東方羅戦録〜世界を失った男が思うのは〜   作:黒尾の狼牙

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前回のあらすじ
リヴァルとの決戦が始まる。
イシュー「此処は俺に任せてお前らは行け!」
惣一「何か変なもの建ててません?」


71 喉元を貫く聖槍

「それでは…始めようか」

 

黎人らが去った後、砦の入り口付近にいるのはイシューと敵が数名。因みに敵は全員人間だ。砦の中にいるのは驥獣など奇怪な生物ばかりなので、彼らは外の警備をしている。

 

「まずは警告しよう。私は手加減というものが苦手だ。戦闘になってしまうと殺さない保証は無い。だから言おう。降伏なら今のうちだ。戦う意思の無い者らは武器を捨てろ。

 

管轄を行う私だが、君らを打ち取りたくはない。だから、君らには全員武器を捨ててほしい。降伏した者は悪いことはしない。必ず命を助けると保証しよう」

 

イシューは降伏を促した。彼らはただの人間、イシューは彼らの命を奪うことはしたくは無い。出来得るなら全員降伏してほしいと思った。

 

 

 

「ほざけ!神が何だってんだ!!俺らは降伏なんてしない!」

 

だがそうはいかない。降伏するということはリヴァルの意に背くということだ。そうすれば、後でどうなるか、想像に難くない。彼らはイシューの催促を拒否した。

 

「そうか…残念だ」

 

交渉は決裂だと判断し、構えをとる。それは、戦闘開始の合図を指す。

 

数人らがイシューに飛びかかる。相手は唯一人、全力で戦えば勝機があると踏んだ故の行動だ。

イシューは彼らの攻撃を躱す。それなりの武芸を積んではいるものの未熟である彼らの攻撃を避けるのはイシューにとって難しくない。

次から次に飛び交う攻撃を避けていく。世界中の現地を巡ってきたイシューの勘はかなり冴えている。相手の攻撃がどこから来るのかが分かっているようにも見えた。

中々攻撃が当たらない事に痺れを切らしたのか、一人の男が刀を持ってイシューに飛びかかる。踏み込みがかなり深く、イシューが気づいた頃には懐に入り込んでおり、避け切れる距離では無くなった。

 

(行ける…!)

 

これなら確実に当てれる。誰もがそう思った。

 

 

《ガキィィィン!!》

 

 

だが、彼の剣は途中で阻まれた。

 

 

イシューの腕によって。

 

 

 

 

 

「…は……ハァッ!?剣を…腕で!?」

 

イシューは肘を曲げ、剣を腕…正確には手首で止めていた。普通は腕が斬れる筈だが、剣は腕を切り落とすことなく、止まっている。

 

「残念だったな…」

 

剣を弾き飛ばし、相手の腹を蹴って吹き飛ばす。呆気に取られていた男の鳩尾に当たり、男はそのまま気を失った。

イシューは次の標的に向かって腕を振る。攻撃を向けられた男は急いで盾で受け止める。手で盾を受け止めれる筈がない…そう思っていた。

 

《ピシッ!ビキビキ》

 

だが彼らの顔はすぐに動揺の一色に染まる。盾にヒビが出てきてドンドンと大きくなっていく。やがて盾が割れ、男の頬に手の甲が当てられ、吹き飛ぶ。

 

 

「こいつ…まさか、手刀か」

 

「そうだ。手を刀のように扱っている。加えて魔力で威力を高めているのでな。そこらの刃や盾じゃこれによって砕かれる。

当然刃は付いてないから、斬ることはできない。真っ二つになることはないから安心するといい。

だが…先ほども言った通り俺は加減が下手だ。先ほどの男2人は恐らく骨にヒビが入ってるだろう。急いで応急措置した方が良い」

 

誰かがブルッと身震いした。圧倒的な力に対する恐怖、それが彼らの心を覆う。それは、彼らにとって2度目だ。しかも、1度目のリヴァルの時よりも強く感じてしまった。

 

「折角だ。君らに良い物を見てあげよう」

 

イシューはまるでボールを触れているかのように手を丸めて合わせる。その時、中に黒い靄が見えた。

 

 

彼らはこの後、先ほどより強い恐怖を感じることになる。

 

 

 

 

 

 

 

砦の中に建つ塔にて、秦羅、霊夢、惣一、咲夜、妖夢、早苗らは砦の中を探索中だった。入る前に惣一が言った『リヴァルの能力発動の条件』を探し出すためである。

 

「ダメですね…この部屋には無いみたいです」

 

もちろんグループ別に探索している。あっちこっちの部屋の中を確かめ無かったら外に出る。さっきからそれを繰り返していた。

妖夢と探索している秦羅は考え事をしている。

 

「あ…あの、秦羅さん?先ほどから何を…」

「ん?いや、少し考え事をしていた。どうした?」

「いえ、この部屋もダメだったみたいです」

「そうか…一体何処にあるのか…」

 

妖夢に呼びかけられ、秦羅は意識を取り戻す。

 

「仕方ない、別の部屋を探そう」

「はい、分かりました」

 

