東方羅戦録〜世界を失った男が思うのは〜   作:黒尾の狼牙

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前回のあらすじ
黎人が負けた
リヴァル「おのれ黎人…貴様のせいで船が消え失せたでは無いか」
自業自得です。


79リヴァルの野望を止める

霊夢はその事実が信じられなかった。黎人が死んだ、という事に…

 

「…う、嘘よ。ねぇ…アイツ、ああ見えて結構しぶといから、本当はまだ生きてる筈よ。そりゃ…あんなの食らって死なないなんて考えられないけど、アイツなら…」

「…そ、そう…だね。黎人なら…」

「俺は推測だけで話してるわけじゃねぇ」

 

途切れ途切れに霊夢は言葉を続ける。魏音の言っていた事が信じれないのか、或いは信じたくなかったのか、とにかく黎人が死んだという事を認めたくは無かった。翔聖はとりあえず霊夢を落ち着かせようとしているが、魏音はバッサリと否定した。

 

「あんな攻撃に耐えられる筈ない。彼奴は死んだんだ…的な事を言ってると思ったか?俺はそうやって常識で語る事は絶対にしねぇ。

さっき言っただろう。気配が消えたと。気配が消えた、て事は死んだと同義だ」

 

そう、魏音は常識とか当たり前とかで物事を図ったりはしない。魏音が言う事には根拠がある。すなわち、黎人が死んだ事を証明するものがあるのだ。それが、消えた黎人の気配だ。

 

「…う…うそよ!あんたそうやって自分の願望を植え付けさせたいんでしょ!?あんたは黎人の事が嫌いだったし、だから黎人が死ぬ事を望んでる!だからそうやって…私にそんなデタラメを言うのよ!」

 

霊夢の言ってる事は我儘だ。それは霊夢自身も分かっていた。相手の言ってることをデタラメと軽はずみに言う事は最低なこと、そうは分かっていても、そう言わずにいれなかった。そうしないと、霊夢は立っていられなくなるから。

 

「…信じないなら勝手にしろ。だが事実は事実だ。もし自分の目で確かめないと信じれないって言うんなら確かめてみろ。まぁ、いたとしても船の中でくたばってるか塵になってるかのどちらかだがな」

「…!!」

 

だが魏音はそんな事お構いなしに冷たく言う。そして、霊夢は黙ってしまった。魏音の言葉に言い返せない。その事が、何より辛かった。

 

「やれやれ…何をそこまで拘る」

「何を…」

「此処を何処だと思ってる?戦場だ。現代では最も人が死ぬ場所でもある。

戦場にいる奴が死なないなんて確証は無いんだ。たった一度の読み違いで、命を落とす事なんて珍しくない。もし死にたくなければ死なない努力をするべきだ。

ましてやあの男は最前線に出た。最も敵の襲撃を受ける場所だ。死ぬ確率は更に上がる。そんな事、こうして言われなくても分かる事だ」

 

魏音の言ってる事は全て正論だ。戦場は人が最も死ぬ場所だ。勝っても負けても大量の人が死ぬ。そして黎人のように、最前線で戦っているものはその被害を受けやすい。

 

「戦場に向かう奴に例外があるのか?こいつだけはどんな事があっても死なないとかか?」

「…めて…」

「お前が自分の願望を植えてるだけだ。あの斐川なら必ず負けないってな」

「やめてよ…」

「それで死んだ、て俺が言ったら『嘘でしょ?』って認めないのか」

「もう…やめ」

「くだらん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「たかが一人死んだくらいでピーピーピーピー騒ぐんじゃねぇよ」

 

 

冷ややかに言い放つ魏音の言葉。それを聞いた時、霊夢の中で怒りが満ちた。今の言葉は、彼女の逆鱗に触れるものであった。

 

《バチィィィン!!》

 

霊夢はその怒りのままに、魏音の頬を殴った。彼女の目は、涙を堪えてることがハッキリと分かるほど赤くなっている。

 

