黎人が金魚を狩りまくる。
黎人「狩ってねぇよ」
祭りというのは楽しく賑わうものであり、普段仕事で疲れを人一倍感じている人も、祭りの時は思いっきり楽しむ。そうして明日のためのエネルギーにしている者もいるだろう。祭りに参加するのであれば、それを楽しまなければ損と言うものである。
「さぁ、行きましょう」
守矢神社に住む一行も、これから祭りに向かおうとしている。巫女であろうとも軍人であろうとも、楽しみたいと思えば参加するのに充分な資格になる。そう、資格にはなるのだが…
「あの、惣一さん…その格好は…」
「万が一の事態が生じた時に、戦闘服と戦闘用の小道具が入ったバッグです。それと鉄砲とナイフを一丁ずつ…」
「置いてきてください!」
あまり持ってきてほしく無い物はある。惣一が持って行こうとしているそれは、バッチリその部類だ。
「い、いや…襲撃とかあった時に充分な武器が無いと対抗出来ませんし…」
「銃とナイフを両手に持っている完全装備の人が夏祭りの会場で歩いていると、周りに不安をぶちまけることになるでしょう!」
「そ、それでは…いったいどうしたら…」
「だから持ってこないで下さい!せめてバッグの中に入れるとか!ていうかスキマポケットはどうしたんですか!」
「中に爆弾が入ってるので出来れば小道具は入れたく無いです」
「なぜ次から次に使いにくくするんですか!?」
惣一と早苗の言い合い(惣一が一方的に責められている)が山に響き、妖怪の山に住む天狗や河童は、一体どうしたんだろうかと気になってしまう。
惣一は、どうしても万が一の事態を警戒してしまう。襲撃は、いつどこで起こるかは分からない。むしろ、このようなイベントが起こって、人々の警戒心が弱まった時は狙われやすい。だから、心配でしょうがないのだ。
常に警戒を怠らない、という事は間違ってはいない。流石にGARDに居ただけあって、油断することの危険性を認識している。だがそれを警戒し、その対処のために物騒なものを持ち歩いていると、周りの人たちを必要以上に不安にさせる。
この辺が、惣一の欠点だ。戦場ではかなり頼りになる男だが、それ以外では結構抜けている。そこの部分を早苗がフォローするのだが、精神的に来るものがありそうだ。
◇
結局のところ、武器は最小限に留め、その武器はバッグの奥深くに入れることにした。それだと取り出しにくくなる、という惣一の言い分は無視する。
「さぁ惣一、折角だし楽しもうじゃ無いか」
「神奈子の言う通りだよ。惣一くんは結構働き尽くしなんだから、こういう所でしっかりと羽を伸ばしておかないと」
神奈子と諏訪子は、未だに不安が残っている惣一を宥める。折角の夏祭りなのだから、しっかり楽しまないともったい無いと言うのだ。
「う、むむ…分かり、ました…不安ですが…」
「だから惣一さんは気張りすぎです!万が一は万が一ですから、気にしすぎるとダメですよ。何かあれば私も対応しますし、惣一さんならその武器だけでも戦えますから」
「…早苗さんがそう言うのでしたら、それに従います。それでは、行きましょうか」
惣一は漸く観念し、早苗たちと一緒に人里に向かうのだった。
◇
惣一たちがつく頃には、夏祭りはかなりと言っていいほど賑わっている。その賑わっている様子から、これぞ夏祭り、と思う人もいるかもしれない。
「それじゃ、私と諏訪子はあっちの方に行ってるから、早苗は惣一と回っておいで」
「神奈子さま⁉︎良いんですか⁈」
「だいじょーぶだよ、早苗。滅多に無い機会だし、2人で楽しんでおいで」
着いた先で神奈子が言った言葉に、早苗は意表を突かれた。こういうイベントは3人で行動するのが基本だったので、別行動を提案されるとは思っても無かったのである。
しかし今回、神奈子と諏訪子は早苗と別行動にしようと決めていた。2人は早苗の、惣一に対する気持ちを知っている。だから、2人っきりにしてやろうと思った。神奈子と諏訪子にとって、早苗は子ども同然なのだ。だから、早苗が幸せになる為のことは惜しんだらしない。
「私は早苗さんと、ですか…そうですね。私も早苗さんと一緒に回ってみたいです。色々とお世話になってますし」
