レオードとバイクの一騎打ちが始まる。
黎人「おいちょっと待て。俺とガイラの一騎打ちだろうがよ」
ガイラ「一騎打ちでもないがな」
幻想郷の森の中、かなり高速で駆け抜ける物が2つ。1つは猛獣に乗る荒武者。1つは機体に乗る戦士。
彼らの走る姿を見るのは、ごく限られた者のみである。
「う……ん……」
霊夢が目を覚ますと、何かに乗っている自分と同乗している男…ガイラが目に映った。
「な…あんた!」
力を入れるが動くことは出来ない。拘束されているのだから動けないのは当たり前だ。
「暴れるな小娘。仮に抜けれたとして、このスピードで地面に叩き落ちる。お前はそれを耐え切れる筈が無い」
冷静に呟くガイラ。彼の言う事は最もだが、それに従う気にはなれない。
「私がどうなろうと知った事じゃないでしょ!」
「いや、さっきも言っただろう。俺はお前を誘拐するという任務がある。だから死なれると厄介なのだ。
それに、滅多に無いスピードバトルだ。余計な真似をされて気を散らされるのは困るのでな」
ガイラの言葉と同時にエンジンの音を聞き、レオードの側方を見ると、バイクに乗って走る黎人の姿が確認できた。
かつて河童に作って貰ったバイク、速度は200km、かなり速めの方だ。使い始めてまだ一月も経ってないが、使い熟している。
「行くゼェェェ!!!」
何故かテンション高めになっている黎人はスピードを更に上げる。乗り物に乗った時人格が変わるタイプに違いない。
「本当に面白いな、此処は。見たこともない乗り物を使うとは…
で?それで解決されるとでも?」
ガイラは手綱を引く。それにより、その手綱に括り付けられているレオードは、力を溜めて…
「は⁉︎おいちょっと待て!此処は一旦落ち着いて」
「断る」
「ですよね〜」
《ドゴォォォォン!!》
隣で走っている黎人にぶつかる。体格差で圧倒的に負けている黎人はそのまま崖に落下した。
「ちょ!?黎人ーー!!」
「なんだ…あっさり終わったでは無いか。期待した分虚しいわい」
溜息をつく獅子王。そのままレオードを走らせる。
「まだまだぁ!」
「……何?」
崖からの大声。それが聞こえた方を見ると……
「ぬおおおおお!!」
壁にタイヤをつけ横向きで走る黎人の姿が見えた。
「いやどこ走ってんの!!?」
「ぬん!!」
力を入れて上空に飛ぶ。ガイラの少し後に着地して、戦闘に復帰する。
「行くゼェェェ(2回目)!!」
そこから再びスピードを上げた。
「スピードを緩めろ!レオード!」
突如、レオードのスピードを遅くする。当然、黎人はそのまま前に出た。
(何を……?)
「今だ!『お手』!!」
「ゲッ!まさか……」
黎人が思った通り、後ろにいるレオードは前で走る黎人に向かって殴りつける。慌ててスピードを上げることで攻撃が当たることは無かった。しかしそれで終わらないのも事実。
「まだまだぁ!追いかけろ!!」
止める事なく次から次に殴り続ける。確実に黎人を潰しにかかっているそれは、容赦なく地面を叩き伏せる。
一方の黎人はそれを避けるのに必死になり右へ左へハンドルを切る。その結果安定が悪くなり体制を立て直すのに必死だ。漸く立て直したと思ったら次の攻撃が来るのだから溜まったものではない。
「どうした?その様子だとあの男を倒すことなど出来ぬぞ」
「あの男だと…?」
「俺らのボスだ。博麗の巫女を連れて来るよう命じた張本人。あやつはバケモノだ。何しろ…俺ですら手に及ばんのだからな。それを貴様らが倒せるとは到底思えないがね」
◇
(あのガイラですら手に及ばない…?一体何者なんだ…)
走り駆ける2人を追っている秦羅は寒気を感じた。ガイラはかなり強敵だ。そのガイラですら手に及ばないとなると、自分らでは太刀打ちすら出来ない事になる。
『秦羅さん、聞こえますか』
耳に届く声、惣一のものであると直ぐに分かった。
『黎人さんがバイクを使っていますが、あの戦士、かなり強者です。このままでは霊夢さんを奪い返せるとは思えません。此処は私たちも援護しましょう」
惣一の言いたいことは分かる。ガイラはかなり強敵だ。あのままでは霊夢が連れて行かれるというのがオチだ。
「いや…様子見で行こう。野暮なことはしない方がいい」
『……何を?このままでは……』
「だから一旦落ち着け。僕たちもさっきは手も足も出なかったんだ。無闇な援護なんてしたら、逆に邪魔になる。それに……そうした方が都合がいい」
『…………?』
◇
(どうする?このままじゃ殺られる)
後ろからの猛攻を躱しながらそんな事を思う。体格差が歴然とあるのは間違いない。
(……止むを得ねぇ、一か八かだ!!)
