東方羅戦録〜世界を失った男が思うのは〜   作:黒尾の狼牙

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前回のあらすじ
ガイラの姿が変わる。
リヴァル「あの野郎…塔を破壊しおって…!」
黎人「テメェが命令したんだろ⁉︎」


75 危機、そして救援

「な…なんだ!何が起こってる!」

 

船の上から、黎人は地上から途轍もなくデカイ生物を目にする。当然、翔聖にもリヴァルにも見える。

 

「アレはガイラだ」

「ガイラ…⁉︎あのデカイやつか…だが、あそこまで大きくは無かっただろ」

「ああ、そう言えば貴様らは奴の能力を知らなかったな。奴は『獅子を宿す程度の能力』を持っている。まぁ、能力とは言えんか。正確には魂が宿っている」

「魂…⁉︎」

「そう、獅子の妖怪『レオード』の魂があの男の中に眠っている。俺の『生命をエネルギーに変換する程度の能力』を使い、魂をあの男の中にねじ込んだ。それにより、ガイラがその名を呼べば召喚する事ができ、俺が呼べば、ああやって宿主にその体を憑依させる事が出来る」

「魂を…ねじ込む…?」

「そう、生命はエネルギーに変換される。では魂はどうなるか?当然そのエネルギーの中に含まれるのだ。特に、『睲獣』と呼ばれる妖怪は途轍も無い力になるのでな」

 

リヴァルの言っている事はかなり突飛すぎる。普通に聴けば嘘としか思えない。だが、今までの彼のやって来た事を考えると、充分あり得る話だった。

 

「魂を捩じ込む…そんな事が出来るなんて…」

 

翔聖はありえないという顔をする。神の力を借りたりする事は出来るが、魂そのものを何かに捩じ込む何て事は普通は考えた事もないし、そのような事が出来てもしようとは思えない内容だからだ。

 

 

 

 

「因みに言っておくが、貴様がああいうのを見るのは初めてでは無いぞ、黎人。既に何度か目にしている」

「何…⁉︎」

 

リヴァルにそう言われ、今まで戦った相手を思い出す。先ず、鵞羅では無いだろう。そのような変化は無いのだから。という事は…

 

 

 

 

 

「まさか…『驥獣』ってのは…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そう、睲獣の魂を持つ人間の事だ」

 

 

 

 

今まで黎人の世界で、この幻想郷で現れる生物『驥獣』。それは、人間が睲獣の魂を埋め込まれた生物だ。

 

「テメェ…!」

「イチイチ目くじらをたてるな。そう言うのは見てて吐き気がする」

「ふざけんな!何の情もねぇのかよ!特にあのガイラは、ずっとテメェに付き従ってきただろ!それを…」

「ああ、そうだな。ガイラは良く付き従ってくれた」

 

感謝しているかのような口ぶり。だが、表情も声もそう思っているものでは到底無かった。

 

「だがこの戦いで敗れるとは思ってたよ。奴は勇敢こそあれど勝利への執着が無かった」

「執着…⁉︎」

「戦いは如何なる時でも勝たなければ意味が無い。勝つためにあらゆる手を使い、それでも無理だと思うならば、その戦いは捨てろ。裏切りも犠牲も残虐も、その為のカードの一部だ。

貴様らみたいに、勝ち目の無い戦いに自分の信念のみで動く者は真っ先に死ぬ。

現に今、()()()は今にも倒れそうではないか」

 

 

 

リヴァルの言葉の中にある『あの男』の意味は…その後直ぐに分かる事になる。

 

 

 

 

 

 

 

「秦羅!何…これ…!?」

 

霊夢が秦羅に聞く。目の前には、巨大化したガイラだ。

 

「分からないが…この霊力は、あの時の獣だと思う」

「…あの…ガイラが乗ってた…?」

「ああ。姿こそ違うが、特徴は一緒だ。肌の色も…髪も」

 

ガイラの顔は毛が大量に生えている。それは、獅子のような顔つきだ。おそらくは、レオードと同一の顔になってるからであろう。

 

 

「ウ…グァア…アァアアア!!!」

 

苦しむように声を出しながら、ガイラは手を叩きつけた。霊夢と秦羅は見事回避する。

 

「どうするの…?これ、さっきより断然強そうよ」

「大丈夫だ…まだ、戦え…⁉︎」

 

刀を構えようとする秦羅。だが、突如彼は体勢を崩した。

 

「…秦羅⁉︎」

 

心配そうな顔で霊夢は秦羅に近づく。彼の口からは、大量の血が流れた。

 

(まさか…もう、痛み止めが…!)