「…しょうがないですね。それじゃあ行きましょう、惣一さん。神奈子さま、諏訪子さま、また後で」
「おう、頑張れよ」
「じゃあね〜」
こうして、彼女らは2つに分かれた。恐らく神奈子らは、出店の飯を食べたりするつもりなのだろう。しかし、ありがたいのは事実なので、2人に感謝しつつ、惣一と回るのであった。
なお、2人は出店になど行く訳じゃなく、別れた後uターンして2人の様子を影から見ることにしているのは別の話である。
◇
「それじゃ惣一さん、何をしますか?」
「そうですね…」
暫く歩き回り、2人は何をしようか考える。こうして考えながら歩き回るのも祭りの醍醐味、と早苗は考える。
「ヘイ、ニイちゃんネエちゃん。良かったら食べてかない?」
すると出店の人から、声をかけられた。その声に応え、早苗と惣一は屋台の人に近づく。
「野菜炒め、ですか…なかなか珍しいですね」
「まぁな、大抵は焼きそばとかにするが、野菜だけの一品も偶には良いだろう。で、食べるのかい?」
「そうですね。折角ですし、いただきます」
「毎度あり、2人前だね」
その店は珍しく、野菜炒めを出していた。何となく祭りっぽくは無いので野菜炒めを出そうとする店は少ない。
惣一と早苗はその店から、野菜炒めを1つずつ注文する。注文を受けた店の人は、あっという間に野菜炒めを作り出し、2人に出した。
2人は出された料理を手に取り、一口頬張る。その後、2人は驚愕の表情を浮かべた。
「…!美味しい!」
「…これは、ただの野菜ではありませんね」
「おう、ニイちゃん分かってるねぇ。これはバアさんが畑で作った特製の野菜だ。ほんの少し調味料を加えるだけでも全然違うだろう?」
そう、野菜の味がしっかりしているのだ。噛んだ時の食感、噛み応え、水分から、惣一は野菜が上等のものであると分かった。
「…奥さまは、畑で仕事を?」
「うんにゃ、ただの趣味だとよ。やってみたいからって事で慧音先生に頼んで畑を借りる始末だ。バアさんはやると言ったら聞かなくてね。まさか本当に畑を持っちまうとは思っても無かったよ」
どうやら、店の人の妻は、慧音から畑を貰ったようだ。そこまでして野菜を取ろうとする人は居ないだろう。なかなか肝の座った人だ。
「宜しければ、お会いすることできますか?」
「バアさんに会うのかい?だったら俺の家に来なよ。もてなしの料理を作って、歓迎するからよ」
惣一は、その人に興味を持ったようだ。店の人から家の場所を聞く。後ほど、その野菜を作った人に会うことだろう。
◇
「まさか…あのような野菜が作れる人がいるとは…まだまだ世界は広いですね」
先ほどの店に行き、惣一は感銘を受けていた。彼も農作業に興味を持っており、外の世界でもこの幻想郷でも少し齧っていた。かなりの年数が経っているため、今となってはかなり上等なものが出来ていると思っていたが、先ほどの店の人が出した料理で使われた野菜はそんなものを軽々と乗り越える物だった。まだまだ世界は広い。惣一はその言葉を改めて実感した。
「今度色々と試してみたいですね。もし野菜の味が上がれば、皆さんがもっと喜ばせれますし…奥さんと話してみますか。諏訪子さんにも協力をお願いして…」
1人でブツブツ言っている。よほどその野菜の味に感動したのだろう。もっと腕を上げて、あの野菜が作れるようになれば、自分を世話している人らにもっと貢献したい。その思いで満たされていた。
「…惣一さん、次どうします?」
早苗から声をかけられた。それを聞いて惣一も、今度はどの店に行こうか、と考える。
「…?アレは…?」
すると惣一が何かを見て驚きの表情を浮かべた。彼の目の先には、道の真ん中で泣いている1人の子どもがいた。惣一に言われて早苗も気づき、その男の子に気付いた。
「えっと…どうしました?」
「…、ママと逸れた」
その男の子は迷子のようだった。一緒にいた母親と逸れ、寂しくて泣いていたのか、と分かった。
「お母さんと逸れたのですか…分かりました。一緒に探しましょう」
「…お兄ちゃんたち、一緒に探してくれるの?」
「ええ、任せて下さい」