「たかがですって…⁉︎死んだくらいですって…⁉︎そんな軽く済ませるほど命は軽くない!!あんたに何が分かるの⁉︎他者を軽んじているあんたは…⁉︎」

 

霊夢が大声で叫んでいる時、彼女は思いっきり殴られた。霊夢のそれとは比べ物にならないほど力がこもっており、霊夢は吹き飛ばされる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんだその目は…メス如きが、この俺に楯突くと言うのか?」

 

魏音の顔が強張っている。霊夢にはそれが、縄張りに侵入された獣が威嚇する時のそれに見えた。

 

「俺が憎いならかかって来いよ。相手してやる」

 

魏音は霊夢に近づこうとしていく。その魏音の前に立ちはだかる者が1人いた。翔聖である。

 

「テメェ…俺の邪魔する気か?」

「邪魔とかじゃ無い。僕の世界の霊夢とは違うけど、霊夢を傷つける奴は許せない…!」

「だったら…テメェから始末してやろうか?」

 

魏音は怒りの矛先を翔聖に向けた。翔聖もその気力に若干押されながらも、怯みはしなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「それは後にして下さい。もうそれどころじゃ無いですよ」

 

 

殺伐とした状況が輝月の声掛けによって意識を引き戻される。その場全員が輝月の方を見ると、輝月は空を見上げていた。彼女の視線の先には、空が真っ黒になってた。

 

「な…⁉︎闇夜…⁉︎」

「これは…」

「……」

 

 

 

 

 

GARDに入隊して2年が経つ頃には、俺は研究者の中でも上位に立つ方になっていた。俺が作り出した研究の数々は、組織の上の連中を注目させるに事足りた。

当然だ。どうやって人を殺すかと考え続けた俺にとって、軍事に必要な才能は得ていた。この程度朝飯前だ。

整っていたこの施設では、俺が思う通りの研究が出来る。俺が思う通りの物が作れる。この地位は俺にとって至れりつくせりだった。

だが、そう上手くは行かなかった。

 

 

 

 

「何度言ったら分かるんだ!ドカスども!」

 

研究施設で、俺の部下を怒鳴りつけている。俺の下に属しているものはてんで役立たずばかりだ。気も聞かず、仕事も遅く、効率も悪い。正に最悪だ。

 

「8時間使って漸くこの程度か!貴様らの脳は亀と同類か⁉︎時間は限られている。もっと効率よく!もっと早くだ!」

「し…しかし局長…みんなは、かれこれ1ヶ月も休み無しで働いているんです…疲労してもしょうがな…」

「ならば貴様、もし国民が全員死ぬかもしれない時に自分の事を優先するのか?」

「そ…それは…しかし、ソレとコレとは話がちが…」

「違わない!この研究は、全人類に幸福を満たさせるための物だ!コレが完成すれば、誰1人として苦しむ者はいなくなる!」

 

ドイツもコイツも…疲労だとか過労だとかバカらしい。食料なら出している。休憩もしっかり取っている。だと言うのに口からは不平不満ばかり。

 

「別に貴様らがくたばっても構わん。代わりなど幾らでもいる」

 

そうして、俺は研究室を出て行った。新しいデータを取るためだ。そうして、俺は管理室に行った…

 

 

 

 

「リヴァル、αの研究は進んでるかね?」

 

管理室でデータを取りに行ってる時に、俺に話しかける者が1人いた。

 

 

 

奴こそが、このGARDのトップに立つ法山(のりやま)という男だ。

 

「ええ、勿論。このペースなら、2ヶ月後には完成するでしょう」

「そうかね。期待しているよ。君の研究は、結構タメになってるからね」

 

…相変わらず考えが読めん男だ。まぁ良い。俺に研究する場所を提供してるなら有難く利用させてもらうだけだ。

 

 

 

 

 

「…なんと言った、貴様…」

 

管理室から戻った時、部下から語られる。それは、聞き間違いでなければ、許されざる事だ。

 

「辞退させて頂きます。もうこれ以上、あなたにはついていけません」

 

…!聞き間違いでは…無いのか…!

