エントマは俺の嫁 ~異論は認めぬ~   作:雄愚衛門

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評価

「単純に、アインズさんに同行する上で良い点悪い点を言えば良いですよ」

 

今、執務室で面接をしてる訳だが、アインズさんから投げかけられた質問にみんなが悩んでいる。そりゃ、本人の前で自分がどう思ってるかなんて答えにくいだろう。……デミウルゴスは冷静そのものだけど。

 

ついでに言えばこれが面接官として正しい質問なのかも分からん。俺もアインズさんも正しい面接の仕方なんてほとんど分からないのだ。形だけ取り繕い、威厳を崩さない程度に、聞きたい事を聞く事にした。

 

「じゃあ、最初は……おや?」

 

誰かが扉を叩く音が聞こえた。

 

『エントマです。アバ・ドン様に飲み物をご用意致しました』

 

エントマちゃぁーん!!

 

「ありがとうございます。どうぞ!」

 

ついつい声が大きくなっちゃう。……変じゃないよな?

 

(アバさん、明らかに音量が倍違いましたよ。ていうか面接中に飲み物持ち込ませるのって良いのかな……?)

(あっ)

 

まぁやっちまったもんは仕方ない。ここでエントマちゃんを追い返すなんてできねぇ!

 

エントマちゃんは「失礼します」と一言言って、トレーに乗せた美彩な模様の入ったクリスタル製カップを持ってきてくれた。中身は何だろう?綺麗な琥珀色だ。

 

「千年樹の樹液を濃縮して作られた特製ジュースです。お飲み物の要望についてお聞きしてなかったのですが……」

「ああ、大丈夫ですよ。飲み物を選んだのはエントマさんですか?」

「はい、アバ・ドン様の容姿や食堂でのメニューからお口に合いそうなものを選びました」

「なら、美味しいのは間違いありません。エントマさんが選んでくれたのですから。ありがとうございます」

「……あぅ、う、光栄です!で、では失礼します」

 

エントマちゃんは、コースターを敷き、ストローが刺さった樹液ジュースとやらを置いて退室した。アインズさんはアンデットなので不要、俺の分のみだ。一瞬、もうちょっといて欲しいなーとか思ってほんの少し手を伸ばすが、面接中なのを思いだし泣く泣く我慢。

 

ルプーがこっちをすごい見てるが、怪しまれたかな……?ええい、話題逸らしもかねてさっさと本題に入ろう。

 

「じゃあ先程と同じ順番で、ルプスレギナさんから三人の印象を」

「あ、はい!えーっと、ユリ姉……ユリ・アルファは冷静沈着に仕事をこなせると思います。戦わせれば、近接戦で大きな力になるでしょう。ただ、ナーベラル・ガンマ程じゃないですけど、少し融通が利かない所があります。セバス様は、ユリや私なんかよりずっと強いですけど人間に対して甘すぎです。デミウルゴス様は頭が良いし何でもこなせると思います」

 

こういう事言わせるのはちょっと申し訳ないが、非常に参考になる。やっぱり、セバスの方針は部下であるルプーからしても気になる所だったようだ。……そういや、ルプーからすると、他の三人は全員上司に当たるんだよな……かなり酷な事を聞いたかも。

 

「なるほど、参考になりました。では、次はユリさん」

「ルプスレギナ・ベータは性格的に難がありますが、職務に対してとても真面目です。セバス様は面倒見が良く、人間に対する心証を良くするでしょう。デミウルゴス様は機知に富み、アインズ様の深謀をよく補佐出来ると思います」

 

ほう、ユリはアライメントが善寄りだからセバスに肯定的なのかな?

 

「ええ、ルプスレギナさんが真摯に仕事をこなす事はよく理解しています。二人共、皆の能力をしっかりと見ているのですね」

「……お褒め頂きありがとうございます」

「あ、ありがとうございます!」

 

ユリとルプーが恐縮している。あ、やべぇ樹液ジュースめっちゃうまい。超濃厚な甘みが麦茶並のスッキリ感で喉を潤す!エントマちゃんパーフェクト。

 

 で、問題はこっからなんだよ……アライメント極悪と極善がどういう反応を示すかは知っておく必要がある。この質問によって、何らかのトラブルが起きることは承知の上だ。だが、後から大事な所で大きなトラブルを起こすよりは対処が利く。アインズさんと俺も内心ハラハラしている。

 

それに、そもそもセバスとデミウルゴスが対極的なのは……む、ジュース無くなった。

 

「……それでは、続いてセバスさんお願いします」

「全ての者が例外無く、至高の御方々に深く忠誠を誓っており、真剣に任務へ取り組むでしょう。ただし、デミウルゴス様は人間に対して遊びすぎるきらいがあります。能力も忠誠心も目を見張るものがありますが、冒険者として活動するには少々危険かと」

