東方羅戦録〜世界を失った男が思うのは〜   作:黒尾の狼牙

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個人的な話にはなりますが、先日携帯を割ってしまいました。画面だけ壊れているので操作には支障は無いんですが。

飲み会の帰りでした。飲みすぎてタクシーから出た時にうっかり携帯を落としてしまったんですね。拾ったら見事に割れていてビックリしましたね。

こういう事を起こさないためにも、酒には飲まれないように気をつけましょう。酒には酔うけど女には酔ったことがない独り者の作者からの一言でした。


116 結晶

幻想郷が凍りついている。あまりにもスケールが大きすぎて実感がない現象が起きていた。

 

地面も木々が完全に凍りついている。強い風が吹いていてもピクリとも動かない。

 

 

「…ダメだな。人里の方も凍ってしまっている。地上は全て凍りついていると考えた方が良さそうだな」

 

 

人間の里の様子を見に行った黎人が妖怪の山に戻ってきた。

 

思っていた通り人里も凍りついていた。建物も同じように凍りついており、窓や扉が開かない。

 

 

「それで、人間は?」

 

「…凍っている様子はない。天狗たちと一緒だな」

 

「…やっぱり、無機物が凍っているだけなのね」

 

 

妖怪の山も、天狗が凍っている様子は無い。いま凍っている山について調査をしている。

 

同じく人間の里の人間が凍っている様子もなかった。いま現在人間がその扉を壊している最中だった。

 

凍っているのは地面や木々、建物といった無機物だけであり、人間や妖怪が凍らなかった。

 

 

「一体誰が?凍らせる能力を持つ奴が幻想郷にいるのか?」

 

「…いや、流石にあの妖精はないか。こんなの無理だし」

 

 

1番最初に氷の妖精を思い浮かべたが、流石にここまでの規模が出来るとは思えないため、その可能性を真っ先に消した。黎人も異議を唱えない。

 

 

「じゃあ誰が………ん?」

 

 

黎人があることに気づいた。地面だけでなく空も何となく変であることに。いつも通りの空ではあるのだが、透明な膜みたいなものが張り付いているようにも見える。まるでガラスの天井のように見えた。

 

 

そして空の様子が変わった。青い光が現れ、1人の女性の姿に変わった。

 

 

「…ッ!雪羅…!?」

 

 

その女性の事を、黎人は知っていた。少し前に黎人たちの前に現れた女性であり、彼が中学生の時外の世界で関わった人物、雪羅であった。

 

 

「幻想郷に住む哀れなアリさんたち。驚いてくれたかしら?」

 

 

雪羅の声が大きく響いている。天井にいる彼女が喋っているようにも見えた。

 

それは映像のようなものだった。どこか別の場所で話している彼女の姿が天井に映し出されている。その映像は黎人や霊夢だけでなく地上に住んでいる人全てが見ていた。

 

 

「これは私の『結晶を操る程度の能力』よ。氷や鏡も結晶と言えるわ。私はこの能力で幻想郷の地面を氷にさせたり、空中に鏡を張らせて私を映させているの」

 

 

それが彼女の能力だ。結晶とは規則正しい配列になっている分子や原子の集合体のことであり、綺麗な見た目をしている個体である。その能力を応用して鏡や氷を作っているのだ。

 

 

「さて、あなたたちはいま大変困っていると思うわ。いまあなたたちは凍ってないだろうけど、地面が氷になったと言う事は気温も下がっているし、何より食料が取れなくなると言うことよね。

 

もし元に戻して欲しければ、私を倒して見せなさい」

 

 

雪羅から挑戦状を叩きつけられる。自分を倒すか否かの選択肢を与えられる。しかしこのままだと困ることになるのは確かであり、雪羅を倒す以外のことはできない。

 

 

「私の居場所を突き止めて、私を倒しに行きなさい。楽しませてくれる猛者を期待して待っているわ」

 

 

やがて空に映っている雪羅の姿が消えた。これ以上は何も喋るつもりはない。もしどうにかして欲しければ早いところ自分のところに来いという事である。

 

 

 

 

 

「ああ、そうだよ。完全にしてやられた。あの女は俺たちが殺しに来る事を分かっていた。だから囮の人形を使って俺らを誑かしたんだ」

 

 

先ほど雪羅の姿をと戦っていたスラックは、本部に事態の報告をしていた。彼の足元も氷の大地になっている。彼女が凍らせた地上というのは、彼らのいる場所も例外ではなかった。気がついたら地面が凍りついていた状態である。

