エントマは俺の嫁 ~異論は認めぬ~ 作:雄愚衛門
「さあ、お見せしまそ……ヤベ、噛んだ。お見せしましょう。数の暴力を……圧倒的、蟲の暴力を……!」
アバ・ドンが腕を振るう度、現れては喰い
(うーん、効果が実感出来ませんね、一撃で死んじゃうから)
(アバ・ドンさん、威力落としてみたらどうです?)
(やってみます)
「ふむ……私の活躍を奪うとは感心しないな?アバ・ドンさん」
「おや、申し訳ない。では……」
ロールプレイでそれらしい理由を付け、大仰に振る舞い戦法を変える。アバ・ドンは忍び寄ってきた
二人はロールプレイ仲間と再会した事で、ちょっと調子に乗っていた。
「あ、あ、あ、アインズ様、かっけ……くふぅ!」
「まさしく美の結晶でありんすぅ!」
「アバ・ドン様かっこいいぃ……」
ただ、部下を身悶えさせるには効果覿面だ。
そして、アバ・ドンは人差し指を、悪魔の軍勢の一角に突き出した。その動きに呼応するように、大量の蟲が高速展開する。
今度は、蟲が通り過ぎた後にも、一部の悪魔達はその身を完全に残したままであった。しかし、様子がおかしい。蟲の波に巻き込まれた人型悪魔の一体は、身体を直立不動したままガクガク痙攣させ、体中の穴という穴からドス黒い液体が溢れ出している。全身が斑模様になり、その模様も忙しなく動き回る。皮膚の一部は焼け爛れ、滴り落ちる音がした。
「あ、あれは……」
プレアデスの一人、ソリュシャンは戦慄した。ソリュシャンはポイズンメーカー、アサシン等、毒に関わるクラスを持っているため、状態異常に対し造詣が深かった。
(あれはなんですか。アバ・ドン様はどれだけの毒……いや、バッドステータス攻撃を打ち込まれたのです?猛毒、MP減衰、暗闇、麻痺、火傷、昏睡、混乱、狂乱、朦朧、拘束、裂傷、呪、物理攻撃極限低下、物理防御極限低下、魔法攻撃極限低下、魔法防御極限低下、素早さ極限低下、バフ解除、デバフ倍加、耐性弱化、武器弱化、防具弱化。それら全てを……第八位階クラスで内包。いや、恐らく相当手加減なされています。先程の高威力で放てば……。しかも、それ等がどれほどの多段攻撃になっているの!)
ちなみに、今羅列された状態異常は、表面上辛うじて認識出来たものだけ。過剰ともいえるそのバッドステータスの多さとえげつなさに、ソリュシャンは興奮を抑え切れなかった。奇しくも、手加減をする事で判明した主人の能力は苛烈極まりない。
「痺れます……」
「流石は至高の御方の一柱でありんす……アインズ様も一目を置く筈ですわぇ!」
常軌を逸したサディスティックさは、ソリュシャンとシャルティアを羨望させるには満点だったようだ。初めて、アバ・ドンの能力を目の当たりにした部下達は、その悪魔より悪魔的な攻撃に恐れおののき、そして尊敬した。
(なんということだ……。これほど
デミウルゴスは己の愚かさを反省し、更に一段階深く、至高の御方への忠誠を誓った。
強力な蟲系スキルを重点的に身に付け、それに合わせたステータス調整をした結果、アバ・ドンの能力はひどいものになった。
戦場を縦横無尽に駆け回り、強力な状態異常とバッドステータス系の効果をたっぷり詰め込んだ超多段攻撃をそこら中にばら撒きまくる。装備とスキルを組み合わせたガチガチの耐性に存在する、ほんの僅かな隙間を潜りこんでくるような攻撃。0.1%でも耐性が足りなければ、超多段ヒットによる数の暴力で付け込まれる。反撃しようとも、逃げようとも、脅威となるその瞬発力。
当然、対立ギルドからは蛇蝎の如く嫌われた。その大量の蟲を呼び出してはぶち撒ける攻撃も拍車をかけた。某匿名掲示板では、アンチスレがパート100を超える程の嫌われようである。だが、虫の傍迷惑さを煮詰めて昇華したような戦闘スタイルをアバ・ドンは気に入っていた。
「加減シテ、アノ状態異常……感服致シマシタ」
自分では認識が追い付かない程の有毒ぶりに、コキュートスは敬意を表した。コキュートスは、ふとエントマの反応も気になったので、確認してみる。
「……」
(黙シテ語ラヌカ……?)
