ガイラたちの快進撃
ガ「見ろ!これが『ゴリ押しできる程度の能力』の力だ!」
良「嘘こけ!」
「ぬ…?」
ガイラは突如現れた惣一に興味をひいた。幾たびの戦場から、その者が持つ戦闘力を計ることが出来た。
そして、惣一を強者と見なした。
「……ふっふっふっ…今回は何と良き日かな。次から次と強者が集まってくる」
それは、ガイラを唆らせる唯一のものだった。
「あれが……稲田 惣一?」
秦羅はその男の名を知っている。イシューから言われたもう一人の男。彼がこの世界で強者に位置する男だと…
だが、危機は去ったわけではない。
「はっははは…不意打ちとは卑怯だな。だが…こんなもので僕を封じたと思うなよ」
そう、良也は超再生の能力があるのだ。いま与えた傷程度では回復される。
『傷』は……
「……!?な…動けない…?お前…何をした‼︎」
良也は身体を動かす事が出来なかった。意識もやや掠れており、視界があまりハッキリとしない。
「さっき撃ったのは麻酔です。耐えられたらマズイので念を入れておきました。後1時間は動けない筈です」
惣一が撃ったのはロンガによる麻痺弾。これまでの経験から一発では仕留めれないと踏んだ惣一は麻痺で動きを封じることにした。結果は成功だった。
「残りは…あなた一人だけです」
残るはガイラ1人、しかも、良也は人質に取られたに等しい。ガイラは危機に立たされていた。
だが、屈する理由にはならない。
「ハッハァ!!麻痺弾とはなかなかやるな惣一とやら!だが今正常に動けるのは貴様1人…それで勝てると思っているのか?」
そう、翔聖や秦羅は動けず、黎人や刃燗はとっくに脱落している。戦えるのは、惣一1人なのだ。
「戦う人数とかは関係ない。私は、あなたを倒す為に来たんだから!」
だが惣一の意思は揺るがない。もとよりそのつもりで来たのだから。
「フッ…ならばその力、この俺に見せてみろぉ!!」
ガイラは突進の勢いで惣一に突っ込む。だが突進ではない。刀が届く間合いになり、ガイラは剣を振った。
「……!!」
惣一はナイフでその剣を受け止める。鉄製で出来ており、硬さに重点を置いた作り、ある程度の衝撃には耐えれるようにしてある。
(ぐ……重い…)
だがその硬さも、ガイラの腕力に敵わないようだ。あまりにも異常なその怪力は、そのナイフを弾こうとするレベルだ。
《ギャリン!!》
剣を流し、鍔迫り合いから脱する。力くらべでは勝てないと踏んだ惣一は、狙い撃つスタイルに変更する。
《ドギュン!ドギュン!》
その弾丸はガイラの肌に触れ…そこで止まる。
「……!?銃弾を止める硬さ…?」
「軽いな、それでは俺に傷を負わせることは出来んぞ」
先ほど秦羅の刃を止めてはいたが、銃弾まで止めるなど、もはや硬いでは済まされない。
(待てよ……あれはひょっとして…人間の肌ではない……?)
惣一は一つ、推論をした。幾ら鍛えようとも、銃弾や斬撃を受けて傷すらつけられないとは考えづらい。となると考えられるのは、能力か…
或いは
(だが人間の形をして、動きも支障無いようだったら……
引き金に指を添える。無闇に銃を撃てば、無駄玉を出す事になる。弾は出来得る限り消費を抑えたほうが良い。特に、ガイラのような強敵相手には……
(狙う箇所は1点…集中を極限まで高めて…狙う)
「行きますよ!」
「おおとも!受けて立とう!!」
ガイラは剣を持ち、再び突っ込む。今度はナイフで防ごうとせず、また逃げようともしない。何故なら、ここでガイラに攻撃を止められれば、チャンスを見逃すからだ。
(…逃げぬつもりか…?まさかギリギリまで引きつけておいて寸前で交わして攻撃を避けるつもりか。
だが、俺の剣のリーチではそんな隙は与えられん。仮に避けれたとしても、そこから俺の体に傷など与える事は出来ん!!)
ガイラは思いっきり剣を振る。中途半端に剣を振れば、それこそ避けられる。だからこそ、逃げ場を無くす為に最大限の速さで、最大のパワーで振り被った。
(まだだ…あれは、彼が腕を引き戻す事が出来る距離…)
惣一はまだ、動きもしない。ギリギリで避けることが出来る時でも全く動かない。1秒にも満たないであろう時間、誰もが数分の経過を感じた。
(…ここだ、フライアーマー、解除!!)
