東方羅戦録〜世界を失った男が思うのは〜   作:黒尾の狼牙

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前回のあらすじ
戦艦が作動される。
『間もなく発車されます。ご乗車の方は席に着いてください』
リヴァル「…こんなアナウンス入れたか?」


73 絶望に近づいていく流れ

「ほう…漸く動き始めたか」

 

乗ってる戦艦が上昇し始めるのを感じる。作動されてしまったという事だ。

 

「大規模になればなるほど作動に時間がかかるというのは考えものだな。かなり待ち侘びてしまう」

「何言ってんだテメェ。俺らはテメェとおしゃべりしに来た訳じゃねぇんだよ」

「チッ…つまらん奴だ。これだから話が分からん奴と関わりたくないと言うのに」

 

徐にリヴァルは話すが、黎人にとっては話したくも無かったし内容も理解できない、というよりしたくない。バッサリと切り捨てるとリヴァルから苦情を言われる。

一方、翔聖は色が変わったリヴァルの目が気になった。目の色は緑色から金色になっている。その変化になったという事は、どういう事なのかを知っていた。

それは、神から与えられると言う神力であった。神力を手に入れる事はおかしい事ではない。だが、身につけるのはかなり困難である。最初に翔聖がこの力を身につけた時、半ば暴走しかけた事がある。

イシューの話によると、神力はこの世界には存在しない力であり、1人の男がその力をてにいれている、という事だった。つまり目の前の男は翔聖たちの世界から神力の知識を得てこの力に目覚めた、という事になる。

そうなると、どうしてそんな事が出来るのかが気になるのだ。

 

 

「リヴァル…どうやってその力を手に入れたんだ?」

 

「ん?あぁこれか。なぁに、神力と言うものに興味が湧いてな。貴様らの世界に入り込んで書物を漁って研究したのだ。かなり大変だったぞ。参考資料が本だけ、しかも情報が少ないからな。研究に5ヶ月もかかったわ」

 

「僕たちの世界に…⁉︎どうやってそれを…」

 

「バカか、書店に入って普通に見たわ。店に入れば幾らでも読める」

 

そう、本を読むだけなら書店の中でも読む事が出来る。だが…

 

「…それだけで作れるのか?あったとしても伝記とかくらいだろ。構造とかは載ってない筈だ」

 

そう、自分の手で作り出したという事は構造まで把握しておかなければならない。しかも神力は構造的に手に入れられるものでは無く、ある程度力をつけないと手に入らないものだ。それを伝記だけの書物を、しかもその場で『読む』だけで神力の構造を把握し、作り上げるに至るなどほぼ不可能だ。

 

「そうだ、構造とかの知識は全くないからな。1人で色々な仮説を立てて研究するハメになった。全く、完成するまでどれくらいの時間と材料が必要になったことか」

 

不足な部分は自分の想像で補ったようだ。たったそれだけの情報で完成するまでに至らせたというのだ。それだけ研究者としてはかなりズバ抜けている才能を持っているという事だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっと待て。いま()()、て言ったか?」

 

 

黎人は今、リヴァルのセリフに違和感を感じた。5年と言う膨大な期間…その間何を使って研究したのか…

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぁ、言ったな。まさか初っ端から俺で試したとも?失敗するかもしれない物を自分でするわけあるか」

 

 

小馬鹿にするようにリヴァルは言った。初っ端から自分で試した訳ではない。つまり…

 

 

 

 

 

 

最初は別の者で実験してたという事になる。

 

 

 

「………テメェ!それを完成させるために何人犠牲にして来た!!?」

 

「…さぁな、そんな律儀に実験回数を数える奴がいるか」

 

 

黎人は怒りの感情に任せるまま剣を振った。それはシュライダーに防がれ…ビクともしない。

 

「………!」

「まぁそのお陰でこの力を手に入れる事が出来た。犠牲になった者たちにはキッチリ感謝しないといけないな」

 