 

彼は向こうの幻想郷で、強敵ヒカルと戦った。その時に、彼は無茶をして限界を突破した。その結果、普通ではマトモに動けない体になってしまう。それを誤魔化すために、彼は痛み止めを定期的に処置していた。それにより、傷が再び開く事はそんなに無かった。だが…ガイラとの戦闘により、傷が開いてしまったのだ。

 

 

「ウグアアア!!」

(くそ…!)

 

ガイラが秦羅目掛けて叩きつける。秦羅は全く動けなかった。

 

 

 

 

 

「秦羅…⁉︎」

 

船の上から、翔聖は地上の異変に気がついた。秦羅が、突然動けなくなった事を知る。

 

「…何だ気づかなかったのか?あの男は既に無茶していた。どっかの敵と戦った時に致命傷を受けたのだろう。

考えてみればアレが典型例だな。何のためかは知らんが、今後に支障が出るまで無茶するとはな。今後の事も考えずに動くものこそ真の考えなし、ということか…

「黙れ」

「ぬ?」

 

リヴァルの言葉を遮り、黎人はリヴァルを睨んだ。その表情は、翔聖すらも戦慄させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「その口を閉じろ。1秒でも長生きしたければな」

 

 

 

「…はっ!」

 

 

 

 

 

「ウゥ…ゲホッ!…くそ…」

 

全身が痛みを感じているのを発している。立つどころか座り込むのさえキツイ。

 

「あんた…この傷、いつから!」

「…向こうの世界で…受けた…誤魔化すために…痛み止めを…」

 

秦羅の言葉を聞き、霊夢は巨大な体を持つガイラを見上げた。

 

「どうするのよ…秦羅抜きで…このバケモノと戦わないといけないなんて…」

 

 

 

 

 

 

 

その怪物は、意識はとうに無くなっていた。もしそれに考えている事があるとすれば、破壊と殺戮くらいだろう。それ以外は考えるはずはない。理性も思考も、完全にストップしているからだ。

だが…本能はある。自分が潰さなくてはならないもの、そして自分を脅威に貶めるものが。彼の見ているものは、霊夢らでは無く、奥のコンピューターで格闘している惣一であった。

 

「…!あんた!一体何処を見て…」

 

霊夢が慌てて制止しようとするがもう遅い。その怪物は惣一に向かって走り出した。

 

 

 

 

 

「これで…漸く半分…あと僅かで…⁉︎」

 

作業中に溢れ出る殺気を、惣一はいち早く気づいた。殺気の方を見ると、天を突くほどの巨大な生物が、コッチに近づいてくるのが見えた。

普通ならば避けるのが無難であろう。だが、この場から離れれば今作業している物から手を離さなければならなくなる。そうなった時、手遅れになるかもしれない。

どう動けば良いのか分からずに焦る惣一に構わず、怪物はその手を上に上げる。そのまま勢いよく惣一に向かって振り下ろした。

 

 

 

 

 

《ガッッッキィィィィィン!!!》

 

その手は途中で阻まれた。その手を防いでいるものは目には写らない。

 

 

「…結界を…念のために張っておいて助かりました」

「早苗さん!」

 

防いだのは早苗の結界だった。惣一に攻撃が当たらないよう結界を張っておいた。どうやらギリギリで完成したらしい。

 

「早苗さん…あなたが、結界を…」

「霊夢さんには劣りますけど…それなりにやりました。これならば、少しは時間稼ぎが…」

 

 

 

 

「ウウウヴヴヴ…」

 

 

怪物は荒々しい声を出しながら、視点を変えた。その先には、結界を貼った少女。そして、標的を惣一から早苗に変更した。

 

 

 

 

「ヴァアアアア!!!」

 

手を握り、拳のようにして早苗に向かって伸ばす。その早さが途轍もなく、あっという間に早苗に当たる。

 

 

「うあ…は…か……」

「早苗さん!!」

 

壁に勢いよくぶつかってしまう。その怪物のパワーにより、早苗は一瞬で意識を失ってしまう。それによって惣一の周りに張っていた結界が解けてしまった。

ズン、と足を早苗に向かって歩き出す。あれ程の威力の攻撃を受けたのだ。正直生きているかどうかも怪しい。だが、これで怪物に攻撃をさせてしまうと、確実に殺られてしまう。

