永遠亭の中で、咲夜は目が覚めた。治療はほとんど終わった後で、体中に包帯などが巻かれてある。しかも完治していないようで体を動かそうとすると激しい痛みが体中を襲う。
その痛みで咲夜は思い出した。さっきまで何があったのかを。
紅魔館の近くの湖でスラックと戦い…彼女は負けた。殺されてもおかしく無いのだが、彼女は死んではいない。黎人あたりが助けたのだろうと解釈した。
「咲夜さん。やっと目が覚めたみたいですね」
目が覚めた咲夜に話しかけたのは、永琳の弟子である鈴仙だった。ちょうど咲夜の様子を見に来たみたいだ。
「まだ安静ですよ。師匠が処置はしましたけど、回復するにはまだ時間がかかりますから」
「え、ええ…分かったわ」
咲夜が思った通り、まだ充分に体を動かせる事は出来ない。鈴仙の言う通りにおとなしくしておいた方が良さそうだ。
「参ったわ…午後にはお嬢様に紅茶を入れるつもりだったのに」
「あはは。いまはそれを考えなくてもいいんじゃないですか?自分の体の方が大切ですよ」
こんな状態でも仕事について考えている咲夜を見て鈴仙は苦笑して返した。大怪我をした状態なら仕事の事を考えずにユックリしていた方が良い。そうでないとあまり体が休めないのだ。
「ここにいましたか咲夜さん」
病室に誰かが入ってきた。それは紅魔館に住んでいる者でも永遠亭に住んでいる者でもない。
各地に新聞を配っている射命丸文だった。
「まいど、清く正しい射命丸です。どうぞ、こちら新聞ですよ」
「…なんでここにまで来て新聞を配っているのかしら」
「紅魔館に行ったけど咲夜さんが永遠亭に行った事を告げられまして。漸くここまでたどり着きましたよ」
紅魔館にいなかったからここまで来たと文は言っている。咲夜は『文々。新聞』を読んでくれている人であり、文としてはなんとしても新聞を送りたかったみたいだ。
「あ、鈴仙さんもどうぞ。他の方々の分もありますので渡しておいて下さいね」
「…一人一枚なの?」
一緒にいた鈴仙にも新聞を渡す。文は一枚ずつ新聞を配るつもりのようだ。一つの家に一枚あれば十分のように思えるのだが、文はそうしないと気が済まないみたいである。
「…『多くの天狗が殺害された』か…結構大変な事になっているじゃない…」
「ええ、大天狗も頭を抱えてましたよ。まさか一気に数人もバラバラにされるなんて」
新聞に書かれているのは、数秒前に起こった事件の事だった。ドベルによって天狗たちの体がバラバラになった時の話である。その写真は流石に載っては無かったが、その様子を記述している文章がやけにリアルだった。
「…あら?これってあの時の…」
「気づきましたか?その記事は咲夜さんが関わった事件の事を書いていますよ。その戦いを見ていた私も怖がらずにいられませんでした」
「…見ていた『だけ』なのね」
そして下の方には咲夜が関わった事件…つまり、スラックに関する話が載っている。文はその戦いを見ていたようだった。鈴仙の言う通り、見ていただけで助けたりはしなかったみたいだが…
「あの男を追い払ったのね…一体誰が…」
咲夜はその記事を読み進めていく。あのスラックを追い払った人物は一体誰なのかを見るために。
そして咲夜はひとりの男の名前で立ち止まった。
「…豺弍さん?いままで聞いた事がない名前だけど…」
鈴仙も同じところを見ていたのだろう。全く聞き覚えのない名前に少し困惑していた。そんな彼女に向かって文が説明を始める。
「どうやら戦力として新しく入れた人物らしいです。何やら四季映姫さんの判断らしいですけど…」
「ふーん…まぁ戦力は多いに越したことはありませんよね、咲夜さん…」
鈴仙は咲夜の方を見る。戦える人が増えた事に関して話をするつもりだった。
しかし鈴仙は異変に気がついた。
「…あれ?咲夜さん…どうしたんですか…?」
鈴仙が話しかけても、咲夜はその新聞を見ているままだ。まるで鈴仙の声が聞こえていないようだった。