惣一はその子を肩に乗せて歩き出した。高いところからだと見つけやすいだろう。そう思い、肩車して探すことにしたのだ。
そんな惣一の姿を、複雑そうな顔で見ている人の存在を、惣一は知る由もなかった。
◇
「本当にありがとうございます。なんてお礼を言ったら…」
「いえ、見つかって良かったです」
暫くしてその子の親を見つけることが出来た。子どもは親に抱きついて泣いている。その子を撫でながら、母親は感謝の気持ちを込めてお礼を言っていた。
その母親はお礼を言いながらも、自分の子どもが見つかったことに安堵の笑みを浮かべている。今まで必死になって探していたのだろう。見つかった時には堪らず泣きそうになった。実際に泣いたりはしてないが、潤んでいる目がそれを示している。
「それでは、私たちはこれで」
「あ、ありがとうございました!」
「お兄ちゃん、ありがとう!」
惣一はその親子と別れた。彼に手を振る親子はとても良い笑顔になっていた。
惣一はそれに達成感を覚えていた。人を救う、とは悲しんでいる人を笑顔にすること、と彼は思っている。だから笑顔にさせることが、彼が信念となっている。そして今回も1人笑顔にする事が出来た。
今日は義務が果たせた。惣一はそう思った。
「………」
「…?どうしました、早苗さん?」
そこで、早苗の表情が曇っていることに気付いた惣一は、調子が悪いのかと思い、どうしたかと尋ねる。
「……惣一さん、酷いです」
「…………はい?」
それに対する早苗の答えが、あまりに予想外だったからなのか、怪訝な顔をしている。それが更に早苗を苛立たせていることになってるが、彼は気づいていなかった。
「何かあると、いつも仕事か畑のことばかりじゃないですか。畑も趣味と言うよりは使命という感じですし」
「あ…いや、使命とかでは無くて、私がやりたいのでやってるだけですよ。皆さんが喜んで貰えたらいいな、てだけでして…」
早苗が少し怒っていると漸く分かった惣一は、早苗の言ってることに対してそんなことないと言うが、それは早苗の言ってる事の反論になっていない。
「…分かってますよ。私たちのためにやってるって事ぐらいは。惣一さんの作った野菜はとても美味しいですし、食費も若干浮きますから助かっています。
惣一さんは、誰かのためにという理由で動くことばかりです。戦うのは、人里の脅威を払拭するため、農作業するのは、いざという時に食材を用意するため…この祭りに来たのは、誘って来た私に応えるためですよね。惣一さんは誰かの為に行動できる、本当に優しい人です」
早苗の言葉に、惣一は返す言葉を失った。それだけ早苗の言ってる事が的を得ていたことを物語っている。
誰かに喜んでもらう、と言うのは確かに使命ではないのかもしれない。しかし他人のためであることに変わらない。
惣一は、他人のためしか動かない。他人が喜ぶこと、他人が助かること、他人が得すること…惣一のその行動は、尊重できるものだ。早苗の言っている通り、それだけ惣一が優しいと言うことを示している。
逆に、他の誰でもない、自分のために動くことは無い。小さい頃から、他人の為に動く父親に憧れ、他人に徹する事を美徳としている彼は、自分の好きな事をする事はない。そもそも考えた事すらない。
「でも…偶には自分のやりたい事をして欲しいんです。我儘言ってくれないと…好きな事を言ってくれないと…一緒に楽しみづらいです」
早苗は辛いのだ。惣一と
惣一に無理難題を言ってるのは分かっている。だが言わずにはいられなかった。もっと楽しめることをしてほしい。もっと我儘言ってほしい。…もっと、親しくしてほしいと。それが、彼女の我儘だった。
惣一はそれに返せなかった。自分のやりたい事を言うのは難しくも無いが、彼には難しいことだ。
それを言ったとして、そしてその通りに事が進んだとして、彼は本心で楽しめるかどうかは分からない。気を使うかもしれない。申し訳なく思うかもしれない。それを考えてしまうから言えなくなるのだが、どうしてもそう思ってしまう。
「どいたどいたどいた、どいたぁぁぁ!」
