。

 

(アインズ様とアバ・ドン様のご両名はあんなに熱心に読書を……。優れた才をお持ちなだけでなく、決して努力も怠らぬ姿勢。及ばなくとも、見習わなくては……!)

 

至高の二人の傍ら、司書Jと書かれた腕章を装備したエルダーリッチが図書の確認作業をしている。至高の二人をそれはもう丁重に出迎えてから、本来の作業に戻った。二人に感化されたせいか、かなり張り切り気味だ。この後の埃払いもいつも以上で徹底的にやる所存だ。表情は骸骨そのものなので分からないが。

 

ちなみに、本来ならば司書長であるスケルトンメイジのティトゥス·アンナエウス·セクンドゥスと、その部下であり、モモンガと同等の種族である死の支配者(オーバーロード)もいる筈なのだが、現在はスクロール制作の業務を別室で遂行中だ。作業に戻る前、図書館で働くアンデッド達は全員、モモンガとアバ・ドンから労いの言葉を受けた。その為、やる気を新たに、と言うより限界突破中である。

 

「アインズ様、御多忙のところ、失礼致します」

「……ん、構わん。何の用だ?」

 

読書している最中、現れたのは別の司書だ。司書Jと同じくエルダーリッチである彼(?)の腕章には司書Bと書かれていた。モモンガとアバ・ドンへ最敬礼をし、用件を話し始めた。

 

「はっ、報告致します。アルベド様の意識が回復したとの知らせが入りました。現在も、私室にて待機中との事です」

「そうか。すぐに行く」

 

どうやら、ハンゾー達から連絡が来たようだ。時は来たと言わんばかりに、モモンガは立ち上がる。

 

(アバさん、そういう訳なので、行ってきますね)

(いてらーです)

(有用なスキルの調査と、()()()()()()()()、お願いします)

(了解! 頑張ります!)

 

二人は軽い目配せをし、モモンガは指輪による転移でその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「さてと……」

 

アインズは今、第九階層にあるアルベドの自室前に来ている。階層守護者の住居は、皆自分の階層に設けられているのだが、アルベドは違う。

 

元々、創造主であるタブラ・スマラグディナは「設定は机上のもの」とする考えに基づき、アルベドの部屋を用意していなかった。その為、ギルドメンバーの予備部屋を宛てがい、彼女の住居は第九階層にあるのだ。

 

意を決し、扉をノックする。

 

アインズはナザリックの絶対的上位者として振る舞い、様々な物事に取り組んできた。だが、女性の部屋にいきなり押し掛ける等、今まで以上に未知の経験。ノックをする前にも、精神安定化が一度発動したぐらいだ。エントマと接している時のアバ・ドンはもっとひどい事になっているらしいが、良く耐えられる物だと逃避気味に考える。

 

「アルベド、私だ」

「……そ、その御声は!」

 

扉越しに狼狽気味の声が聞こえた。

 

「……あー、うん、アインズだ。入っても良いか?」

 

少し気恥ずかしそうにアインズが答える。

 

「しょ、少々! ほんの少しだけお待ち下さい!!」

 

そう言うや否や、部屋の方からドッスンバッタンとお祭り騒ぎな音が鳴り響く。アインズは、扉がギャグ漫画調の弓なりになっている錯覚を覚えた。

 

待っていると扉が開き、中からアルベドが現れた。

 

「お待たせ致しました。どうぞ、お入り下さいませ」

「……うむ」

 

普段の堂々とした佇まい、時折見せるハシャギっぷりはどこへやら、覇気が一切無い。だが、しおらしくなった姿もまた薄幸の美女と言わんばかりであり、彼女の美貌に一切の陰りは無かった。

 

(やばい、ちょっとグッときた)

 

アインズの中身である鈴木悟目線だと、アルベドの容姿はぶっちぎりのタイプであり、超弩級の美女だ。油断していると、失態を演じてしまいそうだと危機感を覚えた。

 

中に入った第一印象として、整然とされた小奇麗な部屋だと感じた。

 

ただ、奥に設置されたアンティーク調の戸棚が、パンパンに盛り上がっているのだが、多分あれは見なかったことにした方が良いのだろう。

 

部屋の隅には、モモンガの紋章旗と()()()()()()()()()()()()()()()()が、綺麗に立てられている。

 

これは、アインズの知る由も無い事だが、アルベドの心にはとある変化があった。

 

