東方羅戦録〜世界を失った男が思うのは〜   作:黒尾の狼牙

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前回のあらすじ

シュバルが魏音に手を組めと言った。


109 魏音の答え

話が見えない。

 

 

 

 

魏音が最初に思ったのはそれだ。突然目の前に現れ、手を組めと言われても困る。何が目的で魏音の力を借りようとしているのか、全く分からない魏音はシュバルを警戒していた。

 

 

 

 

 

「…何が目的だ」

 

 

ストレートに、いま自分が思った事を言った。少し威圧しているような話し方は相手が怒る可能性もあるのだが、魏音にとってはどうでもいい事だった。

 

 

 

 

 

「味方は多いに越した事はない」

 

 

シュバルも端的に話している。ダラダラと喋る事を好まない彼は要件だけを話す事がクセになっていた。

 

 

 

 

「…俺がそんな誘いを受けるとでも?」

 

 

もちろん思わない。魏音の性格からすれば他人と手を組む事自体を嫌うだろうし、利点がないなら尚更受けないだろう。敵という立場で魏音を観察しているシュバルもそれは分かっていた。

 

 

一歩、魏音が足を前に進めた。早くシュバルを追い返そうとしているのだろう。

 

すると魏音が立っている地面の少し前に、真っ直ぐな斬りこみが入った。

 

 

 

「そこからは俺の射程範囲だ。そこより内側に入るな」

 

 

 

 

魏音をそれ以上近づかせないためにシュバルがその地面を斬ったのだ。その線より前に出れば容赦なく斬る、そういう意図でやったのである。

 

 

足を止めた魏音を見て、シュバルは話を続けた。

 

 

 

 

「ただでとは言わん。協力すれば、身の安全を保障するつもりだ」

 

 

 

 

 

ピクリと、魏音の眉が動いた。

 

 

いまのシュバルの話に気になる言葉があったようだ。

 

 

 

 

 

「ディグ族。世間からはテロを起こしたと()()()()()種族だ。国はお前らを始末するように動いている。地上に行き場がないお前は、地上の光が届かないこの地下を住処にしている」

 

 

ディグ族と呼ばれている者の真実を、シュバルは知っていた。

 

彼は世界に敵をしたのではなく…

 

 

 

 

世界の敵にされた存在なのだ。

 

 

 

 

 

「そのような窮屈な生活から救い出してやるという訳だ。どこに居ても命の危険がない世界を作ってみせる。

我らがボスはどんな存在であっても受け入れる。お前が困ることは何一つない」

 

 

 

 

 

自分たちに手を貸してくれるなら守ってやる。それがシュバルの要点だ。

 

 

悪い話ではない。魏音はあらゆる人や妖怪から命を狙われている存在だ。もしシュバルたちと手を組めば、命の危険は無いだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なめるな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが

 

 

 

 

 

 

 

 

 

魏音はその話を受けなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「どこに居ても命の危険がない世界など作れるはずがない。そもそも世界は誰にどうする事も出来ない代物だ」

 

 

 

 

魏音にとってシュバルの話は全く話にならない内容だった。

 

 

 

 

 

「そんなバカな妄言を言う奴と手を組むつもりはない」

 

 

 

 

 

手を組むつもりはない。それが魏音の答えだ。その答えはシュバルがなんと言っても変える事はないだろう。

 

 

 

 

「そうか。ならば仕方ないな」

 

 

 

 

交渉は決裂だ。ならばシュバルと魏音は敵同士だ。そうなった以上戦う以外の方法はないだろう。

 

 

 

もっとも、シュバルの本当の狙いはそこにあるのだが…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふはははははははは!!どうしたどうした!避けるので精一杯ではないか!?」

 

 

 

激しいシャークの攻撃に、魔理沙はひたすら躱し続けている。反撃する隙もないし、反撃したとしてもその攻撃は通じない。割に合わない戦闘を強いられている感覚だ。

 

シャークの槍さばきも厄介だ。力ずくに見えて魔理沙が避けにくいような攻撃が繰り返されている。気を抜けばその槍で突き殺される。だから魔理沙は必死に躱していた。

 

 

「話にならないな。所詮は遊びで魔法使いになった程度の人間、大して背負うものもない訳だ」

「…なんだと…!」

 

 

シャークが魔理沙に挑発しているのは明らかだ。口調が完全にそういうものである。

 

その挑発に、魔理沙は乗ってしまった。それは仕方ない事だ。今の発言は魔理沙の逆鱗に触れるには充分すぎる。

 

 

 

「鈍い!」

 

 

 

感情的になりシャークの動きを意識から外していた瞬間を見逃すはずが無い。シャークは魔理沙に蹴りを入れる。相当な力が入っており、魔理沙はかなり遠くまで飛んでいく。

 

 

 

