エントマは俺の嫁 ~異論は認めぬ~   作:雄愚衛門

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テイクアウト

(クレマンティーヌと呼ばれた女性はスティレットを使っている上に軽装。近接職の可能性が高いわね。後ろのカジッチャンとあの子を担いでいる男は装束と漂う死の気配からネクロマンサー、死霊使いの線が濃厚。捕らわれている彼を保護するには……)

 

暫定名カジッチャンがアンデッドにまつわる能力を有してる事を看破した。マイコ(ユリ)は種族がゾンビ派生のデュラハン。つまりアンデッドである為、アインズと同じく気配を感じ取る事が可能だった。

 

(近距離担当と遠距離担当ってところかしら。こちらを引っ掛けるブラフにも見えない。それなら……)

 

マイコ(ユリ)は目の前の敵を無力化するべく動き出した。万が一戦闘にかまけてポロリ(首)してしまうとアインズ達に多大な迷惑をかけるのは間違いない。早めに決着を付けたいと考える。

 

「名前も教えちゃったしねー、殺さなきゃ!」

 

クレマンティーヌが女冒険者を切りつけたスティレットでマイコ(ユリ)の右眼を穿つ。正面突破だろうが当てる自信はあった。何しろ目の前にいる夜会巻きの冒険者は無手。隠し武器を持っていたとしても、取り出すには手遅れだ。

 

ガキンと、金属同士を激突させたような澄んだ音が火花を散らし響き渡る。

 

「オリハルコン。しかもコーティングしただけの……武器の質には有り得ない程の頑丈さですね」

「お前……」

 

マイコ(ユリ)はクレマンティーヌの刺突を左手で掴み取っていた。スティレットをへし折るつもりで迎撃したのだが、ヒビ一つ入っていない。色々と興味深い相手であると彼女は思った。

 

一方のクレマンティーヌも、自分の攻撃を受け止めた相手に少なからず驚愕し、自身の中で警戒レベルを引き上げた。だが、余裕の笑みは崩れていない。

 

「受け止めるのはすごいけどさー」

 

そう言うと、クレマンティーヌはスティレットに仕込まれていた<魔法蓄積>(マジックアキュムレート)を発動した。

 

「こういう事も想定しなきゃねぇ!」

 

目が眩む程の眩い電流が迸り、マイコ(ユリ)の体に流れ込む。その眩しさと惨劇に、女冒険者は目を覆った。

 

「ああ!?」

 

武器内に蓄積されたライトニングによって、対象を行動不能にしようと目論んだ。電撃により苦しむ姿を想像し、その後動けなくなったこの女を痛めつける楽しみに笑みが深まる。

 

「いきなり突っ込んで来てくださいましたので助かりました。油断せずに、カジッチャンとやらも迎撃態勢を取っておけば良かったですのに」

「な、え?」

 

だが、蓄積されていた魔力の奔流が途絶えた時、想像とは全く異なった結果が現れる。彼女は先程と何ら変わることのない平静のまま、電流の高熱による焦げ痕すら無い。

 

「マジックアイテムを装備していたか!?」

 

カジットは目の前の思わぬ強敵に驚嘆する。こいつは相当な装備で身を固めている。銅プレートはそれを隠すカモフラージュの一環だったかと。

 

「ハッ!」

「ふぐぅ!?」

「魔法的効果を仕込まれていたようですが、第三位階では足りません」

 

 虚を突かれた形になったクレマンティーヌの腹部に突如、衝撃が走る。掴まれたスティレットを捨て、距離を取る刹那、マイコ(ユリ)の右手が深々とめり込んでいた。攻撃箇所からこみ上げてくる熱を吐き出すと、嘔吐物と血が入り混じった液体がドチャドチャ音を立てる。

 

それすらも避ける眼鏡女の、子供に勉学の手ほどきをする先生のような物言いが鼻につく。そんな思いを抱きながら、クレマンティーヌの意識は闇に沈んだ。

 