いつもの彼女ならそんな事はありえない。仕事は完璧にこなす彼女は会話も得意だ。話しかけられたらそれを聞くと言うことぐらいは当たり前にできる。
しかしいまの彼女はそれができなかった。その理由は、文から貰った新聞紙にあった。
「嘘…この男……」
驚いている様子が明らかになっている。彼女は新聞に書かれている1人の男を見ていた。
「……さ、い……じ………?」
◇
ロードの周りに弾幕で作られた狼が現れる。その狼の正体は先ほどまでロードの戦いを見ていたためその場の全員は知っていた。その狼は噛み付いた瞬間に爆発する。早い話巻き込まれないためにはそれらに捕まらない事である。
黎人は『火』の形態で狼たちを倒していく。弾幕で作られた狼は強力な威力を持つ弾幕や技で霧散させる事が出来るのだ。
霊夢や妖夢は弾幕をぶつけて狼を霧散している。そのぐらいは難なくできる。だが狼の数が多い。これでは一向にロードに近づく事が出来ない。
(なら…)
この状況を打破しようと妖夢が動いた。狼を一閃しつつ俊足でロードの前に飛び出る。
彼女は一気に勝負を決めようとした。彼女の刀でロードの体を貫こうとする。
だが貫こうとした瞬間、ロードの姿が消えた。
「なっ……!どこに…!?」
周りを見渡して、消えたロードの姿を探す。それをしても見つけられなかった。
だが、異変は起こった。
「……ッ!!なっ…」
突然の悪寒、目眩、そして疲労を一気に感じる。さっきまでロードと戦っている時は全く感じなかった。それがどうして突然感じる事になるのだろうか。妖夢はそれを考える事が出来なかった。
「失せろ。小娘の面倒を見るほど我の心は広くない」
一瞬で妖夢は意識を失った。グラリ、と体が傾いて倒れる。まさかの一撃も食らうことなく妖夢はロードに敗北したのだ。
「…!妖夢…ッ!?」
「……一体、何をしたんだ!?」
妖夢が倒れた事に霊夢と黎人は驚いていた。ロードが妖夢の攻撃を避けたら妖夢が倒れたように見えたからだ。原因が全く分からない事態に彼女たちは困惑している。
そんな中1人の男はその正体に気づいていた。
「…威嚇、と言うやつかい?人を気絶させるものなんて聞いた事が無いけど」
「それはキサマの世界が狭いだけだ。猛獣は威嚇で他の獣を追い払うという。今の能力はそれの応用と言うものだ」
ロードは妖夢に威嚇したのだ。それを受けて妖夢は気絶したと言う事なのだ。豺弍の言う通りそれで気絶させられると言うのは考えにくいが、ロードが獲物を食った事でそのレベルの威嚇が出来るようになっているようである。
「…そんなもの、私には効かないわよ!」
「フン、それだけが俺の武器ではねぇよ」
霊夢の言葉を聞き流してロードはまた新たな能力を使う。
ロードの体が段々と変化していく。もともと人間の体だった姿が変化していき、なんとも言えない姿になっていった。背中からは大きな翼が、体の表面は鱗が現れる。足は豹のような細長い足になっており、手は大きな獣の爪に変わっている。様々な獣の合成体と言う方が良いかもしれない。
その姿を茫然と見ていると、霊夢の目の前にロードの姿が現れる。さっきまであった距離は一瞬で縮んでいた。霊夢が即座に反応できるはずもなく、ロードの攻撃を躱すことはできなかった。
ロードの攻撃を受け、霊夢は体制が崩れそうになる。それに容赦をするような事は無かった。ロードは体制が崩れている霊夢に追い打ちをかける。迫ってくる爪の攻撃は避けきれそうにない。
《ガキィィィン!!》
霊夢を斬り裂こうとした爪は、小さな刀によって防がれた。ロードの爪を防いだ赤い刀は、その持ち主が誰かを示している。
「黎人…!」
何とかギリギリでロードの攻撃を防いだ黎人は必死にロードの攻撃を押さえている。その時彼の左手には真っ赤な槍があった。
「熱線ロッド!!」
炎の槍をロードに向けて投げ飛ばす。その攻撃が飛んでくる事が読めたロードは距離を開けて槍から逃れる。標的を失った槍はそのまま遠くに飛んでいった。
