東方羅戦録〜世界を失った男が思うのは〜   作:黒尾の狼牙

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前回のあらすじ
刃燗は鬼となる
刃「なんかちがう…」


53 己が願ったもの

「…な、これは⁉︎」

慧音と別れ、森の中に走っていった妹紅は信じられないという顔をしていた。目の前にいるのは、金髪の刈り上げた男に追い詰められている刃燗だった

(そんな…いや、何で刃燗がここに?)

 

 

 

 

 

妹紅は刃燗を知っている。寺子屋に彼が通っていった時、慧音と一緒に彼を懲らしめていた。何しろ彼は寺子屋一の問題児だった。同級生には暴力を振るい、外では行き交う人に迷惑をかけていた。そんな彼が、あの男に何故殺されかけているのか…

 

(…って、そんな事考えてる場合じゃねぇ!)

 

理由は何にせよ、刃燗はかなりヤバイ状況だ。助けに行かなければ…

 

「ん?」

金髪の男…鵞羅が妹紅に気づいた

「助っ人か。だがテメェに用はねぇ。失せろ」

鵞羅は親指を下ろすと、ガチュリスが妹紅目掛けて飛んでいった

「あぁ⁉︎バカにしてると痛い目見るよ‼︎」

妹紅の近くまでたどり着いた時、ガチュリス達は燃えた。いや、正確には妹紅の周りに発生している炎に飲み込まれた

 

 

 

「妹紅…?」

刃燗も妹紅に気づいた。だが、まともに動けそうな感じはしない。身体がかなりボロボロになっている

 

「何だその能力は。いや…能力じゃないのか。妖力で出来た炎というわけか」

鵞羅の口が開かれる

「お前…こんなところで好き勝手出来ると思ってんのか?」

妹紅はそう返した。ある程度の事情は、森の入り口で霊夢から聞いていた。その元凶は紛れもなく目の前のこの男…鵞羅である、と

「暴れるのに許しなんかがいるのか?いちいち考えていたらきりねぇだろうが」

吐き捨てるように鵞羅は言う

 

「お前…呆れるな。この幻想郷は、全てを受け入れる。それは幻想郷で住む私たち人間も、妖怪や化け物も守るべき鉄則。他者を貶め、傷つけようとするお前は、それを破った。それはここでは存在を否定されることを意味する」

 

幻想郷に住む絶対の原則。それは言われずとも分かる暗黙の了解となっていた。それを破った時、博麗の巫女や紫に退治される。だからこそ、必ず守らなければならない

 

すると、鵞羅が妹紅を一瞥した

 

 

 

 

 

 

 

「知るかバカ。鉄則も規則も、鬱陶しい枷だ。規則なんてもんは良い子ちゃんだけが守るもんだろうが。

 

破った?だから何だ。受け入れろとも嫌うなとも言ってねぇ。守ろうが破ろうが俺の勝手だろうが。

 

それでも目障りなんなら…

 

 

 

 

 

テメェが俺を殺してみろよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

駄目だ。この男には通じない。こうなれば、交渉も話し合いも通じない。この男は倒すしかない

 

そう認識した時、妹紅は即刻炎で鵞羅ごと焼き払った。加えてスペル発動

 

 

「フェニックス再誕」

 

すると巨大な炎の鳥が現れて炎に飲まれている鵞羅の方へ突っ込んでいった。その後そこら一帯が焼け野原になった

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「解けたわよ!」

結界が無事無効化された事を霊夢は確認した。慧音が入ろうとしても何も起こらない

「よし、それなら妹紅を追わないとな」

「そうね。とにかく急がないと…」

霊夢達は森の中に入ろうとする

 

 

 

 

 

 

「オオーーーーイ‼︎霊夢ーー‼︎」

と後ろから声をかけられた

 

 

「魔理沙⁉︎それに咲夜に妖夢も…」

振り向くと魔理沙、咲夜、妖夢が来ていた

 

「よ、異変だろ?慧音がいなくなったって里の奴らが騒いでるからな。暇つぶしがてら手伝うぜ」

 

「お嬢様の命令で異変解決を手伝うように言われたわ。少し付き合うわよ」

 

「ハァッ…ハァッ…ゆ、幽々子様に現世で厄介なのいるからと言われて突き落とされました」

 

どうやら手伝いに来てくれたらしい。1人大丈夫じゃないのがいるが…

 

「そ、だったら行くわよ。根源を潰しに」

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういえば霊夢。一回戦ったんでしょ?相手の能力とか分かるかしら?」

