エントマは俺の嫁 ~異論は認めぬ~   作:雄愚衛門

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プロローグです。短め


プロローグ
人生の終わり


 体が動かない、いよいよもって俺もここまでか……。

 

 一面清潔なタイルで張り巡らされた集中治療室。清潔感はある。しかし、病院特有の息苦しさを感じる。まぁ、大元の原因は俺の体中に取り付けられたチューブの束だと思うが。そこで、俺の命は尽きようとしていた。

 

 何のことはない。ただただこのクソッタレな環境に体が適応出来なかった。ひ弱な体を、不治の病が蝕んでいただけのこと。

 

 とある研究員だった俺は、体の限界にも気がつかず、業務遂行中にブッ倒れた。医者が言うにはとうに手遅れだとか。医療機関はいっちょまえな癖して、それでも手遅れと言わしめるとは、俺の体は随分とボロボロになっていたらしい。

 

ああ、生まれてくるのが後100年も早ければもう少しマシな生活が出来ただろうに。

 

……悔やんでも仕方がない。まぁ、ろくすっぽ息もできず、ほとんどの生き物も死に絶えたこの世の中に悔いなんてものは一つもない。

 

あくまでこの世の中にだが……と言うわけで、例外も存在する。

 

 

DMMO-RPG ユグドラシルオンライン

 

 

 心の拠り所といっても良いゲームだ。世間一般で言うところ、俺はゲーム的な意味での廃人だ。生活費以外の金は、専らユグドラシルに費やしていた。

 

広大なフィールド、溢れる自然、膨大な謎解き。個性豊かなギルドの仲間達。俺の周りに無かった物が、そこには全てあった。

 

語りたい思い出は山程あるが、俺にはもう時間が無い。

 

突然だが、俺は虫が好きだった。小さいその体に宿した、計り知れぬ能力と、生物とは思えぬ機械的容姿。あー……昆虫採集とかしてみたかったなぁ……。

 

100年前に生まれてればと思う理由がまさにそれだ。

 

俺は昆虫採取をして、集めた昆虫を眺めたり、遠く未知の世界に旅立ち、新種を発見したいなんて憧れも抱いていた。無茶な話だが、俺自身が虫になってみたいという気持ちもあった。

 

だが、そんなささやかな趣味すら出来もしない世界が嫌だった。

 

さて、そんな願望を宿してゲーム中のキャラ作成に励み、ゲームも楽しんだ訳で、蟲人という、虫と人間を組み合わせたような異形種が、俺の第二の肉体であった。

 

名前は『アバ・ドン』

 

由来はヨハネ黙示録に登場する、(いなご)を操るあの悪魔だ。余計な点が入ってるのは名前被り対策だ、気にするな。

 

 奇しくも、俺はその『アバ・ドン』と共にその命を終えることとなる。何故ならば、ユグドラシルオンラインも12年続いた運営を終了することになったからだ。偶然にも、俺の死期とほぼ同じだと言うのだから、笑い話もいいところだな。

 

 昔どこかで聞いた、木に残った最後の葉っぱが散った時、自分の命も散るだとかいう話があったが、俺の場合はそれがユグドラシルオンラインだったという訳だ。実に2100年代らしい最期と言えるかもしれない。

 

せめて最期に一目、ギルメン達が作ったNPCを見たかった……。

 

るし★ふぁーさん考案のゴキブリ紳士、恐怖公。

 

武人建御雷(ぶじんたけみかずち)さん作、昆虫武人、コキュートス。

 

そして……源次郎さんが生み出した、アラクノイドのエントマ……。NPCと頭で理解していながら、俺の心を掻き立てたあの女の子……。叶うならば、嫁にしたかった。せっかく源次郎さんは説得出来たのに……。

 

間もなく今日の日付が変わる。その瞬間、俺もおさらばだ。気分的にだが。

 

残り1分前……30秒前……20……10……あ、意識飛んで…きた…。

マジで……終わりか……。

 

 

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