「…斐川黎人、だな。主が1番警戒している人物がキサマか」
「…だったらなんだ」
「感心している。我が言えた事ではないが、主は我以上に他人に興味がない男でな。その主が警戒をしていると言えば興味を持たないわけもなかろう」
黎人と向かい合いながらロードは語っている。黎人はその内容に違和感を抱いていた。敵意こそ抱かれた事はあるものの、警戒されているとは思ってなかったからである。
ロードは魏音が黎人を警戒している事を知っていた。魏音は黎人に始めて会った時からある予測を立てていた。その予測はロードも感じているものだった。
普通なら何を感じてもそれっきりで無視をするような男だった。だが魏音は未だに黎人を警戒している。その様子を見てロードは黎人に興味を持つようになった。
「……そうかよ。けどそんな事言われたところで何も感じねぇけど、な!!」
黎人がロードに近づこうとする。一気に攻撃を仕掛けようとしているのだろう。『火』の形態は短期間で勝負に決着をつけないといけないからだ。
ロードの目の前に近づく。そこまで来れば攻撃が当たるか、最低でも攻撃を防がせる事が出来る。至近距離まで近づけば黎人が有利な状態に持ち込める事が出来た。
「…焦るな、愚か者!」
ロードが大声を出す。他に何かしている様子はない。
「…ッ!?な…んだ、こりゃ…!!」
だが突然、ロードに突っ込んでいた黎人の様子がおかしくなった。突撃の勢いがなくなり、そのまま地面に倒れる。そのまま黎人は苦しんでいるようだった。
「…!?どうしたの、れい…」
突然様子が変わった黎人を心配して霊夢が声をかけようとするが、彼女にも異変が訪れた。高音の甲高い音が耳に聞こえる。黒板を爪で引っ掻いているような不愉快な音が耳の中で木霊していた。
「…ッ!?うっ…これ、て……」
超音波。音には『高さ』と言うものがあり生き物は『心地いいと感じる高さ』と『不愉快に感じる高さ』がある。ある生き物はこれを用いて敵を追い払ったりする。
ロードは特定の人物に『不愉快に感じる音』を感じさせる力を持っていた。超音波を出す能力を持った妖怪を食らう事で手に入れた能力である。これによりロードは手を出すこともなく敵を苦しめる事が出来るのだ。
「…フン、そのまま意識を失うが良い。言っておくが耳を塞いだところで遮断する事は出来んぞ。何しろ脳に直接『その音が聞こえる』事を感じさせているのだからな」
超音波に苦しんでいる黎人と霊夢、どうしようとその音を消す事は出来ずにいた。やがて意識を失いそうになる。
だが、その攻撃を受けなかった者が1人いた。
「ふっ!!」
「…!?なに……ッ!!?」
その場にいたもう1人の男、豺弍がロードに向かって攻撃を仕掛ける。気づくのに遅れたロードはその刀に触れ、表皮に傷がついた。
「チッ…!」
ロードは豺弍に『超音波を聞こえさせる程度の能力』を発動する。その攻撃はたしかに豺弍に届いた。
これで黎人や霊夢と同じように超音波にかかって様子が変わる。攻撃を受けた豺弍は顔を上に向けて暫く動けない。動きを封じたとロードは感じた。
「…悪いね。
「…なに!!」
だがそうならなかった事を豺弍の口から告げられる。想定と違う展開に戸惑っているロードの肩を豺弍が触れた。するとロードの翼や爪などの変化が解けて、人間の姿に戻る。
「うっ…」
「……止まった…!?」
超音波に苦しんでいた黎人と霊夢はその苦しみから解放された。彼らに聞こえていた超音波が途切れたためである。
「……なぜだ?」
ロードは疑問を持った。なぜ豺弍に聞こえなかったのか。なぜ豺弍に触れられた瞬間、全ての能力が解除されたのか。その理由が分からないでいた。
「僕は小さい頃から、『干渉する能力』は効かなかった。時を止めたり心を読まれたりする力も僕には効かない。僕は生まれつきそういう能力を持っていた。