 

向かっている途中、咲夜が霊夢に聞いた。前もって能力を知って対処できるようにするためだろう

 

「…斬の風を吹かせる程度の能力。手から斬属性の風を吹かせて敵を両断するわ。それから、右手からは弱い風を連射して放ち、左手からは強い風を1発だけ放つ。状況に応じて、出す風を変えている」

 

「意外と単純なんだな」

 

 

霊夢の説明に魔理沙が口を開く。確かに能力そのものは単純で、防ごうと思えば余裕で防げる

 

「けど、そいつの性格からして簡単に倒させてくれないわよ。性格が捻くれてるし、何よりまともに戦おうなんて気はない。」

 

鵞羅の性格は傲慢で乱暴。幻想郷ではそのような人物はそういない(いたとしても慧音に締められる)からあまり慣れない戦いになり兼ねない

 

 

 

 

「それに…嫌な予感がするのよ」

「嫌な…とは?」

 

霊夢が心配してるような顔をしたことに若干違和感を感じ、妖夢が聞いた。一体何を恐れているのか

 

 

 

「あの時、援軍が来たんだけどね…そいつがその男に言っていたのよ。『お前を蘇らせた奴について聞かせてもらう』って。変に思って聞いてみたら…

 

 

 

そいつは、7年前に死んだ筈って」

 

 

あり得ない…と誰もが思った。7年前に死んだ者が蘇るなど、亡霊とか幽霊とかにならない限り不可能だ。もし、本当なら…

 

 

 

「もしかすると、あの男は誰かに蘇生されたのかもしれない。考えにくいけど、それが一番あり得る」

 

「てことは…裏でまだこれを引っ掻き回してるのがいると」

 

「そうね…慧音の言う通り、黒幕は別にいる。と言うことは…

 

 

 

 

あの男に何か手を加えているかもしれない」

 

 

 

 

あくまで憶測

だがかなり確信をついている感じがする

霊夢の勘は良く当たる

特に、異変や厄介ごとに関しては百発百中だ

だからこそこの予感も当たるのだろう

そう思い、速度を上げる一向だった

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「嘘だろ?」

目の前の現実を、妹紅は信じれなかった

焼き尽くし大技を当てた

殺すとはいかなくても重症くらいはあって良い筈

だが目の前の男は何事も無かったかのようにいた

 

 

 

 

「結局この程度か…威勢だけか、強いのは」

埃を払うかのように腕を叩いた

 

(弾幕を消し去ったのか?それとも炎は通じないのか?)

無傷でいられる方法を考えるがさっぱり分からない。考えてみれば、妹紅は鵞羅の能力すら知らない

 

「考えんのもいいが…そこは危険地帯だぜ」

「何⁉︎」

 

突如上から弾幕が降り注ぐ

「斬雨『斬時雨』」

《ズドドドン‼︎ズドン‼︎ズドドドド…》

「ぐああああ!!!」

斬時雨の格好の餌食となり、妹紅はその場で倒れた

 

 

 

「呆気ねぇ…こんなんで倒せると思ってんのか」

張り合いが無い。如何なる能力も自分に対抗出来ない。自分に敵う相手などいない

 

 

 

(やはりアイツの言うことなんざ当てにならねぇな。この俺が叶えられねぇことは無い。

 

 

 

止めだ。

 

 

 

 

任務である斐川黎人の討伐じゃなく、ここら人間を全て皆殺しにし、アイツらも殺して俺が…)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後ろで誰かが立つ気配

そこにいた人物はもう既に限界に近い

 

 

 

 

 

「まだ立つか?哀れだな。敵わねぇ相手に死ぬまで戦おうなんてな」

そう言って後ろの男…刃燗に声をかける

変異は解け、傷も止まってない

戦うなんて無茶だ

 

誰もがそう思う中、刃燗は拳を握る

 

 

 

 

 

 

「敵わねぇ…?何勘違いしてんだ。

 

 

 

 

 

俺はテメェ程度に殺されねぇよ」

 

口から出てきたのは、負け惜しみにしか聞こえなかった。圧倒的に不利な状況で殺されないなんて余りにも分かってなさすぎる

 

 

 

 

「……馬鹿が」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「この先抜けて直ぐよ」

森を駆け抜ける霊夢達。もうあと僅かで目的地にたどり着こうとしていた。

「ん?おい、あれ妹紅じゃないのぜ⁉︎」

魔理沙が倒れている妹紅に気付いた。声を上げたと同時に慧音が妹紅に近づき体を揺らす

「妹紅!大丈夫か、おい!!」

 

