エントマは俺の嫁 ~異論は認めぬ~   作:雄愚衛門

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御指摘のあった誤設定を修正、申し訳ありませんでした。


顔合わせ編
再会


 とりあえず、周囲を見てみないことにはなぁ。どうせ一度死んだ身だ。なるようになるさ。これが夢なのか死後の世界なのかすらも分からんのだ。

 

 ベッドから降り、全身を軽く動かしてみる。手足は勿論、副腕も背中の翅も思い通りに動かせる。調子に乗って、回し蹴りのポーズまで決めちゃった。体を動かす度、俺の輝けるボディが煌く。

 

 こう言うと途端にむさくるしくなるな……。

 

 まるで、初めからこの体こそが自分だと言わんばかりだ。あとなんか体の調子がすっげぇ良い。体が羽のように……いや、翅のように軽い。

 

 そうそう、俺の種族は蟲人の最上位、蟲 王(ヴァーミンロード)だ。うん、ぶっちゃけコキュートスとおもっくそ被ってる。まぁ自由度がウリのユグドラシルなら差別化も容易なので大した問題じゃないけどね。

 

 で、なんかエントマちゃんがぼーっとしてる。どしたんだろ? 心ここにあらずというか……。

 

「エントマさん、大丈夫ですか?」

「……っ! も、申し訳ありません! 至高の御方の前でとんだ失態を……」

 

体を一瞬震わせ、頭の触覚をピンと立て、我に返った。あ、触覚が通常より垂れ下がってる。深々と頭を垂れているので尚更だ。あらかわ。

 

 しかし、そんな姿を見せられちゃうとこっちが申し訳なくなってくる。確かにAOG(アインズ・ウール・ゴウン)のNPCはギルメンに仕える設定だった筈だけど、これ忠誠心高すぎやしません?

 

そういや、一人裏切る予定の奴いたっけ、ペンギンの奴。名前忘れた。あいつどうなるんだろう……。

 

さて、一先ずエントマちゃんを始め、動き出したであろうNPC達にどう接するのが良いだろうと考える。その結果、周囲には主に敬語&さん付けで接する事にした。礼儀は大事。

 

正直な話、ゲーム中でも仕事中でも散々使ってた言葉なので、その方がボロが出ないだろうという判断なのだが。

 

渋カッコいいボイスと化したおかげで、敬語もサマになってる。なんか強者の風格ただよってるよね、多分。

 

「ちっとも気にしてませんよ。それより、何か用事があって来たんですよね?」

「は!アバ・ドン様。差し支え無ければお聞かせ下さい。体のお加減は如何でしょうか?」

 

心配そうな表情で俺の様子を伺うエントマちゃんに胸打たれる今日この頃。すげぇな、顔の蟲は表情まで変えられるのか。表情、そう、表情だ。ユグドラシルオンラインには表情を変える機能はない。NPCとの意思疎通なんてもっての外だ。エントマちゃんの仮面は口が動かないみたいだが、目の動きによって感情表現が成立している。可愛い。

 

「ちょっと頭がフラフラするだけです。痛い所とかは無いから安心して下さい。

もしや、ずっと看病を?」

「はい、アインズ様が、アバ・ドン様がお相手ならば私が良いだろうと仰せに。特例ということで、個室に入らせて頂く許可を頂きました」

 

 

 なんてこった! エントマちゃんが看病してくれるって分かってたなら、もっと早く死ねば良かった……。

 

そのアインズ様って人には5分程、深々と一礼せにゃならん。副腕の一つで頭を掻きながらそう考える。あ、痛覚ないかもこれ。

 

「お礼を言わなくてはなりませんね……。

しかし、アインズ様とは一体どなたの事でしょうか?」

 

AOGの名前そのものな名だが、ギルメンにそんな名前の人はいない。ギルドが擬人化でもしたの?

 

「……あっ! その……モモンガ様はお名前を改め、アインズ・ウール・ゴウン様と名乗られておいでなのです」

「モモンガさん!?」

「は、はい」

 

モモンガさん。言わずもがなだ。AOGギルドマスターのモモンガさんで間違いないだろう。

 

そもそもここナザリックぽいし。この不可解な状況を解く鍵になるのは確実。会うほかあるまい。

 

なんと言うか、AOGの面々がリアル化してるってのはなんとなく分かった。夢説も捨てられない以上そうとも言い切れないが、理由は最早どうでもよくなってる。

 

俺、エントマちゃんと会話してるよ。大事なことだからもっかい言うぞ。俺、エントマちゃんと会話してるよ。そこいらのリア充共を鼻で笑えるぐらいの幸福感です。

 

……ん?

 

どうやら幸福感も度が過ぎると平静に戻ってしまうようだ。ええい、煩わしい。

だが、後から後から幸福感が溢れ出てくる。今度は幸福のジェットコースター。

 

「配慮が足りず、重ね重ね申し訳ありません!愚かな私めにどうか罰を……」

「何を仰います!?むしろ感謝してますよ!私がこうしているのも、エントマさんの献身的な看病のおかげと言って良いです。罰なんてありえません」

「……!も、勿体無きお言葉。至高の御方にお仕えする者として当然の事を果たしたまでです!」

 

またエントマちゃんの触覚がピーンッてなった。何なのその触覚?俺を萌やし尽くす新手の兵器かなんかなの?

