東方羅戦録〜世界を失った男が思うのは〜   作:黒尾の狼牙

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今回から番外編ということで、惣一くんの過去を載せます。

予定では3話くらいです。

さらに言うと軍隊についてにわか知識しか持っていないので違和感ばかりかもしれません。ご了承ください。

それでは、どぞ〜


番外編(惣一の過去①)

GARD

世界中の人々が集まり、テロなどの行為に対処するための組織。世界という単位で動くため力も規模も大きい。この組織を知っているものは世界中でも一握り。軍隊など、全面に出していいものでは無いからだ。そして、GARDに参加しているのは、日本もである。

 

 

 

「一瞬たりとも気をぬくな!僅かな隙が命取りとなると思え!注意を乱すな!指の先まで気を込めろ!!」

 

GARDの日本隊の特訓場。兵士一人一人が気合を入れて取り組む。僅か数人だが、それでもかなりの戦力となる強者揃いだ。そして、その中でも飛び抜けた逸材がいる。

 

 

 

 

「は!やっ!はぁ!!」

 

2対1の特訓で、1人側となって2人側の攻撃を捌いている若手、稲田 惣一。18という年でありながら大人も顔負けの戦力。父親が軍隊長をやっていたからか、戦闘センスは飛び抜けている。

 

「くそ!!」

「調子に乗るなよ!!」

 

2人が同時に模擬刀を突き入れる。顔面目掛けて放ったそれは空を切り、避けられた惣一に蹴りを入れられ、2人は倒れた。

 

「そこまで!勝者、惣一!」

 

ブザーが鳴り、試合終了が告げられた。勝敗は結果を見るまでもない。

 

 

「大丈夫ですか?」

 

惣一は倒れた2人の方に駆け寄った。

 

「あぁ、大丈夫だ」

「全く、相変わらず強いなー。また負けたぜ」

 

倒れた2人に異常はない。その事に惣一は安心した。

 

 

 

《ピピー!!》

 

 

 

「特訓終了!では解散!!」

 

解散の指令が出され、隊員は全て撤収した。

 

 

 

 

 

惣一は父親に憧れていた。人質にとられていた子供を助けるため、1人でアジトに裏側から侵入して、誰にも気づかれることなく子供を救出したことがある。街ほとんどを焼き尽くす火事が起こって、逃げ遅れた家族を救い出したこともあった。ピンチの時に人を助ける父親に憧れ、15でGARDに入った。鍛錬を積み重ねていき、階級は曹長になっていた。

 

 

 

「惣一くん、お疲れ!!」

 

 

廊下を歩いていると声をかけられた。後ろを振り向くと、彼の親友がいた。

 

 

「理香さん。瑛矢さん。お疲れ様です」

 

かたや情報処理の平田 理香(ひらた りか)、かたや特攻隊の影虎 瑛矢(かげとら えいや)、惣一の同年代だ。

 

「今回も勝ったんだってね。先輩たちからも好評価だったよ。」

 

理香はかなりテンションが上がっている。元より彼女は明るい性格なのだ。

 

「いえ、まだ父には及びません。もっと鍛錬が必要です。」

 

「相変わらずブレないな、お前のその気の強さ」

 

瑛矢は呆れたように呟く。

 

「少なくともこの集団の中では、お前が逸材とされてるだろう。なのに、まだ上を狙うのか」

 

「上を狙うのが目的ではありません。私は助けれる人でありたいんです。それに、私1人では戦えません。瑛矢さんも、飛び抜けた才能を持っているではありませんか」

 

「ふん……」

 

目をそらし、息を吐く。瑛矢はずっと惣一に対してこの態度だ。

 

「ところで、これからどうするの?」

 

「少し資料室に。GARDの動きについてもっと知りたいと思いまして…」

 

「真面目だねぇ。それじゃ、また後でね」

 

惣一は資料室の前で2人と別れた。

 

 

 

資料室には、これまでGARDが取り扱ってきた事件の数々、組織の人員、戦闘方法、GARDERの設計図など、多くの物が置かれている。これを見るのは普通司令塔の役目なのだが、惣一は自ら目を通したいと思っていた。

 

今、彼が見ているのは人員リストだ。入隊日、階級、所属まで書かれている。

 

(世界単位となると、やはり強者揃いですね…私なんて足元にも及ばない)

 

ページをめくりながらそんなことを思う惣一。18にして2人相手する人が何を言ってるんだ、て感じだが…

 

 

 

 

(……?)

