時は遡る。
シュバルと魏音が対峙し、シュバルの出した交渉が決裂した時の事だ。
腰につけている刀に手を添えるシュバル。もちろん魏音を斬るためだ。シュバルはDWの中で最も優秀な剣の使い手。彼が戦った者は容赦なく斬り捨てられた。目の前の魏音も例外ではない。即刻斬りすてるつもりのようだ。
一方魏音は地面に付いている斬り跡を見ていた。そこから内側は射程範囲であるとシュバルは行っていた。無闇にその中に入るのは危ないとしか思えない。
しかし魏音は容赦なくその内側に踏み込んだ。何もない場所を歩く時みたいに、いつも通りに歩いている。
「…迷い無しか」
迷いのない魏音の行動に若干驚いているシュバル、勢いでその中に入る者は見たことがあるが、彼のように堂々と入ってきたのは初めてだ。
もちろんそれでシュバルの行動が変わることはない。今までしてきたように魏音を斬り刻もうとしていた。彼の剣は普通の剣ではない。初見では躱す事は出来ない。
魏音は顔を横にずらした。もし第三者がいたとして彼の行動を見たとしたら、彼が一体何をしたかが全く分からないだろう。
それはシュバルの攻撃を躱す行動だった。
「…見抜いたのか」
シュバルは悟った。魏音はシュバルの能力を見抜いていると。堂々と内側に入った時からその可能性は感じていたが、いまの動きでそれが間違いないと確信がついた。
「もし斬撃を飛ばしたと仮定すれば、あの死体と地面の跡は辻褄が合わない。更に刀は納めているはずなのに鉄と血の匂いがする。これでおおよそは予測がつく」
死体とはシュバルが先ほど斬りきざんだ妖怪の事である。斬られたのは明らかではあるが、おかしいのはその傷である。斬られたなら真っ二つにならないと行けないはずなのだが、妖怪たちには小さい空洞が出来ているだけであり、斬られたというよりも貫かれたに近い。
地面に付いた跡も彼には変であるとしか思えなかった。真上から見て斬られた跡がハッキリと見える。刀を縦にして斬り込みを入れればその跡が残るが、シュバルが斬撃を飛ばしたとすれば地面には斜めに入るはずであり、跡は斜めに入る筈である。
そして匂いに敏感である魏音は、彼の隣の空間から血の匂いを感じた。そこから血の匂いがするのは明らかにおかしい。血が空中に浮かぶ筈がないのだ。血が付いているものが空中にあるなら話は別なのだが。
この事から、魏音はシュバルの能力を見抜いていた。
「飛ばしていたのは斬撃ではなく刀。射程範囲とは、刀を振り回す範囲の事だ」
斬撃ではなく刀を飛ばしていた。かなり想像しにくい話である。刀を飛ばすと言うのは普通あり得ないし、何より飛んでいる刀は見えない。
だが魏音の読みは正しかった。
「…見事だ。俺はもう1つの透明な刀を使っている。『空気で刀を作る程度の能力』だ。いつどの時でも、俺は空中に刀を作ることが出来る」
シュバルは能力で空中に刀を作っていた。腰につけている刀を見て斬撃を飛ばしているのではないかと思いがちだが決して何の関係もない。
魏音はその刀についている血の匂いを嗅ぎ取った。付いた血は落としているのだが匂いは流石に消えているわけでは無かった。
「少々侮っていたようだ。まさか匂いだけで見破られるとは思っていなかった」
もちろん空中で作られた刀を作り直せば、染み込んだ血の匂いは無くなる。見破られる可能性も低くなるし、見破られたとしても透明な刀を匂い以外で位置を探られる事は出来ない。この戦いに勝つためにはそれが有効な手段であると言える。
しかしシュバルはその手段を使わない。その理由は彼のポリシーである。それは『刀を何回も作り変えない』と言う事だ。
刀を変えることに抵抗がある彼は、刀が壊れない限りそれを使い続ける。例え切れ味が物凄く悪くなったとしても作り変える事はない。
勝つための手段を選ぶより、筋を通して勝つことの戦果を取る。それが彼の1番の欠点である。
もしそのポリシーに拘らなければ、もっと楽にこなせた機会があった。拘り過ぎているあまり、しなくて良い苦労をし続けている。周りからすると気の毒でしかない。
だが彼の仲間はそれに文句をつけない。なぜならそれでシュバルは勝てるからだ。
