エントマは俺の嫁 ~異論は認めぬ~   作:雄愚衛門

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抜擢

「では、ナザリック内の配置については追って伝える。各員、持ち場に戻れ」

「あ、待って下さい。コキュートスさんとエントマさんはこの場に残るように」

 

俺はアインズさんが話し終えた直後に滑り込ませるよう切り出した。

 

「畏マリマシタ」

「はい、この場に待機致します」

 

あぶないあぶない、コキュートスとエントマちゃんを残して俺の個人部隊の事を話す手筈になっていたのだが、アインズさんは先程のショックのあまり忘れていたようだ。

 

後、エントマちゃんの口調がお仕事モードに戻ってる。ちょっと寂しい。でもやっぱこっちも捨てがたいなぁ……。顔の蟲もシャキーンとしてるのがよく分かる。

 

 俺の一言に、一旦動きを止めていたシモベ達は一礼すると、コキュートスとエントマちゃんを残して持ち場へささっと戻っていった。この行動の迅速さは避難訓練でも花丸を余裕で貰えるレベルだね。尚、パンドラズ・アクターも一旦宝物殿へ帰した。まだ、受け入れるには時間が必要なんだ……。

 

(すみません、アバ・ドンさん)

(いえ、ぶっちゃけ俺のせいみたいなもんですし……)

 

本来であれば、人事異動についても話す予定だったのだが、さっきの黒歴史(パンドラ)紹介によるモモンガさんの精神的ダメージを考慮し、一先ず話を切り上げることにしたのだ。ここから先は俺が喋るだけで何とかなるしね!

 

玉座の間に残ったのは俺とアインズさんとコキュートスとエントマちゃんの四人。

 

蟲率75%でございます。アインズさんのアウェー感よ。エントマちゃんが纏う蟲や、俺の蟲をカウントするといよいよ持って蟲密度1000%だがノーカンでよかろう。

 

「二人に残って貰ったのは個人的なお願いの為です」

「オ願イデゴザイマスカ……」

「お願い等と仰らず、ご命令頂ければ即座に遂行致します!」

 

 エントマちゃんは仕事熱心だなぁ。偉いなぁ……あー、頭なでなでしたい……。とか考えてる場合じゃない、用件を言わなきゃ。

 

「単刀直入に言います。私専属の独立部隊を作るので、貴方達にも参加して欲しいのです」

 

次の瞬間、二人が固まった。

 

「……マコトデゴザイマスカァ!?」

「ワッ!?」

 

少しして、コキュートスが口から大量の冷気を噴出し、イカした蟲ボイスが特大音量で玉座の間に響き渡った。どんだけ驚いてんだよ!多分室温4度は下がったぞ!つーか、冷気にエントマちゃんが巻き込まれたぁ!大変だ!

 

「エントマさん!大丈夫ですか?」

「……はい、大した問題はありません」

 

すっと佇まいを正すエントマちゃん。健気だなぁ……。だが、頭と顔の蟲が若干痙攣してるんだけど……これはもしかして氷殺ジェットされてしまったのではなかろうか。少し見てみよう。

 

「念のため、エントマさんの蟲を検査します、少しじっとして下さい」

「は、はい!」

 

了承を得たので、早速エントマちゃんの頭部の蟲をつぶさに検査する。べ、別にセクハラじゃないからな!

 

……良かった、急な冷気に当てられてビックリしただけか。敵意のある攻撃でなかったおかげか命に別状はない。蟲達の耐性もそれなりのようだな。俺は蟲のステータスが敵味方問わず手に取るように分かるのだ。心までは読めんがな。

 

 言っておくが、近くで見た方がステータスがよく分かる気がするからそうしたのだ、別にエントマちゃんの頭をクンカクンカしようとかちっとも考えてない! 何か食べ物とは別ベクトルに滅茶苦茶良い匂いがしたとかちっとも思ってないのだ。

 

何はともあれ、一安心した俺は結果を教える。

 

「問題無いようです、どちらの蟲もちょっと驚いただけのようですね」

「ありがとうございます。ただ、その……」

「なんでしょう?」

「御言葉ですが、ご尊顔が……若干近いかと……」

「……へ?」

 

……ヴァー!ほんとだよ!顔近いよ!これ後数センチでエントマちゃんとキス出来る距離じゃねーか!中の本当の顔込みでも擁護不能の近さである。先程と同じく頬筋があったらユルユルになってる自信があるほどの幸福感だよ!心は正直ですね、ほんと。

 

「おや、失礼しました」

「い、いえ……」

 

そしてこの澄ました対応である、死ねよ俺。またも気まずい空気。しかも、よりによってコキュートスとアインズさんに見られた。

 

(青春)

(急にどしたんですかアインズさん)

 

よく分からんが、アインズさんにも余計なダメージを与えてしまったかもしれん。

 

