デレマス二次   作:(^q^)!

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十二話

 六月二十九日の土曜日。バイトは今日は休みで明日ある。今日は何しようかなんて考えた午前十一時。のあさんから連絡があった。夏コミのことで話がしたいとのことだったのでついでにお昼ご飯でもどうですかという話をすると了承された。

 

 ファミレスでのあさんと落ち合い、それぞれ適当なものを頼む。のあさんはハンバーグに洋食セットとドリンクバー。こちらはカツ丼と味噌汁とドリンクバーである。各々がジュースを取ってきてからのあさんは口を開いた。

 

「宣伝をしましょう」

 

「宣伝? いいと思いますけど、お金ないって言ってませんでしたか?」

 

 そう言うとのあさんは細かくそのプランを話し始めた。彼女が言う宣伝というのはどこかにポスターみたいなものを掲示したりラジオやテレビでコマーシャルを流すということではなくて、プロモーションビデオを作って動画サイトに掲載するというものだった。

当初はこのようなことをする予定はなかったのだが、先々週に内容を確認したのちにこれは宣伝しておいたほうがいいかもしれないと考え、のあさんが千川さんや佐藤さんに掛け合って説得を終えたのが昨日のことらしい。では早速PVを作ろうかというところでのあさんは躓いてしまったので俺に相談を持ちかけたということだった。

 

「ガオガイガーの宣伝用のPVですか……。うーん……」

 

 考えれば考える程に難しい。今回はノベルゲームという形で発表するがこれは本来はアニメーションだ。そのPVと考えれば普通は動画。OPの映像だとか戦闘シーンの生える部分を持ってくるのが普通なのではないだろうか。

 

 ただ、今回はノベルゲーム。静止画と文があるのみで動画なんてものはない。音楽その他もあるにはあるが、宣伝で使うとなるとどうしたらいいのか不明。

 

「動画として作るのはこちらでできるわ。部室には編集ソフトの入ったPCがある。後は……素材だけよ」

 

「とはいっても素材は荒木さんが書いた画像とか音楽とかキャラの声とかしかないですよ。キャラのセリフでかっこいいのを表示するのもできるかもしれませんけど、どうしてもPVにしては動きがない感じになっちゃうと思うんですけど」

 

「私もそう考えた。だから、あなたなのよ」

 

 そう言うとのあさんはこちらをじっと見つめた。その視線の意味はよくわからなかったが、彼女がこちらに何らかの期待をしているのだろうとは感じ取れる。そんな風に見られたって出来ないものはしょうがない。

 

 現在あるもので何ができるかといえばMADじみた物をPVですと言い張るくらいだろうか。MADなんて作ったこともないのでその辺はのあさんに任せるしかないのだが、そののあさんがそもそもどうしようかと相談してきている。どうしようか。

 

 やりようによっては静止画と音楽を合わせていい具合にPVを作れるのかもしれない。エロゲーとかのOPは作中の背景画像とかキャラクターの立ち絵を組み合わせたものが多いわけだし、そういう風に作ることができればいいのかもしれないが、俺には到底無理である。そもそも画像だって荒木さん自身の作業の合間に描いてもらったものだからちゃんとした売り物ほどに差分の画像があるというわけでもない。

 

 宣伝効果の高そうなPV。買いたいと思わせるにはどうしたらいいか。難しいものだ。ただ、何を宣伝すればいいのかということはもう考えてある。ガオガイガーの強みは何かという部分を強調すればいいのだ。つまりは勇気だのロボットだのを強調してそれっぽい感じにしたらいい。

 

 PVを最後まで見てもらえるなら、それだけの興味が引けたなら宣伝として十分なのではないだろうか。

 

 最後まで見たくなるようなPV……MAD。

 

「ハッ!」

 

 手を組んで考えていたが妙案が浮かびバッと立ち上がりまた同じ姿勢に戻る。

 

「っ!?」

 

 いいのが思いついた。そして、ちょうどいい。さっそくのあさんに確認をとる。

 

「のあさん、確か軍服がいくつか部室にあるって言ってましたよね」

 

「え、ええ、あるわ。それよりどうかしたの?」

 

 どうかした? 何の話だ?