「…今度は全力で行く。手加減はしない」
シュバルは刀を構えた。彼が言った通り全力で戦うつもりのようだ。
互いに立ち向かっている状態、どっちかが動き始めたらもう1つの方も動き始めるだろう。つまりこの2人は衝突する以外の未来は無いのだ。
この2人ではない別の誰かが入ってくるまでは。
「あ、人がいた!」
シュバルでも魏音でもない、気の抜けた声が聞こえる。その声がした方を見ると、思った通り別の人間がいた。魏音やシュバルとは全く違う、かなり楽観的な男だった。
それは先ほどまで黎人と一緒に行動していた豺弍だった。
「…誰だキサマ」
「いきなり睨まれたんだけど…もしかして魏音くんかい?」
「………」
「無視!!?」
魏音に話しかけるも無視されている豺弍、思ってもない展開だったようでかなり悲しそうにしている。だが魏音に愛想よく話しかけると言うのは無理難題と言うものだった。
「ねぇ、なんか話してよ」
「…めんどくさい。消えろ」
「やっぱりヒドい!」
何を言っても良いように話してくれない。豺弍は物凄い涙目だ。黎人から愛想笑いとは言われたが、まさかここまで酷いとは思ってなかったのである。
「……新手か。なら…」
シュバルが手を上に伸ばした。それは何かの合図のようなものだった。
上級幹部にはとある権利が与えられている。彼らの長であるダイガンに最大の攻撃を出してもらう合図だ。どこに向けて出す必要もない。ただ左手を上げればその合図になるのだ。
「……ッ!?」
「…なんだ…?」
異変に気づいた豺弍と魏音、同時に上空を見る。なんの変哲も無い空のような天井を見る。彼らは地下にいるのだから本当の空が見れるはずもないし、何よりそれが妙な何かに見える事は絶対にありえない。
もちろん特に異常はない。まさに晴天というものだ。
だが彼らが警戒していた通り、異常は突然起こった。
空から真っ白な光が近づいていく。それは雷と言うものだった。あっという間に彼らの元にたどり着いた雷は轟音と共に辺り一面を真っ黒に燃やし尽くした。
◇
そして現在、雷に打たれた2人はそれぞれ別の行動に移っていた。豺弍はシュバルの目の前に現れ、魏音は瓦礫の下にいる。雷と共に崩れ去った瓦礫に巻き込まれてしまった。偶然にも組み立てられている瓦礫の隙間に入ったため怪我はしていない。
魏音は寝転がったままそこから動かない。別に動く必要なしと捉えたのだ。彼は無駄に体力を消費したくない男だ。これでシュバルが死んだと思い込んだなら寧ろ都合が良い。豺弍とシュバルが戦っている間このままやり過ごそうとしていた。
『良いのか主よ。このままでは舐められるぞ』
その時魏音に何者かが話しかけた。もちろん瓦礫の下には魏音以外はいない。
その声は魏音にしか聞こえない、特殊な存在である。
「…どうでも良い。舐められようが構わん」
『まぁ、主は気にしないのだろうな』
『それ』は分かっている。魏音は何も拘らない。プライドも欲望も無く、ただ生き延びる事のみ考える人間なのだ。ひょっとすると半端な妖怪よりも人間とは程遠い存在と言えるかもしれない。
だから動こうとはしない。シュバルや豺弍が何をしようとしても魏音には関係のない事だ。魏音には動く理由は全く無かった。
『しかし我は放ってはおけん。我のナワバリに土足で上がり、好き放題している奴らを見てるとムシャクシャする』
しかし『それ』は魏音とは別である。何しろ縄張りというものに強く拘っているのだ。自分の領域に入った上で戦闘を繰り広げている2人に憎しみを抱いていた。
『主が動かないと言うのならば、我が動く。その上で尋ねるぞ、我が主よ。それでも主は動く気は無いと申すか』
再び問いかける。これが最後の確認というものである。その答えによって『ソレ』の動きが決められる。
やがて魏音が『それ』に向かって答えを言った。
◇
「…名前は新田 豺弍と言ったか。スラックが負けたと言う人物はお前のことみたいだな」
シュバルは豺弍のことを知っていた。もちろん知らないはずが無い。一度幻想郷に入ったスラックが敗れた人物なのだから。
(てっきり魏音くんとやらを勧誘しに来たと思っていたけど…失敗したのかな?でも…)
