東方羅戦録〜世界を失った男が思うのは〜   作:黒尾の狼牙

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今回は魏音と驥獣の戦いから始まります
では、ゆっくりしていってね


50 誰の為に戦いを選ぶ

前回のあらすじ

魏音が窮地に登場

舎弟A「おいちょっと待て!俺たちは!?」

ん?あぁ、魏音に殺されかけた舎弟たち

舎弟B「扱い雑すぎんだろ!」

舎弟A「あれだけで出番終了なんて納得いくか!」

いやもうモブの運命(さだめ)てことで

舎弟B「ふざけるな!俺たちの冒険はまだ…」

(強制終了)

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

「ん?」

魏音は隣に刃燗がいたことに気づく

この場に着いた時驥獣が目立った為に気づかなかった

「テメェ…何でここに」

刃燗は魏音に何でここに来たかを尋ねる

あの日殺されかけて、それ以来彼を恐れていた

出来ることなら会いたくなかった

どういう形でここに来たのかがさっぱりだった

 

 

やがて魏音は口を開く

 

 

 

 

 

 

「誰だ、お前」

 

 

 

出たのは名前を伺う台詞だった

 

「な…⁉︎人をあんな目に遭わせといて覚えてねぇ、てのかよ!」

喧嘩をふっかけたのは刃燗だが、全く覚えてないのは酷い

形がどうであれ、刃燗を追い詰めていたのだから

しかし魏音は顔色一つ変えなかった

 

 

「知るかよ。弱卒の顔なんかいちいち覚えられるか」

弱卒、と魏音は言った

悔しさで拳を握り締めるが何も言えない

現にこの男に敗北しているのだから

 

 

 

 

「ヴォアアア」

杖を持った驥獣が歩いてきた

よく見ると頭が白く光っている

覚醒した、ということだろうか

 

 

「まだ足りんのか?いいだろう。気の済むまで戦ってやる」

魏音は構える

低い体制をとる

 

 

驥獣が杖を上に向けた

すると天空に光の魔法陣が貼られる

「な…何だ?」

刃燗はその紋章が何なのかが分からず呆然としている

「……」

魏音は特に顔色変えるわけでも無くそれを見ていた

 

 

 

次の瞬間

 

 

 

 

《ピッシャーーーーーーン!!!!》

 

 

白色の雷が魏音に落ちた

地面に着いた瞬間巨大な音と共に

眩しい光を放ち、霧散する

 

 

 

光が晴れた時は辺り一面黒く焦げており

魏音の姿が見当たらない

 

 

 

「ヴヴヴヴヴヴ」

倒した、と思ったのだろう

その顔は歓喜に満ちている

 

 

 

 

 

 

 

「雷を降らすとは…中々厄介だな」

後ろから声をかけられ、振り向くとなに食わぬ顔で魏音が立っている

「え?一体何故…」

「雷…正確には電気は物を伝って流れるものだ。石を飛ばしてそれに当てれば俺に当たることは無い」

刃燗の質問に答える魏音

雷が落ちる前に予期していた魏音は石を上に投げて無効化したのだ

野生で培っていた知識、そして勘

それがこの回避だ

 

 

 

「ここまで派手なことをしておいて何のつもりだ。よっぽど俺を殺したいか」

「ア゛ア゛ア゛ア゛」

魏音の質問に対して驥獣は唸り声をあげる

声も意味不明だし今ひとつ聞きづらい

その声に何の意味もない

 

 

 

 

 

 

「主人の命令で鵞羅とやらを探すためか…忠実なことだ」

「…え?」

事はなかった

何故か伝わっているようだ

刃燗は思わず目を開いた

 

 

 

 

「だがまぁ、見当違いも甚だしいな…アイツを倒したところで探し物の居所が分かるわけではない。それも分からず無差別な殺生しか出来ないとは…頭の足りない餓鬼なみだな」

「ヴォアアア!!!」

 

 

魏音の台詞に怒ったのか

雷を次から次に落とす

連射されれば逃げる術はない

普通の人間ならの話だが

 

 

 

 