 

 

『なるほど。思ったより手強かったというわけですね』

 

 

スラックの腕につけている時計にクロロの姿が映っている。彼がスラックの話を聞いていた。

 

 

「それだけじゃねぇよ。偽物を用意していた事よりもアンタの話の方がとんでもない」

 

 

その言葉に、瑛矢もうなづいていた。その話を聞いた時、スラックも瑛矢も驚いていた。

 

 

「まさか本部に現れて兵器を持っていかれるなんて、なかなか信じられないぜ」

 

 

いま本部では大惨事である。スラックたちが偽物の雪羅と戦っている間に、本物の雪羅が本部に現れて襲撃されたのだ。

 

受けた被害は小さくない。配置していた見張りも何人かやられており、配下が1人やられている。大きな傷跡をつけられてしまったのだ。

 

 

「…ロッタはいまどうしてる?」

 

『大丈夫ですよ。彼はアイさんのところで治療を受けています』

 

「…まだ問題が起こりそうな事を…」

 

 

雪羅に倒されたロッタはいま治療を受けていた。暫くは動くことが出来ないと判定されている。アイも全力で治療をしているのだが、それでも時間はかかるのだ。

 

治療が終わった時に勝手に治療された事で怒り出す可能性もあるのだが、いま気を失っている状態では彼の意見を聞く手段は存在しない。

 

 

「本当に大丈夫なんだろうな。俺たちよりも先に幻想郷をめちゃくちゃにしようとしているんだ。そうなったら困るのは俺らだぞ」

 

 

スラックたちも先ほどの雪羅の話を聞いていた。幻想郷を氷漬けにして住民たちに挑発していた。自分を倒しにきた人間たちを殺そうとしているのだろうと思われる。

 

そしてそれはいま危険なのだ。黎人たちと戦うためには人間たちには生きてもらわないと行けない。住民たちが殺されるのは彼らにとって支障があるのだ。

 

 

『大丈夫ですよ。ここまでは計画通りですから』

 

 

クロロは落ち着いていた。取り乱している様子はない。寧ろ計画通りと言っている。

 

スラックは彼の笑顔に嫌なものを感じている。この彼の笑顔には何かが隠されている事が分かっているからだ。

 

 

するとクロロは話し始めた。これからの方針について……

 

 

 

 

 

「アイツ…ッ!」

 

 

霊夢の手に力が入っている。もともと雪羅に対して良い印象を持っていなかったのだが、面倒な異変を起こされて腹を立てている。

 

 

「…ねぇ、どういうつもりなのよ。あの女は何がしたいわけ?」

 

 

霊夢は黎人に尋ねた。あの女は一体何をしようとしているのかと。

 

黎人は彼女と知り合いであり、少しは知っているかもしれないと思ったからである。

 

 

「…わからねぇ」

 

 

だが黎人も分からない様子だった。

 

 

「……どういう事?外の世界で一緒にいたんじゃないの?」

 

「だから分かるというわけじゃねぇよ。別にアイツの事詳しい訳じゃないし」

 

 

それもそうか、と思い出す。一緒に居たとしても相手の事を理解しているとは限らない。むしろこの男は雪羅を『中学生の頃の同級生』としてしか見ていない。詳しい情報を聞くのはかなり難しそうである。

 

 

「それに、昔のアイツとまるで違うんだよ」

 

「……え?」

 

 

次に言われた言葉に霊夢はしばらく呆気にとられた。彼女の事をあまりよく知らないとさっきまで言っていたのに、外の世界で会った時と様子が違うと言っている。よく知らないのなら昔の頃と違うかどうかも分からないのが普通に思えた。

 

だが黎人は昔の雪羅と様子が違うと感じた。幻想郷で会った時からもう既に様子がおかしいと思い始めていた。

 

 

「外の世界ではあんな感じじゃなかったんだ。むしろ他人に冷たい感じだったんだよ」

 

 

彼の記憶にある雪羅は、もっと冷たい人物だった。棘のある言い方で他人を軽蔑している感じである。そんな彼女の事を心底嫌っている人物も珍しくはなかった。

 

しかし幻想郷で会った雪羅は、かなり情熱的な喋り方をしていた。黎人に対してかなり好意を持っているような喋り方だった。話している内容も聞いててかなり痛いものだった。

 

