東方羅戦録〜世界を失った男が思うのは〜   作:黒尾の狼牙

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前回のあらすじ
鵞羅が始末される。
シュ「どうして絞殺するんだ?」
ダ「なんか悪のリーダーみたいでカッコいいだろ」
リ「自重してるのね…」


58 次の戦いへ

「それで?一体何が言いたいんですか?」

ディルはイシューの伝達内容を聞いてきた。

 

『そうだな…奴らの動きについて分かった事がある』

イシューの声はディルに比べて低く、威圧感がある。

 

「一体何ですか?」

 

『奴らが次にだしてくるのは外の世界の……生態学の研究者、リヴァルだ。』

 

「ほう、中々の大物が出てきましたね。」

 

生態学…生物どうし、及び生物と環境の関係について研究する学問。

他の生物との共存方法を解明できるという点で、生物そのものについて研究する生物学より貴重だと言う意見もある。

特に今回出てきたリヴァルは、醒獣の生態について研究した、神界においては厄介な人物だ。

 

『だがそれだけではない…奴らは、別世界へも干渉している』

「…!別世界……パラレルワールドですか」

 

東方の世界には幾つかの種類がある。様々な分岐点が存在し、各々の世界の物語は全く違うものだ。

 

『つまり、今回は黎人らでは手に負えないものになる。まして、リヴァルはあの性格だ。黎人にとっては厄介な相手だろう。

 

だから、助太刀を頼む必要がある』

 

ここまでのイシューの台詞から、ディルは彼が何を言いたいのか分かった。

 

「で?何が言いたいんですか?」

 

『察しの通りだ。

 

今回の件は、俺に一任してもらう』

 

 

今までディルが指揮をとっていたことを、イシューに変わってもらうということだ。普通は、混乱するだけなので認めるわけには行かないが…

 

「まさかと思いますが……彼らを救おうと思っているわけじゃないですよね。私が彼らを滅ぼそうとしているのを止めるために…」

 

『勘違いするな。確かに俺は言った。如何なる選択をしようとも責めるつもりはない、と。だが、叶えてやるかどうかは別の話だ』

 

ダイガンたちに肩入れするつもりかと尋ねた。そんなことすれば、神の権力を全て失うことになるから普通はしないのだが……この男はやり兼ねなかった。

 

だが、そんなつもりは無いらしい。流石に、手助けをしようとは思ってないようだ。

 

 

「そうですか。では、任せるとしましょうか」

 

ディルは許可を下した。

 

 

 

 

 

『寛大だな。お前にしては』

 

「勘違いしないでください。手を引くというわけではありません。この先何かあれば、容赦なく手を下します」

 

『ふ、やはり相変わらずのようだな……

 

 

 

 

(ヒソヒソ)』

 

「……?」

 

電話越しに囁き声が入って来て、ディルはその声を聞いてみることにした。

 

 

 

『あのひと、何か凄いものを持ってるぞ』

『よく持つよな。あんな物を持って…』

『しかもあれ結構古いやつだぞ。あれ、ダイアル式だろ?』

 

 

 

「…………」

 

察した。

 

「イシュー、今どこにいるんですか?」

 

『市街地だ。これから昼食でな』

 

「そうですか、因みに…

 

 

 

 

 

 

 

この電話は何を使っているんですか?」

 

市街地なら携帯電話を使うだろと思っているそこの君、それは違うぞ。

 

 

『…家から持ち出した電話だ』

 

 

「何で自宅の電話を持って出てるんですか⁉︎片手に本体持ちながら話すと腕がしびれるでしょう⁉︎ていうか、家の電話は確かダイアル式でしたよね⁉︎周りから見るとシュールすぎるでしょうそれ!」

 

本体を持ち歩きながら電話する人間を見たことあるだろうか

 

『だって…携帯電話なんて買えないんだもん』

 

「もんじゃないですよ!ていうか電話線はどうするんですか!」

 

『アナログでできる』

 

「そこだけハイテク⁉︎」

 

『万単位の契約金なんて…どうやって払えばいいんだ』

 

「泣き言始めたよこの人…」

 

 

実を言うと、イシューはかなり貧乏なのだ。神なのに。だから余り裕福な生活はしてない。神なのに。

 

 

 

「ま、いいでしょう。私は様子見と行きますか」

 

『あぁ、そうだな』

 

 

『あ、いた!!イシューてめこら突然いなくなりやがって!探すこっちの身にもなりやがれ!!』

 

 