「やめとけ。魔力の無駄遣いだ」

魏音は前方に大きく飛んだ

そのスピードは常人の目には追えず、気がつけば驥獣の目の前に立ち

 

「ぬん!!」

「お゛!?ガアアァ…」

腹部に拳を当てる

あのスピードで繰り出した上に的確に急所に当てている

完全に狩りの心得を知る者の戦い方だ

「…ふん」

体制が崩れたところで次の攻撃を当てる

顔面、頬、顎、腰…

次から次に拳を的確に当てる

 

 

「グウアアア!!!」

堪らず驥獣は避けるための一手をうつ

杖の先端が光ったと思った時、驥獣の姿が消えた

「…⁉︎あの瞬間移動か」

刃燗はどこに移動したのか周りを見渡す

魏音はその素振りを見せない

 

 

 

 

完璧だ

奴はこっちを見ていない

恐らく様子見だろうが、この隙を逃すわけない

遠く離れたところから驥獣は風を呼び起こそうとしている

万が一避けられた時に備えて周りに雷が落ちるよう仕向ける

逃げ場はない

そして驥獣は風を呼び起こした

 

 

 

 

「そこか」

すると魏音が驥獣のいる方向を向いた

「…⁉︎」

バカな、あり得ない…一体どうして

と思った時には既に魏音の姿は変わっており

背に大きな翼が生えている

 

 

「風翔『岩砲翼』」

魏音が翼を羽ばたかせた時、驥獣が起こした風とは比べられない威力の風が吹き荒れ、驥獣の方の風を無効化し、そのまま驥獣に当てた

被弾した驥獣は後ろに吹き飛ばされた

魏音の周りに落とした雷は何者も捉えることなく落ちていった

 

やがて着地して起き上がったときは目の前に魏音がいた

「残念だったな…俺は特別鼻と耳が良くてな…お前がおこした風の音と杖に付着している血の匂いでお前の位置を把握した」

次から次に驥獣の攻撃を無力化する魏音

その様子に刃燗は畏怖を感じた

惣一がGARDという戦闘集団で戦闘能力を培ったのに対し、魏音は野生という環境の中で独りで生き抜く強さを身につけている

圧倒的な力の差に怯えたのは刃燗だけでなく、驥獣もであった

 

 

 

驥獣が瞬間移動でその場から離れる

それは体制を整える為でなく、魏音から逃げる為

この男には勝てないと察知し、急いで此処から離れることを行う

 

 

その場に残された魏音は動揺などしていない

だが、決して逃したというわけではない

彼は逃げる獣を1回たりとも逃したことが無いのだ

完全に殺すまで追いかける

それが魏音の戦い方だ

 

「獣声『索音波』」

魏音の口からかなり高い音が出された

しかもそのスピードはかなり早く

周りに一瞬で広がる

そしてその音波の反射によって魏音の耳が周りの状況を調査する

地形や生態というものを…

 

(見つけた)

驥獣を見つけたようだ

魏音がその方向を向くと、小さくだが驥獣が見える

だがそれもすぐ消えていなくなる

また瞬間移動したということだろう

 

 

「…1回で20メートル…発動後5秒間は使用不可…移動するところに光が出る…か」

一瞬で移動範囲、連続使用感覚、特性を把握した

それだけ理解すれば後は移動先に先回りするだけだ

魏音の足が変化する

高速で移動する獣の足だ

そして少ししゃがみ…

 

「ふん!!」

 

一気にジャンプ

それは木々を避けるように進み

瞬間移動した直後の驥獣の頭を掴んだ

 

 

 

ドゴーーーーーン!!!!!

 

その頭が地面に叩きつけられ、驥獣は杖を落とした

と次の瞬間

 

 

バキ!