リヴァルは黎人の腹を蹴り飛ばす。先ほどと桁違いの威力に耐え切れず、思いっきり後ろに飛ばされた。

 

「…そんな……」

 

翔聖は信じられない、という顔をする。それほど、目の前のリヴァルの行動が受け入れ難いのだ。

戦う理由は色々だ。誰かを守るため、強さを求めるため、生きるため、仇を討つため、世界を変えるため…あげればキリがない。翔聖も多くの者と戦ってきた。その中で、多くの理由を見てきた。だが、目の前の男はそのどれとも違う。彼の戦う理由は、『自分の力を見せつけるため』である。その為に、如何なる犠牲も躊躇わない。それどころか、その行為をまるでそうあるべきと平然と正当化する。

翔聖は感じた。この男とだけは、仲良くなれない、と…

 

「さぁ、この力を試させてもらうぞ。喜べ、俺の限りない力を、その目で拝見できるのだからなぁ!!」

 

両手の剣を持って、翔聖に襲いかかる。その刃を、刀で受け止める。

 

(…!重い…!)

 

だが神力がかかっているせいか、先ほどと剣圧が圧倒的に違う。リヴァルの剣をマトモに受け止める事すら出来ず、後ずさりしてしまっている。

 

「どうした?かなり苦しそうではないか。そうだろうな、俺の圧倒的な力の前では、手も足も出せんだろうよ。俺と貴様とでは立つべき場所が違うのだ。一体いつまで俺の前に立つ?とっとと打ち砕かれて地に伏せろ、愚民がァ!」

 

刀に力を入れて、翔聖を吹き飛ばす。かなりの力がかかっていたせいで、勢いが強く中々立て直せない。

翔聖は翼を出して、後ろに吹き飛ぶ体に抵抗し、やっとの事で勢いが止まった。

 

(非常に…不味い…)

 

実力にかなり差が生じてしまっている。神力のせいで、リヴァルの力が底知れぬものになっている。

 

 

(仕方が…ない…!)

 

長期戦になる恐れがあるため、使わないようにしていたが、このまま戦っても勝てる見込みが無いと見て、翔聖は力を入れた。神力の更に上、神を超える力である絶神力が…

 

 

 

 

 

発動されなかった。

 

 

 

 

 

 

 

(……え⁉︎)

 

呆然としている翔聖の頬を、リヴァルは思いっきり殴る。翔聖はそのまま甲板に倒れた。

 

「強い相手には基本力押し、と言うのが正に三流だな。勝つためには勝てる状況から作るのがプロだ。

この船の上では俺以外の者が神力を出せないよう設定してある。つまり貴様はこの場では神力を出せない」

 

リヴァルは戦闘が始まる前に既に1つ手を打っていた。この船の上では、翔聖は神力を発動出来ないよう設定されている。更に神力にの上の力、絶神力までも封印されている。

これは、翔聖にとって大きく負荷になる。相手は神力を使える。対して自分は使えない。そこで生じる優劣がどうなるか、などは容易く考えられる。

 

「好き放題…言ってんじゃねぇ!」

 

翔聖が呆然としている間に、リヴァルに斬りかかってくる者が1人いる。先ほど吹き飛ばされた黎人だ。だが…

 

《ザシュッ!》

「グッ!?」

 

彼の足をガチュリスが斬り刻む。その結果黎人は体制が崩れ、地面に横たわる。

 

「小物が…!いい加減に抗うのを止めたらどうだ?貴様らでは俺を止める事など、万に1つも無い事を知れ!」

 

先ほどから一方的な戦いが続けられている。リヴァルがずっと優位になり続けている。もし負ければ、此処の幻想郷は消される…その危機により、翔聖も黎人もただ焦っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その焦りのせいか、彼らは気づいてなかった。船の陰に潜む男の存在を…

 

 

 

「な…何⁉︎この人…」

 

天井から突然現れた男を見て咲夜が呟く。雰囲気で既にかなりの力量があると分かる。咲夜も、そして妖夢も警戒している。

 

