エントマは俺の嫁 ~異論は認めぬ~   作:雄愚衛門

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ちょっと短め

何故か加筆したバージョンより前の話になってたので微修正!ごめんなさい!


準備編
アルベドの野望・確信


「くふっ……アインズ様、本当に素敵でした……。いえ、今も現在進行形で飛びっきり格好良いですけど、すごかった……」

 

至高の御方々による素晴らしき一戦は、ナザリックのモンスター各位に大きな余韻をもたらした。それは守護者統括であるアルベドも、同じ事であった。

 

体をくねらせながら、華麗なるアインズの姿を何度も反芻する。少しでも長くその気分を噛み締めたかった彼女は、最後まで闘技場内に残っていた。

 

アインズは心にゆとりを持つようになったとアルベドは思う。それは他ならぬ、アバ・ドンの帰還によるものと言って間違いない。

 

先程まで見せていた戦いは、アバ・ドンの力を示す為に設けた場だ。しかし、それだけではないように思う。あの御方は友人との戦いを心底楽しんでいるように見受けられた。古い友人と昔を懐かしむような、穏やかな空気をあの戦いの中で感じ取ったのだ。

 

愛しい御主人様は己を切り詰めて、針の穴を通すような策謀の数々を張り巡らせた。未知の世界で、何が牙を剥くかも分からぬ状況で、あの御方は何度も最適解を導き出している。それがどれ程の偉業であり、困難な事であるか。

 

そんな中、至高の御方が一人帰還した。どれほど頼もしい事かは想像に難くない。アインズと一緒に見せた戦いは、正しく阿吽の呼吸であった。

 

愛しいご主人様の御心を容易く解きほぐすアバ・ドンに少し嫉妬してしまうが、アインズの無二の親友である彼を卑下する程恥知らずでは無い。

 

あの御方も至高の41人の一人。かつて、病魔を退ける為にナザリックを去った。とうに見捨てられたと思っていた自分の考えは全くの間違いだった。己の抱いた不敬を恥じ、帰還された慈悲深き御方を、アルベドも心から尊敬している。

 

「あ、いるぅ。お話ってなんですかぁ? アルベド様ぁ」

 

 余韻に浸りつつ考えていると、話し掛けてくる者が一人。プレアデスが一人、エントマ・ヴァシリッサ・ゼータである。

 

アルベドは、この余韻を壊す者に軽く苛立ちを覚えたが、皆が去った後、此処へ来るよう命じたのは他ならぬ自分であったので、理不尽な怒りを捩じ伏せ、心優しき慈母の表情でエントマに語りかけた。

 

「ねぇ、エントマ。単刀直入に聞くわ」

「はいぃ?」

「アバ・ドン様に惚れてしまったのでしょう?」

「えぇ!?……どぉ、どうしてですかぁ?」

 

エントマは困惑した。まだ、定例会議でしか吐露していない自分の想いを、何故アルベドは知っていたのか?

 

「顔を見れば分かるわ。今の貴方は、戦闘メイド、プレアデスの顔ではない」

「……?」

「女の顔よ!」

「……!」

 

 エントマは思わず、余った袖に覆われた手で口元を押さえる。本人の口元は顎下にあるので、手の位置が若干下にズレているのだが。

 

 アルベドはあっさりと気づいた。エントマが抱いている熱い思いを。アバ・ドンがエントマに向けて手を振った時に見せたあの表情。自分と同じく、至高の御方へ灯してしまった炎を見出した。が、エントマの顔は擬態した蟲であり、真の貌はその蟲の裏にある蜘蛛の顔だ。にも拘らず、アルベドはエントマの想いを見事に汲み取った。

 

気づいた理由は最早、女の勘と言う他無い。

 

「…………えっとぉ……はいぃ……」

 

 エントマは少し俯きつつも正直に答えた。どうして、言ってしまおうと思ったのか、今一つ分からなかったが、今の自分が抱いている気持ちに嘘を吐いたら、きっと後悔するだろうと、漠然とした気持ちで考えていた。

 

「何をそんなに慌てているの?私はね、貴方の恋路を応援したいのよ」

 

アルベドはさも当たり前の事のように、言ってのけた。

 

「えぇ?でもぉ、私はメイドでぇ……」

「そんな事、愛の前には関係ないのよ!