 

「ふざけているのか?この局から離れると言うことは、同時にGARDそのものを辞めるという事だぞ」

 

GARD内で異動する場合、局長や課長が異動の手続きをとらぬ限り起こらない。本人の手続きだけで出来るのは、脱退のみだ。

 

「そうですね…その方が良い。接触する機会すらも無くせれば、あなたに会う事は無い」

 

…こいつ…その言葉は、ハッキリと俺を拒絶している事を示している。それを分かってて言っているのか…?

 

「何が不満だ!金ならやった!食料ならやった!他にも望めば何でもあげた!なのになぜ貴様は此処を拒絶する!一体何が…」

「あんたが嫌なんだよ!」

 

突然その男は声を荒げた。『あなた』から『あんた』へと変わったのは、怒り故なのか…

 

「あんたは自分の研究ばかり言ってやがる!ソレを完成させろだの完成すれば次はコレをやれだの…挙げ句の果てには貴様らの代わりなど幾らでもいるだと⁉︎ふざけんな!俺たちはあんたの研究の為の資材じゃ無い!あんたの研究のために生かされるくらいなら、死んだ方が千倍マシだ!だからもう…ついていけない!」

 

こいつ…!俺になんて口を…!

 

「気に食わないか!だったら殺せよ!その方が俺は幸せだ!テメェには代わりが居るんだしなァ!?だが…俺は2度と、あんたを許さない」

 

…俺は、初めてその場で固まった。そしてソイツは、俺の前に辞退届を出して出て行った。

 

 

 

あの後、多くの者が辞めていき、局には俺1人が残った。まだ…あの研究が完成してないというのに…!

 

俺は一昔前に開発した薬を取り出した。作り出すために必要な材料が異常だったため、2つも無い代物だ。俺はそれを、躊躇無く口の中に入れた。

身体に蝕む激痛、こらえる事すら出来ないほどの嘔吐も、俺にはどうでも良かった。誰1人としてついてこなくても良い。そうなる力を得られるならな。

俺はそうして、『生命をエネルギーに変換する程度の能力』を身につけた。

 

 

 

 

 

「リヴァル、君の局に1人追加する」

 

フン…どうやらまた来たようだな。どうせ1ヶ月そこらで止める奴だ。対して期待もしない。

 

「入れ」

 

人事の課長に言われ、1人の男が入ってきた。その男は正に、ひ弱な男と言うのがしっくり来た。黒髪で少し身長が低め、顔も何処か弛んでいる。

 

「斐川 修斗です。宜しくお願いします」

 

 

 

 

 

 

 

空は黒く、幻想郷にいる全ての者がその異常事態に目を見張る。ほんの数分前はこのような空模様では無かった。急な変わりように、誰もがそれを恐れてみてた。

 

「空が暗くなるとは誰も思っていまい。エンドラは、その力を最大まで貯めた時に、天を闇に染める。

元々は船の中で発動する予定ではあったが、入れ物が変わっただけだ。別に作戦に変更は無い。

この闇さえあれば、エンドラの力は跳ね上がる」

 

リヴァルはエンドラの剣先を天空に上げたまま、語り続ける。そうしてる間にも、エンドラから溢れんばかりの光がだんだんと溜まっていく。

 

そして突然、剣先から赤い光が天に向かって伸びていった。その光は、上空の空高くに登っていく。

 

「幻想郷にも空があり、その上には宇宙が存在する。そこに光をあげれば、誰にもその光に手出しはできない」

 

放出した光が途絶え、リヴァルはエンドラを下げた。空高くに光を集める。それで、彼の計画は半分出来たような物だ。

 

「場所もバッチリだ。此処はちょうど、幻想郷の中心。彼処に撃てば、幻想郷全土を破壊することが出来る」

 

