東方羅戦録〜世界を失った男が思うのは〜   作:黒尾の狼牙

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前回のあらすじ
リヴァルとの決戦の場へ
黎人「いよっしゃ!行くぜ!」
イシュー「ちょ、ちょっと待ってくれ。また腹が…」
黎人「また下痢かよ!?」


70 決戦、開幕

「ウギャアアアァァァァ!!」

「ダ!ダレカトメテ!コイツヲ…ギャアアアァァァ!」

 

黎人たちが去った後、物凄く強烈な断末魔が響き渡る。それもそうだろう。

 

 

 

巨大な支柱を振り回す相手に平然としていられる人などいるか、いや居ない。

 

 

先程からドガンの持つ支柱によって、驥獣らはなぎ倒されていく。中には覚醒している者もいるが、大した決定打になってない。

 

「ク…オノレ…ナラバソノブキヲ…!!」

 

驥獣の一体が支柱に向かって弾幕を放つ。支柱に触れた瞬間、それは支柱ごと爆発した。

 

「イヨッシャアァァ!コレデカツル!!」

 

ドガンの持つ武器が壊れた事に歓喜し、見事な敗北フラグを建ててドガンに突っ込む。しかし、彼らは返り討ちにあう。

 

 

 

「ヴアアアア!!」

 

ドガンの張り手によって

 

 

 

「ゲボハァァァ!!?コイツ、エゲツナイハリテヲダシテクルゥゥ!!?」

 

 

吹き飛ばされた者らは物凄い勢いで壁に激突する。

 

ドガンの肉体はかなり丈夫である。鍛え上げられた筋肉、柔軟、張り…いずれも尋常でない力を持つ。その筋力に加え、長い腕、大きな手を持つ。それで繰り出される張り手は、途轍も無い威力を発するだろう。

 

 

「ガァァァァ!!」

 

「ダレカコイツヲトメテェェェ!」

 

 

血気盛んに突進してくる進撃の巨男、彼を見て多くの者が怯えきっていた。

 

 

 

 

 

 

荒れ狂う戦士と真逆に優雅に戦う者が1人いた。イシューの下の1人、清嗣。彼の持つ武器は槍。それにて敵を次から次に薙ぎ払う。

 

「グ…クソッ!コイツノヤリ…ヨケヅライ」

 

彼の槍術は曲線を描き、円を描き、時に蛇を描くように見える。動きが全く読めない攻撃に驥獣らは翻弄されていた。

 

「避けづらいのは当たり前だ。俺の槍術は、敵を簡単に逃さないようにしている。

 

名を蛇槍術、獲物を捕まえ確実に仕留める蛇の如しだ」

 

かつて清嗣は古武術…その内、槍術を習っていた。槍は剣に比べて長く、間合いも取れるので戦闘においてかなり優位な方に立てる。しかしその分扱いは難儀だ。特に長ければ長いほど、重さも遠心力も不可がかかる。清嗣が持つような槍を扱うのは至難の業だ。

それにもかかわらず、清嗣は平然として槍を振り回す。その軌道は全く読めないのだ。

 

「ヘビ…?モノノタトエガイイナ…ダガ、キドウガマガッテイルヨウニミエルダケデ…ホントウニヘビノウゴキニハナラナイ。キソクサエミヌケレバ…」

 

驥獣らはかなりの頭脳を持つ。例え多彩であろうともパターンを覚えられると対処される恐れがある。

しかし清嗣は顔色一つ変えなかった。

 

「…そう。今のはあくまで物の例えだ。蛇の如しとは言えども所詮は人間。人間の動きは、多彩に見えていてもある程度はパターン化される。だが…」

 

槍を突き出す。だがその先は驥獣の顔の横、当てるどころか擦りすらしない。

当てようとすらしない清嗣の動きに顔を顰める。だが、直ぐにそれは苦痛に染まる。

 

 

 

 

 

《グサッ!》

 

「ガッア…⁉︎」

 

背後から()()()()感覚、心臓の辺りを貫かれ驥獣は倒れる。

他の驥獣は倒れた者を…見ておらず、清嗣の手に握る槍を見ていた。何しろ、()()は…

 

 

 

 

「この槍は…曲がるよ」

 

 

槍とは思えないほど曲がりくねる。先程は軌道が蛇のように見えたが、今度は槍が蛇のように動いていた。

 

「蛇槍術改め槍蛇(そうじゃ)…いやなんかカッコ悪いな。うーん…

 