僕は『他人の能力を解析して分解する程度の能力』を持っている。干渉してくるような能力は自動的に効果がなくなるし、相手に触れれば発動していた能力は一瞬で解ける」
その理由は、豺弍の口から出た。
彼の能力は敵の能力を解除する事が出来る。あらゆる能力で不利な状況になったとしてもそれをリセットする事が出来る。
それはかなり有益な力だ。能力や弾幕で戦う幻想郷では、能力を封じられる事は尤もやり辛い事である。
彼の強さは、そういうところにあった。
「……フン、そういうことか。能力を分解するとはかなり厄介な能力だ。
だがそれがどうした。能力が使えないなら身体能力で競えば良いもの。少なくともお前がそれで俺に勝っているはずがない」
ロードの言っている事は正しい。
一般人よりは高いが、豺弍の身体能力はまだ平凡の類だ。戦闘の経験が浅い刃燗よりも下である。そんな男がロードに勝てる筈がない。
「…魏音くん、じゃなかったロードくんだったね。良いことを教えてあげるよ」
だが豺弍はそんなマイナス面は痛くも痒くも無かった。
「殴ったり蹴ったりする事だけが戦いじゃないんだよ」
腕を組んで得意げな顔で話した。その様子は豺弍の癖なのだとロードは思った。
「だったら見せてみるが良い。お前の戦い方を」
ロードが豺弍に近づく。爪が変形されておりそれで貫くつもりだ。触れれば解除されるという事は、逆に言えば触れなければ分解される事は無いという事だ。
豺弍の目の前に迫った。ここまで来れば後は豺弍を切り裂くのみである。ロードはその爪を豺弍に向かって伸ばした。
《ガキィィィン!!》
「つぅ…っ!」
「…!斐川黎人…!!」
ロードの攻撃は防がれた。豺弍の目の前に『土』の形態になった黎人が現れたからである。『土』の防御力ならばロードの攻撃を防ぐ事は出来る。それでも痛くはあるみたいだ。
「…うお…りゃああ!」
持っている大きな棍を振り回す。攻撃を避けるためにロードは距離を開けた。
離れた状態で2人と向かい合っている。ロードは動こうとしない。下手な攻撃をすれば防がれると分かっているからだ。
「………それがキサマのいう戦い方か。他人に頼るという…弱い者がやる戦い方が」
思いっきり見下しながら話している。ロードにとって豺弍の戦い方はとても受け入れ難いものだった。
他人の力を借りるという事は、自分一人では出来ないという証拠である。
ロードにとって『一人では何も出来ない』と言うのは弱い者の理論だ。強き者は自分の力で道を切り開いていくもの。それが出来ないのは愚かな証拠だ。
だからロードにとって豺弍の戦い方は到底認められない戦い方だった。
「ロードくん。忠告するより先に、自分の周りをよく見た方が良いよ」
軽蔑しているロードに豺弍は言った。自分の周りを見ろと。
その言葉を聞いて自分の周りを見たロード。それで彼は気づいた。
いま大量の札が自分の周りを囲んでいる事を。
「……!これは…」
その正体に気づいたロード。それは博麗の巫女である霊夢が最も得意とする弾幕『夢想封印』だった。
札が自分に向かって迫る。多くの妖怪たちはその弾幕に太刀打ちすることが出来ない。その攻撃をモロに受けることしか出来ないのだ。
「…フン、この程度で!!」
だがロードはそうは行かなかった。背中に生えた大きな翼で周りの札を落とす。強力な風は札を落とすのに充分すぎる威力だった。
「この不意打ちで俺を倒すつもりか!つくづく甘い奴だな!新田豺弍!!」
勢いよく豺弍に近づこうとするロード。彼は一気に勝負を仕掛けようとしていた。これ以上つまらない作戦には付き合いきれない。サッサと終わらせてやる。その想いが前面に出ていた。
「言ったよね。もっと周りを見ろって」
ロードは気づいた。
豺弍は何かを持っている。
そしてそれが豺弍の本当の狙いであると。
「……!しまっ…!」
慌てて止まろうとしていたがもう遅い。彼の勢いは彼自身も止める事が出来なかった。
