東方羅戦録〜世界を失った男が思うのは〜   作:黒尾の狼牙

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此度は黎人じゃない人が中心の回です
(ネタがない…)
それではどうぞ


49 危機は時を選ばない

前回のあらすじ

ほげー修行順調

黎「誰がほげーじゃクラー!!」

 

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

 

「アニキがいなくなってもう3日かぁ…」

博麗神社にて刃燗がそう呟く。いつも通りにいた黎人がいなくなり、神社の中がガランとした感じだ。いや、変わったのはそれだけじゃない。黎人が居なくなってから、霊夢はずっと寂しそうにしている。

 

刃燗は霊夢の心の内を知っていた。だから分かる。霊夢が何でそんな風になっているのか。

 

 

「少し…人里に行って来やす」

「ん?ああ、分かったわよ」

 

ここに居続けるのも嫌になり、刃燗は人里に向かう。

 

 

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「そいや知ってるか慧音。あの問題児のこと」

「刃燗の事か。知っているとも。実際に博麗神社で見たしな」

 

慧音の家にズカズカと入り込んできた妹紅が突然話題を振った。内容は刃燗の事だ。

 

「しっかし…まさか博麗神社にいるとはな。あの野郎はそんなのには縁が無いと思っていたのにな」

 

刃燗は人里の中では最悪と言っていいほど評判の悪い不良だった。彼が寺子屋に通っている途中慧音や妹紅と何度もぶつかったし卒業後もフラフラとしていて人間たちの迷惑となっている。

 

だが突如妙な事が起こった。何しろ、あの刃燗が博麗神社にいるというのだ。幻想郷一の問題児がこの世界の秤である博麗神社で住んでいる。余りに不自然に思えた。

 

「あぁ、だが…それについて妙な噂がある」

 

なぜ博麗神社に住んだのかという疑問に関して様々な考え方があるのだが……

①刃燗が成敗され、その後あの博麗の巫女によって刃燗が生まれ変わった説

②刃燗が博麗神社を締め上げた、そして博麗神社を住処にした説

 

後の方は幾ら何でも博麗の巫女に敵うわけは無いということで直ぐ消えた。だから先の方が考えやすい(事実でもないが)

 

 

ところがもう一つあがった。博麗の巫女が刃燗に肩入れしているのでは?霊夢は滅多に人里に行かないため霊夢についてよく知らない者が多い。印象は無関心で冷静沈着、楽園の素敵な巫女として讃えられてはいるが心の底からそう思っているものは少なく、恐怖さえしている。だから、刃燗と協力者であっても違和感を感じない。実際のところ先ほどあがった3つの説のなかで、最後の説が正しいだろうと考えているものが多い。そうすると余計な不安を煽ることになる。博麗の巫女がそうなれば幻想郷が滅んでしまうかもしれない。その不安が人里に広がっているのだ。

 

 

 

「霊夢のことだからそれはないと思うが…余計な不安が多いと問題になるな…」

「そうだよなぁ…全くいっつも面倒事ばっかり《ザリッ》うん?誰か家の前を通ったか?」

「いや、通るだろ。外れに住んでいるわけでもないし」

「あ、そうか。あっはっはっは」

「…笑ってごまかすなよ」

 

大声で笑う妹紅に慧音は苦笑するしかなかった。外にいた人物が誰なのかもわからずに…

 

 

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刃燗は慧音たちの会話を偶然聞いてしまった。そして、とんでもないことになっていることを知った。自分が博麗神社にいることで、人を脅かしていることに。

 

行く人会う人が刃燗を脅威の目で見ている。それも、散々愚行をした自分に対して当然だし、以前は誇らしくさえ思っていた。だが、黎人のもとでしばらくいて分かった。その誇張こそが怠慢であることを。今まで自分の見ている世界の狭さを。

 

 

 

ーーアイツを家に置くなんて、何を考えているんだ博麗の巫女は

 