妖夢と秦羅は別のは部屋に探索しに行った。

 

(なんというか…複雑だな。『アッチ』の妖夢と違う妖夢と喋るのも)

 

秦羅の個人的な悩みは解決されないまま…

 

 

「…あ、秦羅さん!妖夢さん!どうですか?」

 

向こうから惣一と早苗が向かってくる。口調から察するに惣一らもまだ見つけれてないようだ。

 

「いや、ダメだ。何処にあるのかも」

「そうですか…」

 

中々辿り着かない現状に惣一は頭を抱える。

 

 

 

 

 

《ピピピピピ!ピピピピピ!》

 

すると惣一の発信機が鳴った。どうやら霊夢と咲夜が何か見つけたようだ。

 

「はい、惣一です」

「惣一さん?多分見つけたわよ」

「分かりました!直ぐに行きます」

 

惣一は発信機を操作してモニターに映像を映す。モニター上には惣一らがいる塔が映っており、4階…つまり惣一らのいる所の上の階が光っていた。それを確認し、一同は上の階に向かう。

 

 

 

 

「此処…ですか」

 

霊夢に呼び出された部屋はかなり大きい。更には中心に巨大なコンピュータがあり、画面上には複雑な文章が表示されていた。

 

「あれは…何…?」

「恐らく…プログラムですね。リヴァルの能力は、パソコンの処理で成り立っていたんですね」

 

惣一は足を進めた。

 

「どうする気?」

「止めます。パソコンの処理であるなら、それを緊急停止させます」

「…出来るの?」

「大丈夫です、ハッキングでしたらそれなりの心得があります」

 

ハッキングとは、他人のパソコンや端末の処理に無理やり介入する行為である。外の世界では違法とされているが、内容はかなり複雑で、一般の人では不可能だ。GARDで働いている惣一は、()()()その知識も心得ていた。

 

「そうじゃなくて、敵が簡単にさせてくれるわけないでしょう。恐らくあれは罠よ。踏み込んだ瞬間、敵が襲いかかってくると思うわ」

 

だが、霊夢は可か不可かの話をしている訳ではない。こういう時の霊夢の勘は当たる。霊夢の言う通り、敵が襲いかかってくるだろう。

 

「…構いません。今までも、危機的状況は何度も経験してきました。今更恐れるものなど無いです。それよりも、守るべきなのは、今苦しんでる良也さん、そして、此処に住む幻想郷の住民の命です」

 

それでも、惣一は足を止めたりはしなかった。命の危機は感じていても、惣一は足を止めたりはしない。

惣一は死を躊躇わない。正義、信念、そして何より多くの人を救った父を信じてきた彼は、死を前にしても歩みを止めたことは無い。

それは一種の愚行とは知っている。命を落とせば、守れる物も守れない。時には何をしても死なないことが何より大事なのは理解してる。それでも、彼は躊躇いたくは無かった。

 

コンピュータに触れる一歩手前で、惣一の周りから何体かの生物が飛び掛る。やはり待ち伏せされていたようだ。敵に囲まれ、惣一が今にも打ち取られそうになった。

 

 

 

 

《ズババババァン!!》

 

だが、惣一を囲んでいた生物は一気に斬られた。いつの間にか惣一の後ろにいた秦羅によって。

 

「ま、どうしようといいが、その方が良いらしいな。今から僕が周りを押さえておく。その間にお前はそれを止めろ」

 

秦羅の言葉を受け止め、惣一は自分のパソコンをスキマポケットから取り出し、ケーブルで部屋のパソコンと繋げる。

画面にはかなり複雑な文章が羅列していた。

 

「できるか?」

 

秦羅は確認を1回だけする。

 

 

 

「はい、30分下さい。直ぐに終わらせます」

 

惣一はパソコンを操作し始めた。

 

「仕方ないわね、私たちも行くわよ!」

「えぇ」

「分かりました!」

「惣一さん…絶対守ります」

 

霊夢らも惣一を守るように動き出した。

 

 

 

「成る程…神が助太刀に来たという訳か。これは厄介な敵が来たものだ」

 

戦艦の甲板でリヴァルが呟く。彼も周りの戦況を察する伝手があり、イシューが戦っていることを知る。

 

「残りのメンバーはあの塔に向かったという訳か。恐らく『あの』装置を止めに行ったのだろうが…やれやれ、たかが6人で止めれると思うか?驥獣たちを何体相手すると思っている」

 

リヴァルは黎人らを見ながら言う。

 

「何言ってやがる。俺らはテメェとお喋りしに来たんじゃ無い」

「やれやれ、つれないな。ま、俺の余興に付き合えん頭の固さじゃ解決できるとは思えんがね」

 

リヴァルはわざとらしく息を吐く。元より話を聞いてくれるとは思ってない。

 

「1つだけ訊く。良也はどこだ」

 

リヴァルを睨みながら黎人は問いただす。

 

「まだあの男の心配してるのか。神経質な事だ。因みに何処かは知らん。この船の何処かにいるだろうがな」

 