重くなっていくその空気をぶち壊すかのような大声が発せられ、不意をつかれた彼らは肩を震わせ、その声の主を見た。その声の主は何やら大量の荷物を運んでいる。運ぶ姿と大声に力強さを感じるその男を、惣一は知っていた。
「……刃燗さん?」
そう、刃燗だ。惣一は博麗神社に彼が住み着いている事を知っていたので、黎人や霊夢が側にいない事に違和感を感じた。
「ん?おお、惣一さんじゃないですか!」
「お久しぶりです。刃燗さんは一体何をしているんですか?」
「えっとすね…椅子とかを運んでるんっすよ。もう直ぐ行われるイベントの為に」
言われてみると、刃燗が運んでいるのは椅子だった。木だけで出来たような簡単な構造の椅子である。それを箱に詰めて運んでいるのだ。
「もう直ぐ行われるイベントって…ひょっとして舞の事ですか?」
「そうっす。予めある程度の席は用意してあったんすけど、大半の席は埋まったようなので、補充として霖之助さんのところから椅子を貰ったんですよ」
刃燗の説明を聞いて、惣一は納得の表情を浮かべた。彼も舞のことは、文から大体は聞いていた。その意図も、ある程度は聞いている。彼らもその舞を見る予定なのだ。
「そんなに忙しいのでしたら、わたしも手伝うのですが…」
「そっすか!あ、それでしたら…」
刃燗はそれに応えようとして、止めた。
「あ〜…良いっす。ピンチってわけでも無いので」
「いやしかし…」
「良いっすから、夏祭り楽しみに来たんすよね。だったら思いっきり楽しんで下さい。じゃないと勿体無いっすから」
そう言って刃燗は荷物を持って何処かへ行ってしまった。
(ひょっとして、刃燗さんに気を使わされた?)
早苗の考えたことは、的中だ。刃燗は話している途中で、早苗に気付き、彼らの現状を把握した。そんな時に惣一に手伝いを要求すれば、早苗にとってつまらない事になるだろうと思い、彼に手伝わせるのをやめたのだ。
またもや誰かの手伝いをしようとする惣一の様子に、若干怒りかけたのがバレたのだろうか。そう思うと恥ずかしくなってしまう。赤の他人にハッキリと分かるような表情をしてたのか、と思うと更に恥ずかしい。
「早苗さん」
そんな彼女に、惣一が話しかけて来た。優しくもあり、真剣な声。いつも彼女が聞いている、惣一の声に他ならなかった。
「先ほどの話ですが…やはり私は、誰かの為に動くと思います」
その言葉は、先ほど途切れた話の返答だった。その答えは、やはり早苗の望むものではなかった。
やはり彼は、人の為に動くというのだ。自分では無く、他人が喜ぶ事の為に戦う。我儘など言わず、他人の望むことをする。
「自分のしたい事をする、と言うのは当たり前に出来る事なのかもしれません。でも私には…他人を蔑ろにして自分のしたい事をする事は出来ません」
早苗は、もう言及したりはしなかった。そう語る彼の目が、余りにも真っ直ぐだったから。惣一は自分の欲求を言うことはない。何処までも他人の為に動こうとするだろう。
そう思うと、寂しい。彼と心から楽しみあえる事は、ここから先無いのかもしれない。彼女の理想としている関係にはなれないかもしれない。
「私は、何が何でも誰かの為に動きます。それが、私の我儘です」
早苗は落胆した。この男は、どうしてこうも真面目なのだろうか。どうしてこうも融通が利かないのだろうか。義理や義務さえ捨ててしまえば、もっと楽しく過ごせるのに…
ーーああ、でもしかし…そんな堅物な彼だからこそ、私は彼を好きになれたのだろう…
◆
ある街で、少女は家族を失った。宝石を盗んだ泥棒に問い詰めた時、父も母も殺された。
犯人の疑いを向けられた男は、彼女を人質にした。彼女は為すすべなく捕まった。彼女の心には、親を亡くした事の絶望、命を失うかもしれないという恐怖…もう既に、希望なんてものは無かった。
そんな時、奇跡が起きた。
ある男によって泥棒はあっという間に捕まり、彼女は救出された。悲しみに染まった彼女に、その男は言った。
『自分に、絶望しないでください』
少女は、その言葉に救われた。その言葉によって、自分の未来に絶望する事はしなかった。少女は八坂 神奈子に引き取られ、守谷神社の巫女として生きる事にした。
◆
