東方羅戦録〜世界を失った男が思うのは〜   作:黒尾の狼牙

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前回のあらすじ
黎人の雰囲気と実力がかなり変化した。
黎人「ヒャッハー汚物は消毒だァァ!」
リヴァル「くっ…今までとは全く違う…」
霊夢「……そうかしら?」(『金塊』の黎人を思い浮かべてる)


82 終わりの合図

巨大な爆発が突然起こり、その様子が詳しくは見れない。だが、今までの流れからすると黎人が優勢だろうと霊夢らは悟った。

どうして急に黎人が有利になったのか、と言うのは分からない。寧ろ、自分らが知りたい事だ。特に霊夢は、黎人の変容が心配でしょうがなかった。彼女から見ると、もはや別人にしか見えなかった。

 

やがて、爆炎の中から1人の男が現れた。やはり、黎人であった。

 

「黎人…」

 

再び見ると、やはり黎人だった。姿も顔も、紛れもなく黎人であった。だがやっぱり、黎人とは到底思えなかった。もはや、別人だ。

 

「……ん?」

 

そして、黎人が彼女らに気づいた。彼が気づいた瞬間、霊夢の足が一歩下がる。

 

「ああ、いたな。確か霊夢と…魏音と…誰だ?」

「…輝月です。翔聖と同じ、異世界の幻想郷から来ました」

「翔聖…あぁ、さっき弾幕を止めた男か。だとしたら納得だ」

 

黎人の台詞から察するに、自分らの名前くらいは把握しているようだ。しかし、輝月に対しての会話からすると、まるで翔聖について別の人から聞いたような感じだった。

 

「ホントに…本当に、黎人なの…?」

「ハッ、当たり前だろ霊夢。何なら近くに来て確かめるか?心配せず来いよ。テメェには手出ししねぇから」

 

やはり可笑しい。いつもの黎人ではない。少なくともそんな怖い雰囲気を出したりはしない。その男が言うように近づけば、殺られると勘で分かった。

 

 

 

「あぁ…いや、後にしようか。それどころじゃねぇみてぇだな」

 

 

 

突然、黎人が顔の向きを変えた。それに倣って黎人の見る方を見ると、大怪我をしながらリヴァルが立っていた。

 

 

「…たまげたな。まだ立つのか?…ああそうか。自然治癒力なら動くだけの体は出来るか」

 

まだ立とうとするリヴァルを見て、口では感心そうに、顔では呆れて言った。さっきのをくらってまだ立つとは、思っても無かったのだろう。

 

「…当たり…前だ…この程度で…終わらない…

俺を…誰だと…思ってる……数々の不可能を…可能にしてきた…男だ…

そんな男が…貴様らに…負けてたまるか、クズがぁぁぁ!」

 

最後にリヴァルが叫んで凄まじい怒気が溢れる。ここまで自分を追いつめられ、ズタズタになった彼のプライド。彼はそれに対する怒りだけで立っているのだ。流石の執念、とも言えるだろう。しかしそれは、余りにも虚しいものである。

 

「俺の研究に終わりはない!貴様らが滅ぶまで進化し続ける!俺を殺し損ねた事を後悔するがいい!この力で俺はさらなる成長を…うっ…!?」

 

 

 

《ドギュン!》

 

彼の体が突然、変化した。体にヒビが生え、殻が剥がれるかのように肌が崩れ始める。

 

「…?な…何だ、コレは…」

 

突然変化し出したリヴァルに、黎人もさすがに驚きを隠せなかった。

 

「な…何…!?ぐ…ぐあああああああああ!!!」

 

苦しい声が上がる。その声の主は、リヴァルだった。彼は、今までの中で最も強烈な痛みを感じた。

 

「ああぁぁ!痛い…!痛い痛い…!何故だ…話が違う…!再生してすぐ戻るはず…ぐあああああああああぁぁぁぁ!!」

 

「な…何が起きてるんですか?」

「…!?」

 

輝月も魏音も怪訝な顔をしている。リヴァルでさえ想定してない事態に、誰もが不気味に思い始める。

 

「…アレは…呪いの一種…⁉︎」

「呪いですって…?」

「よく分かんないけど、呪い…特に怨念という奴よ。恐らくは今まで彼の研究のために犠牲になった者たちの…怨念の塊…」

 

霊夢が説明している間にも、彼の体のヒビは段々と酷くなっていき、体全体がボロボロになってるかのように見えた。

 

そして、彼の足元が黒くなった。闇のような黒さを持つそれは、彼の下で円状に浮かび上がる。

 

「グゥゥ…ヌァァ…ガァァァァ!!」

 

リヴァルは徐々に足から黒く覆われていく。ヒビが入って浮き上がった肌をどんどんと剥がしていく。足が完全に黒くなり、その足を動かす事が出来なかった。

 

 

 

 