 

「いい案が思いつきました」

 

 そういうとのあさんは困惑した顔からキリッとした顔になった。話を聞かせてもらいましょうかと真面目な表情をした俺たちだったがしかしそれは中断されてしまう。

 

「ハンバーグと洋風セットのお客様~」

 

「アッハイ」

 

 注文した料理が来てしまったのでもそもそとそれを食べ、一息ついたところでちゃんとした説明を始める。

 

「実写部分と静止画部分を使ったPVを作りましょう」

 

「……実写? 静止画部分というのはゲームのものを使う、というのはわかるわ。実写というのはどうするの?」

 

「素直に静止画部分だけで作ってもこっちは素人なんで見れるような物を作るのだって難しいと思います。そこで、それっぽくゲームを紹介する実写部分と静止画部分をかっこよく組み合わせましょう」

 

 俺がそう言うとのあさんは何か考えるように口元に手を当てている。その顔はあまり乗り気でないように見えた。

 

「……実写、というのはどういうものにするの?」

 

 のあさんを説得しなければ俺の思いついた案を押し通すことは難しいだろう。スマホの中から、とある一つの曲を見つける。それをちらっと見て、かつて見たあの光景を思い出す。

 

 大丈夫、きっとやれる。あのドキドキ感には届かないかもしれないが、あのOPやそれを題材にしたMADはいくつも見てきたのだ。

 

 “ZERO”とだけ書いてある曲名。Mission18-ZERO-、そこで流れるBGMにしてACE COMBAT ZEROというゲームのOPに流れる曲でもある。そのOPをなんちゃってで再現するという計画をのあさんに話し始めた。

 

 

 

 仕事をしている最中にとあることに気が付いた。無い。ファッション誌に送る予定の写真がない。

 

 撮った写真のうち、NGの物を弾いて使える写真を纏めておいたはずだが今手元にはNGにした写真のほうだけがある。OKの写真をどこへやってしまったか思いだしているとそういえばと思い当たる節があった。

 

 彼。昨日からアルバイトに来た青年に渡したはずだ。事務に持って行ってほしい書類をまとめて渡したときに紛れ込んでしまったのだろう。写真などを捨てる場合にはシュレッダーにかけるので紛れ込んでいた場合には取り置いてあるはずだ。

普段であれば写真のデータを送ればいい仕事も、今回は先方の要望で現像した写真を送らなくてはならない。社内の設備を使えば新しく写真を現像できるが、気分転換に事務室まで写真を取りに行くことにした。

 

 椅子から立ち上がって事務室に向かう途中に時計を見るともう八時になっていた。今日残っている仕事は写真を先方に送ること、そしてその写真のキャッチコピーを考えることだ。自分の考案したそれがそのまま使われるということは多くはないが、先方もこちらの意向をある程度くみとって雑誌に載せたりするらしいのでそのために写真ごとに何らかの文言をつけなくてはいけない。

都合がいいと思った。事務に紛れ込んだ場合に、その写真のキャッチコピーを事務員の方々が考えていてくれることがあると先輩から聞いていた。グループ名を考えることは苦にならないのだが、キャッチコピーだとかそういうインパクトのあるものを考えるのはあまり得意ではなかった。彼女たちに話を聞いてみれば早く仕事が終わるだろう。

 

 歩きながら彼について考える。この会社にいる男性は自分含めて二人。自分が入社した時に涙を流して喜んでいた今西部長を見て、彼が定年退職したら自分はひとりなんだと強い印象を受けた覚えがある。何としても、彼を入社させなければならない。

 

 都合よく、彼はアイドルのプロデューサーを目指しているという。二年後、ちょうど彼が大学を卒業したその年にスタートする予定だったプロジェクトがある。彼を大学一年の今に捕まえることができたのは幸運だった。どこの会社にも取られないように今から囲い込む。その計画の第一段階として自社の名刺を渡した。あれを持っているということの意味がわからないような人物はいないだろう。