杖の先端が魏音に踏まれて破壊された

 

「原理は知らんが、この杖の先の石でさっきまでの能力を発揮させたのだろう…壊せばもう何も出来ない訳だ」

驥獣の顔に絶望が見える

攻撃手段も逃走手段も潰えたのだから

 

 

 

「止めだ」

魏音は掴んでいる驥獣を上に投げ飛ばす

「獣爪『紅斬手』」

手が獣の手となり、先端は紅くなる

やがて落下していく驥獣に目掛けて

赤い爪を貫いた

 

 

 

「ヴアアアア!!!!!!」

 

 

驥獣はそのまま霧散した

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

「…何なんだよ、あれ…」

一方的すぎる

様々な能力を駆使して戦うもことごとく看破され

終わる時は呆気なかった

先ほど自分では全く叶いそうになかったのに、こうもあっさり倒しているのをみると

刃燗は驚愕以外の何も言えなかった

 

 

 

 

「さて…いつまでそこでボーッとしている気だ」

声をかけられる

前を見ると魏音もこっちを見ていた

その目は…

殺意だ

 

「何を無関係気取りしている。騒ぎを起こしたのはテメェもだろうが。代償は払ってもらうぞ」

「!!!」

刃燗は構えた

彼は襲われた側だから代償なぞ無いはずだが…

魏音はそんなのはどうでもよかった

自分の眠りを妨げた者を殺す

その対象に都合も無い

魏音はその足を一歩踏み込んだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おっと…乱暴は止めときな」

突然魏音の後ろに人が現れる

「え?一体」

刃燗が驚くのも無理は無い

さっきまでそこに彼女はいなかった

背丈は魏音の胸に届くか届かないか

頭に二本の角が生えており腰には何故か瓢箪がある

 

一方の魏音はそこまで動揺していない

「貴様か…さっきからコソコソしていたのは」

此処に来る途中気配はしたのだが見当たらなかった

気にはするものの一旦放っておいてここまで来た

「お?気づいていたか。流石勇儀が言うだけあるね」

「…やはり鬼か」

「そうだよ。あたしは伊吹 萃香(いぶき すいか)だ」

「で?何故止めた」

魏音はその鬼を睨みつけた

「そりゃ止めるよ。霊夢のところにいる者だし。殺されるのも見届けれないからさ」

「それはお前ごと消されたいと解釈していいのか?」

「うーん…戦ってもいいけど、残念ながら無理そうだ」

萃香は頭を横に振った

それと同じくらいに…

 

 

「あ!いた‼︎も〜勝手にどっか行くんだから」

遠くから声をかけられた

「ちっ…見つかったか」

刃燗が周りを見渡すと、帽子をかぶった少女−−こいしがこっちに向かって走ってくる

「ね?ほらさっさと帰ってやって」

「るせぇ。後で潰す」

魏音はそのままどっかに行った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほい、お疲れ。大変だったね」

萃香は刃燗に声をかけた

「あ…あの。俺は」

「まぁまぁ、話は後にして先に博麗神社に帰るよ」

そして萃香は振り向いて歩き出す

刃燗もそれについていくように歩いて行った

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「…で?驥獣に喧嘩して思いっきし負けたということね」

「…はい、そうっす」

博麗神社に戻って霊夢にコンコンと説教されている

「まぁ無事で良かったけど保身はしときなさいよ。自分の身は自分で守る以外無いんだから」

あっさりと終わった

もとより霊夢は他人にあんまり干渉しない

被害は自己責任だしそこに必要以上に巻き込まれようとしない

自分が迷惑なことに巻き込まなければそれで良いのだ

 

 

 

「ところで…あの人は?」

「あぁ、萃香のこと?アイツはたま〜に此処に来る居候よ。なんかあるとどっかに行くけどね」

萃香について説明をする

とある異変から萃香は此処に住み着くようになった

だが気分任せにどっかふら〜と移動する

霊夢は彼女が来た時は「あぁ、今日は来たんだ」くらいしか思ってない

 

「そんじゃあ少し萃香さんに呼ばれてるんで…」

「…?良いけど」

突如刃燗は外に出た

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

また、完全に1人になった

考えてみたら随分と久しぶりだ

萃香が来て、黎人が来て、刃燗が来て…

最近はその内誰かが一緒にいた為

こうして1人になるのは暫く無かった

 

 

 