時にその声が聞こえた。耳打ちのつもりで言ったのだろうが、全く隠せてない。寧ろ敢えて聞かせてるんじゃないかと思わせるくらいだ。

 

その拳に力が入る。前の彼だったらその人物に殴りかかっていた。だがここで、そんな理由で喧嘩を買えば、黎人や霊夢に離される。自分の信じてきたあの2人なら、暴行を行った自分を怒り、排除するかもしれない。

 

 

 

(それは…やだな)

 

刃燗が初めてついていきたいと思った2人に突き放されるのは全う御免だ。刃燗はその怒りを自分の心の中に抑え込んだ。

 

 

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「ったくよう。刃燗のやつ腰が引けて博麗の巫女のところに行きやがった」

「全く、飛んだ腰抜けだよなアイツ」

 

人里の外れにある森でたむろってる集団がいた。彼らはかつて刃燗の率いていた舎弟に入っていた。だが刃燗が解散させ、彼らは何の族でもなくなった。

 

彼らは刃燗が博麗神社に入ったことを知っている。そこの巫女や付き添いの男に従っている刃燗を見た。それにより彼らは刃燗を見損なった。

 

「あの野郎にビビって腰抜けたんだよな。そんで博麗のところにいれば安全に過ごせると」

「全くとんだビビリだよなぁ!俺たちが信じてたアニキは!!はははははは!!!」

 

彼らの高笑いが響く。決めた志を諦め無難に生きるのは負け犬のすること。それが彼らの信条だ。悪の道を諦めた刃燗を彼らはこれ以上なくクズ野郎だと嗤う。

 

 

 

ーーガン!!

 

「いってぇ!何だ⁉︎」

 

突如1人の顔面に何か当たった。当てられたものを見るとそれは石だった。

 

「何だ⁉︎この石は…」

 

一体何故この石が…その疑問はすぐ解決される。

 

 

 

 

「ピーピーピーピーウルセェよ。折角気持ちよく寝てたのに台無しじゃねぇか」

 

彼らの前に男が立った。キャップとゴーグルをしており顔はよく分からない。恐らく彼が投げたのだろう。

 

「んだテメェは!こんなことして家に帰れると思ってんのか⁉︎ああ!!?」

 

石をぶつけられた不良はブチ切れてその男を睨んだ。他の仲間もその男を囲むように現れた。

 

 

その男はゴーグルに手を添え、ゆっくりとゴーグルを頭の上に乗せた。

 

 

 

 

「……………あ?」

 

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「…気がつきゃここに来たな」

 

刃燗は歩き続けて森の中に来た。人里の中だと居心地が悪く、それを避けるように歩くとここに来てしまったという感じだ。どこか分からなくなる前に戻るべきだろうと考える。

 

「帰るか」

 

刃燗は踵を返して戻ろうとした。

 

 

 

 

《ビエエエエエエエエン!!!ビエエエエエエエエン!!!》

 

「な⁉︎これは」

 

刃燗のポケットで鳴るお守り。黎人が修行に行った時彼はこれを神社に置いてきた。そして、これが鳴ったということは…

 

「そんな…こんな時に」

 

今黎人は修行の為退治に来れない。つまり今回出てくる驥獣は倒しようが無いのだ。

 

 

「一体…何処に?」

 

そう呟く刃燗の後頭部に……

 

 

 

黒い杖が伸びていった……

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

その男は悪態をついていた。

 

最悪だ。あの野郎からここに逃げ切って休んでたのに。こいつらが叫んだから眠れなかっただろうが。しかも文句言ったら襲いかかるし、ロクに休むことも出来ねぇ。人間、つうのはどいつもこいつも……

 

 

 

ーードゴォォォン!!!