 

違和感を感じるページがあり、それをよく見てみる。そこには…

 

 

 

(この人たち…斜線が引かれてある。…しかも、1人だけ日本人……?)

 

 

そのページはヨーロッパの人員について書かれたページ。殆どが英語で名前が書かれてあるのだが、1人だけ日本語の名前だった。何より不自然なのが、斜線が引かれてある人物が何人もあることだ。名簿から削除されるのは主に2つ、『戦死』か『脱退』。それらは全て『戦死』だった。

 

 

 

 

 

「おぉ、勤勉だな。惣一」

 

資料室に上官が入ってきた。その人とはよく資料室で会う。

 

 

「お疲れ様です。あの…失礼ですが、この多くの人が戦死しているのは、何が原因か分かりますか」

 

「ん?あぁ、『隠れ焔使い』の事件だな。これ」

 

リストに目を通してそう言った。

 

「隠れ焔使い?」

 

「ヨーロッパのとある屋敷に調査に行った軍隊がいたんだが、突然屋敷が炎に包まれて全滅した、ていう事件があってな。何より謎なのが、屋敷が全て燃えたのに軍員以外の人物がいないということだ。炎が生じた時に周りに人間なんて居なかったし、炎に包まれたら逃げ場なんかねぇ」

 

「遠隔操作という可能性は?」

 

「そう思ったんだけどな…屋敷の中全て調べても、発火装置らしい破片が無かったらしい。

誰の仕業か知らないその事件は、誰の目にも映らない焔使いが起こした、『隠れ焔使い』と言われている」

 

奇怪すぎる、と惣一は思った。未解決の事件は勿論あるが、ここまで手がかりがない事件など、滅多に起こらないだろう。

 

そう、頭を悩ませている時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「Aー8地域にて人質を捕らわれてる!至急救援に向かわれたい!」

 

「!!」

 

突如、救援要請がかかった。

 

 

 

「おいおい…ここの直ぐ近くじゃねぇか」

 

卑屈な顔をする上官。だが、その言葉に耳を傾ける余裕は惣一には無かった。

 

準備を整えるために部屋の扉を開ける。

 

「な⁉︎おい惣一!ガムシャラに突破しようとするな!直ぐ上から指令が」

 

「それまで待てません!!」

 

上官が惣一を宥めようとするが、惣一の意思は揺るがない。

 

 

「被害を被っている人たちは、1秒でも早く救援を欲しています!命令を待つなど悠長なこと、私には出来ない!!」

 

そう言って、惣一は外に飛び出した。

 

「チッ…馬鹿野郎が……」

 

 

 

 

 

 

 

 

「襲撃犯に告ぐ!直ちに人質を解放して降伏しなさい」

 

「ウルセェ!!それ以上近づくと人質を殺すぞ!!嫌ならとっとと消えろ!!!」

 

 

襲撃現場

ビルの一室で人質を捕らえている男が叫んでいる。

 

「…ヒック……うえぇぇん」

 

人質となっているのは、10くらいの少女。緑色の髪が特徴的だった。

 

「ウルセェぞガキ!奴らの動きが分からなくなるだろうが!!」

 

誘拐した男の方はその少女を黙らせようとする。子供が泣くのと外の動きが分からなくなるのと関係が見えないが、気が動転してるのであろう。

 

「くそ…折角ダイヤを手に入れた、てのに…あの野郎共に邪魔された挙げ句の果てに殺人呼ばわれだ。あんなの知らねぇ…俺じゃねぇんだよ」

 

 

 

〜数刻前〜

 

 

「いよし……漸く手に入った…あとはこのまま持って帰るだけ」

 

男は大型のスーツケースを持ち、走っていく。その中には大量のダイヤが入っていた。宝石店の中で眠っているダイヤを盗むことに成功したので、早めに家に入れときたいのだろう。