豺弍は右手に持っている銃でロードを狙い撃つ。その距離では外しようがない。弾丸は間違いなくロードの体を捕らえた。
「ぐ…!うおおおおお!!?」
悶え苦しむロード。彼は地面に倒れて大声を出していた。
彼は自分の体に違和感を感じた。いまくらったのは1発の弾丸。それだけでここまで激痛を感じる事は無かった。
だがいま彼は狙撃された腹ではなく、身体全体…もっといえば全神経に異変がある。全ての感覚が『痛い』と叫んでいるようだった。
「き…サマ……何をした!!」
豺弍に問い詰める。一体何をしたのかと。ここまで必死になっているロードを見た者はいない。
その姿に動じずに豺弍は答えた。
「特製の弾丸。いま僕が君を撃つ時に使ったのはそれだよ。これを身体に埋め込めば体が痛みを感じやすくなる。まぁ麻酔の真逆の存在だよ。
名前は『魔酔弾』。多分世界の中でも僕だけが持っているものだ」
いかなる男でも激痛に苦しむ弾丸。豺弍が使っていたのはそれである。
たとえロードであってもその弾丸の前には無力だった。
「…さっき言ったよね。殴ったり蹴ったりするだけが戦いじゃないって。その答えがこれだよ」
豺弍は説明をはじめた。未だに苦しんでいるロードに自分の言った言葉の本当の意味を。
「戦いと言うのは色々な要素がある。道具だったり、作戦だったり、それこそ駆け引きだったり。
僕は1つの力に拘らない。力で劣っているなら道具で。道具で劣っているなら技術で。技術で劣っているなら策略で。策略で劣っているなら駆け引きで。あらゆる戦い方を駆使する。それが、新田豺弍の戦い方だよ」
戦い方は沢山ある。1つの力に拘るのも強さ。色々な力を身につけるのも強さだ。
新田豺弍は沢山の戦い方を身につけることに拘っている。好奇心旺盛な彼は様々な戦い方を見て吸収していく。そうして彼はどんな状態であったとしても戦える力を身につけた。例え戦力で圧倒的に劣っていたとしても、別の力でその差を埋める事が出来る。それこそが戦いで生き残る彼なりの術だった。
「…なるほど。キサマはそれなりに強い人物であるという事だな。
だがこの程度で終わるわけがない」
ロードが立ち上がった。その目は決して折れていない。今ので負ける事はなかった。
豺弍もそんな感じがした。数回しか会った事がないものの、ロードの精神力は尋常じゃないものを感じる。
「……我は倒れはしない。我の領域に踏み入った無礼な輩を滅ぼすまでは」
ロードが襲いかかろうとしている。容赦なく目の前の敵を殺すつもりだろう。
黎人や霊夢、そして豺弍はロードの攻撃に備えた。ロードの襲撃を防ぐために。
【設定弱体化。魏音の幻獣化を解除】
その空気は一瞬で変わった。
さっきまでの雰囲気と打って変わり、神々しさは無くなる。今のロードの体はロードでないものになっていた。
「え…?」
「……っ!?」
突然の事で困惑している面々、この状況で全てを察する事は出来ないだろう。割と色んな事に気づく豺弍も結構戸惑っていた。
「…もう大丈夫です。彼は魏音さんに戻りました」
戸惑っている面々に声がかけられる。その声は古明地さとりだった。
そしてさとりの隣に1人立っていた。背が低く、女性と思ってしまう容姿をしている。その姿は今までに見た事がなかった。
「さとり、ソイツは……?」
その人物は一体誰なのか、霊夢がさとりに尋ねた。
「こちらの方はシャガル ヴェルヘット。この地霊殿に最近住みはじめたお方で…神の三児の1人です」
「………!?」
「か、神の三児って……!?」
霊夢と黎人がさとりの言葉に驚いている。そのフレーズの意味が彼らにとってかなり大きな物だったから。
女性に思えるその男は、神の三児と言われた男たちの三男に当たるもの。
『世界の調律師』シャガル ヴェルヘット
彼はあらゆるもののバランスを取る男である。
3人目の神の三児です。果たしてなんでそんな人物が地霊殿にいるのでしょうか。