豺弍はしばらく悩んでいる。シュバルたちの目的が一体何なのか。それを考え続けていた。
最初は魏音を勧誘するためかと思っていた。自分たちもそのつもりで来たのだから別におかしくない。
しかしもし勧誘するなら、連れてきた人数が多すぎる。DWは世界を滅ぼす者。つまり幻想郷にとっては敵の存在なのだ。それが大勢で堂々と幻想郷の中を移動すれば周りに警戒されてしまう。
それが不思議でしょうがなかった。豺弍は敵がおかしな行動をしていると思ったからである。
そもそもの違和感はドベルと黎人が対面した時から始まった。目的地が一緒である敵よ足止めをすると言うのは何もおかしい事では無い。寧ろそうして当たり前の戦略であると言っても良い。
しかしそれにしては足止めの時間が短すぎると思っていた。足止めをするなら普通は本命の作戦が終了するまでやる事が多い。だがドベルはアッサリと負けた。
そこまで足止めが出来るほど強くなかった…というのは考えられなかった。天狗たちをバラバラにした男がそこまで弱いとは思えなかった。
そもそも足止めをするならドベルは適切ではない。解体することに快感を感じる男に守備は向いていない。むしろ攻撃向きである。少なくともドベル以外に適切な人材はいたはずなのだ。
DWという組織がそこまで考えられない程度の集団とも思えない。つまり敵は敢えてドベルを守備に回したと言うことになる。
そこから豺弍は1つの仮定を導いた。逆に早く自分たちと魏音が接触するのが目的ではないかと。
この仮定を立ててから、豺弍は1人で動き始めた。黎人たちがジンと戦っている間に自分だけが魏音と接していたら何か分かるのではないかと判断したためである。
だが魏音とシュバルの間で何か取引があった様子も無ければ、魏音に何か変化がある様子もない。豺弍は余計に訳が分からなくなっていた。
「何に悩んでいるかは知らんが、戦いは既に始まっているぞ」
シュバルの声を聞いて我にかえる。どういう状態であれシュバルは豺弍の敵である。対峙している以上は互いに殺し合いをする関係だ。決して気を抜いてはいけない。さもなければ一瞬で殺されてしまうだろう。
気を引き締めた瞬間に、シュバルが豺弍に近づく。腰につけている刀は今も抜いてないし、抜こうとしている様子もない。その刀を使うつもりは無いのかと思ってしまう。
しかし豺弍は危険を察知し、屈みながら横に移動する。近づいているシュバルを横に避けている行動になる。
「……っ」
シュバルの顔が一瞬だけ歪んだ。何しろ二回連続で攻撃を避けられたのだから。
豺弍の勘は正しい。もし屈んでなかったら首が真っ二つになっていた。シュバルの見えない刀が豺弍の首を斬り落とそうとしていたのだから。
再び2人の間に大きな間合いが出来る。豺弍はシュバルに迂闊に近づけない事を察知しているため、シュバルが距離を詰めようとしても豺弍が空けるのだ。
「…何が目的なの?さっきから君たちのやっている事が不可解すぎる」
豺弍は問いかけた。シュバルたちが何のためにここに来たのかと。
当然答えは返ってこない。目的を聞かれてペラペラと喋るなんてバカな事はしない。シュバルのように任務を遂行することに徹底していれば尚更そうだ。
やはり力ずくで聞き出すしか無いのか。豺弍がそう思った瞬間だった。
《ドゴォォォォン!!!》
大きな爆音が響き渡る。シュバルに向けていた警戒心が一気に消し去られ、反射的にその音源の方を見る。
そこには瓦礫が積み重ねられていたところだ。しかし青い光が溢れ出ており、積み重なっていた瓦礫が見えなくなっている。
「…これは……」
豺弍はひとつだけ思い当たる節があった。先ほどまで豺弍はとある男と一緒にいた。だが先ほどまでその男の姿はない。どこかに身を隠していたのだろう。そしてその場所は、先ほどまで積み重なっていた瓦礫の山であると考えられる。
つまりこの光は…
《……ウオオオン》
「えっ……?」
豺弍が驚くのも無理ない。いまのタイミングで狼の鳴き声が聞こえてくるはずが無い。だがいま聞こえたのは間違いなく狼の声だ。