 

能力の高さはきちんと認めてるようだ。目の前で見た訳ではないが、デミウルゴスの人間に対する扱いはセバス的によろしくないようだ。デミさん、何してるんやろ……。

 

「……では、デミウルゴスさん」

「はい、この場の者全てが一丸となり偉大な御二方に尽くす事。私も疑っておりません。しかし、セバスは愚かな人間に無用な慈悲を振り撒く悪癖がございます。それなりのメリットもありますが、アインズ様の計画に支障を来たす可能性が高いものと思われます」

 

案の定人間がらみで対極的な意見に分かれた!妙に共通点があるのは不思議な所だ。

 

「アインズ様の計画に沿った行動を心がけておりますので、ご心配無く。デミウルゴス様こそ、余りお楽しみが過ぎると余計な不備を生むのでは?」

「敬称は不要だよセバス。私情など二の次、至高の御方の命令を至上とするのは当然の事。そのぐらい分かっているとも。君こそ人間に対して余計な深追いをしてご迷惑をかけたりしないかね?」

「……」

「……」

 

 アルベドやシャルティア程露骨ではないが、セバスとデミウルゴスの視線から火花が飛び散ってるような気がした。ユリとルプーがすごく困っている。諌めれば良いのだがレベル差的に難しいのかもしれない。

 

もの静かな分逆に怖い……。怖い筈なのだが……。

 

(モモンガさん、この光景……)

(これは……)

 

「私の仕事に趣味が込み入ってるのは否定しないよ。だが、ナザリックに有益な結果をもたらすと自負しているし、支障は決して来さない。君のソレは果たしてどうなのかね?」

「人の可能性は、思わぬ所に結びついてくるものです。時として、思いがけない力を発揮する例もあるのですよ。それらを無下にする物言いは、情報収集を重んじる貴方にしては少々短絡的な発想のようにお見受しますが?」

「あ、あの……お二人共、御身の……」

 

ユリがおずおずと仲立ちをしようとするも、効果は芳しくない。二人共こめかみに青筋が立ってる気がする。

 

……あははは、本当に仲が悪いんだなぁ。

 

嘲笑っているのではなく、ただただこの光景が懐かしかったのだ。この、光景は気持ちの良いものでない筈なのに、心底愉快な気持ちで眺め続けた。

 

(アバさん、俺、たっちさんとウルベルトさんを思い出しましたよ)

(ええ、しかもですよ?やまいこさんを挟んで喧嘩したことがありましたね。)

(そうですよ、この光景は……あの時のままです……)

 

デミウルゴスの製作者であるウルベルトさん、セバスの製作者であるたっち・みーさん。ユリの製作者であるやまいこさん。NPCの行動を当てはめると、そこに蘇るのはかつてのアインズ・ウール・ゴウンで繰り広げられた喧嘩そのものだ。やまいこさんの強化の為に、お互いが主張するどちらのダンジョンに行くかなんて些細な理由だったっけ。

 

(モモンガさん。俺、断言出来ます。NPCの性格は、製作者に似る!)

(俺もその通りだと確信しました。もっと詳しく言えば、設定されていない性格部分が反映されると言ったところでしょうか。仮説は立てていたけど、これほどとは……)

 

口論を尚も繰り広げる二人に対し、モモンガさんの機嫌がものすごく良いのが分かった。俺もモモンガさんも、さっきまでの緊張感はとうに霧散していた。

 

(ふぅ……)

(ふぅ……)

 

暫く眺めていると、精神が沈静化してしまった。この出来事は、予想以上に喜ばしいものだったのだろう。おかげで部下の前でこっそりダブル賢者タイムするハメになった。

 

どうやら、設定外の性格部分が製作者に似る事は間違いなさそうだ。これは大きい、余りにも大きすぎる収穫だ。ならば、もう一つ確認したい事があるのだが……。

 

(セバス様がここまで感情を露わにするところ、初めて見たっす!)

(聞きしに勝る……)

 

「セバス様VSデミウルゴス様、これはたのしくごふぉ!」

 

 鈍い音と共にルプーが横腹を押さえて悶絶する。俺は見逃さなかった、ユリが神速で肘を入れたのを。ユリさんは怒らせちゃいけないタイプやな……。

 

……さて、このままにするのも良くない。

 

(もう少し眺めてても良いのですが、面接ですし、そろそろ……)

(そうですね……)

 

「二人共、それくらいにしましょう。そろそろ面接の続きを」

「……ッ!失礼しました!」

「見苦しいものをお見せしてしまい、申し訳ありません!」

 

セバスとデミウルゴスは我に返り、俺達に向き直って深々と謝罪した。執務室内の空気は悪いと言えるが、俺とモモンガさんはちっともそうは思わない。

 