刃が惣一の顔に触れようかという時、惣一はフライアーマーを解除し、
「な!!?」
真後ろに体を飛ばした。
本来は上空に浮かす為の道具、それを真後ろに飛ばすために用いた。かなり高速で移動するため、剣を避けきり、さらに噴射によってガイラを怯ませることに成功。
(いける…この一撃で……)
「レーザブースト、解除!!」
惣一は手袋の『レーザブースト』を解除して銃弾を強化。そして銃を発砲して、
右手の手首を撃った。
「ぐあああああ!!!」
ガイラの断末魔に、翔聖らは意識を取り戻した。
「え?銃弾が効いた…?」
そう、初めて銃弾が効いた。今までだったら止められた筈なのに…
「思った通り、関節は固まって無かったですね。上手くいって良かったです」
体を曲げたり伸ばしたりする部分、それが関節。それが硬いままだったら、身体を動かすことすら出来ない。だが、それは動けていたので柔らかいと踏んだのだ。
しかも、それだけじゃない。
「こ…こいつ……親指の腱を撃ち落とした……」
ガイラの言う通り、親指の腱を撃ち落としたのだ。腱とは、筋肉を骨にくっつける部分の事、それを撃ち抜かれれば、その部分の筋肉を動かすことは出来ない。
「でも…なんで右手の親指を……?」
翔聖は、何故親指を動けなくしたのかが分からなかったようだ。それを説明したのは、秦羅だ。
「いや……細長い物を持つとき、親指は変わりがない指だ。それを撃ち落とされれば、剣を握ることは出来ない」
そう、細長い物を持つとき、親指は
「左手を使われると厄介ですが…さっきから右手しか使ってないのを見て、左手で剣を振ることは出来ないと踏んでました。確信は無かったですが…どうやら当たりのようですね」
そう、左手は動けるはずなので使っても可笑しくは無い。だが、なぜか左手を使わずにいたので、右手を潰せば良いと感じた。
「さて…まだ続けますか」
ガイラは内心焦っていた。元より戦闘手段は剣。それを使う術がない今戦う術は無い。
正確には一つだけ存在するが、この場で使うのは宜しくない。
「さて、どうするか……」
『マズイ状態になっているな、獅子王』
彼の耳にその声が聞こえる。残りの者には聞こえない。なぜなら『それ』は、彼の耳にだけ届くようになってるのだから。
(あぁ、どうする。このままでは勝てる見込みが無いぞ)
声を発する事はしない。だが、それだけで『アッチ』には届く。
『仕方ない。ここで良也を失うのは不味い。一旦帰還しろ』
発せられたのは撤退命令、良也を連れて退け…と
(了解した)
ガイラは『それ』を止め、腰を落とす。相撲の構えのようになり、更には片足を上げて四股踏みのように地面を踏む。
(……何を…)
「お前らに賛辞を言っておく。今日は良い戦いだった。ここまで全力で戦ったのは久々だ。満足とは言わんが歓喜はした。改めて礼を言う。
今回の戦いはお預けとさせて頂くが、次回はこうはいかん。驕ることなく刃を磨くがいい」
ガイラが言いきった後、地面に赤い紋章が現れた。そう、まるで魔法陣のように…
「何を…?」
「……?」
「……」
「アイツ…『アレ』を呼ぶ気か」
惣一、翔聖、秦羅はその紋章の意味を知らないが、良也は知っている。それは、ガイラの『相棒』だからだ。
「さぁ、出でよ『レオード』!!お前の足、ここで振るうが良い!」
煙が巻き起こり、ガイラどころかその場全員を巻き込む。
煙が全部掻き消える。
「……?な、なんだ…あれは……?」
秦羅を含めたその場の全員が見たのは、ガイラのいた場所。そこにいるのは、白く、巨大な獅子。その背中にガイラが乗っている。
ガイラは
「では行くぞレオード!良也を連れてこの場を離れるのだ!!」
《グアアアァァァ!!!》
一度咆哮をして暫し、レオードと呼ばれた獅子は一気に駆け抜けた。その姿は誰の目にも止まらなかった。
気がつくと倒れていた良也もその場にいない。既に回収された後だろう。彼らの後ろ姿であろう物を、ただただ見ることしか出来なかった。
「いやちょっと待て!なんで尻尾で巻きつけて移動すんだよ!普通に背中に乗せ…うわぁぁぁぁぁ!何コレ新手のジェットコースター!?命綱しかない状態で身体がメッチャ揺れてるよ!!視界がもうごちゃまぜの世界になってるよ!!責めてスピード緩めてぇ!!吐く吐くは……ゲロロロロ…」