早苗は幻想郷に来てから暫く長い期間が経った。彼女自身が起こした異変が終わり、その後も次から次に新たな異変を経験した。彼女はその経験を通して、幻想郷では常識に囚われてはならない、という事を学んだ。
ある日、早苗が守谷神社の掃除をしている時、八雲 紫が訪れて来た。
「あ、こんにちは。どうしました?」
「こんにちは、早苗。今回は1人外来人を連れて来たのよ」
「へぇ、どのような人ですか?」
「ふふ、あなたの知ってる人よ」
愉快そうに笑いながら、紫は隙間から1人の男をスキマから出した。
「え…⁉︎この人って…」
紫の言った通り、その男の事を早苗は知っていた。その男は、彼女が外にいた時の恩人だから。
「昔のことは神奈子から聞いてるわよ。外でこの男に救われたんですってね」
「え、ええ…でも、なんでこの人が…」
「今から話すわ」
八雲 紫は語り始めた。外の世界にGARDという軍事組織が存在していること、惣一はそのGARDの一員であること、そして…惣一は、GARDに裏切られたということを。
「……ひどい」
早苗はそうとしか言えなかった。惣一の優しさは外の世界にいる時から分かっていた。そんな彼がGARDになぜ裏切られなければならないのか…
「権力欲しさってところよ…人間って不思議よね。欲に塗れると、あんなにも醜くなるのだから。
でもこの男はそんな男たちよりも比べものにならないほど狂ってるわ」
早苗は、紫の言っていたことの意味が分からず、首輪傾げた。
「裏切られたら、普通なら絶望するわよ。まして、今まで信じて来た者からなんて考えられないわ。でもこの男はそんな事しなかった。この男、私が此処に連れて来る途中になんて言ったと思う?
『まだ、戦いたい』って言ったのよ?裏切られても、それでも人を救いたいと思っているの。大器と言うよりも、狂気よね。この男の心は狂っているわ。
だからこの男を連れて来たわ。外の世界で受け入れられなかったこの男でも、この幻想郷は受け入れる。そして、あなたがこの男を支えるのには適任よ」
紫は早苗に扇子を閉じて早苗にビシッと突きつける。紫の目は意見を言うのを認めなかった。
「この男はあなたが受け入れなさい。かつて外で彼に救われたように、あなたが彼を救うのよ。この男は…幻想郷の柱となる存在なのだから」
早苗も異論を唱えたりはしなかった。むしろそれを望んでいた。外で悲しい出来事にあった彼を、今度は自分が癒したいと思った。早苗は彼を支える決心をした。
◇
そうして彼が目覚め、彼と共に暮らす事にした。この幻想郷についての話もしたし、外の世界の話もした。
一緒に暮らす上でも色々と話し合った。彼の使う武器の調達、管理についても話し合ったし、彼の趣味が農作業だと知り、にとりと協力して畑を作った。彼がかなり料理下手だと知り、彼を厨房に立たせてはいけないと思い知った。
強い妖怪が現れた時、惣一は彼女を助けてくれた。彼女1人ではどうしようもならない強敵相手でも、惣一の協力のおかげで倒すことが出来た。
気づけば、彼に恋をしていた。
いつから、と言うのは覚えていない。本当に、気がついたらそうなっていた、と言う感じだった。何処に惹かれたか、と言われると多すぎて答えられない。優しかったり、真面目だったり、早苗を助けてくれたり、ときに堅物で融通が利かなかったり…ともかく、惣一が好きになった。
惣一と相思相愛になりたい…とはいかなくても、惣一にはもっと楽しんでもらいたいとは思った。だがそれは無理難題だと知った。彼自身が楽しもうとしないのなら、それは不可能だ。
望みが達成できない事を知り、早苗は悔しいと感じる。悲しんでいる、と言うことさえも、惣一は分からないのだろう。
「もう、しょうがないですね。惣一さんは」
けれども、やっぱり彼女は惣一のことを心から愛していて、惣一の言うことに納得してしまうのだ。
日常回の中で恐らく一番長いです。最後なんか集中力保つの大変やった…
惣一は見ての通り真面目な人です。何処までも仕事のことしか目にないタイプです。早苗さんが大変や。
次は魏音編となります。荒くれ者の彼が夏祭りの場でどのような事をするのでしょうか。