別にどうということは無い

以前は当たり前のように1人でいたし

魔理沙やアリスが遊びに来たりする

はた迷惑だが妖怪とかも来るから

そういった意味でも独りでは無い

 

 

 

 

「はぁっ…」

だが、それでも

寂しく思ってしまう

そう思ったのは今日初めてでは無い

あの日自分の気持ちが分かってしまった時からだ

今は朝食や家事でギャーギャーと文句を言い合いながら一緒にいるアイツも居ない

たったそれだけ

それだけなのに

物凄く憂鬱になる自分がいる

そこまで自分が弱いとは…と落ち込んでしまう

 

 

 

「いつまで待たせるのよ…バカ」

たった3日でここまで思ってしまうとは

この先大丈夫だろうかと自分で思ってしまった

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

「さて来たね。刃燗…だったね」

「ういっす」

博麗神社の裏

刃燗と萃香が向かい合っていた

神社に入る前に此処に来るように言われた為ここに来たのだ

「それじゃあ話に入るけど…君はどうしたい?」

萃香は突然曖昧な質問を出した

「どういうこと、すか?」

「この先とても過酷な戦いが、黎人とやらには待っている

恐らくだけど、霊夢もそれに付き合うんじゃないかな。それで、あの2人を慕う君は…どうしたいか、てこと」

そこまで聞いてハッキリと分かった

この鬼は自分に聞いている

戦う覚悟があるか、どうか

そこまで分かった時、刃燗の決断は早かった

 

「戦いたいっす。アニキは、あの鵞羅を倒した後も、戦い続けると思います。俺は、その近くで一緒に戦いたい」

刃燗は拳を握った

鵞羅と戦った時の黎人はかなり無惨で、その時自分は何も出来なかった

願わくば、自分にもっと力が欲しい

 

 

 

 

「何のために?」

続けて萃香が問いかける

「それは…」

アニキの為…といいかけて口を閉じた

その答えに疑問を感じたからだ

黎人は自分に戦ってほしいと望んでいるわけではない

寧ろ嫌に思っているのでは?

そして、戦いの場から自分たちを守るために

今力をつけている

それは、本当に答えなのだろうか…

 

 

 

 

「そこから先に訂正しとくけど…他の人の為だけに戦える人なんていないんだよ」

萃香が口を開いた

「本当にそう思っている人は…亡者になるのさ。死んでもそれを果たそうとするからね。でも、それは矛盾している。本当にその守りたい人がそれを望んでるなら良いけど、仮に望んでなかったら?そうしたらその戦いは結局何のためだったのか、となってしまう」

刃燗は目を伏せた

今自分が懸念していたことがそうだったからだ

 

 

 

 

 

「凄く可笑しな話だけどね…戦いの理由はなんであろうと自分のためなのさ。他者の命を守りたいという自分の気持ちに答える為、自分の栄光の為、自らの命を守る為…そこを踏み間違うと、反発という壁に逆らって一歩踏み出すことは出来ない」

萃香はそのまま刃燗の解答を待った

 

 

 

 

 

 

刃燗は今日あったことを思い出した

霊夢に対する批判の声に怒りを覚えたこと

驥獣に手出しが出せなかった自分に対して怒ったこと

それを乗り越えるために力をつけたい

そして…

 

 

 

 

「そうっすね…俺は、アニキの役に立ちたいという一心です。そこに誰かの意志とか関係ないっす。俺は.俺の誇りのために戦いたい」

萃香はニッと笑った

「よし、じゃあ一つ手を貸そう。君に戦うための力を与えるために」

 

 

 

 

 

 

 

 

アニキ

あんたはきっと、俺に戦場に立って貰うのは不本意でしょう

でも、俺は戦います

俺は…アニキと、アネゴと一緒に戦いたいです

だから俺も頑張ります

 

 

いつか本当に

アニキの力になる為に…

 




刃燗は自分のしたいことがハッキリと分かったようです
そして、萃香とともに何をするのでしょうか
次回以降に答えが分かります


次回はいよいよアイツが復活します
果たしてどうなるのか?是非ともご期待下さい

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