昔の彼女と今の彼女はあまりにも違いすぎる。それこそ別人ではないかと疑っていた。

 

 

「とにかく口調が荒かった。誰に対しても。それは俺も例外じゃなかったよ。近づいただけで『馴れ馴れしく近寄らないでくれ』って言ったり、かと言って離れると『なんでそこで逃げるのよ』と言っていてとにかく理不尽だった」

 

 

それはツンデレという奴ではないのか、と言うツッコミを口に出さずに心に留める。いま真剣に考えている時にそんな事を言うのは無粋かなと思ったからである。

 

 

「まぁそれは無理もないんだけどな。アイツは多分人間不信になっていた筈だし」

 

「…どう言う事?」

 

「…実家が燃えたんだよ。確かトラックが家に突っ込んでガスが引火したと言う事だったと思うんだけど。

 

そのせいかアイツは顔の一部を火傷してしまったんだ」

 

 

霊夢は彼女の顔を思い出した。最初に彼女と会った時に顔に黒い痣のようなものがあった。

 

その痣の正体は火傷である。火傷はそう簡単に消えるものではない。治療したとしても必ず跡が残る。永琳であっても完璧に消すことは出来ない。

 

 

「それを指差して笑う奴が多かったからな。学校に行けば周りの奴らに馬鹿にされる。それに対抗するためにあの口調になったんだと思う」

 

 

自分をからかいに来る人が多いと、他人に対して冷たくなるのも当たり前だった。だから中学生の頃の彼女は他人に対して冷たかったのだ。

 

 

「あんたは、なんとも思わなかったの?アイツの顔を見て」

 

 

気になって尋ねてみた。黒い痣が残っている顔を見て本当に何も思わなかったのだろうかと。その答えはなんとなく分かっているのだが。

 

 

「…最初は驚いたけどな。見ているだけで痛そうだったし」

 

「…やっぱり気持ち悪いとは思わなかったのね」

 

「思わねぇよ」

 

 

思った通りの解答だった。外見に少し驚いた程度で嫌悪感も特に抱かなかったらしい。

 

霊夢は何となく理解した。なぜ雪羅が黎人にあそこまで好意を抱いているのかと。

 

この男は見た目や立場で人を計ったりしない。それらは人柄とは別であると考えるタイプの男である。彼女もその類の人間ではあるのだが、彼は特にその傾向が強い。

 

それが雪羅に惹かれた1番の理由だ。偏見や先入観無しで相手の人物としての姿をそのまま見る。あらゆる人間に蔑まれ続けてきた雪羅に取ってこれ以上ない惹かれる人物なのだ。

 

人を平等に見る事を何のためらいもなく出来る黎人は、それが魅力であるとは思っていないのだが。

 

 

「話を元に戻すが、とにかくアイツはあんな喋り方はしない。赤い糸で繋がれているとか言っていた時には思わず驚いた。アイツがあんな事を話すなんて思ってもいなかったから」

 

 

黎人は違和感を無視することは出来ない。霊夢もその違和感に対して疑惑を感じている。彼が外で彼女と最後に会った時からそんなに日数は経っていない。そんな僅かな時間でそんなに変わったのには何か理由があるはずだ。

 

 

「それは洗脳されたからですよ」

 

「…!」

 

 

彼らの後ろに1人の男が立っていた。黒いローブで身を纏っており、その姿を見ることはできない。ディルの部下であるエルサのような格好であるが、声も体格も全く違うため同一人物ではない。

 

 

「お前は…」

 

「残念ながら名前を教える事は出来ません。そうですね、謎のローブとでも呼んでください」

 

 

霊夢はもう既に怪しさマックスである。ただでさえ格好が怪しいのに、名乗ろうとしないで変な呼び名を出してくる時点でもう嫌な感じしかしない。

 

 

「そうですね。私は雪羅を知っている人間ですよ。つまり彼女の情報を持っています。いまどこにいるのかも」

 

「…!」

 

 

思わない情報に一瞬焦る。得体の知れない男から情報を得るなど思いもしなかった。

 

その情報には確証はない。この男が適当な事を言っている可能性もある。そういう情報は簡単に信じてはならない。

 

だが、確認する価値はある。

 

 

「…どこだ?」

 

「人里から南の方に向かったところです。そこに彼女はいます」

 

「そうか。分かった」

 

 

その情報だけ聞いて黎人と霊夢は男が指差した方に向かって飛んで行く。その場所には情報を与えた男だけが立っていた。

 