 

 

 

 

「あ、ああ…死んではないよ。痛いけどね」

妹紅は死んでなかった。いや、もとから彼女は死ぬことはない。彼女は不老不死となる蓬莱の薬を飲んだから。最も、痛みが消えるわけでは無いが…

 

「…あれは」

霊夢は少し離れたところで戦っている2人に気が付いた

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「ハァッハァッ…ぐっ」

「オイオイ、立ってるだけでやっとかよ。こりゃ結果はとっくに分かるな」

「黙れ…う…」

身体も体力も限界だ。さっきの札はもう使えない。普通ならここで倒れる域だ

 

 

 

「そこまで頑張るんなら讃えてやろう。テメェを切り刻んでな」

鵞羅は斬の風を起こした。

(死んで…たまるか!)

刃燗は横に飛んで回避

 

 

 

 

《ガシュ!》

「ぐあ!」

その時に生じた隙を逃さず、ガチュリスが襲いかかる

 

 

 

 

「ガチュリスは凄い優秀でな。危険をすぐ察知できる。だから安全地帯を飛んでいる訳だ。そこに逃げ込む輩を仕留める為にもな」

 

次から次に襲いかかるガチュリス。その連続攻撃を受け続け、体が悲鳴をあげている

 

 

 

 

 

 

「ぬああああ!!!!爆撃【ドン・ナックル】!!」

力を振り絞ってスペル発動。ガチュリスがまた10体ほど消滅する。

「また自爆か。懲りねぇな。自分の体に負担をかけてどうする。俺を倒すどころか手にかける前に倒れるぞ」

ドスを持ち、刃燗に近づく。このくだらない戦いに終止符を打つために…

 

 

 

 

「ああああ!!!」

刃燗は拳をぶつけた。だがその拳は威力が無く、何の影響も与えない

「小賢しい」

その手を払って肌に一太刀入れる。切り口から血が溢れ、そのまま倒れる

 

 

 

「刃燗!!」

霊夢が思わず声をあげる。その声で鵞羅が霊夢の存在に気付いた

「来たか、博麗の巫女。だが遅かったなぁ。人を守れねぇようじゃ、幻想郷の底が知れる」

「お前ェ!!」

鵞羅の言葉に魔理沙が怒る。鵞羅は霊夢達に向かって歩き出した

 

 

 

 

《ガッ!!》

 

足元を掴まれた。先ほど倒れた刃燗の手が鵞羅の足を握り締める。微力ではあるが、力強さを感じる

 

 

 

 

 

「どうして…」

 

 

 

霊夢は何故そうまでして戦おうとするのかが分からなかった

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

数年前

 

『またお前か…いつもいつも迷惑ばっかりかけて』

慧音は1人の生徒を叱っていた。それは常習犯でトラブルといえばその男が絡んでくる。慧音にとって一番の悩みの種だった

『迷惑なんて知らねぇよ。大体細かすぎんだよ。道の真ん中で騒いだり物をとったぐらいで』

問題の男…刃燗は反省している様子はない。毎度のことながら慧音は頭が痛くなる

 

 

 

人里から、寺子屋にクレームが良く来る。刃燗が道の真ん中ではしゃいでいたり、近くの子供が持っているお菓子をとったり、店の商品を代金なしで持って帰ろうとしたり…

根っからの悪ガキである

 

 

 

 

『それに堅苦しいんだよ。真面目な人間の生き方なんて。もし俺がそんな生き方をしたら…

 

 

 

俺が俺じゃ無くなる感じがしてたまらない』

 

 

刃燗にとって、素直になろうとすることは、偽物の自分を装う感じがした。そうすれば快く受け入れてくれるかも知れないが、まるで自分じゃない誰かとして見られるようで嫌だった。偽物の自分に敬愛されるぐらいなら、本物の自分に嫌がられる方が良い。刃燗はそう思った。

 

 

 

 

 

慧音は彼の肩に手を置いた

 

 

 

 

『いいか刃燗、自分を装えとは言わない。結構器用で、情に熱いお前が決して悪いとは思わない。

 

 

 

 

 

 

 

けどな…人と誠実に向き合って、周りから気付いてもらえることもあるんだ』

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

ゆっくりと立ち上がる。フラフラと、今にも倒れそうだ。だがその足を決して止めなかった

 

 

 

 