エントマは無反応なまま、アバ・ドンを見つめ続けていた。その様子は、まさに釘付けと言う言葉が相応しかった。
「ナベちゃん、何か良い匂いしないっすか?」
「ナーベと伸ばして呼んでください、ルプー姉さん」
「……何の匂い?」
最初に異変に気づいたのはワーウルフのルプスレギナだった。周辺に甘ったるい香りが広がっている。嗅いだ事の無い不思議な匂いだ。
「何ヤラ甘イ匂イガ……?」
「ちょっと、誰でありんすか、香水振ったの……アルベド?」
「私じゃないわよ、こんな香りの香水持ってないもの」
「お、お姉ちゃん、この匂い分かる?毒じゃないけど……」
「分かんない。でも嫌いじゃないよ、この匂い」
プレアデスはおろか守護者達を以ってしても、その匂いの正体は分からなかった。これが無害である事は共通の見解だったが、念の為にその正体をソリュシャンが解析する。
「ぷっ……フフフ……」
「どうだったの?ソリュシャン」
急に噴出したソリュシャンを疑問に思いながらもユリは結果を尋ねた。
「フフ……だ、大丈夫です。この匂いは無害……フフ、ですから」
「?」
匂いの正体に、たまらず破顔する。
(どうしてぇ……?どうしてそんなに素敵なのぉ?私ぃ……メイドなのにぃ、あの御方のぉ……はうぅ)
それはエントマが生まれて初めて発した性フェロモンであった。だが、それを知る者はソリュシャンを除き、誰一人として居なかったと言う。
(うわー……ほんとアバ・ドンさんの攻撃だけは喰らいたくないわー……)
(そもそもの発端はアインズさんですけどね!じゃあ攻撃任せます)
(了解です)
「舞台は整いましたよ、アインズさん」
「ありがとう、ではせいぜい踊るとしよう」
尚、二人は未だ調子に乗っていた。
アインズは、使う魔法を単体型に限定し、一体一体それぞれに違う種類の魔法を使う。全ての魔法が異なる極彩色であり、虹を収束し、解き放っているかのようだ。
「前衛が動きを止め……」
「後衛が仕留める。雑魚狩りの基本だな」
今行使した攻撃全てが基本的かと言われれば首を傾げるところだが、ナザリックの面々からすればそんな事は些細な事であった。
アバ・ドンが敵を拘束し、アインズが、単体魔法で打ち抜く。最早作業とも言える光景だったが、熟練の技を感じさせるそのスムーズな流れの運び方は、闘技場の観客を魅了させるに足るものであった。
こうして、魔将が召喚した悪魔は、いともたやすく全滅した。
「至高の御方万歳!」
「アインズ・ウール・ゴウン万歳!」
ナザリック中のモンスター達による大喝采が、闘技場中に響き渡る。先程まで悪魔を召喚し続けていた魔将達も、偉大な御方へと最敬礼を送る。
二人がその場を去った後も、闘技場内は惜しみない称賛が飛び交い続けた。
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「……死にたい」
「踊るとしようってなんだよ……馬鹿じゃないのか俺……」
その後、円卓で精神を何度も沈静化しながら頭を抱えて突っ伏す二人の姿があった。
アバドンの能力当ててる人結構多かったですね(´ω`)