良也の断末魔は触れないほうが良いだろう。
「……逃げられた……か……」
その事実に気づいたのは随分後の話。
「…しかし……追うのは危ないですね。コッチでも対策を整えましょう」
惣一の言う通り、無闇に追いかけるのは不味い。一旦作戦を考えることにした。
その時、惣一は見知らぬ二人に気がついた。
「えっと…失礼しました。私、稲田 惣一と言います」
「あ、僕は神代 翔聖です」
「…守森 秦羅だ」
取り敢えず自己紹介を済ます。
「惣一だったか…どうして来たんだ?」
確かに、今の現状をどうして感じたのかは気になるだろう。
「さっき……霊夢さんに呼ばれてですね…急いで此処に来た感じです」
いつの間にか姿を消していた霊夢は、惣一を呼びに行っていたのだ。しかし、惣一が現れても霊夢は此処にいない訳だが
「その…霊夢は今何処に?」
惣一は若干忌々しげな表情になる。
「えぇっと…霊夢さんは今……」
「ギィヤァァァァァァァァァ!!!!」
……
博麗神社から悲鳴が聞こえる。それで2人は大体察した。
「黎人さんをしばくとか何とかで神社の中に…」
「「黎人ーーー!!!」」
黎人、乙
◇
博麗神社から遠く離れ、森の奥深くに一つの集落があった。周りを柵で覆っており、一つだけ巨大な扉がある。妖怪が溢れてくる故、ここで住もうとする者はいない筈だが…
「ん?おい、ガイラ様が来たぞ」
門番がガイラに気づき、スイッチを作動させて門を開く。大規模なせいか、開けるのにかなり時間がかかる。
ガイラはその門の前に立ち
「うおらぁぁぁぁ!!」
止まることなくその開きかけの門をぶち破った。
「えええええ!!!?」
門番も驚きのあまり呆然としてしまったのは気にしてはいけない。
「ハッハァッ!!戻ってきたぞォ!やはり住み心地がいいなここは」
愉快そうに喚くガイラ。どうも相変わらずのようだ。
「この…バカ!!」
その頭を良也が思いっきり殴る。石頭のせいで良也の方がダメージを負っているのだが…
「何をする、良也」
「コッチの台詞だ!!何でいちいち門を破壊すんだよ!門の存在意義を考えろよ!!」
「そんなこと言われてもあれではなかなか通れないでは無いか」
「侵入者を通さないためにあるんだよあれは!!」
「何を言うか!侵入者が来れば大歓迎であろう!!」
「お前だけだ!!普通は面倒くさいから通さないようにしてるんだよ!!」
良也が文句を言うも2人の話は平行線のようだ。因みにこの後門を素早く開けれるように改造することになるのだが…それはまた別の話。
「来たか、ガイラ…良也」
2人の前に1人の男が立つ。その声は、先ほどガイラと通信してた声と一致する。
「おお、『リヴァル』!そっちの準備は整っているのか?」
緑色の髪を下ろし、伊達メガネを掛けている男の目は、人を萎縮させるほどギラつく。黒色のジャージを羽織っており、その手にはカルテが備わっていた。
「ほぼ完成だ。何しろ、この研究には長い年月は必要ないからな。あと必要なのは材料だ」
「材料…て何だ……?」
良也はその材料が何かを聞く。
「決まってるだろう、生贄だ。この大規模な機動の装置はそれが無ければ意味がない」
リヴァルはそのカルテを机に置いた。
「そこでだ…ガイラ、お前に1つだけ頼みたい」
「……?何だ……」
リヴァルは口元を歪ませる。
「一言言えば、誘拐だ。生贄は、何でも良いわけではない。料理も、材料の質で味が変わるだろう。お前にはその為に1人さらって欲しい者がいるのだ…」
リヴァルはガイラに写真を渡す。それを見て、ガイラは思わず怪訝な顔をした。
「相変わらず人が悪いな…コレを攫えば、この世界の主戦力が我らに対峙するぞ…」
「元々その為の研究者だ。怒りに任せて我らを襲いに来るのならそれで良い」
良也は、ガイラからその写真を受け取った。良也も、その人物は知っている。
「……良いだろう、このガイラ
博麗の巫女の誘拐、こなして見せようぞ!!」
まさかの誘拐相手は霊夢
黎人らはそれを防げるのかそれとも敵の意のままになってしまうのか
次回も楽しみにして下さい。