 

おい運営。マジで忠誠心どうなってんだよ。のっけからMAX300だよ。もっとこうさ、タメ口利いて他愛ない話に花を咲かせてキャッキャウフフとかしたかったんよ……。

 

いや、この状況をおいしいと思ってしまってる俺が言うのもアレだけどね。生きてて良かった。死んだけど。

 

「では、モモンガさん改め、アインズさんに会いに行っても……?」

「は!元よりそのつもりとの事です。目覚め次第こちらに伺うと」

 

てことは、エントマちゃんが俺のお目覚めを報告するんだろうか。じゃあ、こっちから出向いた方が手っ取り早かろう。

 

「あ、それなら一緒に行きましょう。このままアインズさんの下へ案内して下さい」

「かしこまりました。第十階層へご案内致します」

「お願いします」

 

第十階層?アインズさんは玉座で待ってるのだろうか。いつもなら円卓の筈だけど、どういう風の吹き回しだ?まあいいや。さて、エントマちゃんに案内されて部屋の外に出てみると。

 

………………おお、懐かしの光景に涙が出そうだよ。多分涙腺無くなってるけど。

 

俺の目の前に広がるのは皆の総力を結集して作り上げた、ナザリック地下大墳墓、第九階層ロイヤルスイートそのものであった。

 

ギルメン達が凝らしに凝らして作ったインテリア達の堂々たる風貌よ。個室毎に設置された、ギルメン達のマーク入りタペストリーがいい味出してます。見慣れた景色に安心感が止め処ない。

 

初めて東京を訪れたお上りさんの如く、辺りを見渡す。勿論、エントマちゃんからは片時も目を離しません。何か矛盾してるようにも思えるが、複眼になっちゃったので余裕のよっちゃんである。

 

それにしても、エントマちゃんに連れられる俺、これは

 

「デートと言って差し支えないのでは……?」

「えっ!?」

「ああ!!いや、い、今のはお気になさらず」

「は、はい……」

 

やっべ、声に出してしまった。やばいどうしよう。ていうかどこがデートだよ、バカか俺。エントマちゃんの触覚がまた垂直になった。今度は歩き方までギクシャクしてるし。うう、気まずい。

 

あれ、なんかエントマちゃんグラついてない……?

 

「ア、ダメ……ダメダヨゥ!ソンナァ!」

 

げ!ついに擬態にまで綻びが!?顔の虫が取れそうになってる!おお、中身までぷりちー……。

 

しかも声がさっきまでと違う感じに……あ、そういや口唇蟲で喋るって設定だったな。

地声はあんな感じなのか、なんてこった一粒で二度美味しい。

 

このワンシーンを切り取って保存出来るなら言い値で……じゃねーよ。

 

エントマちゃんが困っているというのに、放っておく訳にはいかない。えーっと、えーっとこういう時どうしたらいいんだ。

 

「エントマさん、リラックスで良いんですよ。

何があろうとも私はエントマさんの全てを許します」

 

一体俺は何様なんだろうか。優しく語りかけながら俺は、そっとエントマちゃんの頭に主腕を添えた。元末端研究員の俺が上司ヅラをするという異常事態。

 

つーかこれセクハラじゃね?もうダメだ。

エントマちゃんロリ系だからついやってしまいました。おまわりさん私です。

 

「……」

「慌てない慌てない一休み一休み」

 

太古の昔流行ったと言われている。屁理屈坊主の言葉だ。数分続けていると、徐々に落ち着きを取り戻してきた。効果あったようだ。

 

「元に戻りましたね?良かった、では行きましょうか」

「はい……」

 

気まずいのでささっと話を戻す。道案内続行だ。さも、俺は気にしてませんよという感じで振舞うが。これ絶対話戻せてないよ。

 

そんなこんなでアインズさんが待ってると言う第十階層「玉座の間」に到着。

 

玉座に転移出来ないのは相変わらずか。まぁギルド武器置いてる故、致し方無し。

尚、その間会話ゼロの模様。辛いです……。

 

それと、道中でエイトエッジアサシン達を始めとする、見覚えのあるNPC達が俺を向いて次々に跪いてたけど対応する余裕無かった、ごめんな。

 

ギルメンの個室は基本的に第九階層にあるので、割と近かったのは不幸中の幸いか。

 

「アインズ様はアバ・ドン様と二人きりでのお話を御所望ですので、私はここで失礼致します……」

「うん、道案内ありがとうございました」

 

ペコリと頭を下げ、エントマちゃんがそそくさと去っていった。うあー……これぜってぇ第一印象最悪だよ……泣きたい……。

 

あ、また胸中が平静に。

 

はぁ、後で何とかフォローを入れなきゃならんが、今はアインズさんとの面会が先だ。俺はやたらでかくてゴージャスな扉を開いた。

 

おお、玉座も相変わらず珠玉の出来で何より。気圧されそうな雰囲気を漂わせてるが、俺にとっては自宅の廊下みたいなもんだ。

 

この玉座の間にNPCをズラリと並べるとそれはもう壮観だ。アインズさんはサシで話したいとの事で、ここにはいないようだ、残念。

 

さて、目の前の玉座に座す神器級アイテムに身を包んだ死の支配者(オーバーロード)。どこからどう見てもモモンガさんだ。楽しかった思い出がたくさん脳裏をよぎる。何から喋ればいいか分からなくなってしまうなぁ……。

 

しかし、傍目に見れば悪の秘密結社の面会にしか見えないだろう。強そうな緑てかてか虫と、ゴージャス骸骨の組み合わせなだけに。

 

「……」

「……」

 

お互いに黙して語らず。互いに何から喋れば良いか計りかねてるのだろう。モモンガさん改め、アインズ・ウール・ゴウンさんと名乗っているとは聞いたが、今はこう呼ぶ方が良いだろう。

 

「……モモンガさん?」

「……お帰りなさい、アバ・ドンさん」

 

あ、やばい、マジで泣きそう。

 




従者達の胸中は次々回辺りに

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