まず前提として、彼女の忠誠心の全てはモモンガに対するものだ。アインズ・ウール・ゴウンに対して見切りをつけていることはおろか、自らの創造主に対しての感情も、ギルドを見捨てた者であるとして、憎悪にまで達していた。アインズ・ウール・ゴウンの紋章旗を床に捨て、粗末な扱いすらする始末であった。

 

だが、それも過去の話となりつつある。

 

以前述べた通り、大復活を果たしたアバ・ドンの影響は、モモンガの心に明らかなプラス作用をもたらしていた。アンフィアテアトルムで見せた連携もさる事ながら、モモンガはアバ・ドンを頼りにしているし、アバ・ドン自身も、モモンガの事、ナザリックの事、配下達の事を一身に考えているのが、行動で遺憾無く伝わった。

 

その全ては、アルベドが考えを改めざるを得ないものだった。

 

今までのままでは、モモンガに不幸をもたらしてしまう。愛するあの御方が悲しむ姿を見たくない。そう気付いたアルベドは、今一度、モモンガが愛したアインズ・ウール・ゴウンを信じてみようと思ったのだ。その気持ちが、紋章旗への扱いに表れていた。

 

だが、当の本人はそれどころではないようだ。

 

「……今の私は、シャルティアに先を越されそうな行かず後家です。哀れな私をどうか見ないで下さい」

 

なりゆきで、アルベドのベッドへ二人座る状況となる。普段のアルベドなら鼻息を荒く狂喜乱舞するところなのだが、シャルティアへの褒美が相当に堪えたのかしおらしいままだ。そもそも、正妃か側室かで揉めていたのに、行かず後家とまで言わしめるとはいよいよもって重症である。

 

「……あー、その、アルベド。お前が手柄を立てた時にも同じような褒美を取らせるつもりだから、今は耐えてほしい」

「でしたら! 私も、私もアインズ様をあの御名で呼びたく思います!」

「すまないが、そうはいかない。時間が経てば変わってもくるだろうが、今はシャルティアの意思を尊重せねばならないのだ」

「そ、そんな……」

 

シャルティアに与えた"モモンガ呼び"の肝はアバ・ドンが言っていた通り、特別感にある。それを崩す事はあってはならない。アルベドには悪いが、彼女が立てた手柄を考えれば、それぐらいの配慮はしないと、罰が当たるだろう。

 

アルベドは失意のどん底だ。モモンガをモモンガと呼ぶ。これ以上に崇高な呼び名が果たしてあるだろうか。あの、憎たらしい虚乳ヴァンパイアは事もあろうに素晴らしきモモンガの名を独り占めにするのだ。この絶望的状況下を打破する褒美があるとは到底思えない。

 

「……ハッ!?」

 

だが、そう思っていた矢先、アルベドは天啓を得た。モモンガをモモンガと呼ばずとも、二人の仲を確固たるものにし、尚且つ、シャルティアへの牽制にも繋がる妙案を。

 

「どうだアルベド、何か良い物が思いついたのか?」

「はい!」

「良いだろう、言ってみろ」

 

もし、これが叶ったならば、そういった打算を抜きにしても、すごく幸せだ。そう思った瞬間、アルベドは既にアインズへ答えを述べてていた。

 

「で、でしたら……私は、いずれかの褒美とするならばアインズ様をこうお呼びしたいのです!……『あなた』と!」

「へ?」

 

アインズは思いがけない提案に、目が点になった気がした。気がしただけだ。

 

「……そ、それで良いのか?」

「はい!」

 

一点の迷いもない返事だ。

 

(あ、"あなた"か……。そう来るとはな……)

 

諸説あるが、"あなた"もしくは"おまえ"とは、古来の武家から伝わる夫婦が互いを呼ぶ時の名称である。民衆でも広まり、一般化したのは有名だ。まさか自分がそう呼ばれる日が来るとは思いもしていなかったが、尚更想定外だったのはその破壊力だろう。

 

"あなた"の一言は、鈴木悟が家庭の為に仕事をし、帰る家で暖かく出迎えるアルベドの姿を容易に想像出来てしまう。

 

(な、何か緊張してきたぞ)

 

「ふ、ふむ。良いだろう、アルベドが素晴らしい働きを見せた暁には、二人きりの時そう呼ぶ事を許可する」

「……!」

 