上からレオードの手が振り落とされる。それに対し黎人は、形態を変化した。
「え…⁉︎何で……?」
「……」
変化した形態は『土』、最も防御力に長けている形態だ。スピードが出ない分何かと不利だが、この場面では有利に働く。
黎人は振り下ろされる手を、背中で受け止めた。
「何と!?」
全く動じもしない黎人。これには流石にガイラも動揺したようだ。目を見開いた動揺の顔。滅多に見せぬ顔に若干意外に感じる。
だがここで止めはしない。バイクを走らせたままスペルを使う。
「土符【ロックブラスト】!!」
大きな岩石が現れてガイラに目掛けて動き出す。当たれば致命傷を与えるだろう。
勿論やすやすと殺られるガイラでは無い。右手に握った剣でその岩を次から次に壊す。いとも容易く突破されてしまう。
だがそれで良い。一瞬だけスピードを緩める時間があれば良い。
バイクの前輪を持ち上げ、俗にいうウィリーの状態で駆け抜ける。ガイラを置いて距離を開けた。
「ふっ!!」
ある程度距離を開けたところで、ブレーキをかけながらハンドルを右に傾け、逆方向を向くようターンする。横で追い抜き、追い抜かれながらの戦闘ではかなりやり辛いと踏み、正面衝突を選んだ。
形態を『金』に変え、思いっきりアクセルを踏む。停止の状態からの発進であるため最初はあまりスピードが出てないが、足りないスピードは、能力でカバーできる。
「斬る!」
後はレオードを叩き斬れば、霊夢を救うことが出来る。
「残念だな。正面からとは…愚策だったぞ」
「何……?」
ガイラの不吉な笑い。それを証明するかのようにレオードの口が白く光る。
「黎人!!逃げて!さっきそれで私達を吹き飛ばしたの!」
「何……⁉︎」
霊夢の忠告を聞くももう遅い。既に走り始めた車は急には止まらない。
「威光【
口からその光がこっちに近づいてくる。ダメだ…避けれない……
放出された光は見る見るうちに道一帯を焼け払い、黎人もそのまま包まれる。
目の前がだんだんと白くなっていく。身体の感覚が無くなっていく。……熱い、痛い、苦しい……痛い感覚ほど、かなり残りやすくなるのは哀れにも感じる。
だが不運にも、その痛いという感覚が黎人に一つの策を講じさせた。
………耐えれないなら、耐える防具を作れば良い。
攻撃を食らっている最中ではあるが、意識だけはハッキリとしてる。これならば……
能力強化も…可能だと……
「黎人ぉぉぉ!!」
黎人の呑まれている姿を目の当たりにし、呆然とする霊夢。煙が上がっていて、哀れにも亡骸すら見つかることは無かった。
「ハッハァ!中々耐えていた様だがそれでも俺には敵わなかったか。もう少し力があれば或いは止めれただろうに」
ガイラの笑う声が響き渡る。
「そんな……黎人……」
愕然とする翔聖。倒されてしまった仲間、それは彼にとってかなりショックだ。
「まだ……倒されては無い」
それを宥めるように言う秦羅。彼の顔には絶望も哀愁も感じない。
「え…?どういう……」
「聞こえないか……この音が」
秦羅の言うことに従って耳を傾ける。すると……
《ブルルルル……ブウゥン!ブゥン!》
エンジンのかかる音。この音を鳴らせるのは今この場で1人しか居ない。
「な…馬鹿な……⁉︎」
信じられない、という顔をしているだろう。いくら何でもあの大技を食らって戦闘続行となる程度にまで耐えられるとは思っても無かったからだ。
土煙の中に、こちらに向かって走る者が1人。じわりじわりと姿を現したそれは……
白色の鎧を身に纏った黎人がバイクに乗った姿だ。
「な……なんだ…それは……」
見た事も無い形態。ガイラは訳がわからないと言っていた。
「……これは『金塊』!『金』の強化された形態だ!これを使うと、この鎧を纏うことが出来る!」
言われてみると、黎人の胸には『金塊』と書かれている。『火焔』や『流水』と同様、五行の強化形態だ。
「更に!金塊は金属製の器具を変形する事が出来る!さっき拾った鉄パイプ(いつ拾ったとか聞くのは却下)もこのように剣に変形出来る!」
元々持っていた剣と今作り出した剣、合わせて二本の剣が黎人の手にある。