「ぬぅ!こうなれば……」

「ぐはぁ!?」

「なっ!?」

 

またも、先程と同じような光景が目の前に繰り広げられる。高速接近による奇襲だ。

 

少年を担いでいたローブの男は突然、宙に浮いた感覚を味わう。背後を取られ、背中を突き飛ばされたのだ。マイコ(ユリ)は投げ出されたンフィーレアが怪我しないよう、軽く受け止めて床に転がした。

 

「出でよ!」

 

自分の弟子が吹き飛ばされた事を認識しながら、痩躯の男は止むを得ず、切り札であるスケリトルドラゴンを召喚しようと試みる。あれ程の高速移動が出来る相手から逃げるのは困難。建物が崩れる事も承知の上で、手に持っていた黒く歪な石を掲げる。

 

「スケリトルド……」

「させません」

「あがぁ!?」

 

結果は先程と同様の光景が物語っていた。

 

 痩躯の男の腹にめり込むマイコ(ユリ)の拳が、肘の先まで隠れる程深々と突き刺さっていた。クレマンティーヌの遊びの一撃を受け止める程度の技量はあるにも拘らず、相手の不意打ちに何の対応も出来ず打ちのめされた。

 

「貴様、何も……の……」

 

正体こそ分からなかったが、相手の強さが自分達を遥かに凌駕している事を悟りながら、痩躯の男が静かに倒れ伏した。

 

「色々と面白い技をお持ちのようでしたが。クレマンティーヌにカジッチャン、もう少し鍛え直した方が良いかと思われます」

 

マイコ(ユリ)は眼鏡のフレーム部分に軽く触れながら、相手の力量を指摘した。几帳面な彼女は、軽く身体を動かした事により、装着中の眼鏡がズレていないか確認したのだ。

 

「た、助かったの……?」

「おお……」

 

壁際に避難していた女冒険者とリイジーは、目の前の女性が尋常じゃない力量の持ち主である事に軽く恐怖するが、自分達を助ける気で行動していたのはよく分かった為、安堵の気持ちが勝る。自分と大切な者の命を脅かす脅威が取り払われたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、エ・ランテルで一つの話題が持ちきりとなった。秘密結社ズーラーノーンの高弟を無傷で倒し、人質の救出に成功した銅プレート冒険者、マイコ。リイジーとンフィーレアから冒険者組合を通じ、噂話は瞬く間に広がった。

 

冒険者モモンの従者と思わしき彼女の力量も、タッチに劣らぬものと認識される事となる。タッチとマイコを通じて、モモンの名声もそれなりに上がったのであった。

 

アインズは、この大手柄に喜んだ。バレアレの者に恩を売ることが出来た上に、ンフィーレアを狙った刺客は異世界基準ではかなりの強者だったらしく、冒険者組合では特例でランク上げを検討していると聞く。棚からぼた餅とはこの事だと小躍りした。

 

「では、ンフィーレアさん救出の報酬。確かに受け取りました」

「ンフィーを助けてくれて本当にありがとよ。お前さんがいなけりゃどうなってたことか……」

「ありがとうございました!」

 

現在、冒険者組合で事情説明が終了した当事者達とモモン一行は、薬屋に集まって報酬のやり取りをしていた。組合を通した仕事では無かったが、リイジーとンフィーレアはアインズ達に礼を渡す気満々である。

 

「あんたも人が良いって言うか……。変わった娘さんだよ」

「治療の為にも必要でしょう?ブリタさん、もう割らないように気をつけるんですよ」

「……貴方って本当に良い人なのね。私、マイコさんの親切は絶対忘れないから!」

 

ブリタと名乗った鉄プレートの女冒険者は、目元に涙を浮かべながら礼を述べている。マイコ(ユリ)は、ンフィーレア救出の際に貰った報酬の一部として、彼女にポーションを二つ程無償提供させる事にしたのだ。一つは足の治療用に、もう一つは割ってしまったポーションの替わりだ。