「…何だ?この妙な声は。さっきからボソボソとは聞こえてたが」

 

黎人の台詞を聞いて、一同は耳をすます。すると…

 

 

 

 

『カエ…セ……』

『カエセ………』

『オレタチノ…イノチヲ…』

『イノチヲ…』

『…ヨコセ……』

『オマエノ…イノチヲ…』

『ヨコセェェ…』

 

 

確かに、聞こえた。霊夢が言った通り、リヴァルの研究によって犠牲になった者たちの怨念であるがゆえ、その者たちの声が響くのだ。

 

 

 

「ぐ…ぐあっっく!!何が…何が不満だ!無価値な貴様らを、利用することで価値ある者にした!それのどこが不満なんだ!縋ることでしか生きられない凡俗どもが!」

 

 

その声は、当然リヴァルにも聞こえた。その声の主は、自分の研究のために犠牲になった者たちであることは直ぐに分かった。

理解しながらも、彼の体はどんどんと蝕まれていく。闇は彼の腹まで侵食していた。激痛を感じている彼も段々と、下半身の感覚が薄れていった。

 

 

「他人など、利用するためにある者だ!他人を利用しないと生きることはできない!自分で動かなければ、死しか来ない!貴様らはそれを分からないから誰かを頼りにする!そんな阿呆など、利用されて当然ではないか!」

 

 

幼き頃から、他人は利用する者だった。父も母も兄弟も、全てを見殺しにしてきた。生きる為にするべき事がそれしか無かったから。

 

 

「俺は全人類の中で最高の部類だ!俺の研究は至高の一作だ!その為に貴様らが役立つのならば、光栄ではないか!」

 

 

研究分野では、彼の右に出る者はいなかった。その才能はGARDでもトップだった。だからこそ、彼は数々の偉業を成し遂げた。だがそれは、一瞬にして消え去った。凡俗な人間によって邪魔された。

 

 

「あと一歩…あと一歩で完成だった…なのに!最後まで貴様らは邪魔をする!俺の野望は、なぜ達成されない!なぜ誰も理解しない!」

 

 

リヴァルはこの幻想郷を滅ぼす一歩手前まで来た。だが、黎人らに止められた。

 

もう一歩…あと1歩で彼の野望は潰された。

 

 

 

 

 

「何故だァ!何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何が…いけなかったのだ………

 

 

どうすれば…良かったのだ……………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

漸く、彼は気づいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺は…間違っていたのか…?」

 

 

 

 

 

 

漸く辿り着いたその真実。それを最後に悟って彼の体は闇に包まれ…

 

 

 

地面へと沈んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

静まり返る空気、その場にリヴァルは居ない。誰もが言葉を発するのを躊躇う中…

 

「哀れな奴だ。最後の最後に、己が過ちに気付くとはな」

 

 

 

 

 

魏音が、哀れむ顔でそう言った。

 

 

 

 

「…終わったな」

 

時が流れることしばし、黎人が呟き、全員の意識が戻った。

 

(……終わり?)

 

「まぁ、怨念に殺されるとかあいつらしい最後だな。人に憎まれ続けた男、リヴァルにトドメを差したのは、犠牲者だったということか」

 

リヴァルが消え失せた地面の上を見る。まるで最初から何も無かったと言うように跡が1つもない。足で踏んだり足を滑らせたりして確かめるも、全く変化がない。綺麗さっぱり無くなったんだなと実感する。

 

(何もかも…終わったの…?これで…)

 

「後は…奴がやらかした事の後始末だな。落ちてきた船の片付けとか、それと…良也だっけか?あいつを助け出しとかないとダメだろうな」

 

黎人はこれからどうするかの話をする。全てが終わった時の後片付けの話をするように…

 

 

 

 

「違う」

 

 

 

 

淡々と黎人が語り続けた時、1人の少女が口を挟んだ。

 

 

「…ん?どうしたんだ、何が違うんだ?霊夢」

 

黎人は口を挟んだ霊夢に向かって問う。一見心配そうにしている。だが霊夢の目には、そう映らなかった。何故、と言われても彼女自身もハッキリとは答えられない。違和感からなのか、それとも直観なのか…いずれにしても、黎人が本気で彼女を心配してるとは思えなかった。

 

 

 

「…あんたの話が終わってない。少なくとも、あんたは黎人じゃない」

 

 

霊夢はハッキリと口にした。それは相手に挑発してるのとイコールになる。本当に黎人であってもそうでなくても、『お前は黎人では無い』という言葉は宣戦布告になる。

 

 

「…まだ言ってんのか?俺は斐川 黎人だ。さっきまで翔聖と一緒にリヴァルを倒そうとしてたし、船に乗ってたのも俺とリヴァルだけだ。そりゃ雰囲気が全然変わってるから疑うのも無理はな…」

「少なくともアイツなら…」

 