そうだ、蛇の道(スネークロッド)はどうだい?(ロッド)(ロード)をかけて」

 

なにやら名前が決まったようだ。

 

「マサカ…ノウリョクカ…?」

「そう、とは言っても槍と能力との絡み技は慣れてなくてね。最近自由自在に出来るようになったんだ。

 

さーて諸君、ついでだ。俺の芸当を見てから帰るがいい」

 

 

そう言いながら槍の根元付近を掴み、振り回す。すると、槍も手の動きに合わせて渦巻きを描く。

回す速さをあげ、長さを伸ばし、辺り付近の驥獣を吹き飛ばす。その槍はまるで、蛇の巻きつくとぐろのようである。

 

「蛇道【蜷局(とぐろ)】」

 

回転しながら辺りの驥獣らを薙ぎ払っていく。それは槍というより鞭に近い。凶器を振り回す清嗣に近づくことすら容易に出来なかった。

 

「オ…オノレ…コンナトコデアシドメサレテイルワケニハイカナイ、テノニ…」

 

何時まで経っても清嗣らを倒せずにいる驥獣ら。彼らの顔は段々と恐怖が醸し出している。

彼らは生まれながらにして埋め込まれている恐怖がある。親であるリヴァルの怒りだ。彼は使えない者を処罰する。情や情けとは無縁の存在。これ以上時間が掛かると、リヴァルからの怒りによって自分らは処分される。

それを第1に避けるためにも、彼らは清嗣らを倒す為に足を上げた。

 

《ドドドキュン!!》

 

「エ……?」

 

だが彼らは直ぐに地に伏すことになる。彼らの耳に届いたのは、銃撃の音…つまり、狙撃されたのである。他の者が周りを見渡すも、狙撃した者は見えない。

 

「ド…ドウイウコトダ…?ソゲキシタヤツガミツケラレナイ」

 

目を皿のようにして探すも全く見つからない。そう言ってる間にも彼らの身体は撃ち抜かれ、倒れていった。

 

 

 

 

 

 

「便利だね…同化だっけ?」

 

辺りの敵が倒れたところで清嗣は何もない空間に話しかける。だが、その後景色がぼやけていった。そのぼやけはやがてハッキリと姿を現した。

 

「そう便利と思い込むなよ、結構疲れるんだぜコレ」

 

その姿はイシューの配下の1人、劉だった。

 

 

 

「ア…アソコダ!ヤッチマエェェェ!!」

 

劉の姿を黙認した驥獣らは、一斉に動く。

 

「ハッ!血気盛んだな。だが止めとけ、()()には…」

 

一気に劉らの目の前に走り込む驥獣、その時…

 

 

《ドカァァァン!!》

 

 

巨大な爆風により彼らは消しとばされた。

 

「俺特性の地雷が埋め込まれてあるからな」

 

 

 

 

 

 

 

 

《ダン!!》

 

 

 

西の方の遠く、とある砦の中にてリヴァルを壁に叩きつけた男…ガイラの目は怒りが篭っていた。

 

 

「どういうことだリヴァル…!俺らを利用しただと…?まして、良也をあのような姿に…!」

 

元々ガイラには『博麗の巫女を連れてこい』という話だった。だが実際にはそれはフェイント…本来は良也を生け贄に捧げるものであり、ガイラにとってはそれが許されざる事だった。

そのガイラの怒りに対して、リヴァルは顔色一つ動かす事は無かった。

 

「騒ぐな、獅子王。奴は貴様のような武力は無い。戦闘の場では全くと言っていいほど役にたたん。そんな奴を少しでも役に立たせようとする俺の優しさだ」

 

口から平然と出てくる非道な言葉、犠牲にする事を優しさと主張するのはあり得る話ではない。

 

「ふざけるな!犠牲は決して悦ばれることでは無い!そんな事で利用して良いはずが無いだろう!」

 

良也は共に戦う味方、言わば戦友であり、たとえそれ程強く無くても蔑ろにするのはガイラにとっては許し難いことになる。

 

「犠牲は悦ばれることではない…か。素晴らしい大義だな。

だが大義が果たして世の為になるのか?」

 

リヴァルの目は何の熱もない、冷めきったような感情を醸し出していた。いわゆる無関心である。良也を利用したことに関して何も感じてない。

 

「なに…?」

 

「歴史を見てみろ。この世は人徳だけで形作られていない。寧ろ悪逆からなっている。

 