やがて青い光から小さな光が飛び出てくる。爆発した花火の火種が飛び散るようにそれは周りの地面に落下した。
その後落下した光は形を変える。
青く輝きながらそれはあるものを形作っている。それは先ほどの鳴き声の通り、狼であった。
「な、なんで狼が…次から次に」
次から次に現れる光の狼。本物の肉体では無いものの、姿は完璧にその姿になっている。
狼が現れれば現れるほど、中央で燃え上がっているように輝いている青い光は小さくなっている。天井までの大きさだったそれは、もうすでに人を包み込める程度の大きさになっていた。
やがて中から1人の男が現れた。
「…ッ。魏音、くん…?」
それは豺弍の思っていた通り魏音だった。他の人である可能性もあったが、1番可能性があったのは魏音だった。
だが豺弍にとってひとつだけ予想外である事がある。その姿は間違いなく魏音ではあるが、雰囲気がまるで違う。特に気になったのは目の色だ。もともと黒い彼の目は、いまやかなり青くなっている。
ひょっとしたら違う人物では無いのかと豺弍は思った。しかし見た目は魏音と一緒である。彼の正体が気になり始めていた。
「行け」
魏音の口から指示が与えられた。命令しているのは、彼の周りにいる青い狼である。狼は指示された瞬間、シュバルと豺弍に向かって襲いかかった。
「え……!?」
「………」
攻撃されそうになり、豺弍は一瞬だけ反応が遅れた。そのため近づいてくる狼の攻撃を避けれなかった。
狼に腕を噛まれる。熱は感じはするが鋭い痛みは感じない。本物の歯では無いのだろう。
すると狼の様子が変わる。青かった体が真っ白になり始めた。
「…っ!まさか……ッ!」
《ドォォォン!!》
豺弍が予測した通り、爆発が起きた。
規模としては爆竹ぐらい。爆弾ほど大きくはないが決して小さくない。
「うっ…もしかして、この狼は弾幕…!?」
「どうやらそのようだな」
戸惑っている豺弍の隣では、シュバルが刀で狼たちを斬り裂いていた。先ほどまで抜いていなかった刀を使って真っ二つに斬り裂いていく。その剣技は凄まじいと言えるものだった。
「斬弾刀…弾幕を斬る刀で斬り裂けると言う事は、この狼は弾幕という事だ。貴様の被弾の様子からすると、敵に噛み付いて爆発に巻き込むタイプのようだ」
次から次に狼たちを斬り裂いていくシュバル、その狼の正体も冷静に分析していた。割と観察力が高い男のようである。
「これが貴様の能力…いや、貴様の能力によって得られた技の1つか。『孤高』の【
あらゆる生物の中でもトップに位置する生物。だがそれは実在するわけではなく、その生き方に最も近い人間の中に住むという存在だ。たくさんいるわけではなくたった3体しかいない。
そして彼らはそれらの生き方に由来している課せられた名前がある。
一体は支配
一体は孤高
一体は残虐
それは彼らの生き方であり存在であり戦い方でもある。
そして魏音の体を借りている生物はその中の一体、孤高の存在であった。
「…よく気づいたな。我々のことについて詳しいようだ」
『それ』はシュバルの言うことを認めた。自分は魏音とは別の存在であると。豺弍は少し困惑しており、シュバルは表情を変えずに魏音を見ていた。
「その通り。俺の名前はロード。葉原 魏音の体に住み着いている。
与えられた俗称は孤高。独りで頂点へと上り詰めた存在だ」
ロードは胸に手を置きながら話している。魏音だったらあまりしない行為だ。それなりに立ち振る舞い方を心得ている証拠である。
「じゃあ…この狼が君の能力…!?」
「そうだ。…いや、もともとは、はぐれ妖怪の能力だったか」
「もともと…?」
「『食らった相手を己の糧とする程度の能力』。それが俺の能力だ。肉体を変化させることも、能力を使うことも可能。獲物を食えば食うほど強くなる仕組みだ」
食うことで魏音やロードは力をつけてきた。異常な嗅覚を持つ鼻も、爪も、鱗も、翼も、怪物や妖怪を食うことで手に入れた能力である。
さきほど、独りで頂点へと上り詰めた存在、とロードは言った。それは誰にでも出来ることではない。むしろそれは出来っこない事である。独りでやる事には限界がある。それだけで上り詰めることは出来ない。