黎人が本当に自分が黎人であると語ろうとした時、またしても霊夢は割り込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「巻き込まれた人の心配を先にするはずよ」

 

 

 

 

 

先ほどの黎人の言葉を思い返す。リヴァルの実験によって巻き込まれた良也の事を後回しにしていた。それは、今までの黎人では絶対にありえなかった事だ。なんだかんだ言って他人の事を心配する黎人なら、良也の救出を『ついで』扱いにしない。だから…目の前の男は、確実に黎人では無いと確信した。

 

 

 

「……へぇ、以外と見てんじゃねぇか。最初に見た時は、他人の事なんて興味無いという女だと思ってたのにな」

 

 

黎人の言ってる事は間違っては無い。霊夢は基本、他人の事については無関心だ。他人の問題はあくまで他人のもの、そこに自分が出しゃばったり余計な心配をするのは、普通ならするはずも無い。だが…黎人に関してはそうならなかった。

 

 

「あーあー、しくったぜ。余計な問題を起こすまいと穏便にするんじゃなくて…

 

 

 

 

 

最初っから殺しにかかれば良かったな」

 

 

黎人の殺気が露わになった。その異質な空気の重さに、霊夢は若干怯む。だが直ぐに意識を取り戻し、はらい棒と札を手にした。

 

 

「なかなかサマになってるなァ…その歳でなかなか肝が座ってやがる。()()()が気にしてるのも無理はないか。だがな、実力差はどうやっても埋まらねぇぞ」

 

黎人も構えをとった…と認識した頃には、霊夢の視界が一変し、彼女の体は空中に浮かんでいた。

 

「…!うそ…」

 

全く見えなかった。黎人がこれまで異常な成長を遂げてきた事は、彼女にはかなり分かっている。だが、今までの黎人とは明らかに違いすぎている。姿が全く見えないほど速くなってるのは、彼女にとっては未知の領域だ。

 

「速かっただろ?()()()が明らかにノロすぎるから、そのギャップで混乱してるだろうな。

アイツは全力出してあのスピードだしな。中で見てる俺も、ヒマでしょうがなかったぜ。

だが今は俺だ。テメェらの目に止まらぬ速さで、皆殺しにしてやるよ」

 

言い切って再び、姿を消した。高速で、霊夢の喉元に刃を突きたてようとした瞬間、その刃は止められた。

 

「…何だ?観戦のつもりかと思ってたが…俺の前に出たって事は、今度はお前が相手になるって事で良いのか?」

「………………」

 

彼の刃を、輝月が止めていた。霊夢に突き立てる寸前で、彼女が刀で防いだ。今は彼の剣が彼女の剣を押さえているところである。

 

「おいおい、お喋りは好まない性質かい?質問には答えても良いじゃねぇか」

「無駄なお喋りは好みません」

「何だよつれねー奴だな。てか、()()は何もしねーのか?」

 

黎人の言ってる事がどういう事なのか分からなかったが、それは輝月に向けて言ってる訳ではないと分かった。

 

「別に、俺はかかる火の粉を払うだけだ。好んで挑んだりはしない」

「面倒クセェな…じゃあ、お喋りは抜きにして、全員潰してやるよ」

 

話しかけられたのは、魏音だった。彼は霊夢が襲われる時も全く動く気配はなかった。彼にとっては霊夢がやられようがそうでなかろうが、どうでも良い。だから動こうともしなかった。

その様子に黎人は溜息をついた。もはや何を話しても無意味だと察し、余計な事をせずに全員を倒さんとするために輝月から距離を置いて、再び構えを取った。それに対して、その場の全員が、黎人の攻撃を警戒していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい、そこまで」

 

 

 

 

 

 

 

《パァァァン!!》

 

 

 

 

 

 

 

 

突然、彼の後ろに男が立ったかと思ったら、大きな音を鳴らすように手を叩いた。その音の衝撃か、黎人は意識を失ってその場で倒れこむ。

他の者らは、その男が何者なのか、という事は知らない。だがその男の風格から、只者では無いと容易に察した。

 

 

 

「…なに…!?」

 

 

 

 

そう考えると、また1人の男が現れた。霊夢と輝月はその男は知っている。翔聖らをこの世界に呼び込んだ男、イシューだ。

 

 

 

 

「なぜ…貴様がいる…ディル」

 

 

 

 

イシューの言葉を聞いて、霊夢は思い出した。むかし、黎人がこの世界に来るよう仕向けた男。その実力とカリスマから、周りの者からこう言われる。

 

 

 

 

曰く、神の異端児

 

 

 

 

 

ディル キリシアン

 




リヴァルが完全に消滅しました。最後は哀れな感じで終わっちゃいました。

ここでディルが登場。何故彼が現れたのでしょうか?

いよいよコラボも残り2話(予定)。最後まで是非見てください。

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