「行くぜ野郎共ォ!!Here We Go !! Let's Party!!」
高らかに宣言して両手に刃を持った。
「ちょっとォォ!!?何で独眼竜もどきになってんのぉ!!」
「止めんじゃねぇReimu!!俺の震えるHARTが燃えつきるほどHEATしてんだ!この俺さえブレーキが効かねぇ!!」
「喋り方おかしくなってるし!バイク両手離し運転は危ないし!後震えてるのは『
テンションがフォルテッシモしてるようだ。これも、『金塊』の能力なのだろうか。
「ぐ…こんなところで敗れるわけに行くかぁ!全身全霊の力を以って貴様を打ち砕く!」
手綱を握り黎人に向けて突進する。この体格差があれば先ずガイラの勝ちだろう。だが、黎人はそれで戦おうとはしていない。
「ふん!」
バイクの座席から跳び上がる。高いところで座っているガイラの目の前に来た。
「な……⁉︎」
「食らいやがれ!【アクティブダイブ】!」
刃を思いっきり振り下ろす。何とかガイラは剣をとって受け止める。剣撃が若干重くなったもののガイラの腕力に敵う訳ではない。
「HA!この程度でやられちゃ面白くもなんとも無いからな。HOTでCOOLに行こうや!」
もう1本のもつ刀で、ガイラの身体を斬る。元々の攻撃力があり、ガイラの耐久力を上回った。
「ぐあ!」
「チャンス!」
レオードの上から飛び降り、霊力を貯める。
「届け!【銀風】!」
レオードに目掛けて銀風を放った。大きな斬撃はレオードの身体を捉え……
「グアアアァ!!!」
体制を崩した。
「なんとぉぉぉ!」
「きゃあああ!!」
レオードの体制が崩れたと言うことは、乗ってる人物は振り落とされると言うこと。しかも、崖の上から落とされているのだからこのままでは真っ逆さまだ。
「不味い!」
黎人は慌てて霊夢の方に向かって飛ぶ。かなり早く…地面に着く前に……
(間に合え……)
◇
地面に放り出された少女は、重力に逆らうことなく落下する。空を飛ぶことは出来るが、体制が崩れるとその能力は発揮できない。このまま地面に激突して……
《フワッ》
突然の浮遊感。それに違和感を感じる。目の前を開けると……
「ふぅ、間に合ったか……」
黎人がいた。どうやら飛んでいる霊夢を救って……
そこまで考えが行き届いた時、彼女は一つ可笑しな事に気づく。今、霊夢は横向きになっている。目の前に空が見えるのがその証拠だろう。そして、黎人は自分と垂直に立って、自分を支えている。つまり、今の状態は……
「……ッ!?!?!?」
お姫様だっこに違いなかった。
「危なかったぜ……『金塊』はそんなにSPEEDが出ないからな。落ちているお前に追いつくために全力で飛んだ。これに懲りたら単独行動は《ドゴォォン!!》ゴハァ!!」
震える手に力一杯入れて拳を放つ。殴られた黎人はそのまま地面に落下した。
一方の霊夢は何とか体制を立て直し、飛ぶ能力を何とか発動できた。顔が若干赤くなってるのは羞恥と怒りによるものだろう。
「うわ……凄い勢いで落ちていったね…」
「まぁ、あんなことしてればそうなるな」
上空から翔聖と秦羅が降りてくる。2人とも、今の一部始終を見てたようだ。因みに此処に来る途中に黎人が乗り捨てたバイクを建て直したため、翔聖の手は埃塗れだ。
『あの……聞こえますか、秦羅さん』
「あぁ、聞こえる。どうした」
秦羅の耳に惣一の声が聞こえる。
『今…その……黎人さんが叩き落された所……見たことも無い場所ですが…』
惣一の声を聞いて黎人が落ちたところを見ると……砦が見えた。
「やはりか……」
『……こうなる事が分かってたんですか?』
「賭けに近かったが、敵の本拠地に近づけると踏んでた。あれが本拠地と言う保証は無いが、可能性は十分にある」
さっきまで自分らが探してた敵の本拠地。些細な事であったが、見つけることが出来た。
「…それじゃあ行くぞ。敵を叩き潰しに」
その場にいる全員は、その砦に向かう。決着をつけるために……
新たな能力『金塊』が現れました。これを使うとテンションが『ヒャッハー』になります(意味不明)
次回はいよいよ敵の本拠地に。クライマックスな戦いに向かっていきます。