 

 

(誠実な向き合い方が何なのかはまだ分かんねぇけど…

 

 

 

 

あの時初めて、人を助けることをカッコいいと思えた。)

彼が思い描いていたのは、自分の命の危機に助けてくれた人物。彼はその人に初めて尊敬を覚えた

(だから、戦いたい。あの人についていけるように)

 

 

 

 

「そこまで死にてぇなら、遠慮なく殺してやるよ」

鵞羅の手がゆっくりと上がっていく。刃燗を殺す為に…

 

 

 

《ブゥゥン!!》

 

聞こえてきたのはエンジンの音。幻想郷には聞き慣れない力強さを感じる音。それが段々と大きくなり

 

 

 

 

崖から黒い影が現れ、2人の前を駆け抜け

そのまま鵞羅を吹き飛ばした

 

 

 

 

現れたのは金色のバイク

そのバイクは刃燗の目の前で止まった

そして、それに乗っているのは…

 

 

 

 

 

「悪りぃ。遅くなった」

 

 

刃燗が一番尊敬している、斐川 黎人だった

 

 

 

 

 

 

「あ……アニキ…」

刃燗の言葉を気にかけず、黎人は彼の腕を背中に乗せて彼を支える

 

 

 

 

 

「良くやったよ。正直間に合わないかと思っていたが、お前がここで踏ん張ってくれたお陰で、誰一人の犠牲もなく到着できた。

 

 

 

お前が皆んなを救ったんだ」

 

 

 

 

 

言葉を失う

それは感激のせいか、安堵のせいか

刃燗は思わず涙を流した

 

 

 

「アニキィィィィ」

 

 

褒めたら泣き出した。黎人としてはそんな泣くほどのものではないと思うのだが…

 

 

「はぁ……面倒な子分を持ったもんだぜ」

 

 

 

 

 

 

「ふざけやがって……そいつが間に合ったから何だ、てんだ。全員死ねばそんなの意味なんかねぇよ」

 

 

吹き飛ばされた鵞羅は体制を立て直して呟く。彼は既に黎人に勝っている。負けるはずがない、と鵞羅は確信していた

 

 

 

 

 

 

 

 

「意味ならある。こいつは、俺を信じて限界まで戦ってくれた。それに応えるためにも、俺は負けるわけにも行かないな」

 

 

気づくと後ろに回りこんでいた。刃燗を遠くに避難させておき、再び戻ってきたというところだろう

 

 

 

 

「応えるだと?そんな必要はねぇよ!何しろ、俺に殺されんだからな!!!」

 

 

 

鵞羅は強風を起こして攻撃を仕掛けた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

掛かった時間はおよそ1秒

彼の首筋に刃を当てられたと気付いたのはコンマ数秒後だった

 

 

 

 

 

 

 

「な!?」

危険を察知し手を振り払おうとする。が、刀を引っ込まれて蹴りを入れられた

 

 

 

 

 

 

「そうとは限らねぇぜ。この2週間、鍛えたのは刃燗だけじゃねぇんだよ」

 

 

黎人は〔火〕の形態となり、双剣を出していた

 

 

 

 

 

「それに、テメェの能力の弱点も分かったからな」

 

 




どうも〜今回少し形式を変えてみました。
作者の言葉は後書きだけでいいかな〜と



てな訳で黎人君登場です
彼は鵞羅に勝てるのでしょうか⁉︎
そして鵞羅の弱点とは⁉︎



いよいよ二章も大詰め
是非とも楽しみにして下さい




〜NGシーン〜
「そこまで死にてぇなら、遠慮なく殺してやるよ」
鵞羅の手がゆっくりと上がっていく。刃燗を殺す為に…



《ブゥゥン!!》

聞こえてきたのはエンジンの音。幻想郷には聞き慣れない力強さを感じる音。それが段々と大きくなり




崖から黒い影が現れ、2人の前を駆け抜けた


現れたのは金色のバイクだった。
そのバイクは目の前で止まった。
そして、それに乗っているのは……


「悪りぃ、遅くなっ……⁉︎」

斐川 黎人だった
鵞羅にとって最も憎むべき


「いやちょっと待て。なんでテメェがそこに……」


「お前の血は何色だ?」
鵞羅の目は黎人の少し先
その方向に目を向けると…



バイクに吹き飛ばされた刃燗が倒れていた



「ガハッ」
「バラーーーーン!!!」




霊「あいつ……報われないわね」
魔「可哀想すぎるぜ」

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