それが出来るのはその能力だ。一人で何体もの生物の能力や力を身につける事が可能になる。言い換えれば、魏音は数多の生物が合成された存在だ。
「これが俺の全力だ。もう容赦はしない。貴様らを全員、俺の手で殺してやる」
ロードは完全にその場の全員を殺すつもりだ。自分と戦うつもりがなかろうと関係ない。自分のナワバリで好き放題されている事がロードにとって何よりも許しがたい事なのだ。
「…任務完了」
その声を聞いて豺弍は驚いた。シュバルが突然任務が終わったと言うのだから。いまのこの状況を見れば、彼の計画が進んだようには到底思えない。
だが気づいた時にはシュバルはその場から消えた。本当にもうここには用がないらしい。本当に彼の任務が終わったという事なのだろう。
そしていまこの場には豺弍とロードしかいない。そしてロードは豺弍を殺そうとしている。
「ちょっと待って。魏音…じゃなくってロード。僕は君と戦うつもりは…」
戦うつもりはないと言おうとするが、ロードは豺弍の話を聞く様子がない。完全に殺すつもりで豺弍を見ていた。
周りにいた狼は豺弍に飛び込んでくる。先ほどのように爆発を起こすつもりなのだ。
「ぐッ…!」
弾幕を放って相殺する。狼たちは破裂してその場から消えた。
(もしかして……)
この魏音の姿を見て豺弍は察した。シュバルたちの本当の目的を。
魏音を勧誘するのが目的であるはずなのに集団で来たのか。自分たちを妨害するために置かれた兵士たちが簡単に突破されたのはなぜか。そして交渉が決裂したにもかかわらず魏音と戦っていたのはなぜか。
その答えは1つ。自分たちと目の前にいるロードを接触させるため。
魏音の性格は黎人から聞かされていた。他人と協力することは絶対にしない男であると。その上で豺弍は魏音を勧誘しようとしていたのだ。
だが敵の方は味方に引き入れられるとは最初から考えてはいない。決裂する未来も分かっていたようだ。
しかし味方にはならなくても、利用することは出来る。
その方法が、ロードという
激しく怒った状態のロードと自分たちを接触させることで相打ちさせる。それが彼らの本当の狙いだった。
「消えろ…!」
翼を背中から出して羽ばたかせる。すると突風が豺弍に迫ってくる。
考え事をしていて反応が出来なかった豺弍、このまま当たってしまうと思い始めた時だった。
風が突然何かにぶつかる。それは先ほどまで豺弍の前になかった札のような物だった。
「これは…霊夢ちゃんが持っていた札…!?」
豺弍はそれに見覚えがあった。それは霊夢が持っていた札と同じ模様だった。彼女が持っている物よりもかなり大きいそれは、攻撃を防ぐ結界のような物だった。
「どうやら…邪魔ものが他にもいるようだな…」
ロードが横を見る。彼の視線を追うとそこには3人の姿があった。1人は結界を張っている霊夢。2人目は白玉楼の剣士妖夢。
そしてもう1人は黎人だった。
黎人はすぐに豺弍の隣に来る。ロードの正面に立つためだ。
「やっぱりお前とは協力できないみたいだ。お前が仲間になったら裏切られるかもしれないと思ってしまう」
黎人はこうなる予感はしていた。魏音の性格を知っている黎人は敵対してしまう可能性がある事を知っていた。
だから彼は急いでここに現れた。魏音が豺弍を殺すのを止めるために。
「豺弍。コイツの協力を得ようとしたお前には悪いけど…やっぱコイツとは戦わないといけないみたいだ」
豺弍は戸惑っていた。あまり無駄な戦いはしないで欲しいと思っている。自分たちの敵はあくまでDWの連中で、魏音ではない。彼との戦いは出来る限り避けたかった。
しかしそれは出来ない。この戦いは避けて通れない。彼はその予感がした。ここを逃げたら前に進まないと。
「…分かった。こうなった以上僕も戦うよ。今回の提案者だし」
豺弍は手袋を取り出した。その手袋をするのが彼にとっての戦闘準備よようなものだった。
「ふん。面白い…かかってこい。全員まとめて捻り潰してやる」
魏音の体を借りているロード、彼との戦いがいま始まった。
次回はロード戦になります。果たしてロードを倒すことは出来るのでしょうか。