 

「さぁ、彼らが雪羅の野望を打ち砕くか、それとも雪羅の思い通りになるか。シッカリと見せてもらいますよ」

 

 

男は楽しそうに彼らの飛んだ先を見ていた。

 

 

 

 

「ねぇ、アイツの言っていた事についてどう思っている?」

 

 

真っ直ぐ飛んでいる途中、霊夢は黎人に尋ねた。いまも霊夢はあの男の言っていることについては信じていない。あの男を信じて良いか否か、判断に迷っていた。

 

 

「…嘘をつく理由はないから、多分本当なんだと思う。問題なのは、何の目的で俺たちに情報を与えたかだ」

 

「……罠とか?」

 

「あり得る。もしくは雪羅を倒すことでアイツに何か利益があるかだな。どっちにしても俺らは雪羅のところには行かないといけない」

 

 

黎人も信じるかどうかは分かっているわけではない。罠の可能性もあるし、利用している可能性もある。だがどちらの場合であったとしても、雪羅を止めるためにはその情報に従うしかないのだ。

 

 

「……それね」

 

 

霊夢も納得した様子だ。いずれの場合にしても雪羅を止めなければならない。黎人がそう思っているのだから、黎人の言う通りにした方が良いだろう。

 

彼女自身が感じている不安に、目を背けながらそう思うのだった。

 

 

「…っ!霊夢!!」

 

「えっ……!?」

 

 

黎人の大声で散漫になっていた注意が戻る。そして彼女は殺気を感じた。いますぐに回避しなければやられると。

 

真っ直ぐ飛んでいた状態から向きを変えて後ろの方に退がる。その瞬間先ほどまで彼女が立っていた場所に大きなものが通りかかった。

 

それは巨大な腕だった。彼女はいまその大きな腕で叩き落とされそうになっていた。間一髪でその攻撃を避け切ったが、もう少し遅かったらその餌食になっていただろう。

 

彼女はその大きな腕を持っている生物に目を向けた。

 

 

「グゥゥゥ…!」

 

 

とても巨大であった。まるでガイラが巨大化した時のように。理性も意識も持っていない巨大な生物。まさに怪物というものに相応しい容態だ。

 

 

「な、何こいつ…!」

 

「敵なのは間違いなさそうだが…コイツは()()()()組織だ?」

 

 

黎人が考えているのは、その怪物はBWのものなのか、それとも雪羅が管理しているものなのかということだった。前者だったら普通に自分たちを抹消しに来たということであり、後者だったら自分たちの前に立ち塞がっているということである。どちらかによっては対処の仕方が変わってくる。

 

 

「グアア!!」

 

 

しかしそれを確認している暇はない。怪物は黎人に向かって襲いかかろうとしている。この攻撃を防がなければマズいことになる。

 

 

「ちっ…!」

 

 

舌打ちをして黎人が刀を持つ。避けきれないと判断した彼は攻撃を受け止めようとしていた。

 

 

だが、受け止めるどころか、攻撃が黎人に届くことも無かった。

 

 

《ドゴォォン!!》

 

「ガァァァ!!?」

 

 

大きな打撃音と一緒に怪物が浮かぶ。この状態で怪物が飛ぶ理由はない。その怪物は誰かの攻撃を受けたのだ。それは黎人でも霊夢でもない。

 

 

彼らの目の前にいる男の攻撃だった。

 

 

「…っ!?アイツは…?」

 

 

その男の出現に、黎人や霊夢は若干驚いた。突然現れた男について疑問を感じた。

 

 

 

「行ってください」

 

「…!」

 

「コイツは俺が足止めします。その間に雪羅のところへ…!」

 

 

男はそれだけ言った。それは全くなんの情報もない。側から聞けば何のことか全く分からないだろう。

 

だが彼らにはそれで十分だった。

 

 

「…行くぞ」

 

「えぇ」

 

 

黎人と霊夢は再び飛び去る。その後ろ姿を見た男は怪物に向かった。

 

 

「おい化け物!残念だったな。お前にあの2人を止めさせるわけにはいかねぇ!」

 

 

大きな声で叫んだ。その男は大声と気迫だけは人一倍あった。

 

 

「蛾溪 刃燗!この俺がテメェの相手だ!!」

 

 

 




久々の刃燗登場です。彼はその怪物を倒すことはできるでしょうか。そして雪羅の目的とは…?

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