 

 入社後に教える予定の仕事の内のいくつかをすでに教えているのもそれが理由だ。どうあっても入社させる予定の人物であれば今のうちから仕事を教えることに何の不都合があるだろうか。

 

 事務室につくと彼の教育係を務めていた社員が残っていた。

 

「すみません、武内です」

 

 声をかけて用件を伝えると事務員は書類を取りに行ったようだった。それから少しして戻ってきた彼女は浮かない表情をしている。どうかしたのだろうか。まさか、写真をもう処分してしまったのだろうか。

 

「ええっと、これがたぶんその写真なんだけど……」

 

 差し出されたそれはまさしく自分が探していたものである。見たところ無事だが、何か不手際があったのだろうか。

 

「なにか問題でもありましたか?」

 

「うーん、その、私たちが普段やってる息抜きというか遊びというか」

 

 もごもごと口ごもっている彼女の様子は決まりが悪いという調子だ。まあ彼女たちのやっているキャッチコピーをつけるという行為は業務にまじめではないと受け止められてもおかしくないものであることは間違いない。本来の彼女たちの業務から外れた行為であるし、それを息抜きでやっているということも知っている。

だからといってそれをことごとく禁止するのはさすがに厳しいだろうとは思う。それを自分に言うことで発生する可能性のあるデメリットから、はっきりとした物言いができないのだろうと推測ができた。

 

「存じています。実はそのキャッチコピーを今回の参考にしようと思っているのでお聞かせ願えませんか?」

 

「ほ、本当? 今回は私たちも感嘆したスゴイのがあるのよ。ただ、その、それを写真の裏にボールペンで書いてしまったみたいで……」

 

「そうですか。写真は新しく現像すればいいだけなので、そのキャッチコピーを見せてもらえませんか?」

 

 事務員はそれを聞いて安心した様子で写真を手渡してきた。

 

 それを見た時の衝撃はなんと言えばいいのだろう。雷に打たれたような強烈なインパクトがあった。写真に写る彼女は先程まで自分がパソコンの画面越しに見ていたそれと同じとはとても思えないようになっていた。カッコよさ、いや、カリスマと呼ぶべきか。今の彼女を表現するにはそれ以上の言葉はない。力強い言葉。キャッチコピーとして彼女を映えさせるにはこれこそが最適である。

もちろんそれは彼女の写真、ビジュアルがあってこそのモノだ。言葉だけが強くてはこれほどの衝撃は受けなかっただろう。写真に釣り合う言葉、言葉に負けない写真。螺旋の如く絡み合い、相互に高め合い、相乗するエネルギーは衝撃となってこちらに訴えかける。

 

「私のお勧めは“何時(いつ)でも来な。クレバーに抱きしめてやるよ”ってやつかしらね。溢れるカリスマ性と野性味というか、彼女の力強さを感じることができるわ」

 

「こ、これはどなたが考案したのですか?」

 

 これほどの才能溢れるものを自分は初めて見た。この胸の内に渦巻く感情はなんだろう。ただただ、カッコイイというものを追求した文言がコレであると言われれば納得してしまう。そんなエネルギーがあった。

 

 それを生み出した人物を、純粋に知りたいと思った。彼女は今回の写真とそのキャッチコピーでたくさんいるモデルの一人という評価から抜きんでた存在になることだろう。JC達のカリスマと呼ばれる未来さえ幻視できる。

 

「え? ああ、それ考えたのはバイト君よ。あの子が写真を見つけてから全ての写真にサッと書いてたわ」

 

「……それは、本当ですか?」

 

「ええ、数分もかからずにササッと書いてたわ」

 

 彼を逃がせない理由と正当性ができた。そんな風に熱に浮かされたような頭で考えることができたのは幸いである。




ZEROについては嫁のメシがまずいとかで有名なんで説明不要かと思います

本家アイマスのMADもあるので興味がある方は見てみることをお勧めします

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