 

「そこの男!止まれ!!」

 

すると呼び止められた。小さい子供を連れた家族だろうか。

 

「そのケース…盗んだものだな」

 

その台詞を聞いて冷や汗をかく。

 

「な…なんの話」

 

「とぼけるな!嘘をついてもこの子の目は誤魔化せない。良からぬことをしていればこの子には分かるんだ。それを返さないというなら…」

 

呼び止めた男の方が一歩近づく。スーツケースを持って一歩下がる。ここで捕まったら今までの計画が台無しになる。何としてでも逃げきらないと……

 

 

 

 

 

 

《スパァァァン!!!》

 

 

「……え?」

 

そう思っていた矢先だった。目の前の男が血飛沫をあげて倒れたのだ。なんの前触れもなく、突然

 

 

 

 

 

 

「ひ…きゃーー!!ひ、人殺し!!」

 

恐らく妻であろう女性が叫ぶ。女性から見たらその男が夫を殺したように見えた。そして、その声に反応して周りの人間もこっちを見ていた。

 

 

「ち……違う!俺は…」

 

 

男は誤解を解こうと手を前に出した。

 

 

 

 

 

 

《パァァァン!!!》

 

すると、女性の方も血飛沫をあげて倒れた。凶器らしいものが無いのに、だ。

 

「な……」

 

男は何が起こっているのか分からない様子でいた。その耳に周りからの声が聞こえる。

 

 

 

 

 

 

「な……何が起こったんだ?」

「突然、人が死んだぞ」

「いや、でもあの男が手を前に出してたぞ」

「じゃ、じゃああの男が犯人…?」

 

 

 

周りからは自分を犯人だと言っていた。

 

 

「う…うわぁぁぁぁぁん!!!」

 

 

連れてきた子供が泣いたのと同時に雰囲気が変わった。

 

 

 

「人殺しだぁ!」

「は…早く警察を呼んで!!」

「近づくな!離れろ!!」

 

 

 

周りにいた人間は遠くに逃げていった。男はそこから動くことが出来なかった。

 

 

 

「大人しくしろ!警察だ!!」

 

遠くから警察がこっちに向かって走ってくる。男の頭には1つの言葉が思い浮かんだ。

 

 

 

 

(……このままでは、捕まる!!)

 

その後、唯一動いていなかった子供を掴んだ。

 

「ガキ!ちょっと来い!!」

 

そしてそのままビルの中に逃げ込む。

 

「な…」

 

「着いてくんな!じゃないとこいつを殺すぞ!!」

 

男はそのままビルの上階に駆け上がった。

 

 

 

〜現在〜

 

 

「とりあえず、あんな濡れ衣で捕まんのは御免だ。何とかして逃げ出さねぇと」

 

男はその場から逃げきりたいと思ってた。

 

 

 

 

 

「どうする…下手に刺激すると人質を殺しかねない。」

 

警官たちはどうやって人質を助け出すか悩んでいた。

 

 

 

「到着しました」

 

すると、援軍が来た。警官たちはその男の組織を知っていた。

 

「G隊!助かりました!」

 

「今、どういう状況ですか⁉︎」

 

惣一は現状を聞いた。因みに警官の間ではGARDをG隊と呼んでいる。普通の人からはゴキのように思えるが…

 

 

「人質を捉えた男があのビルの5階に…民間人から聞いたところ、夫婦を殺害して子供を攫ったということです。恐らく、ダイヤを盗んだのに気づかれたのが動機かと」

 

事件のあらすじを説明される。下手に手を出せずお手上げ状態だ。

 

 

 

 

 

 

「そうですね…こうなったら、彼を外に出すしかありません。皆さんは一旦ここから離れてください。そうして彼が外に出たところで捕らえます。」

 

 

「…しかし、どうやって?」

 

 

外に出たところで捕らえると言うことは、ビルの内側付近で待機するということ。そのために近づこうとすれば、敵を刺激しかねない。

 

 

 

「大丈夫です。相手の目に映らなければいいんですから」

 

 

惣一は胸のポケットに入っているスイッチを押した。

 