「メガロドン!!」

 

 

 

シャークが槍を投げ飛ばした。凄まじい速さで魔理沙に迫ってくる。防御用の魔法陣を出すも完全に受け止められず、その槍の攻撃を受けて爆風に包まれる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「霧雨 魔理沙。その名前は知っている。お前の活躍と…経歴をな」

 

 

 

魔理沙に向かって飛んで行った槍がシャークのところまで戻ってきた。攻撃した後持ち主のところに戻るように設定してあるのだ。

 

 

 

「魔法少女になるために、実家から逃げ出した。

随分とバカな理由で親の元を離れたものだな。魔法使いなど、今の世界では何の意味もない存在だ。夢見がちな奴が妄想する以外の価値はない」

 

 

 

シャークが挑発するのは、わざとである。

 

相手の逆鱗を逆撫でて、本気にさせる。その本気の相手と戦うことがシャークにとっての楽しみなのだ。

 

今までも相手を挑発して、怒らせて、何度も勝った。味方からすればかなり危なっかしい戦い方ではあるが、そうでなければシャークは本気を出すことはない。

 

 

 

 

 

 

「妄想とはよく言ってくれたもんだな」

 

 

 

 

重く、暗く、いつもの彼女よりも低い声、まるで声に押しつぶされるような圧迫感を感じる。それすらもシャークにとっては滾らせるものでしかなかった。

 

 

「…決めたぜ」

 

 

 

いつものようにミニ八卦炉をシャークに向ける。だがいつも通りではない何かがあった。いつものようなパワフルさはない。

 

 

 

代わりにあるのは、殺意だった。

 

 

 

 

 

 

「テメェだけは絶対にぶっ殺す」

 

 

 

 

 

 

 

いよいよ黎人が倒れた。

 

動こうとする度に攻撃されるのだ。どこにもぶつけようがないストレスを抱えられ続けているような感覚だ。それが許容範囲を超えて一気に切れたとなると倒れるのも無理はない。

 

 

「はい、一丁上がり。反応出来なければさっきの手段も使えないって訳だ」

 

 

陽気に刀を回しているジン。今の攻撃はかなり慣れている。難なく黎人を追い詰めることが出来たのだ。

 

 

「黎人を消すことは今回のタスクには入ってないけど、まぁ不安要素は今のうちに消すのも悪くはないでしょ」

 

 

 

 

 

ジンは黎人を殺す準備は整っていた。それこそ直ぐに殺せるだろう。予定外の任務が入ったとしてもジンには関係なくこなすだけだった。

 

 

 

 

 

「はぁぁぁ!!」

 

 

 

 

トドメを刺そうとしているジンに攻撃を仕掛けたのは妖夢だ。刀でジンを真っ二つに斬り倒そうとしているところを難なく防がれる。黎人と戦いながら、妖夢たちの方にも意識していたのだ。

 

 

 

「甘かったね、妖夢ちゃんとやら。いまの攻撃じゃ俺は倒せないよ!」

 

 

 

妖夢を刀で飛ばす。力で言えばジンの方があったようで、妖夢はあっという間に飛ばされた。

 

 

 

 

「夢想封印!!」

 

 

 

 

吹き飛ばしたタイミングで霊夢がお得意の技を仕掛ける。刀で妖夢を飛ばしたとなると、その反動でジンもしばらく動けないだろうと予想していた。

 

 

だがその通りに行かず、ジンは霊夢の攻撃を難なく躱す。反動で動けなくなる様子は全くない。

 

ジンが刀を投げ飛ばした。その刀は霊夢の袖を斬り裂く。体にはダメージが無いものの、少し狙いが外れていたならそうはいかなかったという現状に、霊夢は動揺を隠しきれない。

 

立て直す暇を与えず、飛ばしてない方の刀で霊夢に斬りかかってくるジン。その斬撃をお祓い棒でなんとか防げたものの、完全に霊夢が力負けしていた。

 

 

 

 

「ヘタな援護はしない方が良いぜ、博麗の巫女。寿命を縮めるだけの意味しかない」

 

 

 

ヘタな援護はするな。ジンに言われた忠告と、同じ内容を霊夢は言われたことがある。

 

ドベルに殺されそうと思って結界を張った時に、黎人からそう言われたのだ。

 

 

立場は違うものの、2人から同じ内容を言われた。しかも『寧ろ自分が危険になる』と言うところも同じだ。

 

 

助けようと思って行った支援は、自分を苦しめるしか意味がない。それを薄々感じ、屈辱と一緒に情けなさまで感じてしまう。

 

 

 

 

自分は、ここにいても意味がないのでは?

