エントマは俺の嫁 ~異論は認めぬ~   作:雄愚衛門

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黙示録

「アルベドさん、お願いがあるんですけど!」

「はい、アバ・ドン様。私で宜しければ」

「ありがとうございます。では、これを皆に配って下さい。全員の記入が終わったら提出をお願いします」

「この紙の束は……畏まりました。すぐに手配致します」

「お願いします。ああそれとですね」

「何なりと」

「個人部隊作るから準備をお願いします」

 

 

 

 

 

 

 

 

アバ・ドンが主要な蟲系モンスターに声を掛けてから二日が経過した。舞台はまたも玉座の間なのだが、その様子は今までとは少々異なっていた。

 

(ふふ、やはりこうなったわね)

(アバ・ドン様が放つ御威光の壮麗たるや……この場に立ち会えたこと、心から光栄に思います)

 

デミウルゴスとアルベドは心の中で静かに笑う。目の前の光景は、アインズ・ウール・ゴウンに安寧をもたらすと確信出来る雰囲気を持っていたからだった。

 

玉座の間における立ち位置は、アルベドを前に、階層守護者達が控えるのが本来のものだ。しかし、コキュートスを除く階層守護者及び、セバス率いるプレアデス達は皆脇に控えている。玉座の下、中心にいるのは、コキュートスやエントマを代表とした、蟲系モンスター達。

 

千差万別の逞しき蟲系異形種。コウチュウ目、ハエ目、チョウ目、それらを混合したような人型の者、虫の原型を残したままな者の他、ありとあらゆる種類が揃っている。

 

ついに、アバ・ドンの為に据えられた専属部隊のお披露目と相成ったのだ。

 

玉座に座すは変わらずアインズのままだが、今日に限っては主役は自分ではないと言わんばかりに、沈黙を保っている。その眼光に灯る光は、暖かく優しいもののようにも見受けられた。

 

アインズの隣に控えていたアバ・ドンが、開口一番、沈黙を破った。

 

「皆さん、お集まりいただき感謝します。いよいよこの日がやって参りました」

 

たったそれだけの言葉で、蟲達の闘志とも言える程に力が迸る。熱狂的な空気を無理やり押し込んだような重圧感だが、アバ・ドンはその様子に満足したかのように、頷いた。

 

「アインズさんの許可を得ましたので、独立部隊設立の宣言を玉座の間にて行いたいと思います。コキュートス、エントマ・ヴァシリッサ・ゼータ、恐怖公、ハンゾーは前へ」

 

名を呼ばれた四人が静かに前へ出る。

 

「尚、餓食狐蟲王は一身上の都合の為、第六階層の大穴にて待機としております。ご了承下さい」

 

アバ・ドンがそう前置きをし、宣言を開始した。

 

「私はアインズ・ウール・ゴウンの力となるべく独立部隊の設立を宣言します!」

 

一拍間を置く。深呼吸をし、意を決したアバ・ドンは宣言の続きに入った。

 

「部隊の名は『黙示録』(アポカリプス)!私の直属となる貴方達へ厳命する事は二つ!一つ、状況が不利と悟ったら即時撤退する事!二つ、アインズ・ウール・ゴウンに貢献する事!この二つは絶対に守りなさい!これは私自身も含めての事です!」

 

厳命する事が即時撤退。一見情けないようにも思える命令を、臆病などと嘲笑う者はいない。三千世界をあまねく照らし続けるが如し慈悲を湛えた、偉大なる御方の厳命。それはシモベ達の身を案ずるが故。その命に背く事は、至高の御方を大いに悲しませる事になる。

 

身をも惜しまぬ決断でナザリックを去り、シモベ達の下へ帰還した至高の御方へ最大限の忠義を尽くす。集ったシモベ達の選択肢はその一択。他は決してありえない。

 

「第五階層守護者、コキュートス。偉大ナル御心ノママ、御身ノ剣トシテオ振ルイ下サイ!」

「プレアデスが一人、エントマ・ヴァシリッサ・ゼータ。万物に勝る輝きを放つアバ・ドン様に、絶対の忠誠を誓います!」

「第二階層領域守護者、恐怖公。御身に叶う働きを、必ずやお見せ致しますぞ!」

「エイトエッジアサシン代表、ハンゾー!偉大なる我らが主の盾となりましょう!」

 

(最早コノ命、捨テルモ不敬。ナラバコソ、我ガ身全テヲ、至高ノ御方ニ)

 

 コキュートス含む、蟲系モンスターの総意。それは、先もあった通り、生ある限りその身の全てを以てアバ・ドンへ尽くし続ける事。失態を演じたとしても、死をもって償うなど以ての外、失態を禊ぐ働きをもって返すのみだ。

 

一つの大きな意思であるかの如く『黙示録』(アポカリプス)は動き始めた。

 

「ナザリック地下大墳墓の絶対なる主、アインズ・ウール・ゴウン様!そして、我らの下へ再び顕現なされた偉大なる至高の御方!アバ・ドン様の為に!」

「我らが偉大なる造物主様に栄光あれ!」

「永久に幸あれ!」

「アインズ・ウール・ゴウン様!アバ・ドン様!万歳!」

 