 

「あんな物、おまけみたいなもんさね。ポーション二つ程度で報酬を割安にする気はないよ。神の血を見せてくれた礼でもあるんじゃよ」

「ありがとうございます」

 

孫の命に比べりゃ格安だよと、リイジーはカラカラ笑う。

 

「ブリタさんは、療養の為にも暫く稼業をお休みする事をお勧めします」

「そうする。今はどうせ歩けないし……。あんなトラウマ抱えてちゃ眠れるかも怪しいわ……」

 

切られた足の腱はポーションのおかげで治る目処が付いた。だが、時間がかかるだろう。異世界の治癒薬は、効果が少しずつ現れる仕様らしく、アインズ達が所持する物とは異なるのだ。

 

「貴方のお仲間も相当強いんでしょう?どうせランクも抜かれると思うけど、困った事があったら言ってよ、絶対力になるからさ!」

「その時が来れば、お願いしますね」

 

ブリタはこの恩は絶対に返すと固く誓う。いつになるかは分からないが、復帰したら力を付けて、マイコ(ユリ)の強さに少しでも及ぼうと努力するつもりでいた。

 

「ところで、ンフィーレアさんを攫おうとした二人はどうなったのでしょう?」

「ああ、クレなんとかとカジッチャンとやらは今頃牢屋じゃないかねぇ」

「なるほど……」

 

二人は衛兵に引き渡され、装備を全て没収の上で、牢屋に囚えられている。

 

「マイコさん!これからも、僕達のお店をご利用下さい。優遇しますよ!」

「おう、何ならポーションを一生無料で提供しても良いぞ?」

「一生無料提供!?す、すごい……。流石マイコさん!」

「そこまでして頂くのは……」

 

マイコ(ユリ)は三人の述べるお礼を一心に聞いている。皆、心から感謝の気持ちを込めており、不要な殺生を未然に防ぐ事が出来た事実を、素直に喜んだ。

 

「――」

「……畏まりました」

 

その背後で、アインズはタッチ(セバス)に耳打ちをしていたが、誰も気付く事は無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あんのクソ女、次に会ったときは……」

「よせ、計画は変更だ。エ・ランテルにはあいつらがいるせいで迂闊に手が出せん。一度隠れ家に戻って態勢を立て直すのだ」

「分かってるっつーの!あー……くそがぁ!!」

 

苛立ちを隠せないでいるクレマンティーヌとカジットは、囚われた翌日には意識を取り戻し、既に脱走していた。英雄すらも逸脱した力量を持つクレマンティーヌを以てすれば、あの程度の牢屋等容易いものであった。牢を噛み切るという荒業を、彼女はやってのけてしまった。

 

「ちくしょぉ……。まずは装備か」

「うむ……」

 

身ぐるみを剥がされた二人は手持ちの装備が無い。お互い利用し合う関係の二人だが、この時ばかりは協力体制を取る事にした。今のままズーラーノーンの本部に帰還したとしても、制裁されてしまうのは目に見えている。暫くは潜伏し、牙を研ぎ直すしかない。二人はいずれこの借りは返すと、復讐を誓った。

 

「愚かな真似を……。貴方達も大人しく罪を償っていれば、あちらの世界で楽に逝けましたのに……」

「へっ?ぐぅ!?」

「ぐわぁ!?」

 

 突如、薬屋で味わった物と類似した衝撃を首後方延髄部分に受け、またも意識を刈り取られる。二人は、ぼやけていく視界の中で家令らしき老人の姿を見る。

 

「色々と知り得る事もあるでしょう。貴方達には、至高の御方々の下へ来て頂きましょう」

 

この日、ズーラーノーン高弟、クレマンティーヌとカジットは姿を消した。

 

 




次回から時間が戻ってアバドンサイド。やっとエントマちゃんが出せるで(´ω`)

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