「獅子王…ガイラ…!」

 

霊夢はその男を睨む。既に何度も対峙し、その実力を見てきたのだ。全神経を研ぎ澄ましてガイラを睨む。

 

「やはり…ここまで来たな。こうなった以上、貴様らと戦うほかあるまい」

 

剣を抜きながらガイラは前に出た。それに合わせて霊夢らも戦闘態勢に入る。

 

 

 

 

 

「ちょっと待ってくれ。そいつは…僕にやらせてくれ」

 

その彼女らの後ろから、秦羅が歩いてきた。彼もまた、戦闘態勢に入っている。

 

「秦羅……」

「こいつに全戦力をかけても意味はない。早苗が結界で寄せ付けないようにはしてるが、あの驥獣という獣相手にどの程度持つのかは分からない。お前らは、惣一を守ってくれ」

「…けど」

「つべこべ言ってられないんだ。さっきのアナウンスを聞いただろ。既にあの兵器が作動したんだ。一刻も早く、アレを止めてもらわないと幻想郷が滅ぶ。これ以上何かに戸惑ってたら間に合わなくなるんだ。頼む、僕を信じてくれ」

 

秦羅の言う通り、1分1秒が惜しいくらいの緊急事態なのだ。惣一の停止作業を一刻も早く終わらせないといけない。その時に、周りから邪魔をされては上手くいかない可能性が十分ある。此処で足止めを食らってる場合ではない。

目を瞑って暫く考えること暫し、霊夢は決断し目を開けて秦羅に呟く。

 

「…分かったわ。お願い」

 

霊夢は惣一のいる方に向かう。それに続いて咲夜と妖夢も走って行った。

 

 

 

 

「この俺を…1人で止めるとでも?」

 

3人が居なくなって後、ガイラは秦羅に問いかけた。先ほど戦い、かなり苦戦した。その相手と一対一で再び戦うのは、ガイラには無謀に映る。

 

 

 

 

 

 

「止める………違うな。

 

 

 

 

 

 

倒すんだよ。お前を」

 

 

秦羅の目が鋭くなる。それは、多くの者を倒してきた強者の目だ。その目は、一切の曇りも迷いも映らなかった。

 

 

 

 

「………フッ…そういえば俺は名乗ったが、お前の名は聞いてなかったな。名乗れ、貴様は何者だ」

 

口元を歪ませてガイラは秦羅に名を尋ねる。

 

 

 

「守森 秦羅…又の名を、黄昏の探求者だ」

 

名乗る秦羅、彼は真剣な顔つきで、全く顔を動かしてはいない。

 

 

 

「そうか、では守森 秦羅よ。貴様を強者として認め、戦いを挑ませてもらう。戦神の前で正々堂々と戦おうではないか」

「…望むところだ」

 

 

秦羅のその声と同時に、2人の剣がぶつかり合って、辺りに衝撃を与える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遠く離れた山の奥、そこで2人の人間が佇む。木の上に立って、ある一点を眺めていた。

 

「……あれが、今回のターゲットで間違いないでしょうね。正確には…アレのいる場所が、ですけど」

 

その内の1人の女性が見ているのは、黎人らが戦っている戦艦だった。空にいよいよ飛び上がって遠くからでもその姿が見え始めた。

 

「素晴らしいですね、空飛ぶ船とは…私にも是非、その技術を伝授して頂きたいものだ」

「どうでもいい話をするんじゃねぇ」

 

彼女の話を聞いて、木に座り込んでた男が悪態をつきながら近づいてくる。

 

「とりあえずは…アレが目標か?」

「えぇ、契約通り働いてもらいますよ」

「フン…」

 

 

周りを恐怖させるほどの雰囲気を醸し出しながら、2人はその戦艦に向かって歩き出した。

 

 




危機しか見えない戦況、この先果たしてどうなるのか?そして、最後の2人は誰だ?

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