裏切り、戦争、そして犠牲。平和なこの幻想郷では全く考えられない素行ばかりだ。

 

発展の為には野望が不可欠だ。そしてその野望のぶつかり合いで衝突は起こる。

 

その素行を悪とするのは、向上心の無い証拠だ。これ以上危険を冒したくない、このまま何事もなく過ごしたくない…それが逃げ腰たる者を作り出している。

 

正義や大義というのは、その者らが作り出した物に過ぎん」

 

「正義を愚弄するな!正しく生きようとすることは決して間違っていない!」

 

ガイラも一応悪の組織に入ってはいるが、それでも通すべき筋という物を抱えている。いわば、仁義。対戦相手と正面から立ち向かう事を必須とする。そうしなければ、相手に負けを認めさせる事は出来ないし、何より自分がその勝ちで納得する筈がない。

 

「愚弄…か。確かに俺は正義を愚弄しているだろう。いや、寧ろ我々は正義を愚弄する」

「なに…?」

 

リヴァルの呟く一言。それに疑問を感じた時、ガイラの視点は反転する。

気づくと地面に倒れていた。恐らく投げられたのだろう、と考えが付く。そして、すぐ側で自分を見下す男が話しかけた。

 

 

「目を覚ますんだな獅子王。この世に万人を救う行いなどありはしない。あったのは限られた少数を幸せにすることだけだ。まして研究はそれの典型例だ。犠牲を恐れて前に進まないのは変わらない者の理論だ。もし犠牲になった者がいれば、運が無かったなと笑って済ませばいいだろう」

 

 

 

その後、ブザーが鳴る。その音は、侵入者が近づいて来た時に鳴る音だ。つまり、誰かが来たというわけであり、その正体は確認するまでもなく察しがついた。

 

「チッ…役立たずどもが。足止めすらまともに出来んのか」

 

リヴァルの言う『役立たず』とは、黎人らの足止めを命じた驥獣たちのことだ。倒せるとは行かなくとも時間は稼げるだろうと踏んでいた。だが、結果は全くと言って良いほど稼げていない。

 

「どうするのだ」

「決まっていよう。返り討ちにしてくれる。奴らの狙いはこの男の救出だ。ならば立ち会うのも必然だ」

 

リヴァルは近くの塔に向かって歩く。

 

「お前も出ろ、ガイラ。まさかとは思うが、貴様も()()()()()()()()()()状況だという事を忘れたわけじゃあるまい?」

 

 

 

 

 

 

「…なんだ…これ……」

 

黎人らは暫く走り続け、漸くそれらしき砦を見つけた。その時、彼らの目には信じられない物があった。

鉄製で作られた塊のようにも見えるが、形や飾りを見てそれが何なのかが大体察せる。地上にある船のように見えるそれは…

 

 

「まさか…戦艦、ですか?」

 

 

戦闘用に用いる船、言わば戦艦であった。加えて、普通海にあるはずなのだが地上にある所から、普通なら思いもよらない予測がつく。

 

「まさかと思うが…空飛ぶ船、じゃ無いだろうな」

「そ…空飛ぶ船…⁉︎」

 

船の構造をしながら地上を滑るとは考えづらい。ましてタイヤらしきものが見れないためそのまま移動は出来ない。よって空飛ぶ船としか思いつかない。

 

「こんなもの…一体何に使うのよ」

 

一応幻想郷にも空飛ぶ船は存在する。それが存在することに何も違和感を感じることは無いが、何のためにこれを作ったのか、霊夢はそれに疑問を感じていた。

 

「…奴の目的が何か知らんが…奴の性格を考えると、自らの経歴、成果を見せびらかすような代物だろう」

「成果を見せびらかす…て何?」

 

イシューの推測、それがどういう事なのかを問いただす。

 

「そうだな…惣一なら分かるだろう。戦闘や戦争において最も賞賛される代物とは何だ?」

 

「それは……多くの敵を倒せる物、ですか?」

 

「惜しいな、多くの者を『殺せる』代物だ。そして…それを示すのに最も有効な手段を知っているか?」

 

多くの者を殺せる力…言わば殺傷力だ。それは理論や研究では測る事は出来ない。もし、それを正確に示せる方法となると…

 

 

 

 

「……まさか!」

 

「そう、実演だ。実際に作動してみてどれくらいの人間が殺せるか…その人数がこの兵器の価値になる。

 

そして、その殺す為の人間こそが此処に住む者たちだ。外の世界はほとんど人がいない。だから此処で実際に作動して多くの者らを殺して示すのだ」

 