他の蟲系モンスター達も例外無く忠誠を誓う。アバ・ドンが指揮下に置いたことで、配下すべての蟲に、変化が訪れた。

 

蟲達の体が一回りも二回りも大きく見える。大きさは変わっていない筈なのだが、ただでさえ高かった威圧感が更に増した。

 

これは、アバ・ドンのスキル『ゼバの施し』『ンの統率』『蟲王の風格』などによる、配下の強化が発生したのだ。蟲に重点を置いたスキルは結果として、配下の蟲達をプラス10レベル程度強化する事にも繋がった。

 

ちなみに、レベルがカンストしているコキュートスは、やる気に満ち溢れすぎてそう見えるだけである。

 

その光景に、他の者達はそれぞれが思いを馳せる。

 

(アバ・ドン様に部下を預けられた事によって、戦力の増強……いや、増強では生温い。戦力が倍増したわ……!アインズ様、見事な采配です!)

 

アルベドは、ナザリックの戦力増強に見事成功したアインズとアバ・ドンに畏怖と敬意の念を抱く。アインズに対してはどろりとした感情が見え隠れするのだが、ご愛嬌だろう。

 

(優れた指揮者がおられると、こうも美しい輝きを見せるのでありんすね……)

(なんて力強さ!私のペットもあれに負けないぐらいにならなくちゃ!)

(す、すっごい数……こんなにいっぱいいるのに、皆強くなっちゃった!)

 

蟲への苦手意識があったシャルティアとアウラの二人ですら、目が離せぬ魅力を孕む。マーレは、アウラの隣で、影響下に入った蟲達の規模に心底驚いていた。

 

(まるで、集う者全てを合わせて一個の生命体。蟲達の力も格段に跳ね上がっている。やはり真なる蟲の王としても絶大な力をお持ちであったか!)

 

デミウルゴスは、レベルを引き上げられた蟲達の様相に、アインズとアバ・ドンの偉大さを思い知る事となった。

 

(エントマ、千載一遇のチャンスよ)

(エンちゃん、ファイトっす……!超羨ましいけど応援するっす)

 

ユリとルプスレギナは妹の恋路を応援した。

 

(むぅ、アバ・ドン様直下だなんて羨ましい。私も機会があれば……!)

 

ナーベラルはエントマの栄達にちょっぴり嫉妬した。

 

(蟲、いっぱい)

(私の分の人間が食い尽くされそうな勢い。ああ、いいわねぇ……)

 

シズは、比較的プラスな思考でその光景のありのままを受け入れ、ソリュシャンは蟲達にジワリジワリと食い尽くされていく人間をちょっと観察したいと思った。

 

(おお。アバ・ドン様の威風堂々たる姿、真に喜ばしく思います……。ナーベラルは嫉妬を隠しきれてませんね……)

 

セバスは、主人の完全復活を祝いつつも、プレアデスの様子を気にする。

 

(これなら、安心して留守を任せられる。ありがとう……アバさん)

 

アインズは、一丸となっている蟲達とアバ・ドンに大きな安心感を抱いた。

 

(素晴らしい……。本当に素晴らしい光景だよ)

 

そして、この場に居合わせて、最も喜びの感情を露わにしたのはアバ・ドンだ。

 

多種多様な彼ら全てが、嘘偽り無く忠義を誓う。みんなの思いが、持て余すほどの熱意を持ってアバ・ドンにぶつけられた。彼らの掛け声は、時に牙を動かす異音、金属質な関節の駆動音、高低様々な羽音が混じる歪なモノであったが、全く気にならなかった。むしろ、アバ・ドンにとっては全てが心地の良い音色であった。

 

(これで、やる気が出なきゃ嘘だな……)

 

その姿は彼のモチベーションを、生前ならば決してありえなかった程に引き上げた。

 

(俺もみんなに当てられたかもな。……それで良い。モモンガさんは、帰る場所を残してくれた。自分を再び暖かく出迎えてくれた。またエントマちゃんに出会うことが出来た。全てがモモンガさんと、ナザリック地下大墳墓を守り続けてくれたみんなのおかげだ。この身が役に立つなら、みんなの為に、しっかりと働こうじゃないか)

 

アバ・ドンは生まれ変わった己の身で、受けた恩を少しずつでも返そうと誓った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「アバさん専属部隊、通称『黙示録』(アポカリプス)ですか……」

「しかも、黙示録の四騎士に該当する部下もいますよ!モモンガさん!」

「ほほう、誰の事なんですか?」

「エントマさん、コキュートスさん、恐怖公、餓食弧蟲王さんで四騎士です。あ、ハンゾー達は騎士ってより忍者なので別枠です」

「エイトエッジアサシンが忍者なのは納得ですが……エントマって騎士と言うより秘書兼専属メイドって感じですね?」

「ま、まぁそうです」

「アバさん、それってちょっとした職権乱用……」

「さささささ最初で最後です!」

「あははは、うん、まぁそれは置いといて……アポカリプスかぁ」

「良いでしょう?」

「んー……あっ!」

「どしたんですか?」

 

名案が浮かんだとばかりに、モモンガさんが手のひらを握りこぶしで打った。

 

「略してポカリ隊」

「えー」

 

何か爽やかな感じになった。

 




2100年代、大〇製薬は生き延びてたようです(´ω`)

次回から話が進みます。

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