彼が今エンドラからの光を放った場所は、幻想郷の中心にあたる所の上空だ。此処に来るためだけに船を運んだだけに過ぎない。

 

「さて…いよいよだ。いよいよ俺の野望が叶う。すなわち、最高の兵器の完成が…」

 

リヴァルが突然笑う。それを合図にするかのように、異変が起こる。

 

 

 

 

先ほどまで黒かった上空が、赤く染まりはじめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「な…なんなの…あれ…?」

 

突然赤くなった空を見て、霊夢が言った。空が暗くなったところで、船から光が天に向かって伸びた。それで暫く経ったかと思うと、空が赤くなった。一体何がどうなっているのか。

 

「あれは…弾幕か…」

「そんな…でも、あんな範囲の広い弾幕なんて…」

「出来ないってか?まぁ普通はあり得んだろうが…何かしら手が加わってるんだろう。奴は研究者だ。その力を用いて、あの芸当が出来るのだろう」

 

いくら常識に囚われない幻想郷であっても、可能か不可能かはある。どんなに優れていても、出来ないことは出来ないのだ。ただの弾幕とかでは出来ないリヴァルの技…それを可能にしているのは、彼の研究と才能によるものだろう。

 

「それで…魏音、アレは止められますか?」

 

輝月も若干戸惑いを感じている。今から放たれるであろうその攻撃を防ぐ事など、並大抵の物では出来ない。

 

「無理だな。デカすぎる」

 

魏音もそう思った。彼がどれだけ人間離れしていても、それは無理とハッキリ分かる物だった。

 

「ちょ…無理ってあんた…」

「お前は出来るのか?あれ…幻想郷を滅ぼすほどの威力だぞ」

「うっ…」

 

霊夢は無理とキッパリと言う魏音に苦言を言おうとするも、逆に魏音に問われて黙ってしまう。それは、彼女にもそこそこ感じていたのだ。上手くいく自信は、無い。

 

「恐らく、あの光を地面に当てて、地面の中から爆破させる気だろう。巨大な爆撃…幻想郷そのものを滅ぼすのにかなり適切な方法だ。あれを回避するなら…飛ぶことくらいだな」

「ちょっと待ってよ…じゃあ、いま飛べない人は?」

「さぁな。走って逃げる位しかない。逃げ切れるかどうかは知らんが」

「ちょっと待ちなさいよ!あんた、見殺しにする気⁉︎」

「じゃあお前も死ぬか?あの攻撃から逃げずに」

 

こうなった以上、自分たちだけ被害を回避することしか出来ない。魏音はそう判断した。多くの者を見殺しにするという事になるが、彼にとってはそれは、なんの問題も無い。そうするしか、生き残る術が無いのだから…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれを…止めれば良いんだよね」

 

 

だが、その解答は覆された。たったいま、先ほどまで無理だと言っていた事をやろうとしている男がいた。

 

「だったら…僕がやる。僕があの光を止めて、幻想郷を守ってみせる」

 

その男、翔聖はあの攻撃を防ぐことを選んだ。彼の目は真剣だ。おふざけで言っているのではなく、リスクを承知した上で言っているのが、魏音には分かった。

 

「上手くいく保証が無いのにか?」

「他にみんなを助ける方法が無いなら…やる」

 

恐らくは、翔聖は誰かを守るためならなんだってするだろう。自分のできること、時には自分の限界を超える事であっても精いっぱい実行する。

 

「ならやってみろ。だが危なくなったら、俺は勝手に逃げるからな」

「…うん」

 

魏音はこれ以上の話し合いは無駄だと察し、翔聖に一任した。一方の翔聖は、天空で膨れ上がる赤い光に立ち向かっていく。

 




魏音の言う事には賛否両論あるかと思います。彼はかなり厳しい世界で生きているため、『他人の死にいちいち気をかけない』と考えてる訳ですね。

リヴァルの野望が叶う一歩手前になりました。彼の野望を止めれるのは翔聖ただ1人。次回をお楽しみに

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