「そんな…理由で!」

 

あり得ない、と翔聖は感じる。自分の為だけに多くの人を唯殺すという行いが。正しくも真っ当でもない。それは、最も汚れたものである、と。

 

「このような事、お前らでは考えられない悪行にしか感じられんかもしれん。だが残念な事に、それを行う者もいる。

 

皮肉にも人間は善にも悪にもなれる。そして、悪が居るから世界は混沌に満ちるのだ」

 

悲しくも間違いを起こすのは、人間である。生物の中で最も裕福である人間が最も汚れている点。あらゆる生物の中で、世界を混沌へと導く者こそが人間だ。それは、余りにも嘆かわしい。

 

 

「だが、間違いを正すのも人間だ。そして、世界を守るのも人間だ」

 

それでも、イシューは人間を信じていた。例え間違いを犯しても、その間違いを正してくれる…と。

 

「私は信じてる。いつかお前たち人間が、理想の世界に変えてくれる事を」

 

 

 

暫く経った後、砦の方から何人か現れる。リヴァルの敵であるのは分かり、黎人らを始末しようとしているのは間違いない。

 

 

 

「こいつらは私が引き受ける。お前たちはあの戦艦を停めてこい」

 

その場にイシューだけ残し、他の者は砦の中に入っていった。

 

 

 

 

「戦艦に1人、あの近くの塔に複数いるな」

 

その砦はそれほどでかくは無い。目立つ塔が一つあるだけで後はめぼしいものはなかった。あくまで仮拠点なのだ。

黎人は『水』の力を使い敵の配置を確認した。人物まで把握はしてない。

 

 

 

「戦艦にいる奴は…リヴァル、ていう奴だろう。空に飛ぶ、てんならそういう所にしかいかねぇはずだ」

 

黎人の推測はもっともだ。敵の中でリーダー格はリヴァルくらいだろう。となると、戦艦に残されている男はリヴァル以外にあり得ない。

 

「ですが…1つ気になる事があります。あの人の言っていた言葉から察するにあの戦艦を動かしているのは良也さんから抜き取った生命エネルギーを使って動き出しているはず…そして、その作動には何かしらの条件があると思われます。

 

他の者をあの塔に配置してる所から察するに、その手掛かりがそこにあるとしか考えられません。一先ず其方にも行った方が良いかと」

 

惣一の考えているのも間違いでは無い。リヴァルとの戦闘で知った『能力の発動条件』、それの答えがあの塔にあるかもしれない。

 

「でも…それじゃあ人数が足りなくない?」

 

翔聖に一つ不安があった。つまり、塔の中を調査するものとリヴァルと戦う者…2グループに分かれる事になる。今は5人しかおらず、少し心許ない。

 

「それに関しては大丈夫だ」

 

だが、秦羅は一つ手を打っていた。それが一体どういう事なのかを聞こうとする前に、援軍が来た。

 

「連れてきたわよ」

「な…何ですか、アレは!」

 

それは先ほどの砦の入り口で戦っていた咲夜。彼女と合流した後彼女にある者らを連れてくるように指示した。それは、白玉楼の庭師の妖夢、そして…

 

 

 

 

「あれは…まさか、空飛ぶ戦艦!?そんな…外の世界でもテレビの中でしか存在しない空飛ぶ船をこの目で直接見られるなんて…やはり、この世界に常識は通じないんですね!」

 

「…早苗さん?」

 

 

 

守矢神社の巫女、早苗であった。そしてなぜか知らないが彼女の目は輝いている。

とはいえこれで3人追加されて8人になった。これなら少し余裕がある。

 

「そうか…じゃあ」

 

 

 

 

 

 

戦艦で待つ1人の男、リヴァルは椅子に座っていた。残る者を塔に置いてきて戦艦には彼1人が乗っている。何故他の者を置いていったのか、それは他の者が邪魔になるからだ。

やがて、彼の前に2人の男が現れた。

 

 

「来たか、やはり予想通りの奴が来たな」

 

 

 

 

現れたのは斐川 黎人と神代 翔聖だった。他の者は塔に入り込んでいったのである。

 

 

「念の為に聞いておこう、貴様らは何のために来た?」

 

リヴァルが質問を投げかける。その答えは確認するまでもなかった。

 

「テメェの暴虐を止めに来た!」

「…同じく!」

 




いよいよリヴァルとの決戦が始まります。果たして彼を打ち破れるのか!?

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