 

「くっ…!」

 

だが目の前のコンピューターから離れることも出来ない。さらに言うと今焦っているからなのかミスを連発してしまう。一刻を争う事態なのだが、早苗の安否が気になり集中できない。これが理香なら、あっという間に終わらせる事が出来ただろうに。

そのような事をグルグルと考え続けている間に、怪物は早苗の一歩手前まで来てしまった。だがその頭上にナイフや剣を持つ少女たちがその怪物めがけて突っ込み始めた。

 

 

 

 

 

 

 

「…何てデタラメなの…⁉︎」

 

遠くからでもガイラの強さがハッキリと分かる。あの攻撃を一瞬だけ止めた早苗がああもあっさりやられたのだ。早苗は幻想郷ではかなり強い方だ。守谷神社で2人の神を支えながら、時に異変解決も行った事がある。1度彼女と対峙した時もそれなりの力があり、霊夢も若干苦戦した。その早苗が一瞬でやられたのだ。恐れるのは当たり前かもしれない。

 

「…!ぼうっとしてられないわね…あんたはここに居なさい!」

 

秦羅に留まるよう警告してから霊夢もそっちに向かう。秦羅はそこに1人残された。

 

 

 

 

 

 

 

 

(くそ…!)

 

動けと体に命じてもせいぜい手足が若干動かせる程度。座り込んだ体制から立ち上がる事も出来ず倒れ込んでしまう。

 

 

 

(ここで、何も出来ずに終わるのか…⁉︎誰1人…救えずに…!)

 

 

 

彼の脳内に1人の少女が浮かびあがる。彼女の名前は桜花、秦羅の手によって死んでいったものだ。あの時の感触はシッカリと覚えている。彼女を救えなかった事の悲しみ、彼女を手にかけてしまった事の苦痛、イヤというほど覚えている。

このまま動かなければ、あの時と同じ思いをしてしまう。それはイヤだった。秦羅は何が何でもその結末は避けたかった。その一心で必死に体を動かす。

だがそれで痛みが消えるはずもなく、さらに酷い激痛が走る。動くどころか呼吸する時でさえ痛みが走るほどだ。彼はやがて、指一本も動かさなくなった。

それでも動かないといけない、それでも戦いたいと体に訴えかける。その顔は、激痛を我慢しているようにしか見えない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…無様な表情ですね。あなたはあの時から何も変わってない」

 

 

 

 

だから彼は気づかなかった。さっきから後ろで彼を見ている人物がいた事を。顔を持ち上げようとして動かせない彼に一歩ずつ近づく。

 

 

「だがそれで良いかもしれないですね。あなたにしても翔聖にしても、その執念があったから私を止めれたようなものですから」

 

 

 

その声を発する人物を見て、秦羅は信じられない、とでも言うような顔をしていた。

 

 

 

 

 

「……!お前は……」

 

 

 

 

 

 

怪物に飛びかかった咲夜と妖夢はその頭に斬撃を与える。咲夜はナイフを投げつけて。妖夢は剣を振って。

だが元の人物がガイラであるため、肌はかなり硬かった。咲夜のナイフは当たるだけで傷1つ付けずに落ちてしまい、妖夢の刀は途中で止められてしまう。彼女らが攻撃した事に気付いたのか、怪物は頭を振って彼女らを振り払う。そうして離れていった彼女らにその大きな手で張り手を繰り出した。

咲夜は慌てて時を止めて移動する。だが、もう1人の方はそのような事は出来ずにその張り手を食らい、壁に叩きつけられた。

 

(しまった…!)