 

急に彼の近くで爆音がする。メキメキと音がするので、木でも折れたのだろう。

 

「次から次へと…」

 

その男はその音源に向かって歩く。

 

 

その後ろ姿を二本の角を生やした人影が伺っていた。

 

 

 

「へぇ…あいつか、勇儀が言ってたのは」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

危なかった。もし後ろからの殺気に気づかなかったら自分の頭は、目の前の木のように折れていただろう。反射的に顔を横にずらして助かった。

 

だが、危機は変わってない。そっと後ろを見るとスカーフのような衣を纏った獣が、その身長と同じくらいの長さを持つ杖を突き出していた。

 

 

「……ウウウウウ」

 

その姿からして、驥獣であることは間違いない。そしてそれが、今自分の命を狙っている。そう認識した時、刃燗の行動は早かった。

 

「この…やろが!!」

 

顔面に向かって右フック。だがその拳は驥獣の持つ杖で防がれた。

 

「甘ェんだよ」

 

その杖を下から潜るようにして顎に向かって拳をぶつける

アッパーというやつだ。受けた驥獣の方はバランスを崩して後ろに下がる。

 

(……今だ)

 

その瞬間に刃燗は真後ろに全力で駆ける。悔しいが、自分が挑んだところで敵わない。

 

 

 

驥獣から十メートルは離れた。この距離ならそう追いつかれはしない。このまま人里に行けば逃げ切れる。ましてやここは森、身を隠すところなど山ほどある。どうにか逃げ切れる。そう思い、足を進ませる

 

 

 

(な……!?)

 

刃燗はすぐその顔を絶望に変えることになる。

 

(なん…で……俺の目の前にアイツがいるんだ)

 

走る先にいたのは先ほど距離を離した筈の驥獣だ。通り越した感覚などない。

 

 

 

「ウヴヴン!!」

「ぬわ!ああ!!!」

 

杖を突きつけられた時、風が吹き荒れ。刃燗は後ろに吹き飛ばされた。さっき木を折ったのはその風だった。

 

 

 

木に打ち付けられ腰から倒れこむ刃燗。目の前には今にも自分を討ち取ろうとする驥獣。逃げなければ殺されるのに、体が動けない。それはダメージによるものか、それとも恐怖によるものか。

 

驥獣は杖を持ち上げる。よく見るとその杖の脚は鋭く尖っていた。付着している赤茶色の物は、それで葬った者の血で間違いない。このままいれば、自分もその杖で…

 

 

(くそ!何でうごかねぇんだよ俺は!動け!動け動け動け!)

 

体は言うことをきかずその場から離れられない。腕を使って立ち上がろうとしてもダメージのせいか持ち上がらずに倒れこむ。

 

 

驥獣の手がゆっくりと上に上がる。両手でつえを持ち刃燗を貫こうとする。

 

(止めろ……俺は)

 

やがて上昇する手が止まり、その手がゆっくりと下ろされた……

 

 

 

 

 

 

ーーバゴン!!

 

「な!?」

 

急に驥獣が遠くに吹き飛んだ。刃燗は何が起こったのか分からなかったが、驥獣を蹴り飛ばした人物を認識した。

 

 

 

「……て、テメェは…」

 

 

その人物を刃燗は知っている。かつて刃燗が先に喧嘩をふっかけ、舎弟ごと自分を殺そうとした男。

 

 

 

 

 

「ドッコンドッコンとうるさい奴だ。あまりうるさいと殺すぞ」

 

 

 

その名は、葉原 魏音




この小説が始まって今回初めて黎人が出てないです(あらすじ除く)


人里の人間は刃燗が博麗神社にいることを良しとしないようです
寧ろ危険と感じている
そう知った刃燗はこの後どうするのでしょうか

そして第五の驥獣登場
今回はエスパー驥獣です
杖で風を出したり瞬間移動したりと色々してきます
特殊能力なしの刃燗には勝てません



久々の魏音登場
次回は彼と驥獣の戦いとなります
次回も楽しみに待っててくだされ〜

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