 

 

 

 

 

少し前から霊夢が感じていた事だ。黎人の助けにならないのなら、自分が付いてくる必要もないんじゃないかと考えるようになってしまった。

 

 

 

 

 

 

本当は黎人の助けになりたかったはずなのに

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《キィィィィ…ン!!》

 

 

 

 

 

 

 

霊夢が抱えていたモヤモヤしている悩みを切り裂くように、金属音が高らかに鳴り響く。気がつくとジンは自分と少し距離を開けており、自分とジンの間には先ほどまで倒れていた黎人が立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

「おや…?ひょっとしてさっきの繰り返しでもして来たのかな?」

 

 

 

 

 

 

先ほどまで手も足も出ないでいた黎人がジンの前に立つ。それはあまり意味のない行動のように見える。さっきと同じ流れを繰り返すつもりなのかと思うだろう。

 

 

 

 

ジンだけでなく、霊夢もそう思った。そして焦っている。もし自分を守るためにジンの前に立ったのなら、直ぐに退いた方がいい。これ以上自分のために怪我をして欲しくなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ビンゴだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ニヤリ、と口元が緩んでいる。その姿に霊夢は違和感を感じ、ジンは焦っていた。

 

 

 

黎人を見た瞬間、未来が見えたのだから。

 

 

 

 

 

 

しかも、逃れようがない不運の運命だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジンの後ろの遥か遠くから、こちらに向かって近づいてくる影があった。とても速い速度で飛行している赤い光は、獲物を確実に仕留めようとしていた。

 

 

 

 

それを避ける術はなく

 

 

 

 

 

 

 

ジンはその弾幕をモロに食らってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うおおおおお!!」

 

 

 

力ずくに弾幕を放ち続ける魔理沙、その弾幕はシャークにダメージを与えずにただ霧散するだけだった。弾幕が何の成果も出さずに消えていく現実から目を背けるようにもっと強い弾幕を放つ。

 

 

 

「痒いな。ただ力任せに弾幕を放つ事しか出来ないとは。魔法使いの出来損ないと言うところか」

「うるっせぇぇぇぇ!!!」

 

 

弾幕が激しくなる。魔理沙は完全に冷静さを失っており、もっと強力な弾幕を撃つことしか頭に浮かんでいない。

 

 

 

 

「さて…そろそろ終わらせるとしようか。そろそろアッチの仕事も終わる時間だしな」

 

 

 

行き交う弾幕の中、手に持っている槍を投げとばそうとしている。先ほどから魔理沙を苦しめ続けている技を繰り出すつもりなのだ。

 

 

 

 

 

「終わりだ!『メガロド…』」

 

 

 

 

青く光った槍が勢いよく放たれようとしている。

 

 

 

 

 

 

 

その瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《バチバチバチバチ!!》

 

 

 

 

 

「うぐっ!?ぐあああああああああ!!!」

 

 

 

 

 

 

槍ではなくシャーク自体が青く光っている。その光は激しく動き出し、それが稲妻である事は魔理沙も分かった。

 

 

シャークの異変に違和感を持った魔理沙は、シャークの手元が狂って先ほどのようなスピードがない槍を難なく躱す。槍は遠くの方に飛んでいった。

 

 

 

 

 

「かはっ…くっ…!」

 

 

 

魔理沙はいま何もしていない。さっきと同じ弾幕を撃ち続けているだけだった。今更になって自分の弾幕が効いたとはとても思えない。

 

 

 

つまりこれは、誰かが乱入してきたに違いなかった。

 

 

 

 

 

 

「…ハ」

 

 

 

 

 

空気が出てきたような音は、シャークの声だ。突然どうしたのかとシャークの様子を見ると、信じられないものを見た。

 

 

 

 

 

 

「はははははははははははははははははは!!!」

 

 

 

 

 

 

シャークは、笑っていた。自分がやられて傷を負ったと言うのに、寧ろ楽しそうに見えた。

 

 

 

 

 

 

 

「そうか!噂には聞いていたが、まさか本当にいたとはな!!」

 

 

 

 

 

 

 

シャークは気づいていた。自分がいま誰にやられたのか…そして、なぜ自分の弱点が知られたのかと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「人の思考を読み取る妖怪など、作り話だと思っていたがな。まさか本当に、さとり妖怪たるものがいたとは驚きだ!!」

 

 

 

 

 

 

 

「ええ。私のことを知っているようですね。恐縮です。私の存在を認めると大抵の人は恐れるのですが、あなたは寧ろ楽しんでいるのですね」

 

 

 

 

 

心を読む妖怪

 

そう言われて恐れられた妖怪がいる。

 

 

 

 

 

第3の目を使って相手の思考やトラウマを読み取り、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そのトラウマを再現することが出来る妖怪がいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女の名前は、古明地さとり。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

幼い見た目にしてとても恐ろしいと言われている妖怪である。




ようやくさとりを出せました。さて、この後果たしてどうなるのか!?

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