「お気になさらず、良いものを見せて頂きました」

「そうだな、礼を言うぞ、二人共」

「さ、左様ですか」

「……それは良かったです」

「……?」

「?」

 

四人共上機嫌な俺達に困惑している。そりゃ理由分からんわな。俺は確認を取るべくセバスに尋ねた。

 

「先程のやり取りを見るに、御二人は余り仲がよろしくないようですね?」

「はい……頭に血を昇らせてしまい誠に……」

「いいんですよ、セバスさん。そこで聞いておきたいのですが、例えばの話、他の配下が人間に対して何らかの危害を加えたとしても同じような気持ちになりますか?」

「いえ、そのような事には決してなりません。ナザリックへもたらす益を考えれば、私の個人的感情など些事でございます。このように不満を漏らしたりするなど以ての外です!」

 

 セバスは力強い口調でそう主張した。嘘を吐いてるようには到底思えない。

 

「ふむふむ、しかしデミウルゴスさんに対しては……」

「お恥ずかしながら、彼の言に対してはどうしても不快に思ってしまう事があります」

「なるほど」

「……」

 

デミウルゴスはその事に対して何も突っ込まなかった。目立った理由もなしに食いかかるという失態は、セバスを糾弾する格好の口実になる筈なのにだ。

 

「デミウルゴスさん。貴方も同じ気持ちなのでは?」

「……慧眼恐れ入りました。私もセバスの言が過剰に癇に障ります。理由は……説明する事が出来ぬ愚かな身をお許し下さいませ……」

 

デミウルゴスは、理由が説明出来ないことを心から悔しそうにしている。そりゃ難しかろう……。

 

(こりゃ確定ですね。モモンガさん)

(ですね!)

 

 間違いない。セバスとデミウルゴスが不仲なのは、製作者の性格に引っ張られている。セバスの言っている事が本当ならば、カルマ値マイナスな行動をしたところで、大した影響は無い。別に積極的に悪事を働く訳ではないが、異形種になった以上はそういう行為も増えてくるだろう。

 

「二人共、気にすることはありませんよ。これ程たくさん部下がいるなら、仲の悪い同僚の一人や二人いるものですから」

「我々もそういった相性の善し悪しを判断材料にするつもりだが、どうしても共に行動させる局面もあるだろう。その時には、私情を捨て、連携を取るようにせよ」

「畏まりました」

「畏まりました」

 

先程の喧嘩ぶりはどこへやら、二人仲良く頭を下げ、アインズさんに了解の意を示す。

 

「妙な質問が原因で、二人には辛い思いをさせてしまったようだな、すまなかった」

「いえ!アインズ様が謝罪なされる必要は全くありません!」

「元々の原因は私達が個人的な感情で諍いを起こしただけの事!責任は私達にあります!」

 

二人共大慌てだ。責任を感じてるのがよく分かる。うん、一先ずこの場は丸く収まった。今後はセバスとデミウルゴスの関係にも気を配るとしよう。

 

(セバス様とデミウルゴス様の仲を容易くお諌めになられるなんて……)

(流石は、アインズ様とアバ・ドン様っす!)

 

ユリとルプーが目を輝かせて、俺等をじーっと見ている。ごめんな、止めるの遅くなって。

 

(さて、誰を連れていきましょうか?)

(決めましたよ、アバさん)

(おお、誰です?)

 

ついに同行者が決まる瞬間が来たか。この中の誰かを選んだならば、俺は異論を挟む必要が一切ない。誰にするつもりかな?

 

(……セバスと、ユリを連れていきます)

 

そうきたか。

 

(決め手はあったんですか?)

(逆転の発想です。冒険者として名声を得るなら、いっそアライメントが善寄りな部下を連れて、英雄的な行動をした方がプラスに働くでしょう?アインズ・ウール・ゴウンの名の下で、非人道的行為を働いた場合カモフラージュにもなります。俺が戦士として活動するとなると、パーティバランスが少々良くないですが、ここは緊急性を重視して、本来の力を発揮した時に連携を取りやすいパーティにしようと思います)

(なるほど)

(アバさんのおかげですよ。やっぱり俺、かつての仲間達によく似た彼らが裏切るなんて考えたくないです。身内によるリスクより、外の世界のリスクを優先して考えますよ)

(俺もそれが良いと思います。モモンガさん)

 

どうやら、俺もモモンガさんも、部下への信用度が上昇したようだ。そうだな、冒険者になったのであれば、人道的行為を働いて名声を得るのも悪くないだろう。ナザリック側が悪さをしたとして、冒険者扮するモモンガさんと結びつく確率はかなり減る。

 

……未だ危険は大きいが、面白くなりそうだ。

 

 

 




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