アルベドの表情がみるみるうちに明るくなっていく。曇天の薄暗さが、一気に快晴へと変貌したかのようだ。これはもうひと押しすれば、きっとやる気を持って仕事に掛かるだろうと確信したアインズは、更にもう一つ提案をした。

 

「そうだな、今この時だけ許そう。早速私をそう呼んでみるが良い」

「く、くふー! よよよ、よろしいのですか!?」

 

いつもの調子が戻ってきたようだ。アインズは手応えありと確信する。それだけでアルベドが復活するなら、安いものだ。後、ちょっと呼ばれてみたい気もするという気持ちが無くもない。

 

「褒美の先取り、と言うべきか。その、アルベドはいつも頑張っている事を私はよく知っている。だが、依怙贔屓になりかねないので、他者には内緒だぞ?」

「はい! はい! 勿論です!」

 

すっかり元気を取り戻したアルベドに、モモンガは安心した。

 

「で、では、あ……あなた?」

「うむ、なんだ?」

「……あなた!」

「なんだ、アルベド?」

 

(やばい、結構来るぞ、これ)

 

アルベドは勿論の事だが、モモンガも結構グラついていた。しかも、アルベドのベッドに隣同士座っている状態。どうしてもそういう意識をしてしまう。

 

「あ・な・た」

「ふふふ、そう何度と呼ばずとも、私はここにいるぞ?」

「……くふー!」

 

アルベドが頬を赤らめ体をくねらせている。表情は崩れきっているのだが、それでもなお崩れぬ美貌と放たれる色気はアインズにもかなり効いた。

 

仕切りにアインズを「あなた」と呼んでは、アルベドは身悶えする。

 

(ま、まぁこれくらいで喜んでくれるなら、良いかな?)

 

本人も大喜びのようだし、これで業務に支障を来さないぐらい精神が回復しただろう。この時限定なので、気が済むまで呼ばせてやろう。後は頃合いを見て去れば、ミッション達成だ。

 

そう思っていた矢先の事だった。

 

「……」

「……ん?」

 

内心込みだと、お互いに身悶えしていた中、不意にアルベドの動きが止まった。緩急の差も一切なく、くねらせていた体がピタリと止まったのだ。急な変化にアインズは戸惑った。

 

(な、なんだ? 何がどうなったんだ?)

 

心なしか、濃密な何かの気配を感じた。アインズの危機センサーが警鐘を鳴らしている。

 

「どうした?」

「…………あなた、少し失礼しますね」

「あ、アルベド?」

 

アルベドはスッっと立ち上がり、目にも留まらぬ早歩き一直線に扉の方へ向かった。

 

――それと同時に、ガチャリという音がした。

 

「あ、あのー、アルベド? どうして、鍵を閉めたのかな?」

「申し訳ありません。あなた……私はもう我慢が出来ないのです……。浅ましくも愚かな私をお許し下さい、あなた」

 

最初は、もっと"あなた"呼びを続けたいという欲求から来ているものと思ったのだが、それ以上のナニかである事に、アインズは気がついた。

 

じりじりと、アインズににじり寄る姿は、美女の皮を被った野獣の眼光と言わざるを得ない。仕切りにあなたと連呼するアルベドに対し、今の自分は転移してから最大級のピンチに陥ってる、間違いない。

 

(これ、やばい奴だ! これやばい奴だ!?)

 

アルベドの理性は既に滅殺された。シャルティアに手柄を取られた危機感、アインズの優しさ、私室に二人っきり、お互いが同じベッドに座り、トドメの「あなた」呼び。理性が破壊される要素は十二分にあったのだ。誰だってそうする、アバ・ドンだってそうする。

 

「ストーップ! アルベド! 落ち着くのだ!!」

「ごめんなさい! 落ち着けません! こんな素晴らしすぎるご褒美に私は限界です! さぁ! 愛し合いましょう! あなた!」

「ぬおぉぉぉ!!??」

 

ベッドに座っていたのが好機であるが如し、アルベドはアインズを取り押さえた。彼の状況は正しく、肉食獣の檻に入れられた小動物だろう。これぞ、肉食系女子である。

 

「あなたぁぁぁぁぁあ!!!!」

「は、離してぇぇぇええ!!??」

 

アルベドのパワーに為す術もないアインズ。

 

この後、かなり際どいところまでいった(のち)、指輪の転移で逃げれば良い事にようやく気付き、事なきを得た。

 

 

 




アルベド「でぃ、次元封鎖(ディメンジョナルロック)さえあれば……!」
デミえもん「……」

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