 

 

「GARDER no-09『スケールン』解除」

 

 

すると惣一の姿が段々と薄くなっていき、遂には姿を消してしまった。

 

 

「す、凄い…消えた」

 

周りの人たちは呆気にとられていた。

 

 

 

「ってボーっとしている場合じゃない。さっき言われた通りにここから離れるぞ」

 

警官たちはその場から姿を消した。

 

 

 

 

 

 

「な…何だ……?遠くに逃げていく」

 

外にいる警察が遠くに離れていくのを見て不審に思う。無理だと観念したのか、それとも何かあるのか……

 

「…とにかく、出てみるか」

 

いずれにしてもこれは好機。人が居ないところで一気に駆け抜ける。男は少女を連れて外に出た。

 

それが、惣一の作戦だということに気づかず…

 

 

 

 

出口まで着く。そこには人影が居ない。そう思い、ビルの外まで駆け抜けようとする。だが…

 

 

 

 

「ハァ!!」

 

「な…⁉︎グハッ」

 

 

側面から体当たりを喰らい、怯んだところで人質の少女を奪還された。

 

 

「し、しまっ…」

 

慌てるがもう遅い。周りから先ほど遠くに離れてた警官らが向かっていた。

 

 

「観念しろ!!」

 

「くそ…捕まってたまるかよ!!」

 

男は逃げようとその場から離れた。警官たちはそれを追いかける。

 

 

 

 

 

「大丈夫…ですか……?」

 

「うぅ…ママぁ……パパぁ……」

 

 

解放された少女は泣いている。突然、両親を殺されたのだ。当然の反応だろう。

 

惣一はこの少女に何と言えばいいのか分からなかった。両親を失った子供に、どうやって声をかけることが出来るだろうか……

 

惣一は父親からの教えを思い出す。

 

『助け出すだけじゃダメなんだ。災害に巻き込まれ、失ったものが大きければ誰だって悲しむ。その悲しみを受け止めないと、救ったことにはならないだろう』

 

『悲しみ』は共感することは出来ない。だが、1人で持つには余りにも重すぎる。だからこそ、それをぶつける事が出来る人が必要かもしれない…

 

(分かろうとするな。受け止めるんだ。そのためには)

 

「すみませんでした」

 

彼がかけたのは、謝罪だった。

 

「私達の措置が遅れて、今回のような悲劇を生み出してしまいました。もう少し速ければ、あの2人を救えたかもしれない。もし気がすむのでしたら、私達を…いえ、私を叱ってください。ですが…」

 

惣一は一呼吸置く。惣一が最も伝えたいこと。

 

 

 

 

 

「自分に、絶望しないで下さい」

 

 

 

両親を失ったこと、そして手も足も出なかったこと…少女にとっては後悔しか残っていない。だが、それで自分を責めて欲しくないと惣一は思う。被害にあったのは偶然、巻き込まれたとき動けなくなるのは当然、そして救えなかったのは自分の責任。この少女に、罪は無い。

 

 

「…………」

 

少女はジッと惣一を見ていた。心なしか、涙が止まって見える。

 

 

「…お兄さん、て……警察?」

 

 

そう思うのは当然。警察と一緒に動いていた訳だし、寧ろ『国家機密』の存在と思われるよりはその方が良いと思われる。だから、惣一は『そう』と言おうとしたが…

 

この少女には嘘をつけないと察した。何故かは分からないが、そう『思わされた』。

 

 

 

 

 

「いえ…ですが……

 

 

 

貴方の味方です」

 

 

 

はぐらかす。嘘はついていない。これが、惣一の出来る精一杯の答えだった。

 

その答えは、少女にとって満足のいくものでもあった。

 

 

 

 

「……う、うぇぇぇぇん!!」

 

少女が泣き崩れ、惣一は慰め続けた。暫くして、犯人を捕まえたと報告が上がった。




てなわけで一話目終了〜

GARDにいた時の惣一です。彼がGARDに属していた時何が起こっていたのか、次話に続く。

途中出てきた少女は……だ〜れだ?

てなわけで次回も宜しくおねがいしまふ

注 NGシーンはお休みします

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