「アバ・ドン様、情ケナイ所ヲオ見セシテ誠ニ申シ訳アリマセン!エントマ、スマヌ!失礼シタ!」

「いえ、お気になさらず!むしろ大丈夫です!」

「オオ、ソウカ」

 

すぐさまコキュートスが頭を下げてエントマちゃんに詫び、エントマちゃんはそれを許す。お互い大人の対応だ。しかもエントマちゃんは、下手すればダメージに成りかねなかったのに、コキュートスに対して明るく振舞う気遣いまで見せている。心が広いんだなぁ。

 

しかし、こういうちょっとしたアクシデントから恋が始まってしまうのでは……。俺は妙な危機感を抱いた。コキュートスのこういう所は見習わないとな。間違いがあればきちんと訂正出来る上司を目指そう。

 

「で、では話を戻しましょう。この話は既に、主要な蟲系モンスター達には発表しています。近い内に、ある計画と一緒に大々的に発表するので覚えておいて下さい。それまでは内緒ですよ?」

「承知シマシタ、ソノ時ヲ心カラオ待チシテオリマス!」

「畏まりました。正式な通達があるまでは通常の業務に戻らせて頂きます」

 

コキュートスとエントマちゃんが二人揃って一礼する。くそー!絵になるじゃないかー!

 

あ、そうだ。俺はハンゾー達と恐怖公には「お待ちください」としか言ってないから、普通の仕事に戻っても良いよう伝えた方が良さそうだ。ありがとうエントマちゃん。こういう所も直していかんとなぁ……。暫くすれば、アインズさんの心も落ち着きを取り戻すだろう。

 

「私は御二人の力を高く評価しています。期待してますよ」

「オオ!勿体ナキ御言葉。必ズヤ、アバ・ドン様ノ剣ニ相応シキチカラ、ゴ覧ニ入レマショウ!」

「私の全てを、アバ・ドン様に捧げます!」

 

ブフォ!?え、エントマちゃんがとんでもない爆弾発言した!い、いや、あれはやる気のアピールであってだな……今の台詞で真っ先にいやらしい事考えてしまう自分がやだ!つーか、なんかさっきからムラムラするんだけど、俺はこんなにひどい奴だったのか……。何か良い匂いがする。

 

いや、今は二人の忠義に応えなければ。俺は満足した事をアピールするべく静かに頷いた。

 

 俺は決して察しの良い方ではないが、今までスカウトしたみんながやる気に満ち溢れてるのはよく分かった。まだ蟲モンスターが全員集合した訳ではないが、既に期待度MAXだ。俺は基本、お世辞は言わん。心からそう思ったら褒めるようにしてるが、皆よく頑張るから褒める頻度が上がっちゃうんだよ。困った。

 

(ほら、アインズさんも何か一言)

(あ、はい)

 

「では二人共、アバ・ドンさんの力になれるよう邁進するように」

「ハッ!」

「はっ!」

 

さて、これでアインズさんと再び二人きりになるし、何かフォロー出来ればいいんだけど……。

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ~~~……」

「……」

 

モモンガさんが長大な溜息を吐く。精神的な影響は沈静化するというのに、この調子が続くということは相当堪えてるようだ。

 

「モモンガさん……」

 

俺は前世の自分なら気まずい表情を浮かべてるであろう感情を持ちつつ、モモンガさんに話しかける。だが、どのツラ下げて話せば良いんだ。俺はモモンガさんにひどい事をしてしまった。

 

「……いえ、分かってます。パンドラがこの局面において力を発揮するのは分かっていました。俺も覚悟を決める時だったんです」

「そうですか……」

「ただ、やっぱり宝物殿の守護を空けるというのは……」

「モモンガさん!その台詞3回目ですよ!宝物殿の管理は俺がやりますって!」

「で、ですね。すみません」

 

モモンガさんらしくもないうっかりだ。しかし、この疲労感を漂わせた哀愁漂う姿……。

 

 こんなに凹んだモモンガさんを見たのは、昔、るし★ふぁーさんがスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンに付いてる神器級オーブを、和歌山県タイアップアイテム紀州特産梅干しにすり替えた時以来だ。悪にこだわるウルベルトさんすら「お前越えちゃいけないライン考えろよ!?」と、ガチギレしてたのが印象に残っている。

 

だが悔やんでも仕方ない。いつの日か通らざるを得ない道だったのだ。

 

「そ、そんな気に病む事じゃありませんよ」

「……」

「それにほら、俺、パンドラズ・アクターが着る軍服のデザインとかアクションとか、時々出るドイツ語とか超格好良いと思いま――」

「やめてぇ!!」

 

モモンガさんの悲痛な叫びが、玉座の間に響き渡った。




何と比べてかは敢えて言いませんが、こっちは純情スタイルです(´ω`)
次回はデミえもん

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