電話越しでだれかがイシューに文句を言ってる人の声が聞こえた。

 

「…劉さんですか?」

 

『そのようだな、では切るぞ』

 

 

《ガチャ、ツー、ツー…》

 

 

電話が切れる音

ディルも受話器を置いて椅子に座った。

 

「いいんですか?彼に任せて」

 

「仕方ないでしょ。不必要な争いは混乱の元です。ここは大人しく引き下がりましょう」

 

 

机の上に出された紅茶を一口啜る

 

 

「さて、どうなるでしょうか」

 

 

 

 

 

 

 

「えー…とだな。取り敢えず質問いいか」

「おう、何だぜ?」

「俺は勝負に勝ったわけだ」

「見事だったな」

「だが相手は逃げた」

「だな。油断したぜ」

「だから次に備える必要があると思うんだ」

「最もだ」

 

 

「じゃあ…

 

 

 

 

何で宴会を始めてんだよ」

 

 

 

場所は博麗神社

みんな既に宴会でノリノリだ。

黎人はこのノリに全くと言っていいほどついていけてない。

 

 

「いいか!万が一にだぞ!万が一襲撃されたらたまったもんじゃねぇんだぞ⁉︎」

「ん〜…

 

 

大丈夫だろ」

 

「何を根拠に言ってんだよ!少しは話をまともに聞け!」

「聞いてんだろ?酒飲みながら」

「真面目に聞く気ねぇだろ!」

「あぁ」

「肯定した⁉︎」

 

魔理沙には黎人の声など耳に入らないようだ。

 

「ギャイギャイ言ってないで、折角だし飲もうぜ。そんときはそん時だ」

 

「楽観的だなぁ…

 

 

 

 

あと俺酒飲めないんだけど」

 

黎人の年齢は16、酒を飲んでいい年ではない。そう、外の世界なら…

 

「大丈夫だって。ここでは何歳が飲んでもいいんだから」

「…無免許運転といい飲酒といい、俺はどんどんおかしくなってると思うんだが」

 

法律?知らんな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あと何で妖夢はあんなに忙しそうなんだよ」

「…さぁ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ…」

ある程度酒を飲んで霊夢は息をついた。その息は疲れからくるものだ。正確には気疲れ。彼女の目線の先には、魔理沙と話す黎人がいる。この2週間の間、会うことはなかった。だから久々の対面なはずなのに…全くと言っていいほど話せてない。言いたいことがかなりある筈なのに…全く言えない自分がいる。こういう時、平然と楽しく話せる魔理沙が羨ましく見える。

 

「…ご乱心ね。霊夢」

 

すると背後から咲夜が酒を持って近づいてきた。

 

「咲夜…レミリアはいいの?」

 

「白玉楼の幽々子と話しているわ。だから暫く休憩時間なの」

 

見ると成る程、幽々子だけじゃなく加奈子もいる。妖夢がいなくて暇だった幽々子が誘ったのだろう。原因は絶対霊夢だが

 

「それよりもいいの?折角話せるタイミングなのに」

 

「何がよ。どーせあいつも、いつも通りで接してくるでしょ。話すことなんて何もないわよ」

 

杯に注いだ酒を一気に飲む。霊夢の飲んでる酒はかなり強いはずなのだが…

 

 

「それは本心で思っているの?」

 

 

咲夜が霊夢に問いかけた。無関心な様子を保とうとしているようだが、ピクリと手が動いたのを咲夜は見逃さなかった。

 

「どういうこと?」

 

「本当にそれでいいの?てこと。さっきから自分に無理やり納得させようとしてない?いつも通りだから、何も変わらないからって言ってるけど、本当はもっと先に進みたいはずよ」

 

「……何で断言できるの?」

 

「あなたを見てれば分かるわよ」

 

 

霊夢は俯いて、暫く動かなかった。この2週間、心の変化があったのは確かだ。黎人がいない、それだけで心がモヤモヤしていく感じがした。だから、黎人が戻ってきてこのモヤモヤが終わったと思っていたが……どうやらまだ残っているようだ。

 

霊夢は立ち上がった。

 

「あら?どうするの?」

 

「あんたと一緒に居るのが嫌だから場所変えるのよ。静かに飲みたいんだから」

 

帰ってきたのはかなりキツめの苦言。だが、霊夢の行く先は…

 

魔理沙と話が終わって1人になってる黎人だった。

 

 

(頑張りなさいよ霊夢……恋心は、期限が過ぎてからじゃ遅いんだから

 

 

 