御二方は本当に素敵よ。女として想いを抱くのはありえない話じゃないわ」

「……」

 

アルベドはエントマの恋路を支持しながら考える。

 

そもそも守護者やプレアデスに、明確な地位の差は無い。偉大なる創造主が「そうあれ」と設定したから、今の地位に着いているに過ぎない。レベル差はあれど、NPC達の間に明確な立場の違いは無いのだ。

 

だから、メイドのエントマであろうとも、偉大な御方に操を立てる事はなんら問題ない。エントマの恋路にケチを付けるのは、自分やシャルティアの首を絞めるに等しい。

 

もし、エントマの恋が成就したならば?自分を差し置いて至高の御方と結ばれた小娘に凄まじく嫉妬する気がしなくも無い。だが、優しく背中を押した自分の行為はエントマを経由し、アバ・ドン様からアインズ様へ伝わるだろう。

 

更に、御友人が伴侶を作ったともなれば、アインズ様も考えを改め、婚姻を視野に入れるやもしれぬ。その時が来たら、私の行為はシャルティアを突き放す大きなアドバンテージになるだろう。

 

そう結論付けたアルベドは、エントマに再度語りかけた。

 

「私だって、アインズ様に恋をしているのよ。頭の中はいつだって、あの御方とあの御方が築く未来でいっぱいなの。貴方だってそうでしょう?」

「……」

 

エントマはただ黙って、静かに頷いた。自分はシズよりはお喋りだった筈なのだが、至高の41人の一人であるアバ・ドンに話し掛けられてから、自分が自分で無くなったような気持ちだった。

 

「アバ・ドン様の御子を身篭りたい?」

「はいぃ、あの逞しくて美しい御体にぃ、組み伏せられたいですぅ……」

 

フェロモンを放出した事により、半ば考えが淫靡になったようだ。だが、アルベドはエントマの正直な気持ちに満足した。

 

「そうね! つまり私達は志を同じくする同志という事、そうでしょう? エントマ」

 

アルベドはその細く綺麗な手を差し出す。ここで、エントマを味方に引き入れれば、既に自分の派閥に組み込んだ、ナーベラル、ユリ、ルプスレギナも入れて、プレアデスの半数以上が私を正妃に推す事になる。ライバルの偽乳ヴァンパイアの一歩先を行ける事に、アルベドはほくそ笑む。

 

その光景を尻目に、エントマは自分なりに考えた。

 

 ここで守護者統括であるアルベド様を味方に付けるのは得策だ。偉大なる創造主であるアインズ様に何度もアタックを仕掛けるアルベド様。今、自分が成そうとしている事は正しく未知の経験。此処で、この人の師事を受けるのも悪いことではない。幸い、アルベド様はアインズ様狙い。自分はアバ・ドン様狙い。

 

つまり、互いは障害になり得ない。

 

 アルベド様とアインズ様が結ばれれば、片思いのあの御方も、便乗してお嫁さんを作ろうとするかもしれない。その時が来るまでに女としての自分を磨かねば……。アルベド様とシャルティア様の積極性は、今の自分も是非見習いたいところであった。

 

「よろしくお願いしますぅ!」

「ええ!」

 

未来への明確なビジョンを導き出した二人は、硬い握手を交わした。

 

(アインズ様がぁ、アルベド様とくっつくならぁ……)

(エントマがアバ・ドン様と結ばれるならば……)

 

(私だってぇ、結ばれちゃう筈ぅ!)

(私だって、結ばれる筈!)

 

裏に己の野望を押し隠しながら。

 

 




デミえもん「いや、そのりくつはおかしい」

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