 

命の危機に慌てて、自分だけが回避してしまった。時を止めれるから妖夢も一緒に動かせば良かったのに、結果的に妖夢が大きな攻撃を受けてしまった。

だが『しまった』と思うのは、そうして後悔する時だった。

 

《グア!》

 

怪物はその大きな手で咲夜を捕らえてしまう。いくら時を止めようと、包囲されては打つ手はない。彼女は体を掴まれてしまう。

 

「うっ…!ああ!っく……!」

 

その怪物の握力により彼女の体はミシミシと握りつぶさていく。もしこの怪物が本気を出して握り潰そうとすれば、自分の体をミンチにしてしまいかねない。

 

「夢想封印!!」

 

その顔面に大量の弾幕が当たる。的がデカイせいか、全弾命中した。

 

「はぁ…!はぁ…!」

 

放ったのは霊夢だ。彼女の全力を以って怪物に攻撃を仕掛けた。

だが…

 

 

 

 

「………!ダメ…!やっぱり効いてない…!」

 

くらっていた怪物の方は全く動じずにいた。だが霊夢が攻撃した事により、標的が霊夢に変わる。

彼はその手に握る咲夜を、霊夢目掛けて投げつけた。

 

「な…!」

 

彼の力により咲夜は体制を立て直せずそのまま落下する。

 

(不味い…!私が避けると咲夜が地面に…!)

 

あの勢いで地面にぶつかれば咲夜が大怪我を負ってしまう。それを避けるために、霊夢は自分の後ろに結界を張った。

 

(無傷で、て事は無理かとしれないけど…軌道を逸らして勢いを殺せば…!)

 

霊夢は咲夜を受け止め、後ろに吹き飛ぶ。そして彼女が先ほど張ったばかりの結界にあたり、地面に当たる一歩手前で一瞬止まる。

そのまま、彼女は空を飛ぶ程度の能力を用いて、吹き飛ぶ軌道を若干逸らす。その間、彼女の背中は結界に当たっており、背中はだんだんと痛み始めていく。

漸く止まった頃には、咲夜は気を失っており、霊夢もあまり動けなかった。そして、怪物は掌を霊夢に向けた。彼の掌から何かが現れる。

 

(あれは…ガイラが持っていた剣…⁉︎)

 

ガイラが戦闘に使っていた剣であり、その剣先が霊夢に向けられている。当たらないよう彼女は力を振り絞って防ぐための結界を張る。

怪物はその剣を霊夢に…

 

 

 

 

 

 

では無くコンピューターを弄っている男に向けた。

 

 

「な…⁉︎危ない!避けて惣一さん!」

 

 

霊夢の声に惣一は慌てて周りを見る。だが、彼がそれに気づく前に怪物は剣を放つ。

 

 

 

 

《ドシュ!!》

 

 

 

放った剣は惣一の体を貫き、地面にそのまま突き刺さった。

 

「うっ…がはっ!」

 

惣一は今、剣が自分の体を貫いている状態であり、腹や背中に激痛を感じる。ひょっとすると内臓にも支障が出たかもしれない。彼の意識はとうとう朦朧とし始めた。

そんな事お構いなしに怪物はその手をあげる。今にも惣一を叩きつけようとしているようだ。

 

 

 

 

 

「…………やめて………………」

 

 

 

ダメージと恐怖で全く動けない自分の体。早苗が、妖夢が、咲夜が、惣一が…彼女の目の前で意識を失う。そして、今にも1人の男が殺されようとしている。何も出来ない自分自身。その悲しみを…恐怖を……全てを1つの言葉に詰め込んで叫ぶ。

 

 

 

 

 

 

「もう………やめてよぉぉぉおおおお!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ピーピーピーピー…ウルセェよ女」

 

彼女の叫び声に構わず、拳を振り下ろそうとする怪物。その体が、ひと回転して地面に叩きつけられた。

 

「目障りだし耳障りなんだよ、泣き顔も泣き声も。力及ばずで泣くくらいだから最初っからこんな所に来るんじゃねぇ。迷惑だ」

 

皮肉にも邪悪にも聞こえるその声を…霊夢は1回だけ聞いた事があった。

 

「…あんた……」

 

 

 

 

 

 

状況は最悪である。咲夜、妖夢、早苗が脱落し、霊夢、秦羅、惣一が致命傷を負った。ほぼ全滅に近い状況で、彼らに近づいた者が2人

 

 

「…輝月……!」

「……魏音…!」

 

片や、月の巫女。片や荒くれ狼。彼らが此処に来た事で、戦況は大きく変わった。

 




怪物と化したガイラは恐ろしく強いですね。早苗、妖夢、咲夜はダウンです。
さぁ、輝月さんと魏音が来ました。輝月さんは来翔さんから借りた最後のコラボキャラです。もともと彼方のラスボスでしたが、今回は味方として活躍します。
怪物と化したガイラを、止める事は出来るのか⁉︎次回をお楽しみに!

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