 

 

……私のようになる前に)

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァッたく……」

 

粗雑に扱われた黎人はかなり疲れたようだ。魔理沙が去った後床に座り込んで酒を飲む。思った以上に酒が美味しかったとのこと。

 

「随分疲れてるようね」

 

その後ろから霊夢は声をかけた。

 

「ん?ああ、霊夢か」

「さっき魔理沙と話し込んでたじゃない?ペースを持ってかれたのね」

「流石だな」

 

話し合いながら霊夢は黎人の隣に座る。先ほど咲夜に発破をかけられて足を進めた。この機会を絶対に無意味にはしたくない。先に自分から足を踏み入れる

 

 

 

 

 

 

 

……………………………

 

と思うだけだった。

 

 

 

(しまった……何を話すべきか考えてなかった)

 

肝心な話題を持ってきて無かったらしい。勢いで進もうとするとこうなるのだ。何か話さなきゃと一生懸命考える霊夢。

 

「俺は」

 

この沈黙を破ったのは黎人だ。

 

「この2週間、強くなろうと頑張った…そして力を得て、鵞羅を倒すことが出来た。

 

だが、その上があった。あのシュバルと言った奴は、恐ろしいくらいに殺気に溢れていた。鵞羅とは比べ物にならないくらいに」

 

口では弱気なことを言っている黎人。だが、霊夢の目には黎人が弱気になっているようには見えなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もっと……強くなりたい。

 

 

いや……強くならないといけない。此処のみんなを、守る為に」

 

 

 

 

 

 

黎人は、持っている杯を見た。それに映っているのは、対面している自分の顔。だが、黎人には幻想郷のみんなが映っているように見えた。

 

 

 

 

(やっぱり…強い。

 

勝利に喜んでいるわけでもなく、強敵に恐怖するわけでもなく、次の戦いを見据えている。

 

だんだん私の手が届かない所に行ってしまう。どんどん遠くに行ってしまう気がする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……でも、私は……)

 

 

 

 

「1人で全員守るつもり?出しゃばらないでよ」

 

霊夢はやっと、声を発する事が出来た。

 

「前に言ったじゃない。私を頼って、て。力にはなれなくても、支えにはなるから」

 

霊夢は黎人を真っ直ぐ見た。その時の顔に、黎人は強さが感じられた。

 

(こいつ…こんな顔が出来たのか……)

 

興味なさげな顔、怒った顔、泣いてる顔、笑っている顔などは見た事があったが、今のような真剣な表情は見る事が無かった。もっと言えば、今までに霊夢が真剣になった時なんて、無かったのだから…今回初めて、霊夢は本気になったのだ。

 

 

 

 

「そうだったな、忘れていた。お前はいつも、俺の支えになってくれた…でも……これから先、お前にもっと負担が掛かるかもしれない」

 

「いいのよ今更。そういうのは……『望むところ』よ」

 

黎人は初めて、霊夢を頼もしいと思った。

 

「そうか……じゃ、これからも頼む」

 

黎人は自分の杯に酒を入れ、酒瓶を傾けた。その意図を霊夢は読み取り、彼女の杯に酒を入れてもらった。

 

「そういや言いそびれてたな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ただいま。また会えてよかった」

 

 

「……えぇ、おかえり」

 

 

 

静かな夜、神社に住む2人の杯が、短な挨拶と共に交わされた。

 




以上をもちまして2章本編は終了で〜す。
本章では黎人が色々と成長しましたね。まだ発展途上ですが見守って下さい。
そして、新たなオリキャラもジャンジャン登場。もっと増えると思いますが…乞うご期待
この後は番外編を大体3つ(変わるかもしれない)、設定編の予定です。引き続き楽しんで下さい。
ではでは〜

〜NGシーン〜

(しまった……何を話すべきか考えてなかった)

肝心な話題を持ってきて無かったらしい。勢いで進もうとするとこうなるのだ。何か話さなきゃと一生懸命考える霊夢。


(えーい!!)


《グイ!》

「うお!おい霊夢!そんな大丈夫か⁉︎」
「へ…平気平気!こんなんで私くたばんないから」

なんか妙な方向に走り出した。霊夢はこの気まずい気分を取っ払うかのようにジャンジャン酒を飲んだ。




数分後

「ちょっと飲み足りないんじゃないの〜ヒック…もっと飲みなさいよ〜」
「絡み酒⁉︎てか酔っ払ったじゃねぇか!!」





咲「何やってるのよ霊夢…」

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