質問の答えは返ってこなかった。リヴァルに答える気は無かった。

 

「ふざけてんのか、テメェ」

「ふざけてるのは貴様だ。貴様らはゴミを何処に捨てたかをハッキリと覚えるのか?」

 

もはや話し合いでは埒が明かない。こうなってしまっては倒して居場所を無理やり聞き出さないと次に進まない。

『火』の形態になり、両手に双剣を持つ。リヴァルは武器を持たず、まして向いてすらいない。警戒心を全く持ってない今の状態に叩き潰す。そう思い、足を踏み入れた。

 

 

《ブゥウウン!!ザシュ!》

「がっ!!?」

 

だが、黎人は身体を崩して倒れこんでしまう。足に激痛を感じ、立てなくなって崩れたのだ。

 

「黎人!?いや…あれは、何…?」

 

翔聖は崩れた黎人…では無く黎人に攻撃した小さな生物を見た。

 

「ああ、異世界の者は知る由も無いか。これはガチュリスといってな。高速で敵を切り刻む昆虫だ」

 

黎人はガチュリスを1回だけ見てるが、翔聖は見た事は無い。だから、不気味に思うのは無理も無かった。この生物は、リヴァルによって作り出された、一般の人では近づくことすら憚れる危険種だ。

 

「因みに量産型だ。1つの卵で確か…1万ぐらい生まれる。ああ、因みにさっき10個くらい孵化したから10万はいるだろう。という訳だ。そいつらと遊んでろ、俺はゆっくりと見物してるからな」

 

10万のガチュリスが黎人と翔聖に襲いかかる。一体一体は大した事は無い。弾幕を当てれば直ぐに消えるほどだ。だが10万もの虫を相手してるとキリがない。

剣や弾幕でガチュリスを倒していく黎人と翔聖。だが一向に消える気配は無い。更に、長引けば長引くほど自分の手札を見せる事になる。仮にガチュリスを全部倒したとしても、リヴァルを倒す事は出来なくなる。

 

「テメェ…戦わずにいる気か!」

 

全く動く気配の無いリヴァルに黎人は叱咤する。だがリヴァルは眉一つ動かさない。

 

「当たり前だ、俺は研究者だ。研究者は臆病でな。強い者の後ろでチマチマと研究する事しか脳が無い。戦闘など興が冷める。野蛮人と闘おうなんて思わん」

 

言ってる間に、ガチュリスも黎人らの攻撃をある程度読み取れたのか、弾幕を避け始める。

攻撃を当てれず、体力だけがドンドンと消化される。本格的に不味い…と焦りが見え始めた。

 

 

 

 

 

「あっったまきたァァァァ!翔聖、『アレ』やるぞぉぉ!」

 

辺りに火の弾幕を放ち近くのガチュリスを全滅させて黎人は叫んだ。

 

「えっそんないきなり!?」

「タイミングはいつでもかまわねぇ!あのボケをぶっ倒す!」

 

「ほう…一体何を?」

 

突然叫ぶ黎人の様子から何かが起こると察したのだろう。リヴァルは顔を顰めた。

 

「わ…分かった!行くよ!」

 

翔聖は剣先を黎人に向けた。

 

「聖輝『マテリアルセイバー』!」

 

剣先からレーザーが放出される。それは、当然黎人に向かう。

 

「なんだ…?いったい何を」

 

リヴァルが訝しげそうにに見る中、黎人は手に霊力を溜めている。

 

 

◇数分前…

 

「ああ、一つ言っておこう」

 

砦の中に入ろうとした時、イシューは黎人らに声をかけた。

 

「リヴァルの性格は大体分かる。恐らく君らを舐めてかかっている。その時、奴と戦うのは非常に難しくなる可能性がある。だから最初に奇策を仕掛けた方が良い」

「奇策…?」

「ああ

 

 

度肝を抜いてこい」

 

 

黎人は翔聖から放たれたレーザーに手を添える。手がレーザーに当たりかねないので、ダメージがあるんじゃ無いかと思う。だが、そんな事は無かった。

 

「そのまま余裕ぶってろ!ただし、舐め腐ってるとただじゃすまねぇぞォォ!!」

 

黎人は力を込めた。その時、翔聖のマテリアルセイバーは段々と凝縮され、先端が尖り始めた。

 

「貫け!聖槍『マテリアルロッド』!」

 

黎人はその光をリヴァルに向けて放つ。翔聖の『マテリアルセイバー』と黎人の『熱線ロッド』の合成技、マテリアルセイバーの威力と熱線ロッドの速さを備えた技だ。それは一気にリヴァルの喉元にたどり着く。

 

「何…⁉︎」

 

リヴァルは焦るがもう遅い。それは、どう足掻いても避ける事は出来ないからだ。

 

光の槍がリヴァルの肌に触れた瞬間

 

 

 

 

 

巨大な爆風がそこら一帯を覆った。

 




聖輝 マテリアルロッドは合成技です。許可はとりました。

さて、リヴァルに一撃を与える事が出来た黎人ら、この先は果たしてどうなるのか。

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